心霊現象研究会(SPR)のひみつ〜さりと12のひみつ第12話「霊のひみつ」の裏話1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 『さりと12のひみつ』裏話シリーズもいよいよ最後。第12話「霊のひみつ」に描ききれなかったことを少し詳しく紹介します。内容が多いので、2回に分けて書くことにします。

 

 『さり』シリーズの締めの話は、どうしても、科学と心霊や疑似科学の関係を書いておきたいと思い、「霊のひみつ」を最終話としました。科学とはどういうものかを知る上では、科学でないものと対比する方がはっきりすると考えたからです。

 

 表紙のイラストは、心霊現象が大流行した19世紀の降霊術を描いたものです。

 

 霊媒のやり方は、部屋を真っ暗にして霊を呼び、その霊に何か物理的な現象を起こさせる、というのが一般的でした。両手を参加者に持ってもらい、楽器をかき鳴らすとか、テーブルをがたがた揺するとか、参加者の帽子を外したりかぶせたりとか、物理現象はじつに多様。

 マンガでは、もっとも有名な楽器を鳴らす霊媒のケースを描きました。

 

 意外なことに、心霊現象の研究には、高名な科学者も多数参加しています。イギリスで始まった心霊現象研究会(SPR)には、文学者だけでなく科学者も参加しています。

 

 今までもSPRのことは機会を見て書いてきましたが、SPRだけをまとめたものがないので、この機会に書いておきたいと思います。

 

 その代表がウィリアム・クルックス。イギリスの王立研究所の所長も務めた人で、かのクルックス管を用いた研究で電子を発見する一歩手前までいった人です。

 

 

 さらに、アナフィラキシーショックを発見しノーベル賞も受賞したシャルル・リシェはSPRの会長まで務めています。

 

 心霊現象擁護派の代表格をクルックス、リシェ、アルフレッド・ラッセル・ウォレス、オリヴァー・ロッジとすれば、否定派の代表格はジョン・ティンダル、マイケル・ファラデー、チャールズ・ダーウィン、トマス・エジソン。中立派はレーリー卿(ジョン・ストラット)でしょうかね。

 

 ウォレスはダーウィンとともに進化論の生みの親になった人。進化論がらみの逸話もおもしろいのですが、ここでは割愛しておきます。ウォレスはダーウィンと同様な進化論を考えたのですが、人間の精神に関しては進化論では扱いきれないと判断し、降霊術の会に参加しています。

 ロッジは電磁波研究で検波器(コヒーラー)を発明し、無線通信の発展に貢献した人です。霊媒を研究したり、戦死した息子との降霊会の記録を出版したりしています。SPRの会長も務めた人。

 

 ティンダルは王立協会でファラデーの後継者的な存在。ティンダル現象(チンダル現象と書かれることが多い)を発見した人で、宗教に対してケンカを売った人でもあります。

 本来、科学と宗教は対立概念ではないのですが、科学が大きな進歩を遂げた19世紀で、ティンダルは科学が宗教より優位なのだと力説しました。科学者が心霊現象を研究するのはもってのほかと、強く主張した人でもあります。

 ファラデーは特に電磁気で大きな発見を次々にした実験物理の天才だっただけでなく、場の理論を創案した理論物理の天才でもありました。その生い立ちから高等教育を受けられず、数学が使えないのだけが欠点でしたが、場の理論は数式を使えないゆえの発想なので、それを単純に欠点といっていいのかどうかはわかりません。

 ファラデーはマンガ本編にも登場する巧みな実験装置を使い、心霊現象のテーブル・ターニングの正体を見抜いています。若き日のマクスウェルがファラデーが雑誌に書いたその記事を読んで感激したというのも、重要なエピソードでしょう。(こちらのエピソードについては、ぼくの本『いきいき物理マンガで冒険』の「歪んだ世界」をご覧ください)

 ダーウィンは言わずと知れた進化論の提唱者で、ウォレスが心霊現象に傾倒するのに反対しています。

 エジソンは発明王として、誰でも知っている人。アメリカのSPRの創設者の心理学者ウィリアム・ジェイムズが亡くなったあと、雑誌社のインタビューを受け、死後の世界を否定しています。余談ですが、これは神の否定にもつながり、晩年のエジソンはかなりのバッシングを受けています。

 

 レーリー卿は、SPRの中心人物エレナー・シジウィクの妹イヴリンと結婚していたため、SPRの心霊研究に関わっています。その態度は心霊現象に傾倒するものではなく、あるかないかは調べてみないとわからない、という中立的なものでした。

 なお、マリー・キュリーも、同じパリ大学のリシェの要請で、霊媒エウサピア・パラディーノの調査に参加しています。キュリー夫人が心霊現象を支持したという話は聞いたことがありませんから、おそらくリシェから頼まれて断り切れなかったのではないでしょうか。

 

 SPRには、当然ながら科学者以外の人も多数参加していますが、その中には有名人もいます。

 

 アーサー・コナン・ドイルは、ホームズシリーズで有名なイギリスの小説家ですが、心霊現象一般に強い興味を持っていました。降霊会を行ったり、SPRにも参加していますが、のちに脱退しています。

 コナン・ドイルは、当時話題になった少女の撮影したという妖精写真を擁護しています。これは、妖精の絵を切り抜いて草花の前に置いて撮った写真で、合成写真とさえいえない代物だったのですが、コナン・ドイルは見事にだまされています。「小さな子どもがそんなウソをつくはずがない」というのが論拠だったようですが、これではシャーロック・ホームズが泣くでしょうね。

 マーク・トウェインは、アメリカを代表する小説家。弟の死の予知夢を見て以来、アメリカのSPR創設時から参加し、有力な支持者となりました。

 

 SPRの創設者はイギリスの哲学者で詩人のフレデリック・マイヤーズ、哲学者で倫理学者のヘンリー・シジウィック、心霊研究家のエドマンド・ガーニーの三人。

 アメリカSPRの創設者は心理学者で哲学者のウィリアム・ジェイムズで、のちに本家イギリスのSPRの会長にもなっています。(なお、弟のヘンリー・ジェイムズは小説家。幽霊が登場する有名な心理小説『ねじの回転』の作者です)

 

 こうやってSPRに関わる登場人物を並べていくと、心霊現象擁護派の人たちが闇雲に信じ込んでいたように見えてしまいますが、実際にSPRのやったことは逆で、「偽物を排除するために徹底的に霊媒のインチキがないかどうか調べる」という方針で研究していたようです。

 その中で、簡単にトリックに引っかかってしまうのが、物理学者のクルックス。

 SPRの内部でも「クルックスは女霊媒に弱い」という定評(?)があったほどです。

 しかし、大なり小なり、SPRのメンバーは巧妙な霊媒にはだまされることがありました。

 それは、SPRのメンバーの信念「オカルトの5%は真実だ」により、トリックを見破ることに失敗することがあったからでしょう。

 

 一方、独自にニセ霊媒のトリックを見破る活動を続けていたのが、奇術王のハリー・フーディニ。コナン・ドイルとも親交があったということで、コナンドイルが最終的にSPRを脱退したのは、おそらくフーディニとの交流がもたらしたものではないでしょうか。

 

 なお、SPRの活動は、悲劇的な結果に終わります。偽の心霊現象をどんどん取り除いていった結果、「本物の心霊現象」と呼べるものがほとんどなくなってしまったからです。SPRの主要メンバーは、本当にやりたい心霊研究の前に、イカサマを見破る活動ばかりをすることになり、疲弊していきました。

 やがて、メンバーが病気などで少しずつ減り、活動は自然消滅的に消えていきます。

 

主な参考文献:『幽霊を捕まえようとした科学者たち』デボラ・ブラム著/鈴木恵訳(文春文庫)

『魔法の心理学』高木重朗/講談社

『超能力のトリック』松田道弘/講談社

 

 

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