第4回高松国際ピアノコンクールが終わって | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

香川県の高松市で開催された、第4回高松国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)が、終わった。

これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、あるいはコンクール会場まで聴きに行って、感想を書いてきた。

とりわけ印象深かったピアニストについて、忘備録的に記載しておきたい。

ちなみに、これまでの記事はこちら。

 

1次審査 第1日 (ネット配信)

1次審査 第2日 (ネット配信)

1次審査 第3日 (ネット配信)

2次審査 第1日 (実演)

2次審査 第2日 (実演)

3次審査 第1日 (ネット配信)

3次審査 第2日 (ネット配信)

本選 (実演)

 

 

ジ ヒョン・クヮク Ji Hyang GWAK (Korea 1991-  age: 26)

 

技巧的にはそこそこだが、端正な演奏が好印象。

バッハの平均律第1巻嬰ハ長調、ショパンの練習曲Op10-7あたりが印象的。

 

 

チンホン・リ Jinhong LI (China 1994-  age: 23)

 

ベートーヴェンやショパンはいまいちだが、バーバーのソナタでの力強いロマン性が印象的。

 

 

スーチェン・リ Siqian LI (China 1992-  age: 25)

 

抒情的な味わいを持ったピアニスト。

バッハの平均律第1巻変ロ短調、ラフマニノフの前奏曲Op.23-4、ジェフスキーのウィンズボロ・コットン・ミル・ブルースあたりが印象的。

 

 

ユペン・メイ Yupeng MEI (China 1994-  age: 23)

 

なかなかの技巧派。

ショパンの練習曲Op.10-1、ラフマニノフのソナタ第2番、いずれもエネルギッシュで輝かしく印象的。

 

 

ゲルマン・キトキン German KITKIN (Russia 1994-  age: 23)

 

今大会の第4位。

ロシアらしい愁いのある音色を持ち、演奏には素朴な味がある。

ベートーヴェンのソナタ「テンペスト」、シューマンのピアノ四重奏曲あたりが印象的。

 

 

イレイ・ハオ Yilei HAO (China 1996-  age: 21)

 

ヴィルトゥオーゾ・タイプのピアニストで、独特の華やかさがある。

スクリャービンのソナタ第10番、シューマンのソナタ第3番あたりが印象的。

 

 

ピルウォン・ソ Pil-Won SEO (Korea 1984-  age: 33)

 

やや四角四面な印象はあるが、確かな技巧を持った実力派。

ショパンの練習曲Op.10-1、ラヴェルの「オンディーヌ」「スカルボ」あたりが印象的。

 

 

ジンチャオ・シュ Jinzhao XU (China 1997-  age: 21)

 

控えめでやや地味ながら、粒立ちの良いきれいなタッチを持つ。

ドビュッシーの「オンディーヌ」、カバレフスキーのソナタ第3番あたりが印象的。

 

 

正田 彩音 Ayane SHODA (Japan, Tokyo 1996-  age: 21)

 

独特の雰囲気で聴かせる、個性的なピアニスト。

バッハの平均律第2巻ハ短調、ショパンの練習曲Op.25-11、メトネルのソナタ第9番が印象的。

 

 

ツィーハン・グォ Zhiheng GUO (China 1997-  age: 20)

 

しなやかというよりは硬めの演奏だが、ショパンの練習曲Op.25-6、ドビュッシーの「月の光がふりそそぐテラス」「花火」、スクリャービンのソナタ第4番あたりでは、その硬派な表現がうまく行っている印象。

 

 

クリス ジュヨン・ハン Chris Jooyoung HAN (USA 1996-  age: 21)

 

確かな技巧、はきはきした明瞭なタッチを持つピアニスト。

ショパンの練習曲Op.10-4、ストラヴィンスキー/アゴスティの「火の鳥」あたりが印象的。

 

 

伏木 唯 Yui FUSHIKI (Japan, Hokkaido 1991-  age: 27)

 

今大会の第3位。

音はやや硬めだが、明瞭なタッチとしっとりとした味わいを兼ね備え、優れた表現力を持つ魅力的なピアニスト。

ショパンの練習曲Op.10-8、ブゾーニのショパン変奏曲、ベートーヴェンのソナタ第7番、ブラームスの6つの小品Op.118、フォーレの四重奏曲第1番、サン=サーンスの協奏曲第5番あたりが印象的。

 

 

平間 今日志郎 Kyoshiro HIRAMA (Japan, Osaka 1998-  age: 20)

 

充実した力強い音と確かな技巧とを持ったピアニスト。

ショパンの練習曲Op.25-11、プロコフィエフのサルカズム、ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」ソナタ、リストのハンガリー狂詩曲第2番あたりが印象的。

 

 

鐵 百合奈 Yurina TETSU (Japan, Kagawa 1992-  age: 25)

 

表現がやや地味だが、落ち着きと誠実さの感じられる演奏をする。

ショパンの練習曲Op.10-2、シューマンのソナタ第3番あたりが印象的。

 

 

寺元 嘉宏 Yoshihiro TERAMOTO (Japan 1987-  age: 30)

 

粒のそろった滑らかなタッチを持つピアニスト。

今回は期待したほどではなかったものの、曲にもよるだろうし、今後も注目していきたい。

 

 

アウレリア・ヴィソヴァン Aurelia VISOVAN (Romania 1990-  age: 27)

 

今大会の第5位。

自由でラプソディックな個性を持つピアニスト。

ソロ曲では細部の磨き方に不足を感じるが、ベートーヴェンの協奏曲第5番「皇帝」では朗々とした美音がよく映えた。

 

 

タチアナ・ドロホヴァ Tatiana DOROKHOVA (Russia 1991-  age: 26)

 

強靭なタッチを持つピアニスト。

ベートーヴェン後期ソナタやシューマンでは味わいが不足して感じられたものの、プロコフィエフのソナタ第7番は彼女に合っていた。

 

 

坂本 彩 Aya SAKAMOTO (Japan, Hyogo 1989-  age: 29)

 

ベートーヴェンやブラームスに合った、充実した力感のある音を持つ。

推進力や表現力もなかなかのもの。

グバイドゥーリナのシャコンヌ、ベートーヴェンのソナタ第4番、ブラームスの幻想曲集Op.116と四重奏曲第1番あたりが印象的。

 

 

古海 行子 Yasuko FURUMI (Japan, Kanagawa 1998-  age: 20)

 

今大会の優勝者。

最高度の技巧を持つピアニスト。

というと若き日のポリーニを想像するかもしれないが、少し違うような気がする。

ポリーニは、指がよく回るというよりは、「あらゆる音をくまなく明快に鳴らす」といったタイプのピアニストであるように思う。

彼の演奏には、古代ギリシア彫刻のような古典的明朗さがある。

例えば中川真耶加などは、まさに正統派の演奏をする、「ポリーニ」タイプのピアニストだと思われる。

それに対し古海行子は、本当によく指が回り、タッチを精緻にコントロールし、あらゆるパッセージをむらなく滑らかに奏する、クールでモダンな、どちらかというと「アムラン」タイプのピアニストではないだろうか。

ただ、彼女はアムランのようにひたすらクールというよりは、一見クールな演奏の陰に、曲への鋭い切りこみを潜ませている(今回の演奏では特にショスタコーヴィチやシューマンのソナタで顕著)。

音楽に浸る、というのでなく、音楽を抉る、といった感じがする。

アムランの冷徹さに、アルゲリッチの情熱的な要素を併せた、といったところだろうか。

そのきわめて絶妙な塩梅が、彼女の演奏を他とは違った特別なものにしているのだと、私は思っている。

バッハの平均律第1巻嬰ヘ長調、ショパンの練習曲Op.10-2、シマノフスキの練習曲Op.4-3、ショスタコーヴィチのソナタ第1番、ハイドンのソナタ第37番、リストの「婚礼」、シューマンのソナタ第3番、そしてリストの協奏曲第1番あたりが特にすごかった。

 

 

ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ Nuno VENTURA DE SOUSA (Portugal 1996-  age: 21)

 

粗も目立つが、独特の繊細さでベーゼンドルファーのピアノを弾きこなす、きわめて個性的な異端派ピアニスト。

ヴァインのソナタ第1番、ハイドンのソナタ第32番、ショパンの練習曲Op.25-7とソナタ第3番あたりが印象的。

 

 

大平 達也 Tatsuya OHIRA (Japan, Hokkaido 1990-  age: 27)

 

丁寧で伸びやかな演奏が好印象。

ショパンの練習曲Op.10-1、バルトークのソナタあたりが印象的。

 

 

ドゥミトリ・マイボローダ Dmitry MAYBORODA (Russia 1993-  age: 24)

 

これまでに何度も書いてきた、私のとりわけ好きなピアニストの一人。

彼の生演奏を聴くことが、今回ついに叶った。

というわけで、私の中での個人的な今大会のMVPは、彼ということになる(本来は古海行子にすべきなのだろうが、お許しいただきたい)。

ラフマニノフやリヒテルに通じるような彼の深々とした美しい音、息の長いフレージングは、ロシアの悠然たる大地を思わせる。

以前にも書いたけれど(こちらこちら)、このような音が出せるのは、ほんの一握りのピアニストに限られているように思う。

それに加え、彼には思索的というか神秘的というか、独特の個性的な解釈がある。

理知的でありながら感覚的でもあるような演奏で、曲の細部に至るまで綿密に解釈し活かしているのだが、それがアカデミックな硬さに陥ることなく、真の感動に満ちている。

もし彼が最高度の技巧を持ち合わせていたら、まず間違いなく優勝していただろう。

しかし、彼は自身の音楽を表現するのに必要なだけの技巧は持っているし、私にはそれで十分である。

バッハの平均律第2巻ロ短調、ショパンの練習曲Op.25-11、ラヴェルのラ・ヴァルス(この曲については2015年浜コンの演奏のほうがさらに精妙だったけれど)、ハイドンのソナタ第49番、リストの「ペトラルカのソネット第123番」とダンテソナタ、モーツァルトのパイジエッロ変奏曲、小出稚子の「うんぽこどんぽこ」、シューマンの四重奏曲、つまり全ての演奏曲が大変に印象的だった。

特に生で聴いたハイドンとリストは、忘れられない演奏である。

 

 

カンテ・キム Kang Tae KIM (Korea 1997-  age: 21)

 

今大会の第2位。

スマート系技巧派ピアニスト。

最高度の技巧を持ち、タッチコントロールは緻密で完成度が高く、情熱や情感の表現も堂に入っている。

ただ、2次審査の感想にも書いたように(その記事はこちら)、もうあと一歩何らかの個性が欲しい気もする。

とはいえやはり素晴らしく、バッハの平均律第2巻イ短調、ショパンの練習曲Op.25-10、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(この曲についてはさらなるアグレッシブさと完成度の高さを望みたいが)、ハイドンのソナタ第32番、リストのソナタあたりは特に印象的だった。

 

 

以上のようなピアニストが、印象に残った。

今大会は素晴らしいピアニストが何人かいて、しかもいくつかの演奏は生で聴くことができて、大変楽しかった。

マイボローダ(メイボローダ)が本選に進めなかったのだけが心残りだが、好きなピアニストが本選進出できないのは、私は慣れている(クレア・フアンチもそういうことが何度かあった)。

今後もたくさんのチャンスがあるだろうし、めげずにがんばってほしいものである。

 

 


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