2016年度 相愛大学音楽学部卒業演奏会 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

2016年度 相愛大学音楽学部卒業演奏会

 

【日時】

2017年3月22日(水) 17:00 開演

 

【会場】

いずみホール (大阪)

 

【演奏・プログラム】

―第1部―

・鰐渕 陽介(小太鼓)

A.ゲラシメツ:アスベンチュラス

 

・水池 謙元(ピアノ)

R.シューマン:フモレスケ 作品20 より(抜粋)

 

・栂 千晶(ソプラノ)

小林 秀雄:すてきな春に

(Pf 小柳 るみ)

 

・浅埜 和也(バス・トロンボーン)

E.ボザ:ニュー・オリンズ

(Pf 小笠原 梨恵)

 

・中埜 未奈子(ハープ)

R.グリエール:ハープ協奏曲 第2楽章 より テーマ、バリエーションI、VI 第3楽章

(Pf 岩本 実姫)

 

・木村 華(ピアノ)

A.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 作品19 第1楽章

 

・髙松 寧々世(ヴァイオリン)

M.ブルッフ:スコットランド幻想曲 作品46 第1、4楽章(一部省略)

(Pf 田口 友子)

 

―第2部―

・岡田 智則(作曲)

岡田 智則:「静」~陰陽のバランス~

(指揮 松本 直祐樹、1st Vn 竹内 朋子、2nd Vn 芝内 もゆる、Va 安藤 歌那、Vc 芝内 あかね、Pf 西川 ひかり)

 

・津田 七愛(ヴァイオリン)

C.サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ

(Pf 藤原 千佳子)

 

・柳田 さち(ソプラノ)

中田 喜直:悲しくなったときは

(Pf 玉城 葵)

 

・濃野 真里(クラリネット)

C.M.ヴィドール:序奏とロンド 作品72

(Pf 寺嶋 千紘)

 

・佐野 七海(サクソフォン)

P.スパーク:パントマイム

(Pf 水池 謙元)

 

・奥 まどか(フルート)

P.タファネル:「ミニヨン」によるグランド・ファンタジー

(Pf 前山 奈美)

 

・川瀬 小百合(ピアノ)

M.ラヴェル:クープランの墓 より I. プレリュード VI. トッカータ

 

―第3部―

・川向 志保(マリンバ)

石井 眞木:飛天生動III

 

・松本 紗央莉(オーボエ)

M.ドラニシニコワ:詩曲

(Pf 松本 あかり)

 

・黒田 美羽(ソプラノ)

箕作 秋吉:悲歌―海の幻―

G.ヴェルディ:オペラ「椿姫」より “ああ、そはかの人か”

(Pf 高木 理枝子)

 

・新井 貴之(サクソフォン)

フィル・ウッズ:ソナタ 第1楽章

(Pf 水池 謙元)

 

・高御堂 なみ佳(ピアノ)

J.ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品5 第1楽章

 

・西川 鞠子(ヴァイオリン)

M.ラヴェル:ツィガーヌ

(Pf 田口 友子)

 

 

 

 

 

今日は、相愛大学の卒業演奏会を聴きに行った。

途中から行ったため、最初の数名の演奏は聴けなかった。

私が聴けたのは、中埜さんの演奏(ハープ)から。

グリエールのハープ協奏曲というのは初めて聴いたが、とてもきれいで良い曲だった。

演奏も良かった。

生で聴くハープの天上的な美しさ。

ピアノ伴奏の岩本さんも、ハープに負けず劣らず美しい音だった。

 

次の木村さんは、ピアノ。

スクリャービンのソナタ第2番第1楽章は、幻想的な名曲。

第1主題は、もう少し深々とした、印象に残る音だと良かったかもしれない。

経過主題は、割とさらっとした弾き方で、ややそっけなかったか。

しかし、スクリャービンといえどもソナタなので、変に感情を込めすぎるよりは良いし、長調から短調に翳る箇所での響きの変化はよく出されていた。

第2主題の弾き方は、とてもきれいだった。

第3主題(あるいはコデッタ?)も、内声のメロディが上声の装飾音型から浮き立っていて良かった(もう少しニュアンス豊かな歌い方だとなお良いが)。

全体的に、フォルテ(強音)はやや硬めだったが、ピアノ(弱音)が美しかった。

 

次の髙松さんは、ヴァイオリン。

ブルッフのスコットランド幻想曲の、第1楽章は、端正かつ情感のある歌わせ方で、良かった。

第4楽章はゆっくりめのテンポであり、五嶋みどり盤(Apple Music)くらいとまでは言わないけれども、もう少し速めで推進力が感じられればなお良かったか。

とは言っても、全体的に音程はけっこう安定しており、メロディの歌わせ方も、棒弾きにはならず自然な感動が表現されていて、好印象だった。

 

休憩をはさんで、次の岡田さんは、作曲。

ピアノからフォルテまで、様々な不協和音の響きが聴こえ、面白かった。

 

次の津田さんは、ヴァイオリン。

サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソ。

けっこうヴィブラート大きめの、豊かで存在感のある音。

なかなか聴かせる。

ただ、音程がときにやや不安定だったことと、技巧的にややいっぱいいっぱいな感があったことが、今後の課題かもしれない。

 

次の柳田さんは、ソプラノ。

日本語の響きを丁寧に歌った、堂々たる歌唱だった。

 

次の濃野さんは、クラリネット。

ヴィドールの序奏とロンドというのは、今回初めて知ったが、とてもロマンティックな名曲だと感じた。

演奏は、息が詰まったような音が聴かれたり、高音のフォルテがきつかったりといった点が気にはなったが、全体的にメロディの抑揚をしっかり表現できていて、フォルテとピアノの対比も明瞭であり、良かった。

 

次の佐野さんは、サクソフォン。

大きめの楽器だった(テナー・サクソフォン? バス・サクソフォン?)

スパークのパントマイムという曲は、バラード調の序奏から五拍子の主部まで、ラテンを思わせるノリの良い曲だった。

演奏も、そのノリをよく表現できていたように思う。

 

次の奥さんは、フルート。

タファネルの「ミニヨン」によるグランド・ファンタジーというのも、初めて聴く曲。

フルートは、とても柔らかく伸びやかな音色というよりは、やや硬めの音であるように思ったが、それでも美しかったし、後半の三連符による急速なパッセージなどもスムーズに奏され、良かった。

 

次の川瀬さんは、ピアノ。

ラヴェルの「クープランの墓」より抜粋だが、全体的にペダルが深く、響きが多めで模糊としており、「印象派」といった印象の演奏だった。

私はどちらかというと明晰なラヴェルが好みなのだが、今回の響きの多めの演奏も美しく(響きが濁るようなことはない)、一つのスタイルとして完成度が高く、これはこれで良いと感じた。

トッカータは、トップスピードというわけではないし、音もとても存在感があるというよりはやや地味めだが、それでもしっかりしたテクニックできれいに仕上げており、端正ながら無表情ではなく「粋」のようなものも感じられ、良い演奏だった。

 

2回目の休憩をはさんで、次の川向さんは、マリンバ。

石井眞木の飛天生動IIIという曲で、マリンバならではの神秘的な響きが味わえた。

ばち(マレットというらしい)が2種類用意されていて、大きめのマレットに持ち替えたあとの低音の響きが、深い底から湧き上がってくるような何とも言えない音で、印象的だった。

演奏も、味わいのある響きといい速いパッセージの安定感といい、見事なものだった。

 

次の松本さんは、オーボエ。

ドラニシニコワの詩曲は、シックな味わいのある本格的な曲だった。

演奏も、最高度に味わい深い音色とまではいかなかったが、響きとテクニックとのバランスの取れた、良いものだった。

 

次の黒田さんは、ソプラノ。

これは見事だった。

特に2曲目の「椿姫」の有名なアリア「ああ、そはかの人か~花から花へ」、これをここまで安定した歌唱(高音でもとても安定していた)と、「声の演技」(登場人物の狼狽などを歌で表現するのは、なかなかできることではないと思う)とで聴けたのは、とても嬉しかった。

もうプロとして舞台で歌っても、何の問題もないと思う。

 

次の新井さんは、サクソフォン。

先ほどの佐野さんよりも、小さめの楽器だった(アルト・サクソフォン?)。

見事な歌の後で大丈夫かなと思ったが、こちらもすごかった。

フィル・ウッズのソナタという曲は全く知らなかったが、この曲はソナタとは言っても、もう完全にジャズだった(ピアノのソロまわしまであった)。

ちょっと息の詰まったような音が混じるかな、と当初は思ったのだが、音楽がどんどん高揚していくにつれ、気にならなくなった(そういう雑音性まで音楽の一部にしてしまうような感もあった)。

スウィング感がすごい。

テクニック的にもかなりのものがある。

折り目正しい卒業演奏会には全く似合わないノリの良さで、とても良かった。

演奏後には歓声や口笛が聴かれ、カーテンコールまであった。

 

次の高御堂さんは、ピアノ。

彼女の演奏は、今年の1月にKOBE国際音楽コンクールで一度聴いている(そのときの記事はこちら)。

このときのピアノ部門で、特に素晴らしいと感じたピアニスト2人のうちの1人である(このとき彼女は奨励賞を受賞している)。

今回もそのときと同じ、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番第1楽章。

あんなに盛り上がったサックスの演奏の後で、やりにくいだろうなぁと心配したが、杞憂だった。

やっぱり、うまい。

充実した低音から輝かしい高音に至るまで、音が「立って」いる。

とても大きい音、というわけではないのだが、他の人とは音の質が違う。

端正な音楽づくりでありながらブラームスらしい緊張感もあり、第2主題のような抒情的な部分でも歌わせ方が大変美しい。

この楽章では第1主題の音型が曲のあちこちに登場するほか、展開部では「運命の動機」風の音型も聴かれるが、こういった各モチーフの弾き方が機械的にならず、語り口がうまい。

全体的に、ピアノ・ソナタとしての緊密な構成感と、音楽的な豊かさとのバランスが、とても良い。

下手に技巧的に華美な曲を選んでいないというのが、プラスに作用しているのかもしれない。

この曲は個人的にとてもお気に入りというほどの録音がないこともあって、2回目に聴いてもやはり大きな感銘を受けた(録音してほしいと思うほど)。

彼女も、カーテンコールがあった。

 

最後の西川さんは、ヴァイオリン。

ラヴェルのツィガーヌは、一昨日に京芸の卒業演奏会でも聴いた(そのときの記事はこちら)。

そのときの櫃本さんもとてもうまかったが、西川さんはさらにすごかった。

比較的細身の音で、すっきりした演奏である。

冒頭の序奏から歌わせ方が端正で、シックな味わいがある。

櫃本さんはグリッサンドなど濃いめの表情付けだったが、西川さんはより端正で品がある。

端正でも棒弾きにならない、成熟した演奏。

そして、音程が高度に安定している。

私の好きな五嶋みどり盤(Apple Music)と同等とまでは言わないが、かなり迫るところがある。

音楽の方向性も、五嶋みどり盤に似ていると感じた。

さすがに、五嶋みどりほど滑らかで艶のある音は聴かれないけれども。

技巧的にも、例えば主部に入ってしばらくしてからの、急速上行スピッカート(?)の部分などでは、五嶋みどりや一昨日の櫃本さんのほうがより速かった。

しかし、そういった一部を除くとプロと比べても遜色ない高速テンポで、細身の音なのに急速部分でも音程が安定していて、すごかった。

最後のコーダもほぼトップスピードで、実にスリリング。

すごいものを聴かせてもらった。

もちろん、彼女もカーテンコールがあった。

 

相愛大学(のトップクラス)の人たち、レベルが高い!

 

 


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