ぼくがお手伝いにいっている高校は今日から休校。講座公開は、学校再開の見通しがつくまで続けようと思っています。とりあえずは、物理。
テコで名高いのはアルキメデスですが、テコの研究から力のモーメントつまり力×うでという物理量の存在を見抜いたのはガリレオ・ガリレイ。その著書『レ・メカニケ(機械論)』に詳述されています。この本は図書館などで探せば読めるので、機会があればどうぞ。
イラストはぼくのマンガ用にデフォルメしたガリレオさん。『マンガで実験/冒険』にも『さりと12のひみつ』にも登場する、ぼくのマンガではスーパースターですね。(*)
では、後半の内容を。
じつは、ここではまだ力のモーメントの計算問題は登場しません。それより前にやっておく重要なことがあるからです。
それは、剛体の力の和の作図法です。
「4.剛体にかかる力の合成」はそのものズバリ。力の合成すなわち力の和です。
物理基礎では力の和は非常にカンタン。力のベクトル2つを適当に平行移動して、平行四辺形を作って合成(平行四辺形法)するか、2つの矢印をつないで合成(連結法)します。
しかし、剛体にかかる力は「どこに力がかかるか」が回転を決めるため、力の作用線上しか平行移動できません。
最初の一歩は、そのルールで力のベクトルの和をどう描くかという知識になります。あとで書き込みを見ていただくとわかりますが、力の作用線の交わるところまで力の矢印を移動し、そこで合力を作ります。
ところが(1)はその方法でかんたんにベクトル和の図が描けるのですが、(2)は困ります。2つの力が平行なので、作用線が交わりません。
・・・どうしたら、よいでしょうか。
これを解決する方法は2通りありますが、プリントではその1つしか扱っていません。もう1つは講座の中で板書して説明をしています。それも、のちほど・・・
そして、剛体ならではのブキミな話が登場します。「5.偶力」がそれです。どこがブキミなのか・・・それは、やはり書き込みを見ながら、お話しします。
では、書き込みプリントをご覧ください。
4(1)は、図を見て下さい。一目瞭然。二つの矢印をそれぞれの作用線上で平行移動させ、作用線が交わる点で合成します。合成した矢印をその作用線上で平行移動させ、もとの物体まで持ってくれば、合成完了です。
さて、このとき、合力のかかる点を指で支えたら、物体は回転するでしょうか?
物体には合力が1つだけかかっていると考えてよいのですが、指で支える位置が合力のかかる点と同じだと、前半の最初の実験で見せたように、物体は回転しません。
なにをいまさら当たり前のことを・・・と思うかもしれませんが・・・この性質が、(2)で役に立つんですね。
「合力のかかる点で支えると物体は回転しない」これはすなわち「支えたとき回転しない点が見つかれば、それが合力のかかる点だ」ということです。
作用線が交わらないため(2)の平行力の合力がかかる点を作図でもとめることができません(じつはありますが、それはまた後ほど・・・)。
しかし、前半で学んだ力のモーメントの和を計算し、それが0になる点を見つければ、そこが回転しない点、つまり合力のかかる点ということになります。
(a)(b)ともに、図にある点のまわりの力のモーメントを計算し、それを合計すると0になることがわかります。
その結果の図を見ると、合力のかかる点が、2つの力の作用点から、力の大きさの逆比になる場所だとわかります。
物理の勉強のヘタな人は、教科書や問題集に書いてある、この「逆比の公式」だけを丸暗記して、問題を解こうとします。愚かなことですね。どうせ、少ししたら、そんな公式はすっかり忘れてしまうでしょう。
きちんと原理を理解することが大切ですね。
なお、この「逆比の公式」は、2力が同じ向きのときは「内分する点」、2力が逆向きのときは「外分する点」となります。まあ、どうしても公式を覚えたいという人はあえて止めませんが・・・これも、丸暗記はつらいですよ。
さて、もう1つのやり方を紹介しておきます。
まず(a)から。
大きさは適当でかまいません。大きさが等しく、逆向きな力(図の赤い矢印)を、2つの力のかかっている点を結ぶ線上に乗るように描きます。この逆向きの力は合わせると0の力ですから、これを加えても影響はありませんね。
つぎに赤い矢印をそれぞれ移動させ、最初の2つの力と合成します。
青い矢印を見て下さい。この青い矢印は平行ではないので、(1)の方法で合力を作ることができます。作用線上を平行移動させ、作用線の交点で合力をつくればいいですね。
合力(図の茶色の矢印)が描けました。赤い矢印は合計すると0になって消えてしまい、もとの2つの矢印(図の黒い矢印)だけが残りますから、合計するのはカンタンですね。
最後に、合力の作用線上を平行移動して、完成。
この方法は、逆向きの平行力(b)にも使えます。
説明を繰り返す必要はないと思いますので、図だけならべておきます。
さて、いよいよ「5.偶力」です。英語ではcoupleですね。
平行逆向きで、大きさの同じ2つの力を偶力と呼びますが、この2つの力は、今までの力の常識を超える性質があります。
それは・・・
どんなに知恵を絞っても、この2つの力の合力を作ることができない、ということです。
力のモーメントの計算による方法でも、逆比の公式でも、最後の赤い矢印を使う方法でも、できません。
それは、この2力の合力が存在しないからです。
物理基礎の範囲では、この2力の合力を便宜的に0としてもよいのですが、本質的には合力が存在しませんので、気をつけておきましょう。
偶力には便利な性質もあります。
書き込みの計算をみてもらうとわかりますが、偶力のモーメントはどの点を支点として計算しても、同じ値になります。
いいかえれば、偶力を物体にかけるとき、それぞれの力をかける場所にこだわる必要はなく、2力の間の距離さえ同じなら、同じ力のモーメントになるのです。
この性質は、ハンドルや水道の蛇口で、意識しないまま利用されています。
では、今回はこのへんで。
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