戦後日本経済は焼け野原から驚異的な成長を遂げ世界第2位の経済大国となりました。

高度経済成長の過程で国民の所得は大幅に増加し、国民の多くは経済的に豊かになりました。

 

しかし1990年のバブル崩壊によって経済状況は一変しました。

企業の不良債権問題が取り沙汰され企業は無駄を削減するようになりました。

 

そのため人件費の抑制などを強いられ国民の所得はそれまでのように思ったように増えなくなりました。

そして国家の経済力を表すGDPは1995年以降、ほぼ横ばいになりました。

 

ここ近年は国民の実質賃金はほとんど変わらず推移している状況になっています。

なぜこのような状況になってしまったのでしょうか?

 

この状況を理解しようとすると、ある興味深い事実がわかってくるのです。

それは戦後から現在までの日本経済をマクロ経済的視点でお金の流れを読み解く事によって知る事が出来ます。

 

国民の所得が増えると言うことは、給与が増える事で、つまり国民1人1人がより多くのお金を手にする事です。

それではお金とは、そもそもどうやって生まれてくるのでしょうか?

 

先に結論から言ってしまうと、お金は誰かが借金する事によって作られるのです。

それを示すデータが下記になります。

 

 

上のグラフは日本銀行が公表しているデータです。

折れ線は、それぞれの部門別の資金(お金)が増えた量の、年度ごとの推移を示しています。

 

真ん中の線のゼロを境に上が資金余剰、下が資金不足の状態を示しています。

折れ線が上にいくほど資金余剰、つまり貯蓄をしていることになり、下にいくほど資金不足、つまり借金をしている事になります。

 

部門は「家計」「一般政府(日本政府)」「民間非金融法人企業」「海外」に分けられます。

 

「家計」とは我々国民の事をさします。

当然家計はどの年をみても資金余剰、つまり貯蓄している事になります。

 

もし国民が資金不足の状態になったら生活する事が出来ません。

ですから家計は常に資金余剰の状態でなければなりません。

 

「一般政府」とは日本政府の事ですが、上のグラフの期間は常に資金不足、つまり借金をしている状態です。

これは日本政府が毎年のように赤字国債を発行して歳入不足を補っているからです。

 

「民間非金融法人企業」とは、金融機関(銀行・証券会社・信用金庫など)以外の企業のことです。

こちらは上のグラフの期間、常に資金余剰の状態で推移しています。

 

よく新聞やニュースなどで企業の内部留保が過去最大になったという話しを聞きます。

毎年のように資金余剰の状態を推移しているので企業は貯蓄を沢山しているのです。

上のデータからそれをはっきりと読み取る事が出来ます。

 

「海外」とは、日本が海外との貿易で、資金がどの程度日本に入ってきたのか又は資金が日本から出ていったかを示しています。

具体的には、

(輸出)ー(輸入)

で表されます。

 

輸出量が多ければ日本にお金が入ってきていて、輸入量が多ければ日本からお金が出ていっている事になります。

但し、ここでいわれている「海外」とは、日本以外の国が経済主体としての海外を意味します。

 

つまり、「海外」が資金不足の時は、海外経済主体が多く資金を払っているので、日本にとっては資金余剰の状態を意味します。

日本は毎年輸入量よりも輸出量の方が多いので、常に海外は資金不足の状態になっています。

 

良く言われる貿易黒字とは、この事をさします。

日本にとっての貿易黒字は、海外にとって貿易赤字になります。

 

上のグラフからわかる基本的な事は以上なのですが、実は本題はここからです。

上のグラフからある特徴が見て取れると思います。

 

それは各折れ線の値が、真ん中の線のゼロを境に線対称になっている事です。

ゼロより下の折れ線が下に大きくなるほど、上の折れ線は上に大きくなっているのが見て取れます。

 

例えば2009年~2010年、「一般政府」は下に大きくなっています。

つまり政府が借金する量を増やしたのです。

 

すると、「民間非金融法人企業」の折れ線は上に大きくなっているのがわかると思います。

これはリーマンショックによって金融危機が起こり資金繰りに苦しくなった企業を支援したためです。

 

また、2020年も「一般政府」は下に大きくなっています。

反対に、「家計」は上に大きくなっています。

 

これはコロナショックによって「家計」を積極的に支援したからです。

定額給付金や雇用調整助成金などの制度を使って個人や労働者を直接支援した事によって「家計」の貯蓄が増えたわけです。

 

それ以外の年度もおおむね折れ線の推移は真ん中の線を境に対称的に推移しているのがわかると思います。

 

ここから、資金余剰と資金不足の相関関係は見て取れます。

 

もし「家計」の貯蓄を増やそうと思ったら反対に資金不足になってくれる部門が必要になる、と言う事です。

逆に資金不足になってくれる部門がなくなったら、「家計」の貯蓄もゼロになります。

 

「家計」「一般政府」「民間非金融法人企業」「海外」これら全ての部門がゼロの線より上に行くことはあり得ないということです。

 

つまりある部門の資金不足は、他の部門の資金余剰になっているのです。

これが、お金は借金する所から生まれるということです。

 

誰かが借金する事によってお金が生まれ、そのお金が他の誰かの貯蓄へとなっていくわけです。

ここ20年ほどは「一般政府」が借金する事によってお金が作られ国民や企業へと流れていく形が定着しています。

 

では以前はどうだったのでしょうか?

昭和の頃は、今ほど財政赤字の問題は言われていませんでしたが、昭和の頃は誰が借金をして「家計」の所得を押し上げていたのでしょうか?