『累-かさね-』で二人のファニーフェイス女優を観た | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます

 

毎年毎年、原作漫画アリ。の映画が大量放出されている感が大いにある。が、知らない元ネタが殆どなので、先入主観に惑わされることが無いのはアドバンテージか。

ちなみに、原作は「累ヶ淵」なる江戸時代の怪談モノを下敷きにしているようであり、それ自体が何度も映画化されている。


『累-かさね-』 (‘18) 112分
梗概
スランプ中の舞台女優・丹沢ニノ(土屋太鳳)の影武者として、マネージャーの羽生田(浅野忠信)が連れてきたのは淵累[ふち・かさね](芳根京子)。彼女の亡き母親も高名な美人女優(檀れい)だった。累は母親譲りの芝居巧者だが、顔に大きな傷跡があり、とかく内向する性格の持ち主。しかし、彼女が母親から譲り受けた口紅を塗り、ニノに口づけするや顔が入れ替わってニノは仰天。累の母親と旧知の仲の羽生田はそれを知っていた。

彼は累をニノの代わりにオーディションを受けさせる。抜群の演技力と、謎めいた存在のニノ=累はたちまち舞台で成功を収める。が、偽物が本物を超えるかのような事態へと傾斜していく。

小林信彦のエッセイ集「本音を申せば」のシリーズ11冊目のタイトルは「女優で観るか、監督を追うか」である。シネフィルたちにとって、これは甲乙付けがたい大命題なのだ。

個人的には、監督よりも俳優で選ぶ傾向が強いのだが。


で、本作も主演女優の共演が気になってたまらなかった。なんせ土屋太鳳芳根京子である。
では何故この二人が気になるのか。第一に、芝居の巧さ第二に、ファニーフェイス。との理由を挙げておきたい。


太鳳ちゃんは、ネット上で酷くディスられる傾向にある。その理由は知らないが、そんなの関係ない。現実、彼女は確かに演技者である。もはやそれだけで十分。もちろん、芳根も芝居ができる。であれば当然自分の中では高評価。

そして、両者揃って超個性的な顔立ちである。美人女優と呼ぶには無理があろう。このあたりも好感する要素だ。で、本編中における二人に改めて注目してみる。

 


まず太鳳ちゃん
初登場シーンは舞台。いや、下手だな。と内心いきなりげんなりしたが、それは誤解であった。スランプ中の舞台女優といふキャラだったのである。これには、文字通り声に出して唸ってしまった。


下手な芝居をしている人を巧く演じる。
これって見た目より難易度が高いだろう。だって下手過ぎたら新進気鋭の若手女優のキャラがブレてしまう。説得力を失うことは明白。微妙な匙加減を要する。

 


そしてド迫力のハイヒールで踏みにじりシーンに息を飲む。
芳根を路面になぎ倒すや背中を踏みつけ罵倒する。受け身の芳根も芳根だが、太鳳ちゃんがここまでやるとは。ついこないだまで23歳にもなってjk役なんかやってる場合じゃないだろ。と要らぬ心配をしていたが、いい子ちゃんキャラから一足飛びにビッチへと移行。頼もしい限りである。

 


クライマックスは終盤のダイナミックなダンスシーン。
これまた迫力に満ちたうえ実に妖艶。もうセーラー服には戻れない。と言わせてもらおうか。


芳根との初対面ではその容姿を嘲弄し、素晴らしい毒を吐く。マジ嫌味な女。

次いで、芳根と入れ替わるや、いかにも自信なさげでうなだれ気味。おどおどしていたのだが、時が進むや自信に満ち溢れ堂々と対人する。

そんな二面性を見事に演じきった。言ふなれば、和製『フェイス/オフ』である。ニコラス刑事とトラボルタを思い出してみてほしい。

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一方の芳根京子
鬱陶しい前髪の隙間から覗く上目使いの三白眼。黒目勝ちの大きな目が却って不気味である。常にうつむき加減で貞子を彷彿とさせ、佇まいからして負のオーラ全開。歩けども座すれども常にどんよりしている。


それが太鳳ちゃんと入れ替わるや、目つき顔つきと共に言葉遣いや身振りまでがいきなりぞんざいに。しかも顔の傷跡を堂々と晒しつつ街中を胸を張って闊歩する。この顔は私のじゃない、借り物だからいくら見られてもへいちゃらよ。みたいな。


対極の二重性をものの見事に活写した。太鳳ちゃん同様、今までの芳根京子はどこいった。と薄ら寒くなる。どっちかといへば、芳根の豹変ぶりが戦慄するほど素晴らしいと思う。

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彼女の方が太鳳ちゃんより声色が低くこれも効果的。反対に太鳳ちゃんの声はトーンが高めでやや薄っぺらく、かつ可愛らしい。舞台ではちょっと不利なんじゃなかろうか。との疑念も生じた。


疑念と言へば、芳根は醜い容姿の設定であるにもかかわらず、整った顔立ちに大きな傷の痕跡が認められるのみ。全然「うわっ。なんたる醜女かいな。あな恐ろしや」といった感じじゃあないのである。原形が別段悪くないのでやや説得力に欠けるのは否めない。


ここで、更なる疑念も。太鳳ちゃんのキャラはかなりハイレベルな超絶美人女優なる設定なんだが、愛すべきファニーフェイスの彼女には荷が重すぎるのではなかろうか。正直そこまでの顔面偏差値には達していないような気がする。つか達していない。


しかも、この二人が暗い画面では見分けがつかないことがままあった。似ているわけではないのだが、できればもっと顔の造作が根底から違っている役者を起用した方が鑑賞者には助けとなるはず。
と、まあ最後はネガティヴなことを言ってしまったが、和製『フェイス/オフ』の主演女優二人の芝居には舌を巻いた。と心底言へる。


ちなみに、芳根の小学生時代のクラスメイトに『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16)の芝居で我々から涙を搾り取った伊東蒼が扮していた。

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積極的にお薦めはしないが、我が邦を代表する若手女優の新境地を確認したい人にはもってこいと言へよう。二人の芝居にフォーカスすべし。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*スタンディング・オベーションを浴びるのはどっちだ?*