第4回高松国際ピアノコンクール 2次審査 第2日 および結果発表 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

第4回 高松国際ピアノコンクール 2次審査 第2日

 

【日時】

2018年3月18日(日) 開演 10:00

 

【会場】

サンポートホール高松 大ホール

 

【演奏・プログラム】

1. アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109

ブラームス:幻想曲集 Op.116

 

2. タチアナ・ドロホヴァ Tatiana DOROKHOVA (Russia 1991-  age: 26)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110

シューマン:交響的練習曲 Op.13

 

3. 坂本 彩 Aya SAKAMOTO (Japan, Hyogo 1989-  age: 29)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7

ブラームス:幻想曲集 Op.116

 

4. 古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 第37番 ニ長調 Hob.XVI : 37

リスト:「巡礼の年 第2年 イタリア」 より 婚礼

シューマン:ピアノ・ソナタ 第3番 ヘ短調 Op.14

 

5. キュホ・ハン Kyuho HAN (Korea 1993-  age: 24)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 Op.31-1

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58

 

6. ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ Nuno VENTURA DE SOUSA (Portugal 1996-  age: 21)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 第32番 ロ短調 Hob.XVI : 32

ショパン:練習曲 嬰ハ短調 Op.25-7

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58

 

7. シンイー・リ Xinyi LI (China 1995-  age: 23)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53 「ワルトシュタイン」

ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22

 

8. ドゥミトリ・マイボローダ Dmitry MAYBORODA (Russia 1993-  age: 24)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 第49番 変ホ長調 Hob.XVI : 49

リスト:「巡礼の年 第2年 イタリア」 より ペトラルカのソネット第123番

リスト:「巡礼の年 第2年 イタリア」 より ダンテを読んで ソナタ風幻想曲

 

9. カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 第32番 ロ短調 Hob.XVI : 32

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

 

 

 

 

 

香川県の高松市で開催されている、第4回高松国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。

1次審査はネット配信で聴き(こちらのサイト)、2次審査は会場で聴いた。

ちなみに、これまでの記事はこちら。

 

1次審査 第1日 (ネット配信)

1次審査 第2日 (ネット配信)

1次審査 第3日 (ネット配信)

2次審査 第1日 (実演)

 

 

今回は、2次審査の第2日。

 

 

アウレリア・ヴィソヴァン。

ラプソディックな解釈で、悪くない演奏。

ただし、私としては細部の表現にこだわる繊細な演奏のほうが好みではある。

ラプソディックで行くなら、マルタ・アルゲリッチのようにとは言わないまでも、(調子のいい時の)ユリア・コチュバンやアレクシーア・ムーサのように、とことん勢いよくやってほしいところ。

 

 

タチアナ・ドロホヴァ。

1次審査ではその強靭なタッチがプロコフィエフに合っていた彼女だが、今回のベートーヴェンの後期ソナタやシューマンでは、少し適性と違うように感じた(彼女としては真面目にドイツものに取り組んだ、という印象は受けたが)。

 

 

坂本彩。

力強いタッチ、輝かしい推進力をもつピアニスト。

今回のようなベートーヴェンやブラームスが特に合っているように思う。

昨日の伏木唯とはまた違った意味で、しかし同等に、表現力に富んでいた。

 

 

古海行子。

圧巻の演奏で、度肝を抜かれた。

技巧面のみならず表現力においても、他のコンテスタントたちとは桁違い。

ハイドンのソナタ第37番での、羽毛のように軽やかなタッチ。

リストの「婚礼」での、集中力みなぎる情感豊かな表現。

そして、シューマンのソナタ第3番での、目もくらむような圧倒的な存在感。

技巧面でも他を圧しているのだが、それだけでなく表現力がすごくて、シューマンの狂気を余すところなく呈示してくれた。

フォルテ(強音)が若干鋭すぎるように思う人もいるかもしれないが、私は気にならなかったし、もう圧倒されっぱなしだった。

 

 

キュホ・ハン。

1次審査と同様、ところどころうまいところはあれど、全体としてはタッチにむらがあって、完成度は高いとはいえない。

可哀想だが、古海行子の後だととりわけ目立ってしまう。

 

 

ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ。

異端派ピアニスト。

1次審査でもそうだったが、普通ならしないようなところでテンポを変えたり、逆に通常テンポを落とすところをイン・テンポにしたり。

技巧的にも、きわめて繊細な箇所(ハイドンの第2楽章など)と、雑な箇所(同第3楽章など)との差が激しい。

こういったタイプのピアニストは、私は通常あまり好きでない。

ただ、彼の場合はベーゼンドルファーのピアノ(を選んでいたのは彼だけ)の鄙びた音色をよく活かしていたり、曲の新たな魅力に気づかせてくれたりして、ハイドン・ショパンともに印象に残った。

3次審査以降も聴いてみたい気がする。

 

 

シンイー・リ。

私は彼の1次審査の演奏のネット配信をまだ聴いていない。

ベートーヴェンもショパンも、あまりよく音が飛んでこないと思ったら、いきなり力んだような強いフォルテになったりする。

「ワルトシュタイン」の終楽章コーダなど攻めのテンポで悪くなかったけれど、全体としてはあまりセンスの良さを感じなかった。

 

 

ドゥミトリ・マイボローダ(ドミトリー・メイボローダ)。

古海行子があれだけすごかったので、もうそこまでの名演は無理かとも思ったのだが、彼はやってくれた。

本当にすごい。

彼の深々とした透明で潤いのある美しい音は、「リヒテルの再来」とでも言いたくなるほどである。

ハイドンのソナタ第49番が、彼の手になるときわめて陰影の濃い音楽になる。

古典派らしい軽やかな演奏とは違うけれど、これほどの魅力には抗することができない。

リストの「ペトラルカのソネット第123番」、なんと美しいロマンにあふれた演奏だろう。

そして、リストのダンテソナタ。

彼は、最高度の技巧をもつタイプのピアニストではなく、この技巧的な曲をどう料理するのか少し不安もあったが、杞憂だった。

もう圧倒的にドラマティックな、なおかつ繊細な美しい演奏で、哲学的といったらいいのか、細部の音型をおろそかにせず神経質なまでに一つ一つ丁寧に意味を与えていくような彼の個性的な解釈は、ダンテを読んで思索にふけるリストを想起させる。

圧巻というほかなかった。

 

 

カンテ・キム。

私は彼の1次審査の演奏のネット配信をまだ聴いていない。

今回2次審査を聴いて、ダークホース現る、と思った。

完璧な演奏である。

私は、ブロンフマンやマツーエフら「ロシアの爆演系技巧派ピアニスト」のように、「韓国のスマート系技巧派ピアニスト」ともいうべき一連の人たちがいると考えていて、例えばJeungBeum Sohn、Jinhyung Park、Jaehong Park、キム・ダソル、ソヌ・イェゴン、キム・ホンギなどがそれに当たると思う。

彼らは最高度のテクニックを有し、ダイナミックでありながらも爆演にはならずスマートで品があって、また情感にも欠けていない。

つまり、非の打ち所のない演奏である。

今回のカンテ・キムもその一人に数えていいのではないだろうか。

ただ、韓国からはこのような逸材が次々出てきていて、皆そろってリストのピアノ・ソナタを完璧に弾くので、最近ではそれほど大きな衝撃を受けなくなってしまったけれど。

そんな中にあって、チョ・ソンジンとEunSeong Kimだけは、前者は抒情的、後者は情熱的な点において、私の中では他よりも一歩抜きんでた特別な存在になっているけれど、今回のカンテ・キムの演奏からはまだそこまでのオーラは感じられなかった。

しかしそれは贅沢な次元の話で、彼の今後の演奏が楽しみである(1次審査での「ペトルーシュカ」のネット配信も早く聴きたい)。

 

 

そんなわけで、第2日の演奏者のうち、私が3次審査に進んでほしいと思うのは

 

坂本 彩 Aya SAKAMOTO (Japan, Hyogo 1989-  age: 29)

古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ Nuno VENTURA DE SOUSA (Portugal 1996-  age: 21)

ドゥミトリ・マイボローダ Dmitry MAYBORODA (Russia 1993-  age: 24)

カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

 

あたりである。

 

 

第1日と合わせて、3次審査に進める人数である10人を選ぶとすると

 

第1日

ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23)

イレイ・ハオ Yilei HAO (China 1996-  age: 21)

伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27)

平間 今日志郎 Kyoshiro HIRAMA (Japan, Osaka 1998-  age: 20)

鐵 百合奈 Yurina TETSU (Japan, Kagawa 1992-  age: 25)

 

第2日

坂本 彩 Aya SAKAMOTO (Japan, Hyogo 1989-  age: 29)

古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ Nuno VENTURA DE SOUSA (Portugal 1996-  age: 21)

ドゥミトリ・マイボローダ Dmitry MAYBORODA (Russia 1993-  age: 24)

カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

 

あたりになる(一人足りないので、誠実な演奏に敬意を表して鐵百合奈を入れた)。

 

 

さて、2次審査の実際の結果は下記のようになった。

 

【3次審査進出者】

第1日

樋口 一朗 Ichiro HIGUCHI (Japan, Fukuoka 1996-  age: 21)

ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23) ○

イレイ・ハオ Yilei HAO (China 1996-  age: 21) ○

伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27) ○

鐵 百合奈 Yurina TETSU (Japan, Kagawa 1992-  age: 25) ○

 

第2日

アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

坂本 彩 Aya SAKAMOTO (Japan, Hyogo 1989-  age: 29) ○

古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20) ○

ドゥミトリ・マイボローダ Dmitry MAYBORODA (Russia 1993-  age: 24) ○

カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21) ○

 

なお、○をつけたのは私が3次審査に残ってほしかった10人の中の人である。

10人中8人。

これは、私としては大いに納得のいく結果である。

ほっと胸をなでおろした。

樋口一朗とアウレリア・ヴィソヴァンは、私とは波長が合いにくいけれど、良いピアニストであることに異存はない。

平間今日志郎は残念だったが、きっと票差はわずかだっただろうし、若いのでこれからいくらでもチャンスはあるだろう。

現時点での優勝の最有力候補は、ドゥミトリ・マイボローダ、古海行子、カンテ・キムの3人だと思う。

ただし、3次審査には室内楽があるため、慣れない奏者がいる場合、結果が荒れることがある。

それに、この3人以外にも素晴らしいピアニストがいる(特にイレイ・ハオ、伏木唯、坂本彩)。

混戦が予想され、大変楽しみである。

 

 


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