古海行子 サロンコンサートツアー in KAWAI
【日時】
2021年6月22日(火) 開演 18:00 (開場 17:30)
【会場】
カワイ梅田コンサートサロン「ジュエ」 (大阪)
【演奏】
ピアノ:古海行子
【プログラム】
ショパン:ノクターン 嬰ハ短調 Op.27-1
ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-7、ヘ長調 Op.10-8
ショパン:4つのマズルカ Op.24
ショパン:幻想曲 Op.49
ショパン:幻想ポロネーズ Op.61
シマノフスキ:エチュード 変ロ短調 Op.4-3
スクリャービン:ワルツ 変イ長調 Op.38
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
※アンコール
ショパン:ワルツ 第15番 ホ長調 遺作
下記リブログ元の記事に書いていた、古海行子のピアノリサイタルを聴きに行った。
彼女の実演を聴くのはこれで6回目(1回目高松公演はこちら、2回目瀬戸フィル公演はこちら、3回目テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ公演はこちら、4回目川崎公演はこちら、5回目東京公演はこちら)。
今回は、彼女初の大阪公演で、ショパンを中心にスクリャービン、シマノフスキを配したプログラムである。
最初のプログラムは、ショパンのノクターン第7番op.27-1。
この曲で私の好きな録音は
●ポリーニ(Pf) 1968年4月17-21日、7月1-3日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●小林愛実(Pf) 2015年10月4日ショパンコンクールライヴ盤(Apple Music/CD/YouTube)
あたりである。
古海行子は、これらよりももっと甘さ控えめ、辛口の演奏。
煌びやかな音は持たない分、シックな味わいがある。
それに、一つ一つのフレーズに注意深く気を配った、きわめて滑らかな音運びといった点で、上の2盤に全く劣らない。
次のプログラムは、ショパンのエチュードop.10-7、op.10-8。
これらの曲で私の好きな録音は、以前の記事に書いた通り(その記事はこちらとこちら)。
前者は古海行子の得意曲で、ひたすら続く右手の難しい和音連打がトップスピードでいともスムーズに奏され、同時に左手のメロディラインやリズム感まで生き生きと音楽的に表現された、世界最高の同曲演奏が生で聴けたことに感激。
後者は彼女の演奏を初めて聴いたが、私の好きなポリーニ、中川真耶加、エリック・ルーの演奏をそれぞれいいとこどりしたような、流麗で自然で安定した、最高の名演であった。
ぜひ彼女にはショパンのエチュード全曲録音をしてほしいものである。
次のプログラムは、ショパンの「4つのマズルカ」op.24。
この曲で私の好きな録音は
●フランソワ(Pf) 1956年2,3月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●フアンチ(Pf) 2010年10月10日ショパンコンクールライヴ(動画1/2/3/4)
●キム・スヨン(Pf) 2015年10月14日ショパンコンクールライヴ(動画1/2/3/4)
あたりである。
また、先日の山本貴志の演奏も見事だった(その記事はこちら)。
古海行子はこれらのいずれとも異なる、曲の造形重視のすっきりした演奏。
第4曲など、先日の山本貴志の情念に満ちた演奏とは全く対照的で、この曲の器楽的な完成度の高さを聴き手に示してくれる。
和声の移ろう間にもペダルは厳格にコントロールされ、響きの純度を損なうことがない。
次のプログラムは、ショパンの幻想曲。
これは一風変わった曲で、ショパンには珍しくあまり甘いメロディがなく、構成的にもやや冗長でバラードやスケルツォのようにはバランスが取れておらず、私はどちらかというと苦手曲。
しかし、今回の古海行子の正攻法の演奏には心打たれた。
下手に味付けしない彼女の端正な音楽性が曲に合っている。
基本的には2015年ショパンコンクールでの彼女の演奏と同じアプローチだが、今回は進化のためか実演のためか、序奏はより音楽的に、主部はよりドラマティックに聴こえた。
まるで、同じヘ短調で書かれたシューマンのピアノ・ソナタ第3番にも匹敵する大ソナタのよう。
休憩をはさんで、次のプログラムはショパンの幻想ポロネーズ。
この曲で私の好きな録音は
●江尻南美(Pf) 2009年頃セッション盤(Apple Music/CD/YouTube)
●フアンチ(Pf) 2010年10月14日ショパンコンクールライヴ(動画)
●コン・チー(Pf) 2017年4月29日ルービンシュタインコンクールライヴ(動画)
●深見まどか(Pf) 2017年5月25日クライバーンコンクールライヴ(動画) ※37:35~
●キム・ユンジ(Pf) 2018年9月6日リーズコンクールライヴ(動画) ※16:13~
あたりである。
今回の古海行子の演奏は、やはり甘さを抑えたストイックなもの。
ショパン晩年の傑作に真摯に対峙した演奏ではあるが、やや渋すぎる面もあるか。
やや甘すぎた藤田真央の演奏(その記事はこちら)とは逆の意味で、少し浸りきれないものを感じた。
とはいえ上の各名盤に大きく引けを取るわけではなく、微妙な違いがあるのみである。
次のプログラムは、シマノフスキのエチュードop.4-3。
この曲で私の好きな録音は
●Mateusz KRZYŻOWSKI (Pf) 2019年11月11日パデレフスキコンクールライヴ(動画)
●古海行子(Pf) 2019年11月13日パデレフスキコンクールライヴ(動画)
あたりである。
瞑想的なKRZYŻOWSKIとはまた違った古海行子の凛とした演奏が、今回の実演でも堪能できた。
次のプログラムは、スクリャービンのワルツop.38。
この曲で私の好きな録音は
●ソフロニツキー(Pf) 1960年5月13日モスクワライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●ファヴル=カーン(Pf) 2010年7月18日ランスライヴ盤(Apple Music/CD/YouTube)
●Se-Hyeong YOO (Pf) 2021年5月4日エリザベートコンクールライヴ(動画) ※完全版はこちらから
あたりである。
今回の古海行子は、先日のオンラインコンサートと同じく(その記事はこちら)、上の各名盤のような陶酔的な演奏とはまた違った抑制的な慎ましい演奏で、こういうスクリャービンも良い。
最後のプログラムは、ショパンの舟歌。
この曲で私の好きな録音は
●藤田真央(Pf) 2020年6月29日東京収録(動画) ※30:40~
あたりである。
初めてこれを聴いたときは、それまで好きだった山本貴志やプーンの同曲演奏を超える音の輝きに驚いたものだが(その記事はこちら)、今回の古海行子はそれとはまた違った落ち着きが印象的。
藤田真央の舟歌が陽光煌めく昼の川面なら、古海行子の舟歌はまだ薄もやのかかった朝の川面かもしれない。
こういうショパンを、間近に迫ったショパンコンクールの審査員たちが一体どう評価するか。
ファンとしては、ついやきもきするのだった。
彼女が初めて弾いたショパンの曲という、アンコールのワルツ第15番も素晴らしかった。
大曲の数々の後に聴くこのかわいらしい小品は、食後のシャーベットのように後味さわやか。
ぜひまた関西に来てほしいものである。
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