グレツキ 悲歌のシンフォニー | geezenstacの森

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グレツキ 悲歌のシンフォニー

 

曲目/グレツキ

交響曲第3番Op.36「悲歌のシンフォニー」

1   Lento. Sostenuto Tranquillo Ma Cantabile 29:59
2   Lento E Largo, Tranquillisimo - Cantabilissimo - Dolcissimo - Legatissimo 9:58
3   Lento. Cantabile - Semplice 18:47

 

ソプラノ/ヨアンナ・コショウスカ

 

指揮/カジミエシュ・コルト

演奏/ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
 
録音/1993.06.01

P:ウルスラ・シンガー

E:ウィリアム・ヴァン・リーウェン

 

ユニヴァーサル 00289 479 3033(原盤PHILIPS)

 

単品発売のジャケット

 

 

 グレツキの「悲歌のシンフォニー」は1990年代前半に非常に話題になりました。時代はそれこそ、イージーリスニングがヒーリングミュージックにとって代わっていった時代で、最初に1993年に シュロス修道院聖歌隊〈73~82〉のグレゴリオ聖歌が世界で50万枚、日本でも17万枚のヒットとなり、その翌年にこのグレツキの「悲歌のシンフォニー」が陣ジンマン/ロンドン・シンフォニエッタの演奏で世界で30万枚、日本で3万枚のヒットとなりました。また、その後「1995年にはそれまで忘れ去られていたかのようだった「アダージョ・カラヤン」が、これまた世界で50万枚 、日本で10万枚のヒットとクラシック界は非常に盛り上がりました。

 

 小生もそんな時代の波の中で、このグレツキの交響曲第3番をご多分に漏れず知りました。まあ、このジンマンのCDでは無く「belart」というレーベルの演奏モノでした。これは、1977年4月4日に世界初演をライブ収録した演奏でした。ステファニア・ヴォイトヴィチのソプラノ、エルネスト・ブール/南西ドイツ放送交響楽団によるものでした。

 

 

 そのグレツキの「悲歌のシンフォニー」が先日NHK-FMのクラシックカフェという番組で流れました。演奏は御多分に漏れずジンマン/ロンドンシンフォニエッタ」でした。それもあり、久しぶりに聞きたくなったのですが、このCDは行方不明になっていました。でも、もう一枚手元にあったのではと探したのがこのカジミエシュ・コルト/ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団のCDでした。手元にあるのはグラモフォンの「100グレート・シンフォニー」なるBOXセット物の中に含まれているものでした。初出はフィリップスから発売されましたが、たぶん2匹目のどじょうを狙ったものだったのでしょう。あまり世間では認知されなかったのか、2000年代には廉価版で叩き売られています。で、下が現在手持ちのCDのジャケットです。

 

 

 一応このセットグラモフォンがまとめていますので、原盤はフィリップスながらこのセットではデッカレーベルではなくグラモフォンレーベルでの発売となっています。まあ、同じユニヴァーサルですからどうでもいいのでしょうが、いい加減なものです。いい加減といえばデータはお粗末なもので、ジャケット及び解説書にも何も書かれていません。ユニヴァーサルのHPには1983年録音と出ていましたがこれもいい加減で1993年が正しい録音年です。

 

 さて、ポーランドを代表する指揮者の一人、カジミエシュ・コルト(Kazimierz Kord)は2021年4月29日に亡くなっています。90歳でした。ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を長く務め(1977–2001)、オーケストラを率いて数多くの海外ツアーを行うなど、戦後のポーランド文化発信の核となっていました。 クラクフのユダヤ人地区ポドグージェの生まれ。カトヴィツェの音楽学校でピアノを学んだ後、旧ソ連のレニングラード音楽院に留学。帰国後はクラクフ音楽院で指揮を学び、地元のミュージカル劇場の主任指揮者兼芸術監督として指揮活動をスタートさせています。その後、ドイツ・ミュンヘンのゲルトナープラッツ州立劇場、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場などに客演を重ね、1969年から1973年までカトヴィツェの国立放送交響楽団の音楽監督を務めていました。1977年にワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任した後も、1980年からドイツ・バーデン=バーデンの南西ドイツ放送交響楽団(–1986)の首席指揮者も兼務していました。ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団はワルシャワ歌劇場の管弦楽団を母体としオーケストラで、ショパン国際ピアノコンクールにおいて1927年の開催以来、主催者を務めていますので結構馴染みはありますわな。カジミエシュ・コルトは現代音楽の音楽祭「ワルシャワの秋」や「ルトスワフスキ・フォーラム」を支援していましたから現代物は得意としていたようです。

 多分この曲を聴いたら近しいところでは久石譲の音楽を思い浮かべるのでは無いでしょうか。ジブリアニメの作品ではそういう面影はあまり感じ取れませんが、彼の純音楽の作品はミニマルミュージックそのものの作曲家だということがわかると思います。このグレツキの作品もそんな作品です。この曲も、きいていると「同じパーツが延々と繰り返され」ます。言って見ればハッヒェルベルのカノンとかラヴェルのボレロを聴いてすんなり音楽に溶け込める人ならすっと受け入れることができるでしょう。当時ヒットしたのもそういう感覚でこの曲が聴かれたからでしょう。

 

 第一楽章はコントラバスのゴリゴリしたユニゾンで開始されます。この低音の響きがこの曲のベースとなっていますがこの響かせ方は耳にしたジンマンよりは凄みがあり、個人的には好きです。ソロのソプラノ歌手が3 つの楽章のそれぞれでポーランド語のテキストを歌っています。最初のものは、15世紀のポーランドのイエスの母マリアの嘆きです。2つ目は第二次世界大戦中にゲシュタポの独房の壁に書かれたメッセージです。3番目はシレジアの民謡で、シレジアの蜂起でドイツ人に殺された息子を捜す母親の歌です。第1楽章と第3楽章は子を亡くした親の視点から、第2楽章は親と離別した子の視点から書かれているのが特徴です。ですから、この交響曲の主なテーマは、母性、絶望、苦しみを表しています。


 この交響曲はソプラノのソロ、フルート4本(ピッコロを2人でダブル演奏)、クラリネット4本(B ♭ )、ファゴット2本、コントラファゴット2本、ホルン4本(F管)、トロンボーン4本、ハープ、ピアノ、そして弦楽器で作曲されています。弦楽器の編成も指定されていて、第1、第2ヴァイオリンは各16名、12 挺のヴィオラ、及びチェロ、そして 8挺のコントラバスの構成になっています。スコアの大部分では、これらは 2 つの部分に分割され、それぞれが別の譜表に記譜されています。それらの音がさらに細分され、カノンの流れの中で大きなうねりと漣が折り重なるように音楽を作っていきます。

 この揺らぎの中に浸ることができる人はこの曲のヒーリング性が理解できるでしょう。