2つのラフマニノフピアノ協奏曲第2番
アンダ VS ルービンシュタイン
曲目/
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
1. Allegro moderato 10:33
2. Adagio sostenuto 10:49
3. Allegro scherzando 11:48
ピアノ/ゲザ・アンダ
指揮/アリチェオ・ガリエラ
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
録音/1953/10
1. Allegro moderato 10:16
2. Adagio sostenuto 11:53
3. Allegro scherzando 11:08
ピアノ/アルトゥール・ルービンシュタイン
指揮/フリッツ・ライナー
演奏/シカゴ交響楽団
録音/1956/01/09
menbran 233018
menbranから2010年に発売されたラフマニノフの10枚組のボックスセットです。とっくに廃盤になっていますが、この中の一枚に有名なピアノ協奏曲第2番が二人のピアニストの演奏で一枚に収録されているものが収録されています。ゲザ・アンダの方は1953年の録音ですから、もちろんモノラル収録ですが、もう一人のルービンシュタインの方は1956年ながらステレオ録音で収録されています。このセット、他にはピアノ協奏曲の第4番がミケランジェリとラフマニノフ本人のピアノで収録されているというディスクも含まれているという珍しいセットになっています。著作権切れの演奏を集めていると言えばそれまでのことですが、マニアにとっては垂涎の内容と言えなくもありません。
多分、ゲザ・アンダの弾くピアノ協奏曲第2番の英コロンビア盤のモノラルLPが元で、1953年の10月の録音です。バルトークやモーツァルトの名演で知られるアンダですが、この録音は忘れ去られているのだろうし、多分ここでしかCD化されていないのではないでしょうか。ゲザ・アンダといえば、モーツァルテウムのカメラータ・ザルツブルクと共演した一連の録音がDGにあり、とりわけ第21番の録音は、映画「みじかくも美しく燃え」のサウンドトラックに使用されていましたから極めてよく知られているのではないでしょうか。このモーツァルト、ゲザ・アンダには、「初めて弾き・振りでモーツァルト協奏曲全集を録音した人」でもあるんですね。この後、バレンボイムやアシュケナージが後を追うことになります。
さて、あまり注目されないゲザ・アンダのラフマニノフですが、冒頭から肩の力の抜けた自然体の演奏になっています。名匠ガリエラの伴奏がまた見事なものとなっています。ゲザ・アンダはハンガリー出身のピアニストで、フルトヴェングラーをして「ピアノの吟遊詩人」と言わしめたように、柔らかな響きで叙情的に仕上げた好演に仕上がっています。バルトークを得意としていたからなのかラフマニノフはテクニックを披露するというわけではなく、まさにあるがままに音楽を作っています。
ライナーとルービンシュタインと言えば、さぞやたくさんの競演盤があるだろうと思って調べてみると、なんとこのラフマニノフの2番と、ブラームスの1番、それとパガニーニの主題によるラプソディだけです。なんとも不思議なことですが、最近は便利なものでググってみると、こんなエピソードが引っ掛かりました。
まず、きっかけとなったのはこのラフマニノフの2番が大変好評だったことです。それに味を占めたRCAは二匹目の土壌をねらって「第3番」の録音を計画します。すべての不幸はここから始まります。今さら言うまでもないことですが、ラフマニノフの3番は難曲中の難曲で、バリバリのテクニックを持ったピアニスト御用達の作品です。そんな作品をルービンシュタインで録音しようというのがそもそも大きなミステイクなのです。
実際、ルービンシュタインのレパートリーにラフマニノフの3番は存在しません。彼はこの作品をコンサートで取り上げたことはありませんでしたし、おそらくは今後もそんな予定はなかったはずです。にもかかわらず、RCAは強引にこの企画を持ち込んで、さらにはルービンシュタインのために特別にリハーサルまで行うことにしたのです。悲劇は、このリハーサルで起こりました。リハーサルはごく普通に第1楽章からスタートしました。しかし、と言うべきか、やはり、と言うべきか、ルービンシュタインは難場にさしかかると大きなミスをしてしまいました。ライナーはオーケストラを止め、いくつかの指示を与えてからもう一度演奏させました。しかし、ルービンシュタインは同じところに来るとまた同じミスをしてしまいます。ライナーは、今度は何も言わずもう一度繰り返させたのですが、ルービンシュタインはやはり同じ所でもっと派手にミスをしてしまいました。
ライナーは指揮棒を置いてオーケストラに向かって「ピアニストが練習をするので20分間休憩します。」と言ってしまいました。それを聞いてルービンシュタインは「あなたのオーケストラはミスをしないのですか?」と言い返しました。それに対して、ライナーは一言だけ返したそうです。
「しません。」
てなことで、ルービンシュタインは無言のままステージを去り、リハーサル会場には二度と戻って来なかったそうです。
そういうことで、ブラームスの1番と共にこのラフマニノフは奇跡的に録音が残りました。この時代のライナーは古いタイプの指揮者ということでかなり恣意的に店舗を揺らしています。そういう意味ではライナーのラフマニノフと言えないこともないのですが、ルービンシュタインも力強いタッチでスタインウェイをガンガン鳴らして対抗しています。のちにオーマンディとの再録があり、今ではそちらにお株を奪われていますが、間違いなくステレオ初期から60年代までは輝いていた名盤でしょうなぁ。
このCDはその演奏の違いを一枚で聴き比べることができるという意味では貴重です。ゲザ・アンダはモノラルですが、不足は感じませんし、ルー品シュタインはリビングステレオの3チャンネルステレオ録音が今でも輝いています。































