名曲の森 世界音楽全集16
アンネローゼ・シュミットのグリーグ
曲目/
グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
01. 第1楽章:アレグロ・モルト・モデラート (12:47)
02.第2楽章:アダージョ (6:27)
03.第3楽章:アレグロ・モデラート・モルト・エ・マルカート (9:35)
04. ウェーバー/ピアノ小協奏曲 ヘ短調 作品79 (15:59)
ピアノ/アンネローゼ・シュミット
指揮/クルト・マズア
演奏/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
録音年:1969年12月14日から17日/収録場所:ドレスデン・ルカ教会
P:クラウス・シュトリューベン
エテルナ YDSC152
このレコードは1977年に発売された集英社版の「世界音楽全集16」巻にに収録されているものです。「名曲の森」とタイトルされたシリーズはCBS・ソニーと徳間音楽工業の2つのメーカーから提供された原盤で構成されていました。全24巻のシリーズでしたが、ソニーが20枚、徳間が4枚という構成になっていました。この巻は「ロベルト・シューマンとそのロマン性」というたいとるがついていてシューマンがメインなのですが、アンネ。ローゼシュミットがメインのこちらを取り上げることにしました。旧東ドイツ時代の録音でシュミットは30代前半、マズアも40代前半の録音です。比較的古い録音でありながら何度も再発売を繰り返されている録音です。東独シャルプラッテンというレーベルはどういう契約になっていたのかよく知りませんが、古くはフィリップス、日本コロムビア、そして徳間音楽工業、最近はキングレコードから録音が発売されています。LP時代はこんなジャケットでした。
市販品のジャケット
シュミットとマズアは旧東ドイツ時代の代表的な組み合わせで他にモーツァルトのピアノ協奏曲全集やショパンのアルバムも出ていました。多分、今にして思えばこのふたりにとってひとつのピークの時期の録音でしょう。個人的にはこのグリーグのピアノ協奏曲はあまり遅いテンポで演奏されるとしらけてしまうのですが、ここで聴かれるグリーグは、シュミットの硬質のピアノと幾分渋くくすんだ響きのオケとのコントラストがバッチリあっていてこの曲の持っているダイナミックさを感じることができます。まあ、レコ芸の名曲名盤なんたらには登場しませんから、世間的には無視されているのでしょうし、2022年3月10日になくなっているので忘れ去られる一方でしょうなぁ。
素晴らしいのはそのテンポ感で、早めのテンポの中に音楽を凝縮しながらも歌心にも不足はしていません。その昔、グリーグの半生を描いたミュージカル映画「ソング・オブ・ノルウェー」という作品があったのですが、その冒頭に流れるこの曲がこんな演奏だった記憶があります。もともとグリーグの作品自体重量級の作品ではありませんから、これぐらいの規模の演奏の方がこの曲には相応しいような気がします。軽量級の演奏ではありますが、フレッシュな爽やかさが感じられるグリーグになっています。一聴しただけではこれが女性の引くピアノのタッチとはわからないのでは無いでしょうか。音楽に対して愚直で、まっすぐに突き進み、聞き手に媚びてはいませんし、何よりも色気振りまく音ではありません。巷では、ルブー/プレヴィンの演奏が評価されているようですが、シュミットの演奏はそれよりは充実しています。モノラルでは名盤と言われるリパッティ/ガリエラの演奏がピカイチなんでしょうが、ステレオではそれと比べても遜色ないのでは無いかと思えます。まあ、聴いてみてください。
ウェーバーは3曲あるピアノ協奏曲のひとつです。小協奏曲と日本語では訳されますが、普通には今はそのまま「コンチェルトシュテック」と呼んでいます。傑作の「魔弾の射手」の初演の朝に作品は完成されています。女性が十字軍の騎士のことを想いこがれ、離別と喜びの再会を果たすという物語に基づく作品は女性だからこその恋心を表現したシュミットの演奏にふさわしいテーマでもあります。
アンネローゼ・シュミットは1936年、旧・東ドイツのヴィッテンベルクの生まれで、ヴィッテンベルク音楽院の院長だった父から英才教育を受け、幼少時にデビューしています。その後、ライプツィヒ音楽院で学び、1955年のショパン国際ピアノ・コンクールに参加してから旧共産圏を中心に活動を展開しました。
1956年にはドイツ民主共和国ピアノ・コンクール、国際ロベルト・シューマン・コンクールで優勝し、1958年からは西側でも演奏活を展開するようになり、古典派からシューマン、ショパンなどのロマン派の作品をレパートリーの中心に欧米のオーケストラとの競演を重ねていました。
初来日は1973年です。1970年から1977年にかけてクルト・マズア指揮のドレスデン・フィルハーモニーとモーツァルトのピアノ協奏曲全集を完成させています。2000年にはショパン国際ピアノコンクールの審査員も務め、2003年のドイツ連邦共和国功労勲章など受章多数していました。
グリーグのピアノ協奏曲は以下の記事で取り上げ ています。