BC3世紀半ば、古代ギリシャのアルキメデスのテコの原理、AD16世紀末、イタリアのガリレオのテコの研究のおかげで、「力のモーメント」が17世紀半ば、イギリスのニュートンの運動の法則より早く発見されたことは、前にも書きました。
剛体のつりあいを考えるのには、力のモーメントのつりあいと力のつりあい、この二種類のつりあいを用いるのが基本になります。
かんたんなケースでは、力のモーメントだけで求めたい量がわかる場合もありますが、すべての力をきちんと求めるのには、二種類のつりあいをうまく使う必要があります。
さらに、つりあいの図を描いて幾何学的に解く方法と、つりあいの式を立てて代数的に解く方法があります。
しかし、剛体のつりあいの問題では、複雑な図になることが多いので、図を描くのは力の向きを求める程度にとどめ、力の大きさを求めるには式による方がよいでしょう。
でも、力のモーメントのつりあいの図を描く方法を知らないと、つりあいの様子を見通しを持って解くことができません。
つまり、図が描けるかどうかは、力のモーメントのつりあいを理解しているかどうかを試すのには、一番よい方法といえます。
そのためか、共通テスト(過去のセンター試験)では、剛体の力のつりあいの図を用いて、力の向きを求めさせる問題がいくつも出題されています。
どういうわけか、この力のモーメントによるつりあいの図の描き方を、きちんと説明していない教科書がけっこうあります。困ったものですね。
ぼくのプリントではそのへんをきちんと描いてありますので、安心して下さい。
ちなみに、今の教育課程では、高校の物理では「剛体の力のつりあい」は学びますが、「剛体の回転運動の方程式」はやりません。
今は、大学の物理ではじめて学びます。
運動方程式F=maが、回転運動の方程式N=Iβになります。
Nは力のモーメント、Iは慣性モーメント、βは角加速度です。
もともと高校でやっていた内容ですので、高校生でも理解することはできます。ただ、慣性モーメントだけは、少し余分な説明が必要でしょうね。それほど難しい物理量ではないのですが、様々な剛体の慣性モーメントを計算するのには積分計算がいりますので、大学で学ぶのがふさわしいでしょう。
今回は、こちらについては、触れないでおきます。
「1.剛体のつりあいの図」の例題を見れば、力のモーメントによるつりあいの図の描き方がわかります。ここでは、このくらいにして、あとで書き込みを見ながら、もう少しくわしい説明をしましょうか。
「2.力のモーメントのつりあいの式」は「剛体が回転しない条件」を示します。
力のモーメントの和が0になる場合、剛体は回転しません。
力の和が0になるとき物体が止まったままなのと、似ていますね。
式のコメントに「支点は自由に選べる」と書いてあります。これについても、あとで書き込みを見ながら、くわしく述べましょう。
3〜5は、つりあいの練習問題です。
歴史的な順では運動方程式より数十年前に発見されている「力のモーメント」ですが、教科書の順では、運動方程式よりずっと後に登場します。
はじめて見る物理量の扱いになれるのには、少々時間がかかりますので、問題演習は必須ですね。
では、さっそく、書き込みを見て、くわしい説明をしていきましょう。
「1.剛体のつりあいの作図」の例題「棒がA端で受けている抗力を描け」・・・これは、共通テスト(センター試験)で何度も出題されてきた問題です。
「102剛体に働く力」で説明したように、剛体に働く力はその作用線上しか平行移動することができません。
したがって、2つの力の作用線が交わる点までそれぞれの力を移動させて、はじめて合力が作れます。
ということは、3つの力の合力が0になる場合も、その3つの力が一点に集まらないといけないということですね?
例題の図には、棒にはたらく重力mgと、糸の張力Tが描かれていますから、その2力が集まる点はすぐに描けます。2力の作用線の交点ですね。
その2力につりあっているのが、第3の力、A端で棒が床から受ける抗力Rです。
この抗力Rもまた、他の2力と同じ点に集まらないと、合力が0にはなりません。
当然、抗力Rの作用線も、さきほどの2力の作用線の交点を通るはずです。
ということで、まず、重力mgと張力Tの作用線を描いて交点を求め、抗力RのかかっているA点とこの交点を定規で結んで、抗力Rの作用線を引きます。
抗力Rは、この作用線上にありますから、Rの矢印を描くのはカンタンですね。
書き込みの図を見てください。
(問)も同様にして、抗力Rの矢印が描けます。
がんばれば、このつりあいの図から、TとRの大きさを求めることができます。が、図から幾何学的に未知の力を求めるのは、かんたんにはできないことがありますから、気をつけて下さい。
さて、いよいよ、核心。「2.力のモーメントのつりあいの式」です。
といっても、原理は単純です。
支点の回りの力のモーメントを合計して0になる式を作るだけ。
ところが、剛体のつりあいの問題がさっぱりわからないという人はいっぱいいるんですね。
これは、次の2つのポイントが理解できていないからです。
そのうちの一つが、前の「102剛体に働く力」で説明した、力のモーメントの計算方法が2種類あることです。
とくに(b)の作用線までの距離を「うで」として「力×うで」を計算する方法を分かっていない人が圧倒的に多いのです。
こういう人は、問題の解答に書いてある式すら理解できません。
「102剛体に働く力」の内容をじゅうぶん理解している人は、だいじょうぶですよね!?
もう一つが、つりあいの式のコメントに書いてある「支点は自由に選べる」ということ。
ほとんどの人が、支点というのは棒を支えている特殊な点であると思いこんでいます。「支点」という言葉の本来の意味では、そのとおりなのですが、力のモーメントを計算するための「支点」は、架空の点なので、どこでもよいのです。
剛体がつりあって回転していないときは、どの点のまわりに力のモーメントを合計してもその和は0になります。
だから、力のモーメントのつりあいの式をたてるとき、支点は実際の支点でなくても、どの点でもいい。
支点に選んだ点に直接かかっている力は「うで」の長さが0になりますから「力のモーメント」も0になり、力のモーメントの和を計算するとき、はぶくことができます。
ということは、たくさんの力がかかっている点を支点にすると、式がかんたんになります。どの点を支点にして計算しても、答はでますが、どうせならかんたんな方がいいですね。
・力のモーメントを計算する2種類の方法を、臨機応変に使い分けることができること。
・力のモーメントの計算がかんたんになる支点を選ぶこと。
この二つができれば、どんな問題もだいじょうぶです。
あとは、力のつりあいの式と組み合わせて、力を求めていきます。
このプリントでは、さしあたって、力のモーメントのつりあいの練習に集中できるように、力のつりあいの式と組み合わせなくてもわかるタイプの問題ばかりを並べました。
では、後半を。
3.は、一様でない棒の重心をもとめる実験方法を、そのまま問題にしたものです。
棒を床に置き、その一端をばねばかりで引いて床から少しだけ持ち上げ、ばねばかりの読みを記録します。それから、もう一つの端を同じように持ち上げて読みを記録します。
この二つの記録から、棒の重さと、棒の重心の位置がわかるのですね。
ただし、この方法だと、力のつりあいと力のモーメントのつりあいの両方を使わないといけませんので、問題を簡単にしました。
棒の質量がわかっている場合は、一端を持ち上げたときの力がわかれば、すぐに重心がわかります。
床についている点を支点として重心の位置をxとし、重力のモーメントと持ち上げる力のモーメントの合計が0になる式を立てれば、xの値がすぐにわかります。プリントの書き込みを見て下さい。
棒の重さがわかっていない場合にどうするかは、この例を参考にして、考えてみて下さい。
ヒントをいうと、この場合、重心の位置xと、棒の重さWの二つの未知数がありますので、方程式も2つ必要です。(どうしてもわからない場合は、コメント欄にそのむねを書いて下さい。要望があれば、追加でその場合の問題と答を載せます)
4.は力のモーメントの2種類の計算方法を練習ための問題です。
書き込みは「102」で紹介した(a)(b)の計算方法を、図と計算式ともに、色分けして示してあります。
とくに(b)を身につけるのが、力のモーメントがわかるようになるかどうかの境目になります。「(a)で計算して答があっていたからもういいや」という発想の人は、問題が少し複雑になると、手も足も出なくなります。
5.は、最後に、力のつりあいとどう組み合わせるかという、一番カンタンなケースを扱っています。
本格的なケースは、次のプリントで徹底的に練習しますので、少々お待ち下さい。
では、今回はこのへんで。
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