レッパードのフランク交響曲ニ短調 | geezenstacの森

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レイモンド・レッパード

フランク交響曲ニ短調

 

フランク:
交響曲ニ短調

1. Lento: Allegro Non Troppo   19:13

2. Allegretto   10:40

3. Allegro Non Troppo    10:45 
4.交響詩『アイオリスの人々』    10:51
5.交響詩『呪われた狩人』   15:14

指揮/レイモンド・レッパード
演奏/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
 

録音1995/03      CTIスタジオ、ロンドン

 

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 1970年代はもっぱらバロック音楽の指揮者として活躍していたのでこういう対局のオーケストラ作品を指揮しているのを発見した時はちょっとびっくりしました。ただ、調べるとイギリス時代はイギリス室内管弦楽団や小規模のBBGノーザン管弦楽団などを指揮していてそういう方面の活躍が主体だったようですが、1987年からはアメリカに拠点を移し、インディアナポリス交響楽団の音楽監督に就任し、このオーケストラを年間フルに活動するオーケストラに育て上げています。この録音は1995年に行われていますから、近現代のオーケストラ作品もしっかりとこなしていた時代の録音ということになります。

 

 まあ、そんな中でもこれは異色の録音なんでしょう。フランクといえばフランスの作曲家ですが生まれはベルギーという事で、普通はこの交響曲はとてもドイツ的な響きがします。このフランクの交響曲ニ短調はこれまでに夏季の演奏を取り上げています。

 

 

 

 

 ところがこのレッバードの演奏はそのドイツ的な響きがあまり感じられません。あくまでもフランス音楽としてのニ短調交響曲なのです。冒頭の通常なら荘重なレントの導入ではじまる低弦が奏する問いかけるような動機が全く威圧がありません。これはオーケストラが持っている響きに影響されるものなんでしょうか。なによりも、レッパードのテンポはかなり遅いレントのテンポで演奏しています。第一楽章が19分台というのはカラヤンやジュリーニの20分に及ぶ演奏に近しいものがあります。ひょっとするとレッパードはオーケストラのもつ軽い音質を熟知していて意識的に遅いテンポで少しでも重厚さを稼ぎ出そうとしたのかもしれません。音楽が停滞する寸でのところでのテンポを保ち曲をまとめています。循環主題をいろいろ表情づけを変えながら丁寧に描いています。

 

 3楽章形式はフランス人作曲家にとっては書き慣れた手法なのでしょう。第2楽章の中間部にスケルツォを持ってくるという手法で曲を構成しています。冒頭は弦楽とハープの和声ではじまりますが、この録音会場であるCTSスタジオはそれほど大きなスタジオでなく、映画音楽の録音でよく使われるスタジオということで、やや縦長になっています。その冒頭の響きはハープの音がやや響き過ぎ残響が多すぎる嫌いがあります。この録音は録音スタッフのクレジットがないということで確認が取れませんがいつものエンジニアと異なっているのかもしれません。ただ全体はイングリッシュホルンの音色もなかなか綺麗で演奏のレベルは高い仕上がりになっています。

 

 

 循環主題が帰ってくる第3楽章もじっくりとしたテンポで腰を据えた演奏になっています。個人的にはもう少し緩急をつけて軽快なテンポでも良かったのかなぁという印象ですが、全体の構成を考えてこのちょっと遅めの設定をしたのでしょうか。カラヤンなんかさらに遅い11分台、ジュリーニに至っては12分台の演奏ですからねぇ。それに比べるとこれでも速いくらいなのでしょう。上にあげたパレーなんかは9分台で演奏しています。個人的にカラヤンの演奏は油ぎっていてくどいという印象を持っていますから音楽が崩壊しないギリギリのテンポでレッパードは攻めていったのかもしれません。

 

 

 交響曲だけでまとめると、よくサンサーンスの3番とカッブリングされのですが、ここでは同じフランクの交響詩が2曲カップリングされています。最初に収録されている「アイオリスの人々」はフランク2作目の交響詩で、ここでもハープが効果的に使われています。詩人ルコント・ド・リールの初期の作品『古代詩集』に含まれる「アイオリスの人々」からヒントを得て作曲されています。このルコント・ド・リールの作品はドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」も同じ詩集に含まれています。どちらかというとメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」を彷彿とさせる作品で、フランクの意外な一面を感じることができます。抑えめなレッパードの指揮はまるで妖精たちの踊りを彷彿とさせます。

 

 

 フランクは生涯で5曲の交響詩を残しましたが、この作品は最晩年の1882年に作曲され、翌1883年の3月31日に国民音楽協会で初演されています。この作品は、18世紀のドイツの詩人ゴットフリート・アウグスト・ビュルガーのバラードに基づいており、教会のミサに出かけず、狩りに出かけた伯爵は、その冒涜によって永劫の罪を受けてしまうといった内容です。冒頭のホルンに続いて、聖歌風の主題が現れ、やがて角笛を思わせる主題が取って代わり、狂騒的に展開していきます。ワーグナー的な描写性と音の躍動感あふれる曲で、ドイツ風でありタンポンドラマを見ているような作品です。レッパードは少なからずオペラも指揮しており、こういう作品でもその劇的手法は生きています。なかなかいきいきとした演奏です。