2017年モントリオール国際音楽コンクール(ピアノ部門) 1次予選 第3日 および結果発表 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

カナダで開催されている、モントリオール国際音楽コンクール。

今年はピアノ部門。

現在は、1次予選が行われている。

5月4日は、1次予選の第3日。

ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、これまでの記事はこちら。

 

1次予選 第1日

1次予選 第2日

 

 

 

Nathanaël Gouin (France AGE 29)

 

■Joseph Haydn: Sonata in A-flat major, Hob. XVI:46
■Franz Liszt: Zwei Konzertetüden
■Franz Liszt: Totentanz

 

ハイドン、音の美しい、軽やかな演奏。

リスト3曲は、幻想的なロマン性、および卓越したテクニックが印象的だった。

セミファイナルへ進む可能性がけっこう高そう。

 

 

Julia Kociuban (Poland AGE 25)

 

■Robert Schumann: Carnaval, op. 9
■Maurice Ravel: La Valse

 

これは素晴らしい。

シューマンは、音が大変美しく、音楽的にも成熟した演奏。

各曲が生き生きと描き分けられ、また抒情的でもある。

最初は技巧的にいまいちかと思ったが、途中から安定し、かなりのテクニックを持っていることが分かった。

終曲もかなりのテンポで溌剌と奏されており、緩急も自在。

フォルテも硬い音にならず、輝かしい。

これは、私が今までに聴いた「謝肉祭」の中で最も良い演奏かもしれない。

ラヴェルも大変素晴らしい。

この曲については、私は2015年浜コンのドミトリー・マイボロダのすさまじい演奏を知って以来、他の演奏に満足できなくなってしまったのだが、つい先日、ルービンシュタインコンクールのTiffany Poonの同曲演奏がそれに比肩しうるものであることを知ったばかりだった(そのときの記事はこちら)。

ここでのKociubanも、劣らず素晴らしい演奏である。

上記2人のように、緻密で細やかなコントロールに主軸を置いているというよりは、むしろ勢いを重視した演奏(言うなればアルゲリッチタイプ?)。

このやり方も、なかなか良いと思う。

勢い重視といっても、粗い演奏というわけではなく(ミスタッチはやや多いが)、完成度は高い。

グリッサンドなど、大変にダイナミック。

コーダでの加速もかなりのもの。

これはセミファイナルに進みそう。

 

 

Zoltán Fejérvári (Hungary AGE 30)

 

■Johann Sebastian Bach: Concerto nach Italienischem Gusto, BWV 971
■Ludwig van Beethoven: Sonata in F major, op. 10 no. 2
■György Ligeti: ‘À bout de souffle’ (Études, book 3: No. 17)
■Alexander Scriabin: Sonata no. 5 in F-sharp major, op. 53

 

バッハ、ベートーヴェンともに、素直な感じの演奏で悪くないのだが、これといった強い個性があるかといわれると、そうでもないか。

リゲティもまずまず。

スクリャービンも、それほどキレのある演奏とも思えないし、スクリャービンらしい幻想がとりわけ感じられるというわけでもない。

全体的に丁寧な演奏ではあり、悪くはないのだが。

 

 

Stefano Andreatta (Italy AGE 25)

 

■Domenico Scarlatti: Sonata in D minor, K. 213
■Ludwig van Beethoven: Sonata quasi una fantasia in E-flat major, op. 27 no. 1
■Sergei Rachmaninov: Sonata no. 2 in B-flat minor, op. 36

 

スカルラッティは、大変美しい音が聴かれる。

歌のセンスがありそう。

ベートーヴェンも、自然な流れの演奏で、力感も十分に感じられ、素晴らしい。

終楽章もかなりの快速テンポだが、余裕がある。

私がこの曲において好んでいる、2015年浜コンの吉武優の演奏に、匹敵するかもしれない。

ラフマニノフは、私がラフマニノフにおいて好んでいる深々とした音色は聴かれないが、それでも十分に力強さや情熱、豊かな情感を備えている。

テクニック的にもかなりのものがある。

彼もまた、セミファイナルに進む可能性がけっこう高そうな気がする。

 

 

Yejin Noh (South Korea AGE 30)

 

■Joseph Haydn: Sonata en do majeur, Hob. XVI:48
■Unsuk Chin: ‘Scalen’ (Piano Etudes: no. 4)
■Maurice Ravel: ‘Scarbo’ (Gaspard de la nuit: no. 3)
■Frédéric Chopin: Nocturne in C minor, op. 48 no. 1
■Franz Liszt: Réminiscences de Norma

 

ついに彼女の出番がやってきた。

以前の記事にも少し書いたが(こちら)、彼女は2015年浜コンで大変素晴らしい演奏をいくつも聴かせてくれており、今回の演奏も心待ちにしていた。

ハイドンやチン・ウンスク、センスのある素晴らしい演奏。

ラヴェルは浜コンでも弾いた曲で、やはり滅法うまい!

オーソドックスな演奏で、例えばポゴレリチのような極端さ(主要主題の前に大きくタメを入れたり、クライマックスの和音をあまりに歯切れよくしたり)を感じさせないのに、十分な切れ味があり、テンポも自然な緩急がつけられてセンスに溢れている。

曲の理想的な姿に近いと思う。

ショパンも、情感に満ち溢れて大変美しい。

そしてリストは、これまた浜コンで弾いた曲。

この難曲を、彼女はすっきりとした情感をもって美しく弾く。

最後の「戦争だ!」の箇所も、かなりのテンポで弾けている。

これも先ほどのラヴェルと同様、私にとってはこの曲の決定的な名演である(なお、浜コンのときよりも今回のほうがミスは少なそう)。

フォルテが多少硬くなるきらいはあるが、まぁ許容範囲だろう。

ぜひセミファイナルに進んでもらいたいものである。

 

 

Artem Yasynskyy (Ukraine AGE 28)

 

■Joseph Haydn: Sonata in C major, Hob. XVI:50
■Maurice Ravel: Prelude in A minor; À la manière de Chabrier; À la manière de Borodine
■Johannes Brahms: Paganini Variations, op. 35

 

ハイドンは軽やかな佳演。

ラヴェルは、詩情に溢れた素晴らしい演奏。

ラヴェルの中では比較的地味と思われるこれらの曲が、大変美しく響く。

ブラームスは、緩急の付け方に少しクセがあり、私の好みとは違っているが(もっとストレートにやってほしい)、なかなか良く弾けてはいるか。

音色もなかなか美しく、ブラームスにふさわしい充実した和音が聴かれる。

第1巻の最終変奏は、最初は歯切れがよく好印象だったが、途中からはタメが大きく、かなりテンポダウンしてしまい、残念だった。

第2巻のほうはキレのある変奏もみられ、比較的良かった。

第2巻もやっぱり最終変奏はタメが大きく、あまり好きになれないけれども。

 

 

Alexey Sychev (Russia AGE 28)

 

■Ludwig van Beethoven: Sonata in C major, op. 53 (Waldstein)
■Sergei Prokofiev: Sonata no. 7 in B-flat major, op. 83

■Franz Liszt: << La Campanella >> (Grandes études de Paganini, S 141: no. 3 en sol diese mineur)

 

彼は2015年浜コンに出場していた。

ベートーヴェン、プロコフィエフ、リストいずれも、オーソドックスで悪くない。

これといったほどの目立った個性にはやや乏しいかもしれないが、プロコフィエフの終楽章はなかなか攻めのテンポとなっているし、リストもすっきりしていて感じが良い。

 

 

Ho Yel Lee (South Korea AGE 27)

 

■Joseph Haydn: Sonata in B minor, Hob. XVI:32
■Franz Schubert: Fantasy in C major, op. 15 (Wandererfantasie)
■Maurice Ravel: La Valse

 

ハイドンは端正な感じでなかなか良い。

シューベルトも、正攻法な演奏で好感が持てる。

充実した美しい和音。

歌わせ方も割と自然で、シューベルトらしさを失わず、良い。

そして、ラヴェル。

この曲については、上のKociubanの欄で詳しく書いた。

ここでのLeeの演奏も、余裕があって美しく、上で紹介したマイボロダやプーンに劣らぬ名演となっている(彼らほどの緻密で細やかなこだわりの表現はないが、そのぶん素直で丁寧な、ダイナミズムにも欠けていない好演となっている)。

なお、最後のコーダの畳みかけの部分では、普段聴き慣れたのとは違う、より華やかな音型になっていた(こういう版もある?)。

※ルイ・ロルティのCDを聴き直すと、これと同じ音型になっていたため、おそらくこういう版もあるのだろう。

 

 

そんなわけで、第3日の演奏者のうち、私がセミファイナルに進んでほしいと思うのは

 

Nathanaël Gouin (France AGE 29)

Julia Kociuban (Poland AGE 25)

Stefano Andreatta (Italy AGE 25)

Yejin Noh (South Korea AGE 30)

Ho Yel Lee (South Korea AGE 27)

 

あたりである。

結局、私がセミファイナルに進んでほしい12人は

 

第1日

Sélim Mazari (France AGE 24)

Ismaël Margain (France AGE 25)

Eddie Myunghyun Kim (South Korea AGE 27)

JeungBeum Sohn (South Korea AGE 25)

第2日

Jinhyung Park (South Korea AGE 21)

Vladislav Kosminov (Uzbekistan AGE 29)

Caterina Grewe (Germany AGE 29)

Albert Cano Smit (Spain / Netherlands AGE 20)

Atsushi Imada (Japan AGE 26)

第3日

Nathanaël Gouin (France AGE 29)

Julia Kociuban (Poland AGE 25)

Stefano Andreatta (Italy AGE 25)

Yejin Noh (South Korea AGE 30)

Ho Yel Lee (South Korea AGE 27)

 

といったあたりになる。

12人と言いつつ、つい14人選んでしまった。

誰を削るべきか悩ましいが、第2日からはCaterina Greweを、第3日からはHo Yel Leeを諦めようか。

個人的に、現在同時に開催されているルービンシュタインコンクールよりも気になるピアニストが多く、選ぶのも悩ましいところである(嬉しい悩みというべきだが)。

 

さて、結果はどうなるか。

 

 

 

―追記(2017/05/05)―

 

結果が発表された。

 

【セミファイナル進出者】

第1日

JeungBeum Sohn (South Korea AGE 25) ○

David Jae-Weon Huh (South Korea AGE 30)

Giuseppe Guarrera (Italy AGE 25)

第2日

Jinhyung Park (South Korea AGE 21) ○

Teo Gheorghiu (Canada AGE 24)

Albert Cano Smit (Spain / Netherlands AGE 20) ○

第3日

Nathanaël Gouin (France AGE 29) ○

Zoltán Fejérvári (Hungary AGE 30)

Stefano Andreatta (Italy AGE 25) ○

Yejin Noh (South Korea AGE 30) ○

Artem Yasynskyy (Ukraine AGE 28)

Alexey Sychev (Russia AGE 28)

 

なお、○をつけたのは私がセミファイナルに残ってほしかった12人の中の人である。

12人中6人と、ちょうど半分だった。

う~ん、あまり納得のいく結果ではなかった。

Nohが残ったのは嬉しいが、 KosminovもKociubanも落ちてしまって残念。

まぁでもまず受かるだろうと思われたSohn、Park、Gouin、Andreattaあたりは残っているし、こんなものかもしれない。

皆うまかったのはうまかったし、きっと僅差なのだろう。

ただ、全体的に個性やセンスよりも「普通に上手い」ことが重視されているような気は少しする…まぁコンクールだから仕方ないか。

 

 


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