藤田真央 東京公演 モーツァルト ピアノ・ソナタ第12番 ショパン 舟歌 ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

バーチャル・ヴェルビエ・フェスティバル2020

藤田真央 ピアノリサイタル

※無観客公演、ライブストリーミング配信

 

【日時】

2020年6月29日(月)

 

【会場】

銀座 王子ホール (東京)

 

【演奏】

ピアノ:藤田真央

 

【プログラム】

モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332

ショパン:ワルツ 第3番 イ短調 op.34-2

ショパン:ノクターン 第18番 ホ長調 op.62-2

ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60

リスト:ウィーンの夜会 第6番 S.427/6

 

 

 

 

 

藤田真央の演奏動画配信を聴いた(動画はこちら)。

下記リブログ元の記事に書いた通り、コロナ禍で中止になってしまった2020年ヴェルビエ音楽祭の代わりに行われた「バーチャル・ヴェルビエ・フェスティバル」の一環である。

収録は2020年6月29日に東京の王子ホールで行われ、その演奏動画は2020年7月30日に配信された。

 

 

最初の曲は、モーツァルトのソナタ第12番。

この曲で私の好きな録音は

 

●ピリス(Pf) 1974年1-2月セッション盤(Apple MusicCD

●シフ(Pf) 1980年セッション盤(Apple MusicCD

●藤田真央(Pf) 2018年8月17,30日セッション盤(NMLApple MusicCD) ※第1楽章のみ

 

あたりである。

以前の記事にも書いたように(その記事はこちら)、藤田真央のセッション盤は大変な名演だが第1楽章しかなく、全楽章を聴ける機会を待ち望んでいた。

それが今回ついに叶ったというわけである。

まったりしたセッション盤に対し、今回の演奏動画は軽快なテンポ。

どちらもあまりに美しく、甲乙つけられない。

第2、3楽章も期待を超える素晴らしさで、天使の声が聴こえてくる。

総合的に、今回の演奏動画は上記の三種の名盤にも勝る圧倒的な出来となっている。

彼の天真爛漫な演奏と人柄は、まさにモーツァルトの生まれ変わり(ツイッターなどでは「マオツァルト」と呼ばれているよう)。

 

 

次の曲は、ショパンのワルツ第3番。

この曲の録音は、私はあまり聴き比べていないけれど、それでもこの演奏があれば他はもうなくても良いという気になってくる。

特に、主要主題が最後に繰り返される直前、一瞬だけ長調に転調する箇所の、雲間に差す一筋の光のような味わいが印象的。

 

 

次の曲は、ショパンのノクターン第18番。

この曲は、録音ではフアンチ(セッション盤)や古海行子(2016年パデレフスキコンクールライヴ動画)が好きであり、また実演では山本貴志が忘れがたいが(その記事はこちら)、ショパン晩年の寂寞を過不足なく伝える理想的な演奏には未だ巡り会っていない。

今回の藤田真央の演奏動画は、理想的とまでは言わないにしても、これらの名演に並ぶものであった。

この曲は、もはや当初の形では戻ってこない、懐古や慈愛の念に溢れた短くも美しい再現部を持つ。

これをいかに扱うかがこの曲の一つの肝だと私は考えているのだが、藤田真央はこの再現部を、楽譜に反するほどの最弱音でこの上なく繊細に奏する。

晩年らしい枯れた味わいとは異なるが、これはこれで一つの見事な解釈だと思う。

 

 

次の曲は、ショパンの舟歌。

この曲で私の好きな録音は

 

●山本貴志(Pf) 2005年ショパンコンクールライヴ盤(CD

●プーン(Pf) 2015年ショパンコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

今回の藤田真央の演奏は、これらに全く劣らぬばかりか、優っていると言ってしまってもいいかもしれない。

この曲の明るく伸びやかな性質は、彼の音楽性にとてもよく合っている。

序奏からして、先ほどのノクターンと同様、彼はフォルテの指示を無視してきわめて繊細な最弱音を奏するのだが、楽譜に反していながら、この曲の水面のような煌めき、たゆたうような流れを誰よりも見事に表現することに成功している。

 

 

最後の曲は、リストの「ウィーンの夜会」第6番。

私が彼の実演に接することのできた曲である(その記事はこちら)。

感想はその記事に書いたため、ここでは繰り返さない。

夢幻のような美しさ、忘れがたいあの感動を、こうしてもう一度味わえる幸福をかみしめるのみである。

 

 

なお、彼は来年(2021年)のヴェルビエ音楽祭で、なんとモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行うとのこと。

前代未聞である。

ヴェルビエ音楽祭でそのようなプログラムをなしえたピアニストが他にいるだろうか。

彼が世界の場で大いに注目されている証拠だろう。

 

 

 

 


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