フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
「展覧会の絵」
曲目/ムソルグスキー
1 組曲「展覧会の絵」 プロムナードーこびと
2 組曲「展覧会の絵」 プロムナード
3 組曲「展覧会の絵」 古城
4 組曲「展覧会の絵」 プロムナードーチュイルリーの庭
5 組曲「展覧会の絵」 ビドロ
6 組曲「展覧会の絵」 プロムナードー殻をつけた雛の踊り
7 組曲「展覧会の絵」 2人のユダヤ人(金持ちと貧乏人)
8 組曲「展覧会の絵」 プロムナードーリモージュの市場-カタコンブ
9 組曲「展覧会の絵」 死せる言葉での死者への語りかけ
10 組曲「展覧会の絵」 バーバ・ヤーガの小屋
11 組曲「展覧会の絵」 キエフの大門
編曲/エルガー・ハワース
フリューゲル・ホーン,トランペット/フィリップ・ジョーンズ、ジェームズ・ワトソン
ピッコロ・トランペット/マイケル・ライアード、ハワード・スネル
トランペット/ジョン・ミラー、ペーター・リーヴ
ホルン/アイファー・ジェームズ、アンソニー・ランダール、アンソニー・ハルステッド、クリスチャン・ラザフォード
テナー・トロンボーン/ジョン・アイヴソン、ロジャー・ブレナー
バス・トロンボーン/レイモンド・プレムル
テナー・テューバ/デイヴィッド・モーア
バス・チューバ/ジョン・フレッチャー、ジョン・ジェンキンス
パーカッション/ジェームズ・ホランド、アラン・カンバーランド、レイモンド・コークヒル
録音/1977/10月、12月 キングズウェイ・ホール
P:クリス・ハーツェル
E:スタンリー・グッドール、アンドルー・ピンダー
キング SLA1205 (argo原盤)

てっきりDECCA原盤だと思っていたのですが、「ARGO」レーベルで発売された異端ですなぁ。このレコードを手にするまで全く知りませんでした。英argoは不思議なレーベルで、もともとは文芸作品の朗読ものとかドキュメンタリー、ストリートオルガンやSLのサウンドを録音したりしていました。それが1960年代からバロック以前の録音を手掛けて、マリナー/アカデミー室内管の初期の録音はこのレーベルから発売されていましたし、70年代ではドラティ/フンガリカのハイドンの交響曲全集はデッカ本体から発売されていましたが、並行して進められていた「エオリアン四重奏団」の弦楽四重奏全集はこのアーゴレーベルで発売されていました。確かにこの録音でもエンジニアのスタンリー・グッドールはデッカの人間ですからデッカのサブ・レーベルの一つと位置付けられます。
それにしてもメンバーを眺めると壮観です。主催のフィリップ・ジョーンズはロイヤルフィルやフィルハーモニア管で活躍し、ホルンのアイファー・ジェームスは18966年から1980年まで参加し、ここでも流麗なホルンを響かせていますし、アンソニー・ハルステッドはピリオド系のオーケストラとの共演も多く、楽しいホルンを聴かせてくれます。
展覧会の絵はご存知ムソルグスキーのピアノ組曲。それを今ではラヴェルが編曲したオーケストラ版が特に有名ですが、ストコフスキーの編曲したもの、トシュマロフの編曲ものなど結構あります。そして、ここにもう一つ新たな編曲が登場したのがエルガー・ハワース編曲のブラスアンサンブル版です。このブログでも頻繁に吹奏楽の演奏を取り上げていますが、もともとクラシックを聴くようになったのは中学時代のブラバンが中部を代表する実力校だったので、その演奏を聴いて中学時代を過ごした体験がベースにあります。
音色や色彩感の点でやはり初めはオケ版より劣って聴こえてしまいますが、400曲を超えるレパートリーをもつこのPJBEの演奏と金管の豊かな表情と音色にいつしか不満は消え、聴き入ってしまうこと必死です。オーケストラ版に比べて楽器の性格上多少テンポは落ちてしまうものの、細かい部分も見えたり、金管の飽きの来ない音色と響きなどが充分に楽しめます。
1951年結成と小生が生まれる前から存在していたブラバンで1986年に解散してしまっています。しかし、この団体の存在は大きく、カナディアン・ブラス(米)、東京ブラスアンサンブル、上野の森ブラス、ジャーマン・ブラスなど現在のブラスアンサンブルに多大な影響をあたえ、今もプレイヤー達の心に響きつづけるその音楽は、まさに芸術です。金管楽器に携わる者であれば是非一度は聴いて欲しい1枚でしょう。2018年には夥しいアルバムがオリジナルの形で復刻されたのも懐かしいところです。
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの、偉業の1つに、ムソルグスキーの、「展覧会の絵」の、ブラス・アンサンブル用の編曲があります。このブラス・アンサンブル用の編曲は、メンバーで、後に指揮者として活躍するエルガー・ハワースによって行われ、ムソルグスキーの原曲にかなり忠実に編曲されています。ピアノとは違い、減衰しない、音を伸ばせるブラスなので、違った響きにはなるのですが、例えば、ラヴェルが省略したリモージュの市場の前のプロムナードを復活させるなど、原曲の音を、一音たりとも変えない姿勢で行われています。それを、たった19人のブラスとパーカッションに振り分けたため、最高難度のテクニックが必要なものになっています。 単純に合わせるだけでなく、すべてのパートに、至難なパッセージがあります。 1つ挙げれば、カタコンブの後の、「死者とともに死者の言葉を以って」での、トランペットの高音域でのppのトレモロなど、ブラス経験者なら、鳥肌ものです。 そして、キエフの大門では、ちょっとした金管バンド並みの迫力あるトゥッティが迫ります。録音されて43年たって、やっと、ベルリン・フィルの金管アンサンブルが、このバージョンを初めて録音しましたが、それほど高難度な楽譜なのでしょう。いまだに、世界中のブラス・プレイヤーから尊敬のまなざしを注がれる証拠が、ここにあります^