「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」16「のびる」  | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」浅川哲也 2017 の中につぎのような記述がある。

 

1199<Карячиться><強情を張る>(不格好に体をくねらせる)

   Нобимаштемо.(Nobimashtemo.)「述べましても」(のびましても(?))

 

 ニコライ・レザノフ『露日辞書』の日本版の著者はロシア語の<Карячиться>の訳語として(不格好に体をくねらせる)とかき、それにあたるНобимаштемо.(Nobimashtemo.)という日本語がよくわからず(?)とかいた。

 「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」浅川哲也 2017  は、ロシア語の訳語に<強情を張る>とかいて、善六の訳語は「述べましても」であるとかいた。

 

 もうひとつ。

 

1325<Корчить><身をよじらせる>(けいれんさせる)

   Суку маримаштемо.(Suku marimashtemo.)

   「竦まりましても」(すくまりましても(?))

 

 日本版の著者はロシア語の<Корчить>の訳語として(けいれんさせる)とかき、それにあたるСуку маримаштемо.(Suku marimashtemo.)という日本語がよくわからず(?)とかいた。

 「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」浅川哲也 2017  は、ロシア語の訳語に<身をよじらせる>とかいて、善六の訳語は「竦まりましても」であるとかいた。「竦まる」というのは(身がすくむ)ということだろう。

 

 このふたつ、おなじ動詞に「ся」(sya)がついたものとついていないものなんじゃないの?とおもう。

 

岩波ロシア語辞典

「корчить 1けいれんさせる、ひきつらせる。2(顔を)しかめる。3ひどく気を悪くさせる、虫酸の走る思いをさせる。」

「корчиться 1けいれんして身を曲げる、体をひきつらせる;身もだえする、身を縮める。2曲る、縮まる。」

 

 訳語の「のびる」も「すくまる」も人の体が(まがったり、ちぢんだり、ひきつったり、のびたり)するというような意味で「述べる」は関係ないとおもう。

 

 このことばはごんざの辞書にもでてくる。

 

「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」  『ごんざ訳』

 

「корчю」(korchyu)    「曲げる」     『まぐる』

「корчуся」(korchusya)  「曲がる、縮まる」 『ちぢゅむ』