ごんざが訳語をかきまちがえた場合、つぎの3とおりがある。
1 ごんざが自分でまちがいに気づいて、かきなおした。これは日本版ではほとんどふれられていないので、私がみつけては「ごんざの辞書のかきかえ」としてこのブログで紹介している。
2 ごんざは自分ではまちがいに気づかなかったので、かきまちがえたことを日本版で紹介した上で、訂正後をしめした。この例はすくない。
3 ごんざは自分ではまちがいに気づかなかったので、村山教授が勝手に訂正して、訂正後のものだけをしめした。日本版の読者は元の原稿に何がかいてあったのか、わからない。
3にはどんなものがあるのか、鹿児島県立図書館の原稿コピーをみて、みつけたものを紹介する。
「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
「богозренiе」(bogozrenie)「神を見ること」『ふぉどけをみる』
実際の訳語は『фодокЕвмиръ』『ふぉどけうみる』
「болшой палЕцъ」(bolshoi palets')「親指」『おやいび』
実際の訳語は『Ояибъ』『おやいぶ』
「великоплотный」(velikoplotnyi)「肉付きのよい」『ふとかみのと』
実際の訳語は『втокаминоцъ』『ふとかみのつ』
「внука」(vnuka)「女孫」『まご、おなごん』
実際の訳語は『мага онагонъ』『まが、おなごん』
「возгроможденiе」(vozgromozhdenie)「高く積むこと」『たこつむこと』
実際の訳語は『токоцумкотъ』『とこつむこと』
「воздухъ」(vozdukh')「空気」『ぬくかいき』
実際の訳語は『нуккаикь』『ぬっかいき』
「воздушный」(vozdushnyi)「空気の」『ぬくかいきのと』
実際の訳語は『нуккаикьнотъ』『ぬっかいきのと』
「демонскiй」(demonskii)「悪魔の」『がわっぱんと』
実際の訳語は『гаваппанта』『がわっぱんた』
「добрая словеса」(dobraya slovesa)「良いことば」『よか ことば』
実際の訳語は『Юка котобо』『よか ことぼ』
「драчунъ」(drachun')「喧嘩好きな人」『いさかうふと』
実際の訳語は『исакавфво』『いさかうふを』
「ждуся」(zhdusya)「待つ」『まつ』
実際の訳語は『мацо』『まつぉ』
「непримирителны'」(neprimiritelny')「仲直りをしないところの」『なかなをらんと』
実際の訳語は『накановорантъ』『なかのをらんと』
「непреходнО」(nepre[o]khodno)「通過しないで」『とをらん』
実際の訳語は『творанъ』『とをらん』
「нехудый」(nekhudyi)「悪くないところの」『わるねと』
実際の訳語は『верунетъ』『うぇるねと』
「племянница」(plemyannitsa)「姪」『おなごんうぇ』
実際の訳語は『онаганве』『おながんうぇ』
これらにかぎっては、たぶん全部ごんざのケアレスミスなので、勝手に訂正した転写によって、当時の薩摩方言の研究に支障があるとはおもえないけど、鹿児島県立図書館までみにいくのは大変なので、現物に忠実に転写した上で「注」として訂正をかいてほしかった。