ごんざの辞書のかきかえ143「ぢ」「づ」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 ごんざの辞書の日本版16ページの「8.キリル文字による日本語音節の表記」によると、ごんざの日本語表記のダ行音は

「ダ」(да)(da)「ヂ」(джи)(dzhi)「ヅ」(дз)(dz)「デ」(де)(de)「ド」(до)(do)

になっている。

 「ヅ」は無声化すれば(дз)(dz)だけど無声化しなければ(дзу)(dzu)だ。

 

 この「ヂ」(джи)(dzhi)と「ヅ」(дзу)(dzu)の子音のつづりの区別がごんざにはむずかしかったようだ。

 「ヂ」は(джи)(dzhi)、「ヅ」は(дзу)(dzu)と、子音がちがう上、日本語には「ヂュ」という音もあって、これは(джу)(dzhu)とつづらなければならない。

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみると、かきかえた例がたくさんみつかった。

 このことはごんざの日本語の音韻に関するたいせつな情報だとおもうけど、日本版ではふれられていない。

 

「мышка」(myshka)「鼠」『ねづみ』нЕдзумь

・нЕдとかいてからжの途中でзにかきかえてある。

 

「шапка」(shapka)「つばのない帽子」『づきん』дзукинъ

・зはжとかさなっている。

 

「корчуся」(korchusya)「曲がる、縮まる」『ちぢゅむ』чиджумъ

・чидзとかいてからзにかさねてжумъとかいてある。

 

「утЕшаюся」(uteshayusya)「慰めとなる」『あすぢきげんとる』асуджькигенторъ

・асудзとかいてからзにかさねてжがかいてある。

 

「стружки」(struzhki)「鉋屑」『かなくづ』канакудзъ

・жをзにかきかえてある。

 

「помалу」(pomalu)「少しずつ」『ちっとづつ』читтодзуцъ

・жの上にзをかさねてかいてある。

 

「земледЕланiе」(zemledelanie)「耕すこと」『ぢつくること』джицкуркотъ

・дзとかいてからзにかさねてжицкуръとかいてある。

 

「бездЕлiе бездЕлное дЕло」(bezdelie bezdelnoe delo)「無為、くだらぬこと」『いたづら』итадзъра

・джとかいてからжにかさねてзがかいてある。

 

「выскакиваю」(vyskakivayu)「跳び出る」『とぶづる』тобдзуръ

・тобджуръのжにかさねてзがかいてある。

 

「гладило」(gladilo)「滑らかにする物」『なづる』надзуртъ

・наджとかいてからжにかさねてзуртъとかいてある。

 

「предвосхожду」(predvoskhozhdu)「予め上に出る」『ふぁよづる』фаЮдзуръ

・фаЮджとかいてからжにかさねてзуръとかいてある。