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音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

ヨッフム/ウィーンフィルのブルックナー交響曲第7番

 

曲目/ブルックナー

Symphony No. 7 in E major (WAB 107) (1883, pub. Gutmann 1885) 

1. Allegro moderato  19:45

2. Adagio (Sehr feierlich und sehr langsam) 23:03

3. Scherzo (Sehr Schnell)  9:08

4. Finale (Bewegt, doch nicht schnell) 11:57

 

指揮/オイゲン・ヨッフム

演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1939/04/10.11

 

TIM 204568-308

 

 

 ベームのブラームスと一緒にセットになっているCDの片割れです。こちらの録音データは1935とだけ表記されていますが、巷では上記の1939年としているものが多いのでそちらを採用しています。この録音は、元々は独テレフンケンになされているものでこの7番以外はオーケストラもいずれもハンブルク国立フィルと行っています。ということで1960-70年代の巨匠の中ではオイゲン・ヨッフムはほぼウィーンフィルとの録音は存在しません。

 

 言うまでもなく、首席を務めたコンセルトヘボウ管や1930年代からの常連であったベルリン・フィルなど、世界トップクラスのオケに客演を続けてましたが、どういうわけかウィーン・フィルとの接点は異常に少なかったといっていいでしょう。

 録音こそ、1939年にブルックナーの交響曲第7番を商業録音しているものの、定期演奏会への登場は1972年になってからです。因みにウィーン・フィルの母体であるウィーン国立歌劇場への出演は、戦後は1950年4月13日の「トリスタン」のたった1回しかありません。もちろん、ヨッフムがオペラを振らなかったわけではなく、むしろその反対です。ベームと同じように、正統なドイツのカペルマイスターのキャリアを積み、バイエルン放送響の初代首席指揮者になる前は、15年にわたりハンブルク国立歌劇場の音楽総監督を務めてます。その後も、バイエルン国立歌劇場やベルリン・ドイツ・オペラ、そしてバイロイト音楽祭等にも登場してます。

というわけで、単純にウィーン・フィル及び同歌劇場との縁が薄かっただけみたいです。

 

 第1楽章冒頭の入りのところでこの演奏は弦に被せてホルンを吹かせています。一瞬ですから聴き逃すかもしれませんが、後年のシュターツカペレ・ドレスデンやしたのコンセルトヘボウの演奏でもサンなことはしていません。面白い演出です。相手がウィーンフィルということで原始雲を強調するためのものなんでしょうか。この演奏、ヨッフム壮年期の33歳ごろの録音です。それにして、晩年までほぼ変わらない解釈でブルックナーを演奏しています。それも、ウィーンフィルを相手にしてこの演奏です。実に堂々としています。第1楽章のブルックナー原始雲からして堂々としていて、ウインナホルンの朗々とした響きを見事に引き出しています。録音はさすがテレフンケンです。SP時代の録音としては極めて優秀でブルックナーサウンドを見事に捉えています。

 

 SP時代はアルバム7枚16面に及ぶ大作でした。個人的には晩年のさらに遅いテンポの演奏よりも、これぐらいのテンポの方が引き締まっていて好きです。聴き入ると音の古さはあまり感じません。第2楽章はちょっとテンポを落として丁寧に旋律線を描き出しています。構造的にはベートーヴェンの「エロイカ」を意識した前半に重厚長大な楽章が並びますが弛緩することはありません。第3楽章のスケルツォは冒頭からクライマックスへの静から動への持って行き方がドラマチックです。第4楽章もテンポを落とすことなく、崇高で近づき難さすら感じます。この若さでこれだけオーケストラをコントロールしているのですから大したものです。

 

今回手持ちの演奏の中では一番聴き込んだアルバムになりました。

 

 

下は晩年ヨッフムがアムステルダム・コンセルトヘボウと来日した折のブルックナーの小田7銀のライブ映像です。ヨッフムが亡くなったのは1987年3月26日。今こ演奏はその半年前にあたる1986年9月17日に人見記念講堂にて行われたライヴ演奏になります。

 

 

壮年のカール・ベーム

ウィーンフィルとのブラームス交響曲1番

 

曲目/

ブラームス交響曲1番

1.第1楽章    13:24

2.第2楽章    9:34

3.第3楽章    4:31

4.第4楽章    17:12

5.ワーグナー/さまよえるオランダ人序曲 *   9:53

6.モーツアルト/フイガロの結婚序曲 * 4:05

指揮/カール・ベーム

演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ムジークフェライン

  ドレスデン・シュターツカペレ*

 

録音/1944/11/18.19 

  1939*

IMC  204568-308 

 

 

 

 取り上げるのは、先日捕獲した「20世紀のエストロたち」に収録されているカール・ベームのアルバムです。レコード時代にはザクセン国立歌劇場時代のボックスセットは所有していましたが、このウィーンフィルとの1944年の録音は知りませんでした。そもそも、EMIにウィーンフィルと録音していたことがあったんですなぁ。そして、日付を見てびっくりです。この1ヶ月後の12月20日にあの歴史的名盤と言われるフルトヴェングラーのウィーンフィルとの「英雄」が録音されているのですからびっくりです。

 

 ベームはオーストリアのグラーツ生まれ、ブラームスの友人マンチェフスキーに作曲を学ぶかたわらグラーツ大学で法律を専攻し博士号を取得しています。第一次世界大戦に輜重隊伍長として従軍するも馬に蹴られて重傷となり除隊しています。その後グラーツ歌劇場の練習指揮者となり、バイエルン、ダルムシュタット、ハンブルク、ドレスデンといったドイツの主要な歌劇場の指揮者を歴任、1943年にはウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任しています。これはそれを記念しての録音だったのでしょうか。1944年11月といえばドイツの敗色が濃く、8月には連合軍がパリに入場ウィーンも空襲にさらされ始めた時期です。翌年3月の大空襲では国立歌劇場が焼け落ちています。

 ベームはオペラの現場叩き上げの典型的なドイツのカペルマイスターですが、コンサート指揮者としてもブラームスやモーツァルトのみならず、親交のあったR.シュトラウスにも数々の名演を残しています。このブログではザクセン国立管弦楽団と録音したそのR.シュトラウスの「アルプス交響曲」わ以前取り上げています。

 

 


 カール・ベームはブラームスを得意とし、キャリアの比較的初期から録音をおこなっています。レコ芸などの資料によると第1番の録音は、3種のスタジオ録音のほか今まで音盤として発売されたライヴ録音は10種を数えます。

1944年11月   ウィーンフィル     スタジオ録音
・1950年      ベルリン放送響
・1951年      シュトゥットガルト放送響
・1954年      ウィーンフィル
1959年      ベルリンフィル     スタジオ録音
・1963年      ケルン放送響
・1969年      バイエルン放送響
・1974年      チューリッヒトーンハレ管
1975年3月17日 ウィーンフィル     ライヴ録音 東京
・1975年3月22日 ウィーンフィル
1975年5月    ウィーンフィル    スタジオ録音
・1975年6月    ウィーンフィル
・1976年      ケルン放送響

 このブラームスには「ウラニアのエロイカ」のような緊迫感は感じられませんが、音楽にどっしりとした安定感があるのが素晴らしいと思います。

 

 第1楽章序奏では艶のある絹のようなウィーンフィルの弦楽器の音が鳴り響きます。リピートはありませんが冒頭からとても重厚な響きで
重々しく、テンポもかなり遅いのが特徴的です。ほぼ晩年のウィーンフィルとの録音と変わりません。音の貧しさを除いて、寂しさ漂う中にオケの集中力が感じられホルンの強奏も見事に決まっています。バランスの良い響きの中に充実した音楽がホール全体に鳴り響いています。

 

 

 第2楽章はゆっくりじっくり歌い上げた甘くロマンティックな雰囲気で郷愁を誘います。ヴァイオリンソロがまさに入魂の演奏。このころのウィーンフィルのコンマスはバリリ、マイレッカー、シュナイダーハン、ボスコフスキー。誰の演奏だったのでしょうかねぇ?ウィーンフィル自慢の弦の美しさが、本当によく表れています。ただ、残念なのは楽章だけでチクチクという再生ノイズが入ってしまっていることでしょう。多分レコードからの盤起こしによるものでしょう。

 

 第3楽章は明るい曲想。だいぶ速めのテンポでぐいぐいと進んでいきます。第、ここてせもウィンナホルンの美しい響きと散りばめられた木管の音の美しさが印象的です。ここではリピートがあり、はち切れんばかりの音質で、感情たっぷりに演奏されます。

 第4楽章は美しい弦の響きとともに、ベームの魂の入ったクライマックスを聴かせています。
本当にあの雅なウィーンフィルなのかと再び思ってしまうほど、激しくて感情的である。

 

 

 

 

 あとの2曲はドレスデン歌劇場との録音です。当時はザクセン国立管弦楽団といっていました。ベームは1934年からドレスデン(当時:ザクセン)国立歌劇場の総監督に就任、1943年まで務めました。その間、旧EMI(ドイツ・エレクトローラ)にセッションによる多くの録音を残しています。1970年代にEMIからボックスセットでこれらの録音がまとめて発売されたことがあります。今は処分してしまいましたが、当時は4巻に分けたボックスセットでした。その中に含まれていた音源なので懐かしく聴くことができました。最初はワーグナーの「さまよえるオランダ人序曲」です。当時はオペラ指揮者として活躍していましたからこういう許はお手のものだったでしょう。アップテンポで溌剌とした演奏が展開されています。

 

 

 モーツァルトの「フィガロの結婚序曲」も1939年の演奏が収録されています。これも才気煥発な演奏で壮年のベームの特徴がよく出ています。

 

 

庭木の伐採

ビフォー・アフター

 

 それなりに体が動くときは庭木の手入れはこまめにやっていた方ですが、さすがに70代になると膝わ痛いわ、腰は痛いわでなかなか思うように体が動かなくなりました。そこで今回「電動枝切り鋏」でも購入して対処しようかと最初は考えていたのですが、それだと3-4㎝の枝しか切れないようで、時間も20分程しか稼働しないことが分かりました。我が家のカリンの木は10センチ以上の幹に成長しているのでこれではむつかしいという事で、急遽簡易チェーンソーを考えることにしました。

 

 で、ホームセンターをちょっと覗きに行きました。売り場に並んでいるのはほとんどが電動チェーンソーです。こちらも稼働時間がバッテリー当たり20分と機能はほとんど一緒です。何かいいものはないのかとネットで検索しているとカインズが丁度セールをしていて通常の電動チェーンソーで電源対応というものがありました。しかも延長コードが10m附属しています。これだけの距離があればわが家の周囲は十分取り回しができます。これならバッテリーを気にすることもありません。ただ、現物は店舗では扱っていないというものだったのでネットで注文することにしました。

 

こちらが購入した電動チェーンソー、延長コードが10メートルついています。
 
 DIYは嫌いではありませんから好天のもと朝から
 
 

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こちらが「かりん」の木です。ただ実は今年は1個しかついていませんでした。

 

これがアフターです。奥の「ダチュラ」も幹を残して全カットしました。

 

こちらは通りに面した珊瑚樹です。樹齢は70年近くになります。

 

 
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こちらも思い切ってバッサリです。

 

 
 もう一つ、2階にまで届こうという玄関エントランスの「ゴールドクレスト」もカットする予定でしたが、疲れて次回に持ち越しです。

 

 

 

音楽閑話

女性指揮者編

 

 小生のブログでいまだによく閲覧されているのが2021年に書いた「世界の女性指揮者ランキング」と言う記事でした。ここでは当時話題になっていた女性指揮者をピックアップしたのですが、当時はコロナ禍、そこで2025年現在はランキング形式ではありませんが、現在の話題の指揮者の動向をピックアップしてみることにしました。

 

 

 まずは米国のコロラドスプリングス・フィルハーモニー管弦楽団(Colorado Springs Philharmonic)がフランスの指揮者クロエ・デュフレーヌ(Chloé Dufresne)を音楽監督に迎えると発表しました。任期は2025/2026シーズンから。音楽監督は12年間その任にあったジュゼップ・カバリエ=ドメネクが退任してから2年間空席だったものです。


 デュフレーヌはモンペリエ生まれの34歳。フィンランド・ヘルシンキのシベリウス音楽院で学び、2021年の「ブザンソン国際指揮者コンクール」で聴衆賞、オーケストラ賞を受賞。2024年のパリ五輪に向けたプロモーション映像でフランス国立管弦楽団を指揮して話題を集めた。2023/2024シーズンからパリを拠点とする「オーケストラ・オスティナート」の芸術監督を務めている人です。

 

 

 先頃、オクサーナ・リーニフがイタリアのボローニャ市立歌劇場(Teatro Comunale di Bologna)が3年の任期を終えて音楽監督を退任した。2022年1月から歌劇場初の女性音楽監督を務めていました。そのウクライナの指揮者オクサーナ・リーニフ(Oksana Lyniv)が、ウクライナのキーウ交響楽団(Kyiv Symphony Orchestra)が自国出身の指揮者オクサーナ・リーニフ(Oksana Lyniv)を首席客演指揮者に迎えると発表しました。キーウ響は現在、ドイツ・ケルン近郊のモンハイム=アム=ラインに拠点を移して活動しています。リーニフはブロードィ生まれの47歳。2021年のバイロイト音楽祭では《さまよえるオランダ人》を指揮、音楽祭史上初の女性指揮者となっていました。

 

 

 米国のアトランタ交響楽団(Atlanta Symphony Orchestra)が音楽監督を務めるナタリー・シュトゥッツマン(Nathalie Stutzmann)との契約を延長しました。シュトゥッツマンは2022/2023シーズンからその任にあり、今回の契約更改で任期は3年延びて2028/2029シーズン終了までとなります。

 シュトゥッツマンはフランス・シュレンヌ生まれの60歳。ソプラノ歌手だった母親の指導を受けて歌の世界に進み、ナンシー音楽院卒業後はパリ国立オペラの付属学校で研鑽を積んみました。1988年の「ベルテルスマン国際声楽コンクール」で優勝、その後、コントラルト歌手として国際的に活躍したじっせきがあります。

 指揮活動は2008年からスタート。2018年からノルウェーのクリスチャンサン交響楽団の首席指揮者(ー2023)を務めた他、アイルランドのRTÉ国立交響楽団の首席客演指揮者(2017ー2020)、米国のフィラデルフィア管弦楽団の首席客演指揮者(2021ー2024)も務めました。

 2023年にはモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》と《魔笛》指揮してニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビュー。その夏には、ワーグナー《タンホイザー》を指揮してドイツのバイロイト音楽祭にもデビュー。音楽祭では2024年に再び《タンホイザー》を指揮しています。

 

 

 次に英国のアルスター管弦楽団(Ulster Orchestra)が、次期首席指揮者にドイツの指揮者アンナ・ハンドラー(Anna Handler)を迎えると発表しました。任期は2026/2027シーズンから。2019年からその任にあり、2024年で退任するダニエレ・ルスティオーニの後任です。アルスター管は北アイルランドで唯一のプロ・オーケストラで、首都ベルファストを本拠地に活動しています。

 ハンドラーはフランス南東部、地中海に臨むカーニュ=シュル=メール生まれの29歳です。ドイツ人の父親、コロンビア人の母親がともにエンジニアという家庭に育ち、ミュンヘンで幼少期を過ごしました。ピアノと指揮を学び、長じてミュンヘン音楽演劇大学、米国に渡ってジュリアード音楽院を卒業した。エッセンのフォルクヴァング芸術大学、ワイマールのフランツ・リスト音楽大学でも研鑽を積んでいます。

 プロとしてのキャリアをスタートさせた後、2023/2024シーズンにロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団にデビューしてグスターボ・ドゥダメル・フェローに選ばれている他、2024/2025シーズンから任期2年でボストン交響楽団のアシスタント指揮者を務めており、2025/2026シーズンからはベルリン・ドイツ・オペラの指揮者陣にも加わることが決まっています。注目株でしょう。

 

 

 ちょっとマイナーですが、米国ニューアークを本拠地とするニュージャージー交響楽団(New Jersey Symphony Orchestra)が音楽監督を務める中国系アメリカ人指揮者シャン・ジャン(張弦)との契約を延長したと発表しました。ジャンは2016年からその任にあり、今回の契約更改で任期は2027/2028シーズン終了まで延びることになります。

 ジャンは1973年、中国・丹東生まれの49歳。音楽家を両親に持ち、北京の中央音楽院で学び、19歳の時に中央歌劇院でモーツァルト《フィガロの結婚》を指揮してオペラ・デビュー。1998年に米国に移住、シンシナティ大学音楽院で研鑽を積み、ロリン・マゼール主宰の指揮者コンクールで見出されて、2005年からニューヨーク・フィルハーモニックでマゼールの副指揮者を務めました。

 その後、2009年から2016年までミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団の音楽監督。また、BBCウェールズ国立管弦楽団の首席客演指揮者を務め(2016-2018)、2017年にはオーケストラを率いてロンドンの夏の音楽祭「プロムス」に客演、音楽祭に登場した初の女性指揮者となていました。

 

 

 今年、PMFにも登場したカリーナ・カネラキス(Karina Canellakis)はニューヨーク生まれの38歳。2019/2020シーズンから、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団(Radio Filharmonisch Orkest)の首席指揮者の他、2020/2021シーズンからロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者を務めています。そのカネラキスは、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団(Radio Filharmonisch Orkest)の首席指揮者のカリーナ・カネラキス(Karina Canellakis)との契約を延長しました。カネラキスは2019/2020シーズンからその任にあり、今回の更改で任期は2030/2031シーズン終了まで延びました。ジュリアード音楽院でヴァイオリン奏者を学んだ後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のオーケストラ・アカデミーなどで研鑽を積んで指揮者に転身。2016年にショルティ指揮者コンクールで優勝しています。

 

 

 下は今年のPMFでのコンサートに登場したカリーナ・カネラキスです。

 

 

 次に、イタリア・ベネチアのフェニーチェ劇場(Teatro La Fenice)が音楽監督に35歳のベアトリーチェ・ヴェネツィ(Beatrice Venezi)を迎えると発表しました。就任は2026年10月からで、任期は2030年3月まで。プラシド・ドミンゴのコンサートの指揮でタイ・バンコクでニュースを受け取ったといいます。

 ヴェネツィはルッカの生まれで、ルッカとシエナで学び、2005年にイタリア全国ピアノ・コンクールで第1位を獲得。その後、ミラノのヴェルディ音楽院でピアノ、作曲、指揮を学んでいます。2012年にオーケストラ・デビュー。その後、ドレス姿で指揮するという他の指揮者とは一線を画す路線でイタリア各地で指揮しています。

 ジョルジャ・メローニ首相との近さでも知られ、この年は、文化大臣から音楽顧問に、シチリア州政府からタオミーナ芸術財団の芸術監督に任命されています。現在、トスカーナ管弦楽団、ブエノスアイレスのコロン劇場の客演首席指揮者も務めている逸材です。

 

 

 次は、フランス・トゥールを拠点とするサントル=ヴァル・ド・ロワール交響楽団(Orchestre symphonique Centre-Val de Loire)がベネズエラの女流指揮者グラス・マルカーノ(Glass Marcano)を首席客演指揮者に迎えると発表しました。サントル=ヴァル・ド・ロワール交響楽団はトゥール歌劇場の座付きオーケストラです。

 マルカーノはベネズエラのサン・フェリペ(San Felipe)生まれの24歳、ベネズエラの音楽教育システム「エル・システマ」で音楽を学んでいます。注目を集めたのは、2020年にパリで行われた女性指揮者のためのコンクール「ラ・マエストラ」に参加したことでしょう。

 マルカーノは当時、家族が経営する八百屋の売り子をしながら法律を勉強、その合間にオーケストラの指揮を行っていたが、参加費用150ユーロと旅費を工面して参加。決勝には進出しなかったのですが、オーケストラのメンバーによる投票で見事1位を獲得、情熱的な指揮が話題を集めた。

 

 

 さて、ラ・マエストラ国際コンクールは、女性指揮者のためにフィルハーモニー・ド・パリとパリ・モーツァルト管弦楽団が協力して2019年に創設されました。第一回コンクールは2020年に、第二回コンクールは2022年に開催され、今回の第三回大会は世界中で注目されるクラシック音楽イベントとなりました。2024年の優勝者と準優勝者は、2024年3月から2年間実施されるラ・マエストラ・アカデミーへの参加権も優先されます。 なぜ女性のみを対象とした指揮コンクールが創設されたのでしょうか?性差に関する意識の顕著な変化にもかかわらず、常設オーケストラの指揮を執る女性の地位は依然として非常に低いままです。世界のオーケストラにおける女性指揮者の割合は、2018年は4.3%、2024年現在8%という現状です。フランスでは、常設オーケストラのトップに就任する女性の数が2019年の2.7%から2022年には10.8%に増加し、目覚ましい飛躍を遂げていますが、男女平等には程遠いところにあります。2024年のコンクールでは、ドイツ在住のイスラエル人指揮者 Bar Avni氏が、フランスのパリ・フィルハーモニーで2024年3月15日から17日にわたって開催された女性指揮者のためのコンクール「ラ・マエストラ」において1位を獲得しました。

 

 

 次は首都コペンハーゲンにあるデンマーク王立オペラが空席となっている首席指揮者にフランスの若手指揮者マリー・ジャコー(Marie Jacquot)が就任しています。任期は2024/2025シーズンから5年。首席指揮者は2020年10月にアレクサンドル・ヴェデルニコフが新型コロナウイルスで亡くなって以来、空席になっていました。2026年からケルン放送(WDR)響の首席指揮者への就任が決まっています。

 

 彼女は1990年パリ生まれ。パリでトロンボーンを学んだ後、ウィーンおよびワイマールで指揮を学んだ。
2016年にはバイエルン国立歌劇場でK.ペトレンコのアシスタントを務め、2016年と2018年にミュンヘン・オペラ・フェスティバルに出演し、N.ブラス作曲の新作オペラなどを指揮。2016年から2019年までヴュルツブルク歌劇場で第1指揮者および音楽総監督代理を務め、19年から22年までライン・ドイツ・オペラで第1指揮者として活躍。2019年にはエルンスト・フォン・シューフ賞を受賞したほか、インターナショナル・オペラ・アワードの新人賞にノミネートされました。2023年からウィーン響の首席客演指揮者にも就任しています。今年来日していますからその姿に接した人も多いのではないでしょうか。

 

 

 最後は、ノルウェー放送管弦楽団(Kringkastingsorkestret)が首席指揮者に韓国系米国人のホリー・ヒョン・チェ(Holly Hyun Choe)を迎えると発表した件です。チェは韓国・ソウル生まれの34歳です。幼い頃に家族でロサンゼルスに移住、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校ボブ・コール音楽院でクラリネットを学び、続いてボストンのニューイングランド音楽院、チューリッヒ芸術大学で指揮を学んでいます。

 2020/2021シーズンからパーヴォ・ヤルヴィの下、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のアシスタント・コンダクターを務めてきた他、2024/2025シーズンのロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の「グスターボ・ドゥダメル・フェロー」にも選ばれています。

 

 

 こうしてみると我が国内では京都交響楽団常任指揮者の沖澤のどかもいますし、先輩格では松尾葉子、三ツ橋敬子もいます。また、日本シベリウス協会の会長を兼務する新田ゆりもいます。ただ、世界を舞台に活躍しないと埋もれてしまいそうな気がします。頑張れ、女性指揮者たち!!山田和樹のように世界に羽ばたけ!!

音楽閑話

 

 

 英国のクラシック音楽雑誌「グラモフォン」が年度賞「グラモフォン・アワード=Gramophone Classical Music Awards 2025」を発表しています。「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」は70歳のサイモン・ラトルで、「ロンドン交響楽団、バイエルン放送交響楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団における近年の傑出した活動」が評価されたのでしょう。

 賞は1977年の創設で、前年1年の録音が対象になっています。クラシック音楽界で最も権威のある賞の一つでしょう。日本のレコードアカデミー賞がレコ芸の休刊とともに無くなってしましたからねぇ。今は形を変えてオンライン上で「新レコード・アカデミー賞」が企画されているようですが盛り上がりにはかけます。現在はノミネート作品として「オーケストラ曲」や「室内楽/器楽曲」「鍵盤曲」「音楽史」「現代曲/ポスト・クラシカル」「オペラ/声楽曲」の各部門がリストアップされています。オーケストラのトップにはクラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団のショスタコーヴィチの交響曲第4-6番が赤っていますが、まずは順当なところでしょうか。まあ、これから大賞が発表されるのでしょうがほとんど注目されていないのが残念なところです。

 

 これに対して「グラモフォン・アワード」は「グラモフォン」誌の批評家などを中心に、放送局や音楽業界のさまざまなメンバーによって選出されています。「オーケストラ・オブ・ザ・イヤー」は2018年から、7月から9月にかけて行われる一般投票によって決定されており、2025年はノルウエーのベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団が選ばれています。主な受賞作は以下の通りです。

 

……… 年間賞

[Label of the Year]
  パラツェット・ブリュ・ザーネ

[Lifetime Achievement]
 トーマス・アレン(バリトン)

[Young Artist of the Year]
 マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン)

[Artist of the Year]
 サイモン・ラトル(指揮)

[Orchestra of the Year]
 ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団



 

……… 録音賞

[Chamber]
 ● ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番、第3番
  =マリア・ノヴァク(ヴァイオリン)
   カタジナ・ブドニク=ガウォンズカ(ヴィオラ)
   岡本侑也(チェロ)
   クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)

[Choral]
 ● バッハ:ミサ曲ロ短調
  =ラファエル・ピション(指揮)
   ピグマリオン

[Concerto]
 ● エルガー:ヴァイオリン協奏曲
  =ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
   ロビン・ティチアーティ(指揮)
   ベルリン・ドイツ交響楽団

[Contemporary]
 ● ジョージ・ベンジャミン:オペラ《こんな日を思い浮かべて》
  =ジョージ・ベンジャミン(指揮)
   マーラー室内管弦楽団
   マリアンヌ・クレバッサ(メゾ・ソプラノ)
   アンナ・プロハスカ(ソプラノ)
   ジョン・ブランシー(バリトン)
   ベアーテ・モルダル(ソプラノ)
   キャメロン・シャーバジ(カウンターテナー)

[Early Music]
 ● クラシンスキ写本~クラクフからの15世紀の音楽
  =アグニエシュカ・ブジンスカ=ベネット(指揮)
   アンサンブル・ペレグリーナ
   アンサンブル・ドラグマ

[Instrumental]
 ● パガニーニ:24の奇想曲
  =マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン)

[Opera & Recording of the Year]
 ● ワーグナー:さまよえるオランダ人
  =エドワード・ガードナー(指揮)
   ノルウエー国立歌劇場管弦楽団
   ジェラルド・フィンリー(バリトン)
   リゼ・ダヴィドセン(ソプラノ)

[Orchestral]
 ● ワイル作品集
  =ヨアナ・マルヴィッツ(指揮)
   ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団

[Piano]
 ● ブラームス:ピアノ・ソナタ第1番、他
  =アレクサンドル・カントロフ(ピアノ)

[Song]
 ● ピーター・ピアーズのための歌曲集
  =ロビン・トリッチュラー(テノール)
   マルコム・マルティノー(ピアノ)

[Voice & Ensemble]
 ● コンテンプラシオン
  =ヒュー・モンタギュー・レンドール(バリトン)
   ルーアン・ノルマンディ歌劇場管弦楽団
   ベン・グラスバーグ(指揮)
   エリザベス・ブードロー(ソプラノ)
   トリニティ少年合唱団員

 

 オーケストラも毎年選ばれていますが、日本の権威主義とは違い過去の授賞オーケストラは、2018年がシアトル交響楽団、2019年が香港フィルハーモニー管弦楽団、2020年がフィラデルフィア管弦楽団、2021年はミネソタ管弦楽団、2022年バイエルン州立歌劇場管弦団、2023年ドイツ・カンマーフィル、2024年ロイヤル・リヴァプール管弦楽団となっていました。まあ、イギリス人中心に選ばれることもありますがこの彩色豊かです。日本だとどうしてもベルリンフィルとかウィーンフィル、コンセルトヘボウあたりが常連になってしまいますからねぇ。