第4回高松国際ピアノコンクール 本選 および結果発表 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

第4回 高松国際ピアノコンクール 本選

 

【日時】

2018年3月24日(土) 開演 13:00

 

【会場】

サンポートホール高松 大ホール

 

【演奏・プログラム】

1. ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23)

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18

 

2. 伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27)

サン=サーンス:ピアノ協奏曲 第5番 ヘ長調 Op.103 「エジプト風」

 

3. アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」

 

4. 古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調

 

5. カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」

 

指揮:大友直人

管弦楽:瀬戸フィルハーモニー交響楽団

 

 

 

 

 

香川県の高松市で開催されている、第4回高松国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。

3月24日は、ついに本選が行われた。

これまで1次、3次審査はネット配信を聴いてきたが(こちらのサイト)、本選は2次審査と同様、コンクール会場まで聴きに行った。

ちなみに、これまでの記事はこちら。

 

1次審査 第1日 (ネット配信)

1次審査 第2日 (ネット配信)

1次審査 第3日 (ネット配信)

2次審査 第1日 (実演)

2次審査 第2日 (実演)

3次審査 第1日 (ネット配信)

3次審査 第2日 (ネット配信)

 

 

ゲルマン・キトキンの、ラフマニノフ第2番。

遅れて行ったので、これだけネット配信で聴いた。

ロシア風の愁いのある音色は良いのだが、全体的にぼてっとしてしまっている。

リヒテルのようにゆったりと、また低音を強調して、大きなスケールで悠然と弾こうとしているのだろうが、もともとリヒテルのようなパワーを持ったタイプのピアニストではないので、あまりうまく行っていない。

テクニック的にもいま一歩。

このラフマニノフ第2番は、ドゥミトリ・マイボローダ(ドミトリー・メイボローダ)が3次予選通過していれば弾くはずだった曲である。

彼だったらどれほど個性的に美しく弾いただろうか、と思うとかえすがえすも残念である。

 

 

伏木唯の、サン=サーンス第5番「エジプト風」。

ここからは会場で聴いた。

硬めの音色だが、しっかりと引き締まっていて良い。

細部までパキッと明瞭に弾けている。

コンチェルトにしては音量・表現ともにおとなしめであり、「エジプト風」の愛称から連想されるような、地中海の燦々たる陽光の明るさはないが、その代わりにしっとりとした抒情的な味わいがよく出ている。

成熟した表現力はさすがである。

 

 

アウレリア・ヴィソヴァンの、ベートーヴェン第5番「皇帝」。

やはりラプソディックな解釈で、テンポを変えずそっけない弾き方をすると思ったら、逆に大きくテンポを落としたりする(第1楽章再現部の第1主題確保の箇所など)。

また、細部の表現にあまり拘泥しておらず、アルペッジョ、トリル、跳躍後の同音連打など、ところどころ粗い。

ただ、彼女の音は朗々として美しく、よく通る。

また、音楽の柄はなかなか大きい。

こういう演奏が好みかと言われると本来そうではないのだが、それでもコンチェルトではよく映える(ソロ曲ほど細部が気にならない)。

意外と聴きごたえがあった。

 

 

古海行子の、リスト第1番。

期待通りの演奏!

技巧的に大変優れており、跳躍和音は鮮やか(冒頭はミスもあったが第3楽章のほうはばっちり決まった)、速い走句は滑らか、終楽章での同音連打やスタッカートも精緻きわまりない(終楽章の精緻さは、私の好きなマルタ・アルゲリッチ旧盤やヘルベルト・シュフの動画を上回っているかも)。

彼女の音はシャープかつパワフルで、オーケストラに埋もれることなく際立っている。

第2楽章のような緩徐な部分も、メロディの歌わせ方が堂に入っている。

全体的に、正攻法ながら音楽の表層を撫でるのでなく深く切りこんでいくような演奏。

超高速というよりは余裕のあるテンポを採り(とはいえ十分速いのだが)、そのぶん細部まで完成度の高い演奏となっている。

そして、余裕のあるテンポ設定だからこそ、終楽章コーダでは「Piu mosso」→「Piu presto」→「Presto」と楽譜の指示通りにテンポを次々と上げ、音楽の勢いをいや増していくことができる。

そして最後の「Presto」は、オーケストラをぐいぐい引っ張っていくような攻めの演奏だった。

縦の線を合わせようとしておとなしくなってしまっていないのが良い。

オーケストラとずれそうでずれない、絶妙なバランスとタイミング。

大変スリリングで、さすがである。

この演奏が聴けただけでも、今日来た甲斐があった。

 

 

カンテ・キムの、ベートーヴェン第5番「皇帝」。

相変わらず細部まで丁寧だし、表現も整っている。

同曲を弾いた上記ヴィソヴァンとは比べ物にならない。

アルペッジョもトリルもユニゾンも完璧。

ただ、この曲はコンチェルトだし、それに何と言ってもベートーヴェンである。

複雑な超絶技巧を要するというよりはシンプルな力強さをもった曲であり、もちろん繊細さも必要だが、柄の大きさも大事だと思う。

その意味で、私としてはこの曲に限ってはヴィソヴァンの演奏のほうにも捨てがたい魅力を感じる。

カンテ・キムにとって、この曲は選曲ミスかもしれない。

2009年浜コンでこの曲を弾いて優勝したチョ・ソンジンにあやかったかどうかは知らないが、今回は裏目に出てしまったような気がする。

カンテ・キムには、ラフマニノフの第3番のような超絶技巧曲を、汗一つかかずスマートに完璧に弾き上げる、というのが似合っている。

きっと、圧倒的な演奏になったことだろう。

 

 

そんなわけで、私の中で勝手に順位をつけるとすると

 

1: 古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

2: カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

3: アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

4: 伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27)

5: ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23)

 

というような感じになる。

 

 

さて、実際の結果は明日発表予定。

いったいどうなるだろうか。

 

 

 

 

 

―追記(2018/03/25)―

 

さて、本選の結果は下記のようになった。

 

【本選結果】
1位: 古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)
2位: カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)
3位: 伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27)

4位: ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23)

5位: アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

 

委嘱作品演奏者賞: 古海 行子

審査員特別賞: 鐵 百合奈

香川県知事賞: 古海 行子

高松市長賞: 古海 行子

公益財団法人松平公益会賞: 古海 行子

公益財団法人高松市文化芸術財団理事長賞: 古海 行子

公益財団法人高松観光コンベンション・ビューロー理事長賞: カンテ・キム

 

結果は、きわめて妥当なものと思われる。
古海行子、堂々の優勝である。

彼女の実力が正当に評価されて本当に良かった。

審査委員長の岩崎淑のスピーチによると、高松国際ピアノコンクールで日本人優勝者が出たのは初めてとのこと。

同様に、浜松国際ピアノコンクールや仙台国際音楽コンクールピアノ部門でも、やはり日本人優勝者はほとんどいない(仙台の津田裕也くらいか)。

今回の優勝は、フィギュアスケートの世界選手権で日本人選手が優勝するくらいの、大ニュースなのではないだろうか(ちょっと違う?)。

ともあれ古海行子、これからもますます活躍して、たくさんの演奏を聴かせてほしいものである。

 

 


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