古海行子 ピアノ・リサイタル
「Liszt」2023-2024
- CD 「リスト:ピアノ・ソナタ」発売記念 -
【日時】
2023年12月3日(日) 開演 13:00 (開場 12:30)
【会場】
あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール (大阪)
【演奏】
ピアノ:古海行子
【プログラム】
バッハ:イタリア協奏曲 BWV971
シューマン:謝肉祭 Op.9
リスト:愛の夢 第3番
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
※アンコール
ドビュッシー:ベルガマスク組曲 より 第3曲 「月の光」
好きなピアニスト、古海行子のピアノリサイタルを聴きに行った。
彼女の実演を聴くのはこれで10回目。
→ 3回目 2019年テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ公演
→ 4回目 2020年ショパンコンクール in ASIA派遣コンクール3次
→ 7回目 2022年テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ公演
今回は、彼女にとっておそらく2回目の大阪公演で、リストのピアノ・ソナタのCD発売(こちらのサイト)を記念したプログラムである。
最初のプログラムは、バッハのイタリア協奏曲。
この曲のピアノ版で私の好きな録音は
●シフ(Pf) 1991年1月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3)
●ルガンスキー(Pf) 1991年6月5,7日セッション盤(CD) ※その記事はこちら
あたりである。
この曲の対位法的側面をとことんまで追求したシフと、この曲の無窮動的側面をとことんまで追求したルガンスキー。
1990年前後に立て続けに生まれたこれらの名盤に並ぶものは、後にも先にも現れていない(なお名盤の誉れ高いグールドも、無窮動タイプの演奏として相当にうまいが、左手がシフやルガンスキーの鮮やかさにはやや及ばないか)。
今回の古海行子は、シフの対位法的アプローチと、ルガンスキーの無窮動的アプローチの、ちょうど間くらい。
快速だが無理のないテンポで、左右の手の掛け合いも適度に強調しながら、スムーズに美しく奏された。
ルガンスキー風の攻めのテンポでも聴いてみたい気はしたが、それではバッハを逸脱してしまうとの判断かもしれない。
次のプログラムは、シューマンの謝肉祭。
この曲で私の好きな録音は
●佐藤卓史(Pf) 2009年4月17日横浜ライヴ盤(CD)
●コチュバン(Pf) 2017年5月4日モントリオールコンクールライヴ(動画) ※その記事はこちら
あたりである。
前者はグルダが、後者はアルゲリッチがこの曲を弾いたらかくやあらん、というほどの溌剌たる名演。
前者は様式感を保ち、後者はより自由奔放、といった違いはあれど、活きのよさはいずれ劣らず、まさにめくるめく祭宴を思わせる。
これらに慣れると、他の演奏がどうにも物足りなくなってしまう(なお名盤の誉れ高いラフマニノフも、跳躍を物ともせず相当にうまいが、細かい音型が佐藤卓史やコチュバンの完成度にはやや及ばないか)。
今回の古海行子は、確かな技巧を持つ彼女だけあって、「パピヨン」「パンタロンとコロンビーヌ」「パガニーニ」といった無窮動風の曲が特に見事だった。
全体的に端正でケレン味のない、完成度の高い演奏。
終曲など、何が飛び出してくるかわからない、上記名盤のような手に汗握るスリルがもう少しあっても良かったかもしれないが、そういう羽目の外し方をしないのが彼女らしいし、そもそもこの曲でこれだけ弾けている演奏には滅多にお目にかかれない。
次のプログラムは、リストの「愛の夢 第3番」。
この曲で私の好きな録音は
●バレル(Pf) 1951年3月セッション盤(Apple Music/CD/YouTube)
●ブニアティシヴィリ(Pf) 2010年10月10-14日セッション盤(Apple Music/CD/YouTube)
●牛田智大(Pf) 2012年1月17-20日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●小林愛実(Pf) 2017年8月17-19日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube) ※その記事はこちら
あたりである。
この曲は、これらの名盤のような味付けの濃い演奏が合うように思う。
今回の古海行子は彼女らしく薄味で、この曲向きの演奏ではなかったが、その分サラリと聴けて、大曲がずらりと並ぶプログラム中での良い清涼剤となった。
最後のプログラムは、リストのピアノ・ソナタ。
この曲で私の好きな録音は
●ツィメルマン(Pf) 1990年2,3月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●デミジェンコ(Pf) 1992年2月5,6日セッション盤(CD)
●江尻南美(Pf) 2005年5月フランクフルトライヴ(動画1/2/3/4)
●チョ・ソンジン(Pf) 2012年8月8日ドゥシニキ=ズドゥルイライヴ(音源)
●リード希亜奈(Pf) 2019年パルマドーロコンクールライヴ(動画)
●阪田知樹(Pf) 2021年5月12日エリザベートコンクールライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube/動画)
●キム・セヒョン(Pf) 2022年6月11日仙台コンクールライヴ(動画) ※その記事はこちら
あたりである。
今回の古海行子は、七人七色の特色を持つこれらの個性的な名盤たちのどれともまた違った、ストレートでストイックな演奏だった。
この大ソナタのごてごてした仰々しい要素を取り除き、本質のみを見据えたような、求心的な解釈。
しなやかでありながら力強く、聴いていてずしっと腹にこたえる。
先日の藤田真央の緻密な演奏でもやや物足りなく感じてしまった贅沢な私だが(その記事はこちら)、今回の古海行子の演奏には強い感銘を受けた。
聴衆の拍手も、この曲ではとりわけ大きかったように思う。
今回は、彼女によく合ったプログラムであるように感じた。
リストのソナタは、CDは出しているが、人前で弾いたのは今回が初めてだったとのこと。
初めてとは思えない熱演ぶりだった。
同じプログラムでの公演が東京でもあるため(2024年1月28日、浜離宮朝日ホール)、関東にお住まいの方はぜひ。
→ こちらのサイト
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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