宮城県の仙台市で開催された、第7回仙台国際音楽コンクールのピアノ部門が、終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。
とりわけ印象深かったピアニストについて、備忘録的に記載しておきたい。
ちなみに、第7回仙台国際音楽コンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(第7回仙台国際音楽コンクール(ピアノ部門) 出場者一覧発表)
(第7回仙台国際音楽コンクール(ヴァイオリン部門) 出場者一覧)
(edy classic 【第7回仙台国際音楽コンクール】新進気鋭のピアニストたち)
(アルベルト・カーノ・スミットが第7回仙台国際音楽コンクール(ピアノ部門)への出場を辞退)
20 小林 海都 KOBAYASHI Kaito 1995- 日本
一聴して魅了されるような、美しい歌心を持つピアニスト。
ハイドンのソナタ第6番ト長調、シューベルトの即興曲ヘ短調D935-1、スクリャービンの前奏曲イ短調op.11-2、ストラヴィンスキー/アゴスティの「火の鳥」、ベートーヴェンの協奏曲第4番が印象的。
14 ファン・ゴンヨン HWANG Gunyoung 1991- 韓国
スマート系技巧派ピアニスト。
落ち着いたテンポを採ることが多く、あまり攻めないが、そのぶん余裕のあるきわめて安定したテクニック、豊かな表現力、迫力ある強靭な音が聴かれる。
シューマンのトッカータ、モーツァルトの幻想曲ニ短調K397、プロコフィエフのソナタ第6番が印象的。
13 廣田 響子 HIROTA Kyoko 1993- 日本
音はやや小ぶりだが、情熱的できりりと引き締まった表現を持つ。
ブラームスのスケルツォ変ホ短調op.4、ベートーヴェンのソナタ第23番「熱情」、ドビュッシーの「喜びの島」が印象的。
07 ライアン・ドラッカー Ryan DRUCKER 1993- イギリス
端正な音色と様式を持つ、正統派ピアニスト。
甘さを抑えた透明感のある音の響き、確かな技巧に裏打ちされたストレートな音楽表現は、レイフ・オヴェ・アンスネスをさえ思わせる。
ショパンを選曲しなければ、きっと予選通過できただろう。
スカルラッティのソナタ嬰ハ短調K.247、ヤナーチェクのソナタ「1905年10月1日」、マストの「即興とフーガ」あたりが印象的。
35 佐藤 元洋 SATO Motohiro 1993- 日本
今大会の第4位。
ロマン的ながらやや硬質な、清廉さの感じられる表現を持つ。
フランクの「前奏曲、コラールとフーガ」、リストの協奏曲第2番、モーツァルトの協奏曲第17番あたりが印象的。
32 ダリア・パルホーメンコ Daria PARKHOMENKO 1991- ロシア
今大会の第3位。
技巧の弱さや表現の重さはあるが、ロシア的な美音と歌が魅力。
ベートーヴェンの協奏曲第4番、モーツァルトの協奏曲第17番あたりが印象的。
08 バロン・フェンウィク Baron FENWICK 1994- アメリカ
今大会の第2位。
ロマン的な感覚、ぱっと華やいだ音と技巧を持つ。
大きなコンチェルトでもオーケストラに負けない音の輝きがある。
ラフマニノフの「コレルリ変奏曲」、リーバーマンの「ガーゴイル」、チャイコフスキーの協奏曲第1番あたりが印象的。
12 平間 今日志郎 HIRAMA Kyoshiro 1998- 日本
今大会の第5位。
充実した力強い音と、明快ではきはきした音楽性を持つ。
技巧的にも優れていて、かつ(日本人離れしているというべきか)ミスタッチを恐れないアグレッシヴな姿勢がみられる。
また、古典派から近現代まで、各時代の曲に幅広く適性がある。
ファイナルでのラフマニノフの完成度がもう少し高ければ、優勝もありえただろう。
ハイドンのソナタ第21番ハ長調、プロコフィエフの「風刺 」、リストのダンテソナタ、ベートーヴェンの協奏曲第3番、モーツァルトの協奏曲第15番あたりが印象的。
01 アレキサンダー・リー・アガーテ Alexander Lee AGATE 1994- アメリカ
私の中での個人的な今大会のMVP。
やや乾いているが大きな存在感のある音、聴き手をぐいぐい惹き込む強烈な表現力を持つ。
そういう意味では、マルタ・アルゲリッチに比肩しうるとさえ言えるかもしれない。
アルゲリッチの燦々と放射するエネルギーと比較するとやや内向的な、内に秘めたるパワー、といった印象である。
もし審査委員にアルゲリッチがいたならば、彼を予選で落とすことは決してなかったのではなかろうか。
ともかくも、強いインパクトを持つピアニスト。
ラフマニノフの「音の絵」op.33-9とop.39-6、コリリアーノの「エチュード・ファンタジー」、ショパンのマズルカ第10番変ロ長調op.17-1と第13番イ短調op.17-4とポロネーズ第5番、いずれも忘れがたい印象を残す。
04 チェ・ホンロク CHOI Hyounglok 1993- 韓国
今大会の優勝者。
一つ一つのフレーズを丁寧にコントロールし歌わせることができる。
その意味では、アンドラーシュ・シフ的な演奏と言ってもいいかもしれない(小林海都の歌心とチェ・ホンロクのフレーズコントロールを併せると、シフに近くなるかも)。
ただ、技巧的なキレや、はっとさせられる個性的な表現があまりなく、基本的にまったりした調子で、曲によっては物足りない。
とはいえ、ドビュッシーの前奏曲集 第1集より「雪の上の足跡」「西風のみたもの」「亜麻色の髪の乙女」、モーツァルトの協奏曲第17番あたりは文句なく良い演奏だと思う。
02 ツァイ・ヤンルイ CAI Yangrui 2000- 中国
少しカサついてはいるが明瞭でごまかしのないタッチ、ときに表現のクセが強いが独自の歌心を持つピアニスト。
ハイドンのソナタ第31番ホ長調、チャイコフスキーの「四季」より5月「白夜」と11月「トロイカ」、ベートーヴェンの協奏曲第3番あたりが印象的。
18 キム・ジュンヒョン KIM Junhyung 1997- 韓国
今大会の第6位。
スマート系技巧派ピアニスト。
音色もテクニックもシャープで切れ味抜群。
それでいて、がつがつした感じにはならず、抒情的な表現にもさらりと長けている。
ファイナルでチャイコフスキーでなくもっと彼に合った曲を選んでいれば、優勝もありえたのではないだろうか。
ヴィトマンの「11のフモレスケ」より第4曲「森の情景」と第11曲「ユーモアと繊細さを持って」、シューマンの「フモレスケ」、クライスラー/ラフマニノフの「愛の喜び」、ベートーヴェンの協奏曲第4番、モーツァルトの協奏曲第19番あたりが印象的。
以上のようなピアニストが、印象に残った。
全体的に、同じく約40名のコンテスタントからなる高松国際ピアノコンクールに比べ、仙台のほうは一段とレベルが高かったように思う。
仙台の過去の優勝者はクライバーンコンクールでも優勝しているが(しかも2人も)、さすがそれだけのことはある。
ただ、今回は予選で実力者が何人か落ちたため、セミファイナル以降はおおむね高松と同程度と感じたけれど。
あと、ファイナルでモーツァルトの協奏曲とロマン派以降の協奏曲を両方弾かせるやり方は、やはり私はあまり好きでない。
全く異なる2つの協奏曲の平均点を取るのは、面白くない。
モーツァルトであれロマン派であれ、各コンテスタントが「これぞ!」と思う得意曲1つ(2つでもいいけれど)を自由に選択し、しっかり準備して自分のものにした演奏で勝負するのを聴くのが、私は好きである。
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