京都市立芸術大学音楽学部 平成28年度卒業演奏会 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

京都市立芸術大学音楽学部 平成28年度卒業演奏会

 

【日時】

2017年3月20日(月・祝) 18:00 開演 (17:30 開場)
 

【会場】

京都府立府民ホール “アルティ”

 

【演奏・プログラム】

・藤田 茉奈美(作曲)

藤田 茉奈美:With My Paddle

(1st Vn 大堀裟矢子、2nd Vn 勝又菜穂、Va 眞岩紘子、Vc 村田静菜、Cb 池田尚輝)

 

・吉見 真帆(ソプラノ)

A.トマ:歌劇《ミニョン》より「私はティターニヤ」

(Pf 小林紗代子)

 

・大倉 卓也(ピアノ)

F.ショパン:ピアノソナタ 第3番 ロ短調 op.58 より第4楽章

 

・早瀨 千賀(ヴァイオリン)

H.ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ 第2番 イ長調 op.21

(Pf 黒澤あみ)

 

・河合 隼佑(オーボエ)

A.ポンキエッリ:オーボエとピアノのためのカプリッチョ

(Pf 小林紗代子)

 

・新田 旭(トロンボーン)

B.クロール/カプリッチョ・ダ・カメラ op.35

(Pf 田中咲絵)

 

・黒住 友香(ピアノ)

I.アルベニス:イベリア 第2集 第6曲「トゥリアーナ」

 

 ― 休 憩 ―

 

・原田 菜奈(ソプラノ)

團 伊久磨:はる

C.M.v.ウェーバー:歌劇《オベロン》より「今なお大波あれ狂いて」

(Pf 小嶋 稜)

 

・伊藤 慶佑(作曲)

伊藤 慶佑:菊月

(1st Vn 村上順子、2nd Vn 藤田恵、Va 眞岩紘子、Vc 村田静菜、Cb 池田尚輝、Pf 志賀俊亮)

 

・吉延 佑里子(フルート)

P.ゴーベール:ノクチュルヌとアレグロ・スケルツァンド

(Pf 椴山さやか)

 

・宮尾 和真(バリトン)

A.スカルラッティ:私の命も奪ってください

F.メンデルスゾーン:オラトリオ《エリア》より「もう十分だ」

(Pf 小嶋 稜)

 

・櫃本 樹音(ヴァイオリン)

M.ラヴェル:ツィガーヌ

(Pf 矢野百華)

 

・三上 翼(ピアノ)

S.プロコフィエフ:ピアノソナタ 第8番 変ロ長調 op.84「戦争ソナタ」より第3楽章

 

 

 

 

 

今日は、京芸の卒業演奏会を聴きに行った。

最初の藤田さんは、作曲専攻。

とてもきれいな曲で、まるでジブリに出てきそうな感じがした。

演奏も素晴らしく、弦の音がみな柔らかだった。

 

次の吉見さんは、ソプラノ。

しっかりした声量の、堂々たる歌唱だった。

最後のカデンツァ風の部分で、オクターヴ跳躍上行音型が半音ずつ上がっていく箇所があるのだが、ここの音域があまりに高く、音程がやや不安定だったようにも感じた(ただし、知っている曲ではないのでよく分からない)。

それ以外のところは安定していた。

 

次の大倉さんは、ピアノ。

ショパンのピアノ・ソナタ第3番の終楽章という、王道の選曲。

硬くならない充実した音が出ていたし、この難曲をほぼずっとイン・テンポ(一定の安定した速度)で弾きとおしていて、さすがだった。

ただ、ソナタとしてはそれで良いのかもしれないが、ショパンとしては変化に乏しくやや味気ない感もあり、もう少し個性的な表現があっても良かったかもしれない。

例えばクレア・フアンチの演奏では(こちらの動画の20:30あたりから)、主要主題でもずっとイン・テンポではなく、微妙なルバート(テンポの揺らし)や左右の手のずらしなどにより味わいが出ているし、主題が回帰するときのタメも絶妙である。

エピソード主題では、似たような繰り返しが多く単調になりやすいということもあってか、繰り返しごとに和音をふっとピアノ(弱く)にしたり、逆にフォルテ(強く)にしたりして、変化を出している。

頻繁に出てくる右手の速い走句もきわめて明瞭でくっきりしており、全体的にぱきっと引き締まっている。

これと同じようにとは言わないが、少なくとも何らかの工夫があるとなお良かった。

 

次の早瀨さんは、ヴァイオリン。

ヴィエニャフスキの華麗なるポロネーズ。

難しい曲を丁寧に弾いていて、好感が持てた。

音程もかなりのところ安定している(特に和音が見事)。

ただ、欲を言うならば、よりいっそうの音程の安定があればなお良いのと、主部の躍動感をもっと前面に出して中間部のしっとりした情感と対比できれば、より良かったかもしれない。

 

次の河合さんは、オーボエ。

ポンキエッリ作曲の、速いパッセージの多い技巧的な曲だが、それを無理なく演奏しており、オーボエ特有の鄙びた音色の良さもよく出ていて、さすがだった。

コーダではさらに速い走句となるが、それでもほぼ問題なく吹きこなしていた。

 

次の新田さんは、トロンボーン。

クロールのカプリッチョ・ダ・カメラという曲は初めて聴いたが、新しめの和声もありつつ、明快な推進力を持つリズム感があり、なかなか格好いい曲だった。

トロンボーンの演奏も、大変安定した良いものだった。

 

次の黒住さんは、ピアノ。

アルベニスの「トゥリアーナ」は、私はあまり聴き慣れておらず、判断しづらいが、アルベニス特有のニュアンスが細部までよく出ていたように思う。

テクニック的にも安定していた。

ただ、やや真面目すぎる面もあるというか、スペインの強い日差しを思わせるような、もっと開放的な表現が聴かれるとより良いのではないかとも感じた(慣れた曲ではないので何とも言えないけれども)。

 

休憩をはさんだのち、次の原田さんは、ソプラノ。

堂々たる立派な歌唱で、特にヴェーバーのほうでは、役になりきったようなはつらつとした歌および演技が素晴らしかった。

 

次の伊藤さんは、作曲。

こちらはいわゆる現代音楽で、ピッチカートやグリッサンド、トレモロなどの技法を駆使して、不思議な響きの世界を作っていく。

そんな中でも、息の長いクレッシェンドにより大きなクライマックスが作られたり、最後の音ではヴィオラにより軋むような音色が出されたり(指板の近くで弾いているということだろうか)と、変化にも事欠かないのが良かった。

 

次の吉延さんは、フルート。

ゴーベールはフルート界でよく聞く名前のような気がするが、今回のプログラムの紹介文のおかげで、彼がかの「フルートの神様」マルセル・モイーズの師であることを知ることができた。

そしてこの曲からは、独特の美しい和声進行が聴かれる。

ゴーベールはローマ大賞次席に選ばれたとのことであり、作曲家としての能力もかなりあったのだろう。

大変難しそうな曲だが、かなりのテンポで鮮やかに演奏されていた。

 

次の宮尾さんは、バリトン。

ヴィブラート少なめのすっきりした歌唱で、今回オペラでなくオラトリオが選ばれたのは正解だった気がした。

 

次の櫃本さんは、ヴァイオリン。

ラヴェルのツィガーヌ、この難曲をかなりの安定度で演奏していて、さすがだった。

音量もけっこうあってソリストらしい存在感が感じられたし、表情付けもよくなされていて個性的だった。

ただ、欲を言って良いのであれば、昔から五嶋みどり盤(Apple Music)を何度も聴いてきた身としては、よりいっそう精密な音程コントロールが聴かれればなお嬉しかった。

もちろん、この難曲でそこまで求めるのは、贅沢に過ぎる話ではある。

十分すぎる名演だった。

なお、ぜひ付け加えたいのだが、ピアノ伴奏の矢野さんもヴァイオリンに負けず劣らず素晴らしい演奏だった(この曲ではピアノも実に難しい)。

 

最後の三上さんは、ピアノ。

プロコフィエフのソナタ第8番の終楽章と言うと、かなりの難曲である。

冒頭を聴くと、ややゆっくりめのテンポに感じられ、おとなしめの演奏かな、と思ってしまった。

しかし、これは私がガヴリーロフ盤(NMLApple Music)、チュウ盤(NML)、ラエカッリオ盤(NMLApple Music)などを聴き慣れたが故の感想だろう。

これらと比べなければ、十分に速いテンポの演奏ではあり、なおかつ余裕を感じさせた。

全体的に端正な音楽づくりで、キレッキレのプロコフィエフというわけではないのだが、それでいて味気なくはならない音楽的センスがあった。

フォルテの鳴らし方が大変充実しており(第2楽章の主題が回帰する行進曲調の部分など)、また中間あたりの緩徐な部分では弱音の響きが美しかった。

そして白眉であるコーダ(結尾部)では、もともと無理のないテンポを取っていたということもあるが、減速せずにそのままのテンポで維持できており、迫力が保たれ大変良かった(ここは上記のチュウやラエカッリオも苦しそうである。ガヴリーロフのみは最後まで十全にコントロールできている)。

テクニック的にもかなりのものがある。

ぜひ他にも彼の演奏を色々聴いてみたいと思った。

 

感想は以上である。

卒業生の中でも選ばれし成績優秀者たちであり、さすがに皆レベルが高かった。

彼らには、卒業後もぜひ広く活躍していってほしいところである。

 

 


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