『菊とギロチン』で女相撲を初観戦した | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


今年の「第33回高崎映画祭」も気になる上映作品が当然ながら幾つもあった。『花筐-HNAGATAMI-』『止められるか、俺たちを』『鈴木家の嘘』。そしてこれ。


『菊とギロチン』 (‘17) 189分
梗概
時は大正12年(1923年)、関東大震災の年。後妻として嫁ぎ先のDV夫から逃げ出して女相撲の地方巡業に加わった花菊(木竜麻生)は、巡業先でギロチン社の中濱鐡(東出昌大)ら活動家たちと知り合う。わけても古田大次郎(寛一郎)と親しくなる。だが、無政府主義者たちは地下にもぐったり逮捕されたりで四散。小桜は家に連れ戻され、十勝川(韓英恵)は活動家と共に逃亡。親方(渋川清彦)の姪・勝虎は落命し、花菊も夫が連れ戻しにやって来た。古田のお陰で解放された花菊は一座に出戻る。

アナキストたちの熱意は若き血潮のたぎり。社会的経験値も低く、理想世界に向ける視線は極めて狭められた視野の下にある。蹉跌を経験し、年齢を重ね、己を省みて当時を回想する時に、その過激な活動は“若さゆへ”といふ一言に集約されてしまうのか。60年、70年の安保闘争とも類縁性があるだろう。

こうして映像化すると見事に青春群像劇として成立する。若者たちの人生の中で極めて鮮烈な輝きを放つ瞬間を活写。一定程度の美化もあって、彼らに対する見方は優しくなる。のだが、決して讃えているわけではない。


例へば、彼らが集めたカンパは、富裕層や企業への強請たかり以外の何物でもない。そのうえ、大半は遊蕩に消費されてしまうことも隠さない。こう見ると、現代の似非右翼よりタチが悪いとも言へるだろう。


しかも理想の旗印の下、テロルを決行。搾取する側の家族をもターゲットにするなど、人を殺めることも肯定する過激派だ。庶民の味方を標榜する割には彼らの同意を得難い活動である。


メンバーも先細り、2~3名になってもなお退く選択肢すら持たない。一種の盲目である。高所大所から俯瞰する目を失っている。自分自身でも何が正義か、何を成すべきか見失って煩悶。痛々しい。

 *韓英恵と寛一郎*
 

一方、女力士たちも自分の将来像を描けずにいる。
十年一日の如く巡業を繰り返し年齢を重ねる。マジで人生設計するのはとかく苦しい現実を直視せねばならないゆへ、あえて問題から目を背ける。日々の稽古に、興行に集中して紛らすしかない。


花菊はただひたすら“強くなりたい”と願う。さすれば自分の境遇も変えられるのではなかろうか。と、おぼろげに思う。

アナキストは“この手で世界を変革したい”と強く願う。そのためには“力”が必要。だから闘争資金を集め、爆裂弾を入手する。


彼ら彼女らはこのいびつな世界を変へる力はないことを身に染みて知ることになる。が、それでもこの先、人生は続く。フランス映画のエンディングのように。


本作を観ていると、どうしても安保闘争の時代の匂いが甦ってきてしまう。もちろん60年ではなく、東大安田講堂事件の60年代末期から70年代初頭のあの頃だが。
恐らく、同時代を生きた人はみな同じような気分になりそうな映画だと思う。


瀬々敬久監督は1960年生まれゆへ、自分とほぼ同時代を生きてきたはず。彼も運動に参加したわけではなかろうが、安保闘争の記憶を辿っているのだろうか。


ちなみに、女相撲の存在は歴史上の事実であり、何と昭和30年代まで興行されていたといふ。
以下、劇中における取組の結果をまとめておいた。


   【東】   【西】
  ×最上川    小桜○
  ○小天龍   十勝川×
  ○若錦    日照山×
  ○勝虎    与那国×
  ×花菊     玉椿○
  ○梅の里   羽黒桜×

 

それと、ギロチン社なるアナキスト結社も実在したが、女相撲との関わり合いはフィクションであろう。


主演の木竜麻生(きりゅう・まい)は愛嬌ある顔立ちでフォトジェニックな女優さんである。「第33回高崎映画祭」では、本作ではなく『鈴木家の嘘』で最優秀新進女優賞を受賞。

 *加瀬亮と*

『誰も知らない』(’04)で知ることとなった韓英恵が印象深い十勝川役。朝鮮人や琉球人への激烈なる蔑視も描かれる。

 *中央)韓英恵*

 

玉椿に扮する嘉門洋子がいつの間にやら本格女優然となっており驚いた。


 

井浦新がアナキストの一人を演じている。『止められるか、俺たちを』では若松孝二監督役で別人のようだった。

 *右)若松孝二に扮する井浦新*
誰か『止められるか、俺たちを』!?

 

東出昌大も最近多忙を極め大活躍だ。昨年公開されたのは『パンク侍、斬られて候』『寝ても覚めても』『ビブリア古書堂の事件手帖』。最近では『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』も。

 *『寝ても覚めても』*
 

佐藤浩一の息子・寛一郎も主役陣の一人として期待に応えたカタチだ。

 *『心が叫びたがってるんだ』石井杏奈、芳根京子と*
 

渋川清彦も得意の怪しい人物に扮して凄みのある演技を魅せてくれる。


 

ついでながら若錦役の女優さんが綺麗だった。

3時間超の尺だが、なかなかに興味深い作品ゆへトライしてみるのも一興だ。

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。