カラヤン 「ニーベルンクの指輪」ハイライト
曲目/
●「ラインの黄金」から
①虹の架け橋とヴァルハラ城への神々の入場 9:07
●「ヴァルキューレ」から
②「父は剣を約束してくださった」 6:25
③ヴァルキューレの騎行 6:15
④ヴォータンの告別 13:28
⑤魔の炎の音楽 3:50
●「ジークフリート」から
⑥「鍛冶の歌」 と「溶解の歌」 11:51
⑦ブリュンヒルデの目覚め 6:46
●「神々の黄昏」から
⑧「ブリュンヒルデよ、聖なる花嫁よ」 4:08
⑨ジークフリートの葬送行進曲 8:30
演奏者/(1)エッダ・モーザ(S),ジョセフィン・ヴィージー,アンナ・レイノルズ(Ms),ドナルド・グローベ,ゲルハルト・シュトルツェ(T),ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)(2)ジョン・ヴィッカーズ(T),トーマス・スチュアート(Br)(3)ヘルガ・デルネシュ(S),ジェス・トーマス,ゲルハルト・シュトルツェ(T)(4)ヘルゲ・ブリリオート(T)
指揮/ヘルベルド・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1966年8、9、12月(ヴァルキューレ)
1967年12月(ラインの黄金)
1968年12月、1969年2月(ジークフリート)
1969年10、12月、1970年1月(神々の黄昏) イエス・キリスト教会、ベルリン
P:オットー・ゲルデス
E:ギュンター・ヘルマンス
DG MUSIKFEST 420168-2
1990年代はがむしゃらにCDを購入していましたから、こんなCDを購入していたのはすっかり忘れていました。カラヤンは1966年から1969年にかけてカラヤンが主催するザルツブルク復活音楽祭での上演に先駆けて録音された、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」のセッション録音です。このため、楽劇4部作「ニーベルングの指輪」全曲を録音していますが、管弦楽曲版の名場面録音はしていません。このCDはその全曲盤から抜粋した編集盤なので独唱や合唱がまるまる入っており、フェードイン・フェードアウトもあります。日本では1996年に「カラヤン文庫」で発売されたきりのはず。これとは別に2011年に発売された「The Best1000」(2021年「クラシック百貨店」で再発)の新編集盤とは抜粋部分が違います。「二重唱」「森のささやき」「ラインの旅」「自己犠牲」が入ってない代わりに②⑥⑧が入っています。結果的に大歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(ヴォータン)の出番が多いのが特長となっています。
で、手持ちのCDはそれまでのドイツハノーファー製のプレスのものでなくアメリカプレスになっています。上の写真の右上のグラモフォンのマークの下の表示が「MUSIKFEST」となっているものがアメリカ版でヨーロッパ盤はここが「RESONANCE」の表示になっています。アメリカプレスなんですが、ハノーファー製と同じ全面アルミ蒸着になっています。
ここでもラインゴールドは第四場から抜粋で短め、ジークフリートは第二・三幕からでやや短め。そして神々の黄昏とワルキューレはバランス良くチョイスされて時間も多めですね。不自然に切れるパートがあるのは抜粋ですから目を瞑りましょう。なんと言っても歌手陣の豪華さも見逃せません。ストーリーさえわかっていれば、シーンが蘇りますね。
おそらくカラヤンは4部作の中でこの「ラインの黄金」を最も得意としたのではないでしょうか。キャリアの初期であるアーヘンの劇場では4部作全てを取り上げ、これを2回上演します。そして1951年にバイロイトで2~3回、ウィーン国立歌劇場では分かっている限り19回指揮し、そのうちの5回は4部作のチクルスでした。そしてこのザルツブルク復活音楽祭では10回、そしてメトロポリタン歌劇場で2~3回程指揮、スタジオ録音1回、映画用で1回、合わせて約37回以上指揮しています。
カラヤンが得意にしただけあり、演奏は大変充実しています。まず、ヴォータンのフィッシャー=ディースカウがすごいです。ベームの指揮による「ヴォツェック」やクライバーの指揮による「トリスタンとイゾルデ」のクルヴェナールなど彼が出演するオペラでは個性が発揮され、一瞬聴いただけで分かるくらい特徴的な美声ですが、このヴォータンはあまりそのようなことは感じません。おそらくフィッシャー=ディースカウが控えめにはしていないと思います。周りの歌手とオーケストラに圧倒され過ぎて控えめに感じてしまうのかもしれません。それでもやっぱりフィッシャー=ディースカウはすごいです。
「ラインの黄金」だけでもものすごい数を上演していますが、「ワルキューレ」はなんだかんだ言って135回程指揮しているようです。この回数はクナッパーツブッシュの「パルジファル」に匹敵するほどの回数です。一体どうしてここまで思い入れがあったのでしょうか。確かにこの「ニーベルングの指環」の制作の第1回目は「ワルキューレ」です。カラヤンがよっぽど好きだったのでしょう。それがよくうかがえるのがこの演奏です。オペラのピットに入ったことがなかったオーケストラにしては、カラヤンとベルリン・フィルの熱気がこもった演奏で、迫力があります。普通は管弦楽曲として聞くことの多い「ワルキューレの騎行」がオペラの中ではこういう具合に使われているんだということが確認できます。
「ジークフリート」は4つの中で単独で上演される機会が少ないですが、カラヤンの演奏はよりチェロ、コントラバス、各種金管楽器など重低音が充実しており、メロディを浮き立たせるよりも伴奏としての意識が強いように感じます。それでもカラヤンお得意の流れるような美音はしっかりあります。
この「神々の黄昏」は大変すばらしいです。4年の間にベルリン・フィルが進化した証拠でしょう。カラヤンの演奏は一つ一つの動機を浮き彫りにし、舞台上で何が起こっているのかを明確にしています。これは普通のライヴ録音では聴けない大きな特徴といえます。なお、ベルリン・フィルのアンサンブルはより強力になり、繊細さとダイナミックさが見事に両立されています。これは「ラインの黄金」では聴けなかった特徴なので、この葬送行進曲はあらゆる「ニーベルングの指環」全曲盤の中で最高の演奏です。これを超える重厚でダイナミックな演奏は存在しないでしょう。