突然ですが、お金はなくならないって知っていましたか?

 

ある人が手にしたお金はなくならないのです。

マクロ経済的視点で言うと、これが正解です。

 

そんなことはない、

「お金を払って物を買えばなくなる」

とか、反対に

「物を買ったお店にはお金は残るのだから、確かになくならない」

とか、

色々な意見はあると思います。

 

しかし、これはミクロ経済的視点で言ってるので、必ずしもお金の本質を理解している考えだとは言えません。

 

わかりやすく例をだして考えてみましょう。

 

ある人が10万円、国から支給されたとします。

去年の定額給付金のようなものです。

 

そのお金で家具屋に行って10万円のソファーを買ったとします。

買った人の手元からは10万円なくなりましたが、家具屋には10万円の売上が付きました。

 

最初に支給を受けた人は10万円を失い、家具屋は10万円を手にしました。

ここまではミクロ経済的視点で見ているので、ただ、家具屋にお金が移動しただけのように見えます。

 

ここで、家具屋は7万円でソファーを卸売り業者から仕入れたとすると、家具屋は売上総利益で3万円上がった事になります。

 

売上総利益とは粗利(あらり)ともいいます。

売上高から売上原価(仕入値)を差し引いたものです。

 

この粗利分が家具屋の利益になります。

もちろん、この粗利から必要経費などを引いて最終的な利益はもっと少なくなりますが、GDPの指標になるのは、この粗利です。

 

事業者単位で見ると、粗利が利益なので、この事業者に3万円分の定額給付金をした事と同じ意味合いを持ちます。

ちなみに仕入値には一般的に送料も含まれるので、送料分は卸売り業者の売上原価となります。

 

ここでは送料は1000円とします。

 

そしてこの卸売り業者の売上は7万円増えたことになります。

 

卸売り業者はソファーの製造業者から4万9千円でソファーを仕入れたとすると、卸売り業者の粗利は送料分もたすと2万円になります。

 

つまり、卸売り業者は2万円分の定額給付金を受けた事と同じ意味合いを持ちます。

 

これと同じ計算を製造業者や配送業者にも適用すると、それぞれの事業者で粗利が計算出来ます。

そして、その粗利分が製造業者や配送業者に定額給付金が支給された事と同じ意味合いを持ちます。

 

また、製造業者もソファーを作る為の原材料を専門の販売業者から仕入れている場合があります。

その原材料の販売業者も粗利が増えて、その分の定額給付金が支給された事と同じ意味合いを持ちます。

 

つまり、ソファーの製造から販売までに関わっている全ての事業者の粗利が増えるのです。

そしてその粗利の合計は10万円になります。

 

最初に支給を受けた人の10万円はなくならず、必ずどこかの事業者の粗利に還元されていくのです。

 

つまり、正確に言うと、「粗利はなくならない」、という事です。

 

初めに定額給付金を受けた人にも、もちろん10万円の粗利があるわけです。

そして10万円を使っても、その粗利は回り回って色々な事業者に分配されていきます。

 

では初めに戻ると、この定額給付金の財源はどこから来たのでしょうか?

 

去年の例で言うと、国債が財源になっていました。

つまり国債を発行した分だけ日本中に粗利が増えたのです。

 

その増えた粗利が回り回って色々な人達に還元されて行くことで経済活動が行われていきます。

このように粗利が増える人が多くなればそれだけ社会全体に還元する粗利も多くなります。

 

もちろんこの10万円は別に定額給付金でなくてもよいのです。

働いて稼いでもよいのです。

 

いずれにしてもある人が手にした粗利は、社会全体に還元されていくと言うことです。

なぜなら人間は生きていく為に必ずお金を使うからです。

 

食料や生活必需品や家電などを買って社会全体に自分の粗利を還元していくのです。

それによって経済活動が活性化していきます。

 

自分自身の粗利が増えれば増えるほど社会全体に還元する粗利も増えていきます。

そういう人達が増えれば景気が良くなってくるのです。

 

今の日本は物の値段が下がっているので経済活動が停滞している、と言えます。

つまり個人の粗利が少ないので、社会全体に自分の粗利を還元する額も少なくなるのです。

 

ではなぜ個人の粗利が少ないかというと給料がなかなか上がらないからです。

給料が上がらないのは事業者の粗利が少ないからです。

 

それは日本のGDPが20年間増えていないのが原因です。

 

先ほども言ったようにGDPは粗利から計算されます。

GDPが増えていないのは粗利が増えていないからです。

 

日本の多くの事業者で粗利が増えない状態がずっと続いているのです。

だから給料が増えないのです。

 

このような時は政府支出を増やして事業者や個人の粗利が増えるような景気対策をする必要があります。

 

昨年の定額給付金のように国債を発行すれば、確実に個人の粗利は10万円分増えるからです。

 

こういう視点に立つと、定額給付金を支給するのに所得制限をするかどうか、というのはあまり意味のない議論だとわかると思います。

お金持ちでも生きていく為に必ずお金を使うので、それによって、様々な人達の粗利が増える事に貢献出来るのです。

 

誰に支給するかは、入り口の議論に過ぎません。

初めにお金を手にした人は使う事によって様々な人達に粗利分を還元出来るからです。

 

定額給付金を支給された人だけが、利益を得ている訳ではないのです。

 

誰かの利益は他の誰かの利益になります。

「金は天下の回りもの」という言葉は、まさに言い得て妙です。

 

マクロ経済的視点でいうと迅速に、そして出来るだけ多くの人に定額給付金を支給した方が景気を下支えする事になります。

それによってお金に困っている人を減らす事が出来ます。

 

 

コロナ禍で経済が停滞したアメリカやヨーロッパは、事業者や個人に手厚い補償をしました。

事業者には粗利補償を、個人には定額給付金を支給して景気を下支えしました。

 

これによってコロナ禍でも景気がよくなりインフレ率が5%を超えるまでになってしまいました。

あまりに手厚い補償をし過ぎた為、物の値段が上がってしまったのです。

 

これはこれで問題ですが、日本はアメリカやヨーロッパとは違います。

明らかにデフレの状態なのです。

 

消費者物価指数(CPI)を見れば明らかです。

この状況を変えるには政府が国債を発行して、日本国民全体の粗利を増やす以外方法はありません。

 

このように経済の本質的な部分が理解できれば、お金に対する考え方も変わってくるのではないでしょうか。

 

誰にいくら支給するのか、といった入口の議論ばかりに時間を費やしていては、経済全体にとってマイナスになってしまうのです。

 

 

※参考文献