大学受験デイズ-GIFT-

地方の高校3年生の「僕」は大学受験の間に、大きな試練と忘れえぬ恋を経験する。


オープンキャンパスで知り合った大学生、東大に進学する親友、そして学校の自転車置き場で知り合った女の子と過ごした時間。

そんなもう戻れない日々を書く。


『情熱は時に岩をも溶かし、希望は時に海をも開く。』



~サポートしてくれる仲間と共に、独自の勉強法・モチベーション管理テクニックも掲載中!~


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考え方や言葉、仲間。そして時々思い出すこと。

受験や試練を頑張っている人へ今自分にできることは言葉を贈ることだと思います。

いつも応援しています。


人は育った環境や今日までに投げかけられた言葉、浸透した感動によって「考え方」が確立していきます。

深い感動は、人生の喜びを教えてくれるものだし、傷つけられた痛みは時に憎しみへと変わることもあります。


そんな自分の環境と意志がこの瞬間の自分を創りだしたのだけれども、それがいかなるカタチであれ、明日の自分は創りだすことができます。

新しい自分になりたいという願望さえあれば、それは達成できる。


時に世界が汚すぎてイヤな気持ちになることも多いかもしれません。

自分もそうでした。

蹴落とし合いや、上昇していく人をわざと抑え込もうとする人達。


でも、同じマインドを持った人の周りには、時間の後押しによって類似したマインドの持ち主が、必ず集まっていきます。

だから、まだ見ぬ同じ意識を持った仲間と出会うために、今を集中。

正しい方向性は、必ず達成できる。

やり続けることができれば、必ず。


『すべては、あなたの頭の中にある思考から生まれる。』

ハーブ・エッカー     




合否-20th-大学受験デイズ-GIFT-大学受験の日々

2月の後半。僕は東京のホテルの10階の部屋にいた。

MARCHの試験を終えて、残るは早稲田の入試ただ一つとなっていた。


この日、目が覚めたのは午前9時。

そのままなんとなく机に向かったりしながら、今日までやってきた参考書を眺めていた。2時間くらいして、備え付けの木製の机から窓の方へと進む。


窓から見える景色の半分は、隣の建物のコンクリートが遮っている。灰色の壁は、その固さを窓越しにも伝えてきた。


残りの半分のスペースから、東京の街を眺める。

高層ビルディングは、澄んだ午後の空へと突き刺さり、黒い鳥がそれを横切るように羽ばたいている。

太陽がその建築物の輪郭を金色に光らせていた。


窓の半分は向こうの壁。
残りの半分は壁の向こう側。


どちらを見るのかは自分で決めるものなのだろう。選択していくことは、永遠に無くならない。


ipodから曲を選んでかける。
両耳のイヤホンから葉加瀬太郎のEverlasting Dreamが流れた。


ずっと醒めない夢が、もしかしたら、この街にあるのかもしれない。

冷めることのない情熱が、自分の中から見つかるかもしれない。


いつしか受験そのものではなく、受験の向こう側を意識し始めている自分がいた。
羽ばたいていた黒い鳥は、もう空の向こうにまで進んでいる。



唐突に携帯にメールが届いた。
何も考えずに開く。


姉からだった。



「合格通知が今届いたよ!!!オメデトウ!!!!!」







!!!








この瞬間、一つの達成を経験した。

ずっと追いかけていたもの。
ずっと欲しかったもの。

自分ひとりの力ではない。
周りの人の力を借りながら、たくさん支えてもらいながら、なんとか、なんとか手に入ったもの。


心に広がった感情は、感謝だけだった。


惰性に満ちた自分を叩き直してくれたすべての出来事にさえも感謝した。


苦い記憶も辛い記憶も、達成のカタルシスが、一つの感動へと変えていく。

苦い経験は甘さを知るためには必要なものだと悟った。

解放感は、それを得る1秒前の世界までのすべてを変えてくれる。
自分が受け入れることのできる存在へと昇華させてくれる。


涙は一滴も出なかった。

不思議と、周りのすべてに感謝する気持ちだけが、僕の中にあった。




『ありがとう!!!またあとで。』


短く渇いた返事の中に、支えてくれた家族へのありったけの感謝を込めた。





感謝を伝えたい人は、まだまだいる。
でも、それはすべてが終わった時に、伝えよう。
そして、自転車の彼女には、直接伝えよう。
付き合って下さいの言葉と一緒に。



そして、早稲田の入試当日になる。

この日は朝から風が強かった。

太陽の光は眼を眩ませる程に強い。網膜が刺激される。

この時、安定余裕率という言葉を、以前本で読んだことを思い出した。

安定余裕率が高ければ高いほど、次のチャレンジでリスクを取れる幅が広がるというものだ。リスクを取れる幅が広がるということは、それによって得られるリターンも比例して高くなる。世界は常にリスクとリターンで構成されている。リスクがゼロのものはなく、一見して存在しないように見えても、時間というマテリアルを消費している。

余裕が生まれたことで、緊張感なく、ぶつかって来れる。
自分の全部を出し切れる。


試験会場へと歩く最中、風は時に僕の背中を押し、時に僕を遮ったりした。

大切なことは、その風がなくとも到達できる力と、その風をいなせる柔軟さなのかもしれない。


入試が始まる少し前に席に着く。
既に試験監は数名集まっており、試験用紙を配り始めている。


席について腕時計を確認した。


時計は止まっている。





(…?!)





時計をぱんぱん叩く。
時計は全く動かない。




(止まってんじゃねぇ!!!)




今思い返してみても、とても不思議な気持ちになる。
なぜ、あの時に時計が止まったのか。
なぜ、最終日に、動くことをやめたのか。

理由は今もわからない。



ただ覚えているコト。それは、焦りに焦りまくった僕は、係の人に大急ぎで事情を言って、購買まで一緒に駆け抜けて行き、そこで古い時計を1000円で買ったことくらいだ。


(みんなも時計だけは注意してください。
端から紙が配られ始めていてかなり焦りました。)


戻りながら、今までで最速のスピードでビニール袋を破り、時計を取り出す。

この袋には切れ目が入っていない。
ゲーセンの景品かなにかじゃあるまいし。

雑念を振り切り、息を切らして教室に戻る。

間に合った。

シャーペンの芯を確認し、心と体を落ちつける。

最後の最後まで気を向くなという啓示であろう。





そして、最後の試験が始まった。


夢がチカラ-Real days-

受験の時によく聞いていた曲です。

歌詞からパワーをいつももらっていました。


↓youtube.URL

応援-Realdays-死生観 大金 失恋 夢 そして・・・

人は道を歩く。
先の見えない道を歩き続ける。


昔から、皆そうだった。


長い試行錯誤の果てに、今日が来る。


或る者は恋人に振られ、或る者は大金を掴む。
或る者は夢を追い、或る者は病魔と闘う。


今日が終われば、明日が自動的にやってくるわけじゃない、本当は。


受験を終えてから大学に入り、学外でも会社経営者から芸能人、そして億を掴んだ人まで様々な人と出会い、気がつかせてもらったことだ。


すべて、自ら明日を創り出している。


もちろん、生まれながらに与えられたカードの強弱は存在する。しかしそれを死ぬまで使い続けられるケースの方が稀だ。人は、途中でもっと強いカードを手に入れていく。
おそらく、この挑戦の機会もそんなチャンス。


もうじき終わる大学受験デイズには書く予定のない友人が一人いる。


彼は、志望した大学に合格しながらも、交通事故によりこの世を去った。


人の死は、残された人の生への意識をすべて変える。
今、生きている時間も、いつか終わる時間も、その在り方を再び自身に問いかけてくる。


もし明日の朝、目が覚めなかったら?


そうイメージすれば伝わり易いかもしれない。

死は何よりも大きいことだが、受験は小さなものだ、長い目で見てしまえば。
だが、暗闇の中で出口を探す受験生ならば生涯レベルの難題となる。
あの時の自分がそうだった。


毎日が終わることのない緊張と、絶望と希望の間を行ったり来たりして、時間が過ぎゆくのを願い、時間が止まることをも願う。

そんな矛盾に出会う日々でもあった。


人によっては曖昧な時の中で出会う人は限られ、その中には、こう言い放つ人も大勢いるかもしれない。


「あなたには、無理よ。」


「現実を見ろ。」


コメ山 みたいな雑音を放つ人は、溢れるくらいにいる。
でも、そんな雑音に揺れてはいけない。
不可能に思える現実ごと、ぶっつぶさなくちゃいけない。


【明日の創造×死生観-雑音=瞬間の価値】


明日を創りだす意識に、死生観を混ぜ合わせ、そこから雑音を引けば、瞬間に価値が生まれてくる。


一瞬を味方にし続けて。
そして、欲する自分と願った未来を掴んで。

夜が明ける前が一番暗いから。


この場所から応援してます。

入試-19th-既視感・本番・大学・受験・言葉・東京

最初にMARCHの入試が控えていた。

そして最後が早稲田。


運命を変えるために迎える日。
18歳の自分にとって、それは最大の障壁だった。

楽ではないとわかっていながら、なぜ走り続けてきたのだろうか。


そこに自信があったのではない。
そこに虚栄があったのでもない。


ただ、自分を大きく変えたかった。

大きく変わるからこそ、「大変」と書くのかもしれない。


入試本番の朝、新幹線で試験会場に向かうため早朝に僕は地方都市の駅にいた。


白い乗り物が到着し、右足から踏み込む。
半年前にも同じことをしていた。東京に行くために。
今もこの1歩は変わらない。


1度目の既視感と共に、自分を乗せたそれは動きだした。


窓から見える景色は吹き飛んで行く。懐かしささえ感じる自分の街を見ながら、赤本の英文を読んでいた。


隣の席には髭もじゃの外国人の方が座った。サンタクロースみたいな容貌。僕の願いもそのバッグの中には入っていますか?


目と目が合い視線をそらす。

窓から見える景色は1秒ごとに変化していく。
それを意識することで、世界の微弱な変化を捉えることができる。

(部屋の大きな窓から見えた世界も、徐々に変わり始めたよな。自分が変化していくサインは身近なところから出ているのかもしれない。)


雪が積もった山々を、横目に再び軽い既視感を感じていた。

新幹線の中で、大学生 からメールが届く。
そのメールをゆっくりと開く。その言葉を読んだとき、窓からの景色が一瞬止まった。


「さよならを言うために、闘ってきた。

只のやつにはなるな。走り通せ!」


流れる景色と時間の中で、僕は一人この言葉の意味を考えていた。


(サヨナラを言うため… 何に…?)

次の駅を通過する頃、言葉は答えが見つからないまま胸の奥へと溶けていった。


再び目の前にあるボロボロの赤本を開いて、英語長文を読む。MARCHの過去問では、何度か合格最低点を超えた年があった。記述と英訳に関しては微妙な採点方式になるため正確で無い部分もあったが、一つの優位性になると考えた。

別々の年の過去問を10回解いて、うち4回合格最低点を上回っていれば、理屈の上では40%の確率で合格できる。


でもこうも思った。
実際は、合格するか、しないか。二つに一つなんじゃないだろうか。


「間もなく東京駅に着きます」

車内アナウンスの声が思考を断ち切る。


白い乗り物はホームに入り、僕は荷物を持って駅に降りる。新幹線の外は気温が低く、風が冷たい。早朝の駅から外に出ると太陽の光が強く、交差点を照らしていた。
夏に渋谷の交差点を渡ったことがフラッシュバックされる。

40度を超えたあの日、街で何かを探して歩き回った。

今追いかけているものは、あの日探していたものだろうか。1年前から追いかけているものは、今日掴むべきものだろうか。

この時、自分に迷いがあったのではなく、既視感が見せた景色が、客観性を引き出したのかもしれない。

目的の駅につくと、遠くに高層ビル群が見えた。

既視感だ。オープンキャンパスの日が自然と思い出される。
あの日、無機質な建物を眺めていた際に、大学生に出会った。

懐かしい。あの日から長い時間が経った気がする。

出会いがなければ、今日は違ったものになっていただろう。言葉がなかったら、明日も違ったものになっているだろう。そして、贈り物がなかったら…


大学の近くになると、大勢の受験生が見え始めた。皆、同じ方向へと歩いて行く。晴れた空の元、遮らんとする雲無き陽の光を正面に歩くとそれは、他の動きし存在の配色を黒くする。


(この景色、花火大会 の時も…)


あの時は、一人ではなかった。
今は、一人で歩いている。
だけど、今も一人ではない。

矛盾とも取れる論理を組み立ててすぐに打ち壊す。


幾度の既視感を、この日感じたろうか。
見知らぬこの街の中で、いくつもの既視感が、僕の背を叩いたように感じた。
もしかしたらまた起きるかもしれない。そんなことを考えて構内に入る。


座席を探し、開始の時間を待つ。過ごし方は変わらず英語長文を読んでいた。試験官が複数入ってくる。大きな紙の束を抱えていた。


既視感は消えることない。

ありのままの自分で、ありのままのギフトを出し切る。



試験が始まる1分前。センターの時の既視感がする。
不思議と緊張はしなかった。


Stay Hungry. Stay Foolish.』

Steve Jobs

睡眠-18th-潜在意識・センター試験後・大学受験・勉強法・モチベーション・夢・現実

センターが終わる。
手ごたえを感じていたが、すべてが終わるまではなんとも言えない。

60%くらいの可能性もあるし、運良く90%近く取れたかもしれない。
どんな形であれ、無理と思えたこの試練を超えて、必ず新しい場所へ行く。
それが自分に課せられた試練を超えたことになる。
そして、まだ見ぬゴールを切りたい。この場所から切りに行かなくちゃ!


携帯を開き大学生にメールを打つ。


『センターが終わりました。この日を終えて、少しだけ頑張り続けた自分を褒めたいです。』


1分後に返信が来る。


「まだまだまだまだまだまだまだ気を抜くな!」


(了解。)


家に帰り適当に寿司を食べてから、その日は早めにベッドに入った。

浅い睡眠の最中にメールの着信音で目が覚める。


From 大臣
「俺、東大行くわ。」


Re:
『行ってこいよ。さいっこうに応援してる!』


後に彼から文科二類に合格の電話を聞いたときは本当に嬉しかった。

ベッドの中で、大臣のことを思い出す。

彼とは小学校からの付き合いだった。クラスの中で笑いを取るポジションにいながら、ずば抜けた集中力を持っていた。それは高校でも変わらなかったと聞く。
一度、教師と衝突してその教科の中間テストを堂々と白紙で出し、校長室に呼ばれ、その後の模試で全国上位を出した。
それを自らの持ちネタとし、僕らは何度も笑い合った。


懐かしい気持ちは携帯と共に閉じて、ゆっくりと瞼も落とす。


本番までのカウントダウンはもう始まっている。すべてが終わった時、何を見るのだろうか。


新しい風が吹き抜けることのイメージをした。意識は次第に薄らいでいった。


その日、不思議な夢を見た。


大学生になっている夢だ。どこの大学かはわからない。
ただ、見知らぬ場所で、見知らぬ人達と話している。


潜在意識にまで刷り込んだせいだろうか。それとも強い願いが夢の中で夢を見せたのだろうか。

きっと大多数の人間と逆の思考は、その戦略と方向性に誤りがなければ、時間と共に限界を超えられる。臨界点のトラックレコードを書き換えることができる。


朝も、夜も、太陽も、月も、すべてを味方につけるイメージで眠る。


瞼の向こうの世界では、すでに戦いの場所へと向かっていた。

試験-17th-夢と現実・溶け合う時間・混ざり合う思い

センター試験の当日朝、起きたのは朝の6時。
部屋の床板からも冷気が伝わってくる。

無心でストーブをつけて、言葉少なめに朝食を取る。
母がコンビニでサンドウィッチを買ってきてくれたらしく、感謝して受け取り家を出る準備をする。


玄関を出る時に、父がこういった。
「ケイ。背が伸びたか。」


試験会場は、少し離れた大学で行われため、そこまで自転車で向かう。

自転車に乗ってすぐ、ipodを取り出し、音楽をかけた。
「曲をシャッフル」を選択する。


流れた曲はsigur rosだった。

↓youtube URL(PCから表示)

sigur rosは、ipodで何度も再生しては今を感じて、未来をイメージする時に聴いてきた。


このBGMを聴きながら朝の寒い風の中を突っ切っていく。ペダルを踏む度に高校3年の思い出が再生されてくる。


この高校3年という期間は、ある意味、現実の中にいながら夢を見る。
そして、夢の中にはいつか必ず現実が訪れる。
誰もが制限無き夢を描くことができ、その終りに受け入れるべき現実が用意されている。

夢と現実は混ざり合い、溶け合いながら、忘れえぬ時間を創り出す。それは、後の人生で重ねる老いの度に鮮やかさを極めていく。


白昼夢は見える世界を変え、真夜中に描く夢は現実をも変えていった。
現実と夢は死の間際にも混ざり合い、完全な分離ができないその空間は、宿主に一つの物語を見せる。


赤信号で自転車を止める。
今日のバッグは軽い。たいして参考書も詰め込まなかった。


もらったギフトは家に置いてきた。センター会場に持って行こうかとも考えたが、でもそれは最初だけ。自然と家に置いて行く気持ちになれた。

今までで何度もギフトからモチベーションをもらい、その中にいろんなものを詰めた。だから立ち向かうべき場所へは、自身に詰め込んだものだけを持って行く。
それが目に見えないとしても。


会場に着き、心なしか重くなったバッグを持ち上げ、中に入る。


試験が始まる。
不思議と緊張はしなかった。


『すべての始まりには終わりがあり、その終わりには始まりがある』
sigur ros

溜息-16th-自然と湧き上がるもの・感情を開放するということ・革命前夜の気持ち

「久しぶりだね。」

『だね。今日もマジ寒いよね。』
当たり障りのない言葉を選んでいたと思う。

白いコートの上着に、バーバリーチェックのスカートだった。以前と比べて自転車の彼女は少しだけやつれて見えた。

歩きながらいつもと変わらない会話を交わす。


その日は映画を観に行くことになっていた。上映まで時間があり、彼女はアクセサリーが見たいというのでデパートに入る。

店の中で色々見ると「結構高いんだね」と苦笑いをしていた。高校生だったこともあり、1万円を超えるものがすごく高く感じた。


それから何も買わずに店を出て、映画を見て、プリクラを撮って、ご飯を食べる。日も暗くなって来たときに、駅のロータリーで彼女に待っていてもらった。


『寒いしなんか買ってくるからちょっと待ってて。』
「え、大丈夫だよ」


『いいからいいから。』
「ってかここ結構寒いよ。」

笑いながら待っていてもらう。


しばらくしてそこに戻り、ベンチに座った自転車の彼女に『手、貸して』と言って渡す。

あの時はなんとなく驚かせたかったからかもしれないし、元気になって欲しかったからかもしれない。
できることをしたくて、さっきの店で見ていたアクセサリーの箱を渡した。
緊張していたから顔をよく見られなかったが、何か色々言っていた。
それから、とてもよく笑うようになってくれたから少しは成功したのかな、と思いたい。


帰り道は、夜も遅くなっていたので家まで送って行く。


「今日はありがとう。凄い楽しかったよ。」
歯を見せて笑う表情はいままでと変わらない。


彼女の家の庭にはたくさんの花が咲いているのが目に入った。
それを少し眺めていると、

「あれ、凄いたくさん咲いてるよね。」と彼女が言った。

冬に咲いていたのは紫のパンジーや赤いグラジオラスだ。


「庭はいつもお父さんが育てていたんだ。」


沈黙になる。


ふいに彼女はボロボロと泣き始めた。
「こんなことになるなんて思ってなかったよ…」


手をひいて、すぐそばの公園で休ませる。

彼女が泣きながら感情的に話している間、黙って聞いていた。ただただ聞いていた。無力な自分にできることは、あの時それしかなかったから。


泣きやんだ彼女の手を再び引き家に向かう。

「ホント変なとこ見せてごめんね。」
目を腫らしながらいつもの表情に戻っていたことを確認して、ドアが閉まるのを見届けた。

引いた手の感触は、冷たい風にさらされても尚、残っていた。


自分の家に帰宅すると、メールが届く。

メールには、今日はありがとうの言葉と、親戚の家でしばらく暮らして病院に行くため卒業までは学校に行けないかもしれない、勉強の邪魔にならないように時々電話してもいいか、そんな内容が書いてあった。

『もちろん、大丈夫』の返事をすぐに返す。


あの時は、彼女の現状を変えてあげられない無力な自分に苛立った。痛いほど気持ちは伝わってきているのに、変える力を持たない自分。
そして、人の何かを変えたいと思うことがおこがましいとわかっていながらも、その劣等感は行き場を失い、自分の中に蓄積した。


再び彼女と会うのは、すべての試験が終わった3月になる。



時間は流れ、鬱めいた気持ちは新年の始まり共に、徐々に変わっていった。自転車の彼女も電話の向こうから回復しつつある気配を感じさせてくれた。

相手が誰であれ、溜息を変えられることができるなら、人は動きたいと思うのではないだろうか。


志望大学生から、こんなメールが届く。

「昔の人の革命前夜の気持ちって考えたことある?俺も未だに考えるよ。ケイも考えてみるといいかも。」


誰かの為に動く気持ち。
何かを変えていきたい強烈な気持ち。
強制するものが何もなくとも、その気持ちが湧き上がるならば、今も昔も変わらず人に備えられた自然なことなのかもしれない。そして時代に関係なく、超えるべきことも。


僕も、彼女も、今与えられた試練を超える必要があった。


 

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待人-15th-邂逅・刹那・クリスマス・大学受験・勉強法・クラッチバッグ

12月も半ばに入り、センターまで1か月ちょっとになっていた。
この時期にしていたことは、マークタイプの問題を解き続け、実際に行われる入試の時間よりも10分短く設定して過去問を解き続けていた。


英語の場合、先に文法問題で完問を狙いその次に後半の長文へと移行する。
後半の長文は配点比率が高く、内容を把握していれば取りこぼさずに内容把握では満点を狙う。
その長文では指示語と接続詞に注意をした。
単純な一例だが、「○○,but△△」だと主張している内容に変化が出ている。
そのため、こうした接続詞による変化後の内容に線を引いてすぐに見つけられるようにした。

英文法はIQ型の問題ではなく暗記型の色合いが強い。
並び変え問題のケースでは前置詞が混ざり、正しく並び変える順番がヒネられていることもある。
基本的な解答までの道筋は、その問題において核となる熟語・構文・文法があるので、それを見つけることだった。


センター現代文を解く時、そして本番の試験対策のために、選択肢から速く正解を選びやすくするためのテクニックを使っていた。現代文は最高で70近い偏差値が出たこともあった。

まず、明らかに異なる選択肢においては×をつけた後、Z(アルファベットのゼット)をその上につけた。
これは5つの選択肢の中、不正解である残りの4つの比較検討をしやすくするためのものだ。
もちろん選択においてその根拠を本文から射抜くことは言うまでもない。
明らかに異なる選択肢を早めに除外するため、正解を探すためのスピードを確保しやすかった。


政治経済は、同じ問題集を解き続けた。
知識の体系をそれまでの時期にずっと入れ続けていたため、それをマーク型に対応して引き出す作業をする。
正解となるキーワードが選択肢の中に含まれているものの、単純に暗記一発型ではない。

結局のところ、マーク形式でもIQ型問題との組み合わせがなされていることがほとんどだと感じた。



24日の約束の日、僕達は地方都市の駅前にあるツリーで13時に待ち合わせることになっていた。

この日の朝は早くに目が覚める。なんだか落ち着かなくて一階に降りて埃をかぶったプレステを起動した。
どうもこういう日は慣れない。会っている時は普通に話せるのに、そこに行くまでの間に妙な行動を取ってしまう…
今だって武者震いをしながら、武将のゲームをする自分がいた。シンクロしすぎだろ。


午前中にメール受信の音が鳴る。

この着信音は、志望大学生 からだ。
彼からは雪で覆われた風景の写メが届いた。文章はひとつもない。
地元の写真であろうか。
僕の地元ではクリスマスに雪が降らない。そう知っていたから送ってくれたのだろう。
言葉がなくても気持ちは伝わった。

メールを保護して、12時に家を出る。


太陽は高く、風だけが速い。空には大きな鷲が飛んでいた。

あの鳥も遥か向こうの目的地を目指していて飛んでいるのだろうか。



30分前に飾り付けられたツリーの下に着く。多くの人がここで誰かと待ち合わせていた。
待っている間、過ぎゆく人達を見る。

幾人もの人が何処かへと向かい、同時にその景色が流れ過ぎていく。
以前の渋谷でもこの感覚を感じていた。
刹那的な時間の中に、一瞬の邂逅がある。

隣の人に待ち人が現れては消えていく中、向こう側から白い服を着た彼女が現れた。


『その日その日が一年中の最善の日である。』
エマソン