第13回シドニー国際ピアノコンクールが終わって | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

オーストラリアのシドニーで開催された、第13回シドニー国際ピアノコンクールが、終わった(公式サイトはこちら)。

これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。

とりわけ印象深かったピアニストについて、備忘録的に記載しておきたい。

ちなみに、第13回シドニー国際ピアノコンクールについてのこれまでの記事はこちら。

 

第12回シドニー国際ピアノコンクール ファイナル結果発表

第13回シドニー国際ピアノコンクール 出場者一覧

予選 第1日

予選 第2日

予選 第3~5日

セミファイナル 第1日

セミファイナル 第2日

セミファイナル 第3、4日

ファイナル 第1日

ファイナル 第2日

ファイナル 第3、4日

 

 

 

 

 

17. Pedro LÓPEZ SALAS (Spain, 9 October 1997)

予選1)(予選2

 

予選で選出されなかった外国人から一人選ぶなら彼か。

これぞヨーロッパというべき美しい音が特長で(特にハイドン)、今回ほど特別にハイレベルな大会でなければ予選通過していただろう。

 

 

11. Carter JOHNSON (Canada, 25 September 1996)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

また、私の中での個人的な今大会のMVP。

近年、アジア系のピアニストたちの活躍が著しく、それに東欧系のピアニストが次ぐが、西欧系のピアニストについては(20世紀の百花繚乱ぶりに比し)何とも寂しい限りで、特にミケランジェリやグルダ、ポリーニ、ベロフ、ル・サージュといったトップクラスの技巧派がとんと見られなくなっている(ベンジャミン・グロヴナーあたりは数少ない例外か)。

そんな中、今回初めて知ったCarter JOHNSONは、カナダ人とのことだが演奏は西欧系で、トップクラスの技巧派と言っていいかもしれない人材。

彼くらい弾ける人は、近頃アジア系ではそれほど珍しくないが、それでも彼はアジア系や東欧系ピアニストたちにはない、情よりも知の勝った、均整のとれた演奏様式とクリアな音を持つ。

そういう演奏が合うような曲を聴きたい場合、彼は貴重な存在となるだろう。

 

 

08. Yungyung GUO (China, 11 September 2003)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の第3位。

独自の内省的な音楽を持つ。

歌わせ方にどこか“訴えかける力”がある(少し神経質な感はあるが)。

 

 

07. Yasuko FURUMI (Japan, 5 February 1998)

予選1)(予選2

 

予選で選出されなかった日本人から一人選ぶなら彼女か。

彼女ほどの基礎力を持つ人は、ファイナリストの中では優勝者のJeonghwan KIMくらいのもの。

しかし彼女のストレートな様式はなかなか評価されず、一クセ二クセあるようなタイプの人が評価されやすいのは、何とかならないものか。

 

 

22. Korkmaz Can SAĞLAM (Turkey, 18 October 1999)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

彼もまたストレートな技巧派タイプで、古海行子も弾いたスクリャービンのソナタ第2番も遜色ない出来、そして少し暗めの渋いロマンティシズムが特徴。

 

 

13. Jeonghwan KIM (South Korea/Germany, 10 July 2000)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の優勝者。

技巧と音楽性とのバランスの取れたピアニスト。

特に混戦となったセミファイナルで、技巧派たちが次々落とされるなか競り勝ったのは、ショパンのチェロ・ソナタで技巧を超えた味わいを引き出したからではないだろうか。

逆にもしチェロでなくヴァイオリンに当たっていればどうなっていたか分からないが、運も味方につけての見事な優勝である。

それにしても、2021年ブゾーニコンクール(その記事はこちらこちらなど)で初めて知った際には残念ながら予選落ちだった彼が、2022年仙台コンクール(その記事はこちらなど)で第4位、そして今回2023年シドニーコンクールで優勝と、あれよあれよと結果を出していったのは嬉しい驚きだった。

 

 

12. Uladzislau KHANDOHI (Belarus, 7 October 2001)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の第2位。

クセが強く、出来にもムラがあるが、そのスラヴ風の美音と独自のスケルツァンドなノリがうまくハマれば相当な名演となる。

第2位というのは妥当と思われる(本人は納得いっていないかもしれないが)。

 

 

19. Philipp LYNOV (Russia, 6 January 1999)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

派手さが優先されることも少なくないロシアのピアニストたちの間にあって、穴のない堅実で力強い演奏をする彼は、熟練した職人にたとえられるかもしれない。

 

 

28. Yuanfan YANG (United Kingdom, 2 January 1997)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の第4位。

煌びやかな美音ではなく、少し鄙びたようなくっきり明快な音を持つ彼は、古典やドイツものに親和性があり、派手さとは無縁の味わいを聴かせる。

ファイナルの協奏曲で彼はその持ち味を存分に発揮しており、私はファイナリストたちの協奏曲演奏の中で最も気に入った(優勝でも良いと感じた)。

また、審査対象外だが、セミファイナルでのアンコール、古今東西どの主題や様式にも即座に対応可能らしい彼の即興演奏は、圧巻というほかない。

 

 

23. Vitaly STARIKOV (Russia, 8 May 1995)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の第6位。

こちらも“味”で攻めるタイプだが、古典派よりもロマン派に親和性がある。

特に、ショスタコーヴィチのチェロ・ソナタは、この曲の陰鬱なイメージを一新する、夢見るようなロマンを湛えていて印象的。

 

 

03. Junyan CHEN (China, 9 August 2000)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

私の中での個人的な今大会のMVPについて、上記Carter JOHNSONとどちらにするか迷った。

燃えるように情熱的な演奏で、かといって荒っぽくなることはなく、しっかりと引き締まっている。

現代曲やリストの地味な曲を、熱く聴かせてくれる。

私は何年か前に彼女の実演を聴いたことがあるのだが(その記事はこちら)、そのときも良い演奏だと感じたものの、まだ16歳だったためもあってか、これほどの逸材とは気づかなかった。

 

 

25. Reuben TSANG (Australia, 29 August 2003)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

若々しい明るく素直な音と多少のアラは気にしない華やかな技巧が特徴。

特に室内楽ではアラも目立たず、音の存在感を主張できており、(ファイナルには進めなかったが)協奏曲映えしそう。

 

 

26. Wynona Yinuo WANG (China, 9 October 1996)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2)(ファイナル1)(ファイナル2

 

今大会の第5位。

技巧面や音色面に優れるというよりは、それらを独自の表現力でカバーするタイプで、私の好みとは異なるが、ラフマニノフのソナタ第1番など地味な曲をなかなかに聴かせる。

 

 

27. Junlin WU (China, 12 December 1997)

予選1)(予選2)(セミ1)(セミ2

 

今大会のセミファイナリスト。

名人芸タイプのピアニストで、ショパンよりはリストタイプ。

セミファイナルのショパンのチェロ・ソナタでは優勝者Jeonghwan KIMのような細やかな情感はみられず落選してしまったが、プロコフィエフのソナタ第6番でのパワーや安定感はむしろ上だった。

また「亡き王女のためのパヴァーヌ」の歌も印象的。

 

 

 

 

 

以上のようなピアニストが、印象に残った。

 

 

今大会は、予選が稀に見るレベルの高さだった。

リストコンクール(ブダペスト)第2位のSergey BELYAVSKY、浜松コンクール第2位のRoman LOPATYNSKYI、仙台コンクール優勝のJiaqing LUO、高松コンクール優勝の古海行子といった錚々たるメンバーがなんと予選落ち。

それでも理不尽な結果とはいえない、納得せざるを得ないような実力者たちがセミファイナリストにも揃っていた。

予選だけでいうと、世界三大ピアノコンクールの一つに数えられるチャイコフスキー国際コンクール(その記事はこちらなど)よりも余程ハイレベルだったように思う。

 

 

しかし、ファイナルの演奏は全体的にいまいちパッとしなかった印象で、コンクールでの選別の難しさを痛感した。

その一因にセミファイナルの室内楽があると私は考えているのだが、まぁシドニー国際ピアノコンクールのスタンスとして、これはこれでありかもしれない。

全てのコンクールでファイナルがパッとする必要はない、というのも一つの考え方か。

世界三大ピアノコンクールに室内楽選考がないのは、私は賛成である。

この三つにはやはりこれからも、いぶし銀タイプよりもスタータイプのピアニストを選出する場であってほしいから(ただ、チャイコフスキー国際コンクールについては戦争が終結しWFIMCに再加盟が認められた場合に限るけれど)。

 

 


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