(ピアニストの演奏の動画) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

 

最近はインターネットの発達により、ピアニストのCD/DVD化されていない演奏風景を動画で観ることができる機会が増えている。

中には違法アップロードもあるようで、注意が必要だが、ピアニスト自身がアップしてくれているものは違法性もなく、大変貴重である。

そのうちのいくつかを、ここに引用したいと思う。

 

 

まずは、クレア・フアンチ。

彼女については、これまでのブログ記事で散々書いてきたから、今さら詳しく紹介するまでもないだろう。

彼女はときどき、協奏曲のコンサート前の練習風景を短いながら録画し、自身のFacebookにアップしてくれている。

 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 第1楽章 出だし(断片)

ベートーヴェン:同曲 同楽章 カデンツァ(断片)

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 第1楽章(断片)

ラフマニノフ:同曲 第2楽章(断片)

同上

ラフマニノフ:同曲 第3楽章(断片)

ラフマニノフ:前奏曲 op.32-6 へ短調(アンコール曲)

 

どれも本当にうまい!

協奏曲のソロ・パートをオーケストラなしで聴くことができ、かつこのような近距離から見ることができる機会はなかなかないと思われ、大変貴重な動画である。

なお、ラフマニノフの前奏曲において、スマートフォンの音量自動調節機能が働いて音量がころころ変わってしまっているのは、ご愛嬌である。

 

 

次は、ドミトリー・マイボロダ。

2015年の浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)の全コンテスタントの中で、私が最も好きなピアニストである。

私は彼を2015年の浜コンのライヴ配信で初めて知ったのだが、1次予選のラヴェル「ラ・ヴァルス」を聴いて以来、すっかりファンになってしまった。

私は、深々とした本物の「ラフマニノフの音」を出せるのは、ラフマニノフ本人、リヒテル、ルガンスキーくらいだと思っているのだが、それ以外にも「本物のラフマニノフ弾き」の資格がある可能性があると考えているピアニストもわずかながらいて(セルゲイ・タラソフなどもそう)、マイボロダもその一人だと私は思っている。

彼の深々とした音色で聴くラフマニノフの前奏曲やスクリャービンのピアノ・ソナタ第2番は、絶品である。

また彼は、トップクラスの技巧を持つとはいえないかもしれないが(それでも相当のレベルだと思う)、その代わり、きわめて個性的で緻密な表現力を持っている。

前述の「ラ・ヴァルス」や、ムソルグスキーの「展覧会の絵」などは、他のピアニストからはまったく聴かれない個性的な、なおかつ大きな説得力のある解釈となっている。

私は、2015年の浜コンで彼の優勝を願っていたのだが、本選の直前で落ちてしまい、残念ながらその後の日本での演奏機会はまったくなし、という結果になってしまった。

そんな彼が、YouTubeにアップしてくれている動画が、いくつかある。

 

ラフマニノフ:前奏曲 op.23-4 ニ長調

ショパン:バラード 第3番 変イ長調

ラヴェル:「ラ・ヴァルス」

ブラームス:間奏曲 op.118-2 イ長調

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 より 第3、4楽章

 

ラフマニノフの前奏曲は、これぞ私の思い描くラフマニノフ!と言いたくなるような、深々とした音色による、ロシアらしい雄大なロマンティシズムに溢れた演奏になっている。

ショパンのバラードが、ややラフマニノフ風のショパンになってしまっているのは、ご愛嬌。

 

「ラ・ヴァルス」は、浜コンでのライヴ録音は本当にすごく、エスプリさえ感じさせるセンスの良いルバート(テンポの揺らし)、ドラマティックな表現、洗練された繊細なグリッサンド、クライマックスでの絶妙なタメと大きな盛り上がり、終盤での良くコントロールされたアッチェレランド(加速)、そして最後の印象的な5つの音の弾き方に至るまで、全てが練りに練られている(このダイナミックな演奏に慣れてしまうと、ピアノ・ソロ版はおろか、2台ピアノ版であっても、管弦楽版でさえ物足りなく感じてしまう)。

この「ラ・ヴァルス」の動画は浜コンよりも少し前の時期に撮られた演奏のようで、浜コンのときほどの完成度には達していない。

ルバートはところどころ重いし、グリッサンドは粗く、最後のたたみかけもコントロールが甘くて早い段階から盛り上がりすぎてしまっている(最後の5つの音も重すぎる)。

しかし、そうは言っても、凡百の演奏に比べると十分に素晴らしい。

 

ブラームスとベートーヴェンでも、彼の深々とした美しい音色は十分に発揮され、大変味わい深い演奏となっている。

 

なお、彼はモスクワ音楽院を卒業後、ミュンヘンの音楽大学の大学院に行っているようである。

浜コンで優勝して即座に演奏活動に入るよりも、そのほうが色々な経験ができて良かったかもしれないな、と私は自分で自分を慰めている(笑)。

余談だが、なんと2014年にPACオーケストラが彼を招聘し、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏したそうなのである。

この時点では、私は彼のことを知らなかったため、大変残念ながら聴きに行かなかったのだが、もし今だったら万難を排して行っていただろう。

コンクールでちょこちょこ賞を取っているとはいえ、有名とは言い難い彼を、いったい誰が招聘しようと言いだしたのだろうか、素晴らしい慧眼だと思う。

 

 

最後は、押しも押されもしない著名ピアニスト、チョ・ソンジン。

彼を詳しく紹介する必要はもうないだろう。

彼も、Facebookに動画をアップしてくれている(ただし映像はなく、音声のみ)。

 

ショパン:即興曲 第1番 変イ長調

 

東京オペラシティでのライヴのようである。

こういったショパンの流麗かつ繊細な曲を弾かせると、彼ほどうまい人はなかなかいないと思う。

彼は有名人になってしまったから、もうFacebookに演奏風景の動画を載せることはあまりないかもしれない。

その分、これからたくさんレコーディングしていってほしいものである。

 

 


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