物理ネコ教室101剛体の重心 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 このブログサイトは大きく分けて5つのカテゴリーの記事があります。そのうち「物理ネコ教室」の記事は、理系3年向けの講座公開が一通り終わってから、久しく新しい記事を書いていません。

 

 3年理系むけの講座公開は、理系に進んだ3年生からぼくのプリントで勉強したいとの強い要望があって、行いました。高校生や若い理科の先生向けに公開したのですが、思いがけず、ベテランの先生方からも参考になるといわれることがたびたびありました。

 

 いずれは1年や2年の内容も公開することになるのかなと思っていたのですが、この2、3年、その要望が増えてきました。

 

 新型コロナで授業が普通に始まらない学校もあるんじゃないかと思います。

 ちょうど今日、地元の大きな病院で働くお医者さんからの話が知人から伝わってきました。マスコミで報道する以上に、新型コロナによる医療現場の状況は深刻で、地元のその病院は新型コロナ患者の病室は満席で重度の人もあり、これ以上進むと医療崩壊するとのことでした。

 「みなさん、出歩かず家にとどまって、これ以上感染しないようにしてください」というのが、医療現場の人たちからの切羽詰まった呼びかけです。

 

 その状況下で、全国で小学校〜高校までの学校が始業するという状況です。(大学は学校独自の判断がやりやすいので、すでにネット授業をすると決めた大学が出てきています)

 

 政府が頼りにならない日本では、ぼくたちが自らの知恵で防衛するしかないので、科学的な知識も必要かと思います。それについては、また別の記事で書きたいと思います。

 

 ということもあって、一大決心をしまして(というのは、講座のプリントの公開はけっこう手間がかかるのです)、まず、2年の内容(剛体、波、円運動、慣性力、単振動、万有引力)の公開に踏み切ることにしました。

 

 この分野は、とくに数学的な理解より、物理現象の理解の方がたいせつなところで、公式ばかり覚える学生さんは理解しづらいところです。数式だけで物理をやってきた学生さんは、このあたりでぼろぼろと倒れていきますね。そこをどう理解して考えていくかを、ていねいにやっていきたいと思います。

 

 ハイペースではできませんし、今年はこのブログサイトで新しい試みもしたいと思っていたところですので、物理ネコ教室の記事ばかり書くわけにはいきません。でも、少しずつアップしていきますので、おつきあいください。

 

 さて、前振りが長くなりましたが、いよいよ剛体です。

 

 これ、以前は1年で教えていたのですが、物理基礎から範囲が外れたことや、全体のスケジュールを考えて、2年で扱うように変更しました。剛体の力学はけっこう難しいので、この方がよかったと思います。

 

 剛体は大きさをもった物体の理想的なものをいいます。理想的というのは、変形しないということです。

 

 剛体のしくみを最初に研究したのはだれでしょう。

 

 アルキメデスのテコの逸話が有名ですが、テコの研究で「力のモーメント」という物理量に気づいたのは、かのガリレオ・ガリレイです。その著書「レ・メカニケ(機械論)」で、力のモーメントについてくわしく研究するとともに、のちにエネルギーの発見につながる「仕事の原理」も発見しています。(ガリレオ自身はそれを「労役」「疲れ」に当たるイタリア後で呼び、のち、フランスの学者が「仕事」と呼ぶようになりました)

 

 というわけで、今回は剛体の物理学の象徴として、ガリレオさんのマンガイラストにしました。ぼくの科学マンガ本『いきいき物理マンガで実験』『いきいき物理マンガで冒険』『さりと12のひみつ』に登場するガリレオさんです。(*)

 

 では、いよいよ、物理ネコ教室2年生版の始まり〜〜!

 

 

 単純にまとめてありますが、ひとつひとつ実験をしながら講義をしていきます。

 

 「2.重心の見つけ方」は、当たり前のことですが、実際の実験は見たこともやったこともないという学生が多いので、実験を見せます。本当は小学校で体験しておくべき実験ですよね。

 

 そういえば、アメリカのヘーウィットさんが作った物理ビデオ「Physics for Phun(fun)」でも、ヘーウィットさんが木の板で作った三角形を糸で吊して、重心の位置を探るデモンストレーションをしていました。

 

 ヤジロベエもぼくが手作りしたものを見せていますが、ヤジロベエ自体を知らないという学生もいます。日本の伝統文化が少しずつ失われているようです。

 

 「3.重心の座標」は、問題のある内容。

 

 どの教科書にも載っている内容ですが、どこが、問題かわかりますか?

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 それは、後半で語りたいと思います。

 

 

 重心なんて、小学生でもわかる!・・・という感覚の内容なんですが、実際にはけっこう難しくて、大人の方でも解けない問題が多いのです。

 

 たとえば、とても簡単に見える5(1)bの問題。直角に曲げた針金の重心の位置がわかるでしょうか?

 学生さんにやってもらうと、ほとんどの人が答を出せません。まるっきり違う場所に重心があると判断します。

 みなさんも、どのへんに重心があるか、考えてみて下さい。後半に答がありますので、それまでお待ち下さいね。

 

 「6.倒れる条件」は、簡単ですが、剛体を考えるときに重要なので、きちんと押さえておきたいところです。ルールが見抜けるでしょうか。

 

 「7.重心を求める実験」これはレベルが非常に高い。名高い国公立大学でこれを説明しなさいという問題がよく出題されます。あなたは説明できますか?

 

 この実験自体は意外に知られていて、重心を求めるのに遊び半分で行う学生もいます。野球部やテニス部なんかで、これを知っている学生がバットやラケットの重心をさがして遊んでいるのをときどき見かけます。

 

 では、書き込んだプリントに移りましょう。

 

 

 「1.剛体と重心」はプリントに書いてある通りですが、こういう基本をきちんとおさえておかないと、あとで破綻します。公式ばかり覚える学生さんが陥りやすい『ワナ」ですね。

 

 「2.重心の見つけ方」のヤジロベエの説明は簡単ですが、重要です。「静力学的な安定」つまり、止まっていて安定する場合のルールは、このヤジロベエの例に見るように、物体の重心が支点より下にある場合だけなんですね。

 

 逆に重心が支点より上にある場合、支点が本当にただの点の場合は止まっていて安定できる位置は存在しません。物体と床との接触面がある程度の拡がりがある場合だけ、物体の重心が支点より上にあっても、安定します。

 

 支点が点の場合は「静力学的な安定」はありえません。つねに物体を動かすことで「動力学的な安定」をつくることはできます。長い棒を手のひらの上に乗せて立たせるときとか、スキーヤーがスキーをするときなどが、これにあたります。

 

 「3.二つの物体の重心」は、小学生でも知っている内容なので、学生さんはすぐに見抜きますが、いきなり記号で聞くと混乱する人もいますので、二つの物体の質量がたとえば「2グラムと3グラムだったら、何体何の位置に重心ができるか」のような、具体的な数値を使った問いかけをすることをお薦めします。

 

 いよいよ、「4.重心の座標」です。

 

 さて、前半に書いたこの部分の「問題点」とは何でしょうか。

 ほとんどの教科書や問題集が、この「問題点」を理解せずに解説をしています。

 

 じつは、この重心の公式は非常に数学的な表現で、じっさいにはこの式を知らなくても、重心の問題はほとんど解けるんですね。現実面で、入試問題を解くときも、この重心の式を使わないほうが解きやすい問題の方が圧倒的に多いのです。

 

 では、なぜ、こんな数学的な公式を教科書で教えるのでしょうか。

 

 それは、単純なことです。

 

 物理的な重心のイメージは「3.二つの物体の重心」に尽きます。これをうまく使えば、ほとんどすべての問題を解くことができるのですね。「4.重心の座標」を使うと、かえって解けなくなることが多いのです。

 

 それをわざわざ教科書で教えるのは、なぜでしょうか。

 

 それは、物体の数が100や200に増えたとき、物理イメージつまり「3.二つの物体の重心」の考え方を使うと、とんでもなく時間がかかるからです。二つの物体の重心をそれぞれの質量の逆比で求める。そこに二つの質量があるとして、第三の物体との間の重心をまた同じ計算によって求める・・・これを100回とか200回繰り返せば、たしかに重心の位置がでますが・・・これはたいへんです。

 

 ところが、「4.重心の座標」で求めた「重心の式」は拡張性があり、物体が2つのときも3つのときも、同じバリエーションで式の項目を増やしただけの、数学的に同じ式になります。

 

 これなら、物体の数が100、200と増えても、形式的に項目を増やすだけで、重心の位置がすばやく見つけられます。

 

 物理法則を数学的に表したときには、こういう効果もあるのですね。

 

 くどいようですが、ふつうに受験問題を解いたりするときは、このやり方はお薦めできません。このやり方で解けない問題が出題されるケースがほとんどだからです。

 

 それに、受験のことはおいておいても、物理現象をわざわざ難しい数式に置き換えて使うのも、面倒くさいですね。

 

 

 「5.重心の位置」の練習問題は、初めてやるとほとんどの学生が(1b)で間違えます。

 

 ブーメランのような形をした物体では重心が物体の上にない、という発想がないからでしょうね。

 

 これは、一つながりの針金のまま考えると答がでませんので、短い針金部分と長い針金部分を別々の物体と考え、(1a)の2つの粘土の重心を探る問題のように考えればよいのです。

 

 書き込んだ答を見て下さい。2物体の質量比が1:2なので、それぞれの重心から2:1の比の場所に重心があります。(1a)とまったく同じ解き方ですね。

 

 これを応用したのが三日月形の重心捜しです。

 

 三日月形の書けた部分を補うと、全体がきれいな円形になり、その重心が円の中心Oになります。このO点は、三日月形と小円の重心と考えることができます。小円の重心はCにあり、その質量を1とします。それに対して質量3の三日月形の重心がGにあると仮定します。すると、OはCとGの重心ですから、距離の比が3:1になっているはずです。

 書き込みの式を見てもらうと、わりと簡単な計算で、GがOからどのくらいはなれているかが出せていますね。

 

 難しい入試問題でもこの応用をつかう問題があります。書けた部分を補うことで全体が対称的になり、その重心の位置が一目でわかるようになることを利用した解き方ですね。

 でも、これは「入試テクニック」ではありません。あくまでも、2物体の重心の位置が質量の逆比になるという基本を応用しただけです。

 

 「6.倒れる条件」は、そのへんにある箱形のもので実際に実験してみれば、ごちゃごちゃ考えなくてもすぐにわかります。重心が底面の外に出てしまうと、物体が倒れてしまいますね。

 ちょっと気の利いた問題だと、物体を台に乗せて斜めにしていき、物体が倒れずに滑り出すか、滑らずに倒れてしまうかという判断をさせます。

 重心が底面の一番外に来ているとき、摩擦力が最大摩擦力より小さければ、滑ることなく、物体は倒れます。やってみてください。

 

 「7.重心をもとめる実験」は、やってみるのはかんたんですが、理論的に解き明かすのはけっこう難題です。もちろん、高校生の物理の知識で解けますが。

 

 動摩擦力が最大摩擦力より小さくなることと、力のモーメントのつりあいから両手の指にかかる垂直抗力の大小とを組み合わせて考えると、理論的な説明ができます。とはいえ、その場で解けといわれたら、かなり苦労するでしょうね。

 

 さすがに、このタイミングでこの問題の説明をするのは無謀です(力のモーメントを習っていない段階ですから)ので、楽しい実験として紹介することと、いずれは解けるようになるよと、将来の課題を提示することが、ここでこの内容を入れた目的です。

 

 では、今回はこのへんで。

 

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【追記】うっかり、書き込みのプリントの後半の画像を載せるのを忘れたまま公開してしまいましたので、描き込んだものを追加しました。また、後半の書き込みプリントについての記事も追加しました。うっかりしていました。マヌケですね。

 

 

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