入試-19th-既視感・本番・大学・受験・言葉・東京
最初にMARCHの入試が控えていた。
そして最後が早稲田。
運命を変えるために迎える日。
18歳の自分にとって、それは最大の障壁だった。
楽ではないとわかっていながら、なぜ走り続けてきたのだろうか。
そこに自信があったのではない。
そこに虚栄があったのでもない。
ただ、自分を大きく変えたかった。
大きく変わるからこそ、「大変」と書くのかもしれない。
入試本番の朝、新幹線で試験会場に向かうため早朝に僕は地方都市の駅にいた。
白い乗り物が到着し、右足から踏み込む。
半年前にも同じことをしていた。東京に行くために。
今もこの1歩は変わらない。
1度目の既視感と共に、自分を乗せたそれは動きだした。
窓から見える景色は吹き飛んで行く。懐かしささえ感じる自分の街を見ながら、赤本の英文を読んでいた。
隣の席には髭もじゃの外国人の方が座った。サンタクロースみたいな容貌。僕の願いもそのバッグの中には入っていますか?
目と目が合い視線をそらす。
窓から見える景色は1秒ごとに変化していく。
それを意識することで、世界の微弱な変化を捉えることができる。
(部屋の大きな窓から見えた世界も、徐々に変わり始めたよな。自分が変化していくサインは身近なところから出ているのかもしれない。)
雪が積もった山々を、横目に再び軽い既視感を感じていた。
新幹線の中で、大学生
からメールが届く。
そのメールをゆっくりと開く。その言葉を読んだとき、窓からの景色が一瞬止まった。
「さよならを言うために、闘ってきた。
只のやつにはなるな。走り通せ!」
流れる景色と時間の中で、僕は一人この言葉の意味を考えていた。
(サヨナラを言うため… 何に…?)
次の駅を通過する頃、言葉は答えが見つからないまま胸の奥へと溶けていった。
再び目の前にあるボロボロの赤本を開いて、英語長文を読む。MARCHの過去問では、何度か合格最低点を超えた年があった。記述と英訳に関しては微妙な採点方式になるため正確で無い部分もあったが、一つの優位性になると考えた。
別々の年の過去問を10回解いて、うち4回合格最低点を上回っていれば、理屈の上では40%の確率で合格できる。
でもこうも思った。
実際は、合格するか、しないか。二つに一つなんじゃないだろうか。
「間もなく東京駅に着きます」
車内アナウンスの声が思考を断ち切る。
白い乗り物はホームに入り、僕は荷物を持って駅に降りる。新幹線の外は気温が低く、風が冷たい。早朝の駅から外に出ると太陽の光が強く、交差点を照らしていた。
夏に渋谷の交差点を渡ったことがフラッシュバックされる。
40度を超えたあの日、街で何かを探して歩き回った。
今追いかけているものは、あの日探していたものだろうか。1年前から追いかけているものは、今日掴むべきものだろうか。
この時、自分に迷いがあったのではなく、既視感が見せた景色が、客観性を引き出したのかもしれない。
目的の駅につくと、遠くに高層ビル群が見えた。
既視感だ。オープンキャンパスの日が自然と思い出される。
あの日、無機質な建物を眺めていた際に、大学生に出会った。
懐かしい。あの日から長い時間が経った気がする。
出会いがなければ、今日は違ったものになっていただろう。言葉がなかったら、明日も違ったものになっているだろう。そして、贈り物がなかったら…
大学の近くになると、大勢の受験生が見え始めた。皆、同じ方向へと歩いて行く。晴れた空の元、遮らんとする雲無き陽の光を正面に歩くとそれは、他の動きし存在の配色を黒くする。
(この景色、花火大会 の時も…)
あの時は、一人ではなかった。
今は、一人で歩いている。
だけど、今も一人ではない。
矛盾とも取れる論理を組み立ててすぐに打ち壊す。
幾度の既視感を、この日感じたろうか。
見知らぬこの街の中で、いくつもの既視感が、僕の背を叩いたように感じた。もしかしたらまた起きるかもしれない。そんなことを考えて構内に入る。
座席を探し、開始の時間を待つ。過ごし方は変わらず英語長文を読んでいた。試験官が複数入ってくる。大きな紙の束を抱えていた。
既視感は消えることない。
ありのままの自分で、ありのままのギフトを出し切る。
試験が始まる1分前。センターの時の既視感がする。
不思議と緊張はしなかった。
『Stay Hungry. Stay Foolish.』
Steve Jobs