こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
「第33回高崎映画祭」の上映作品を特集しているわけじゃないが、一本振り返るとその他色々に言及したくなるものだ。全く個人的な覚書きみたいな感じで。
『止められるか、俺たちを』 (‘18) 119分
梗概
新宿のフーテン吉積めぐみ(門脇麦)は映画を撮るのが夢。知人の通称オバケから“若松プロダクション”を紹介してもらう。元組関係者だったという若松孝二(井浦新)を筆頭に、助監督の通称ガイラ、脚本家・沖島、監督・足立正生ら超個性的面々に加え、「映画芸術」編集長・荒井晴彦、カメラマン・高間らが合流。
ピンク映画で稼ぎ、それを資金に撮りたい映画を撮るシステムで経営。常に自転車操業だが若さと活気にあふれ、怖いもの知らずの反権力的集団であった。そんな若松と足立がカンヌ映画祭に出席。帰途、中東にてパレスチナ・ゲリラと寝食を共にし、その様子をフィルムに収めて持ち帰る。一方、自分の撮りたいものは何なのかが未だ分からないめぐみは「若松監督に刃を突き付けなければ」と、自らを奮い立たせるのだが・・・。
*最後にこのロケ地発見の情報あり〼*
昨年9/30の記事で、たまさか通りがかった高崎電気館で本作を上映していた画像をアップした。実は、全国に先駆けての先行ロードショウだったみたいだ。こんな告知もあったのだ。知らなかったが。
舞台挨拶付き特別先行上映のお知らせ
2018年9月24日(月・祝)
開場:10時30分/上映開始:11時(終了予定13時30分)
会場:高崎電気館(高崎市柳川町31)
ご登壇:井浦新さん、タモト清嵐さん、白石和彌監督
あの伝説的女性助監督を主人公に持って来るとは。意表を突いた白石和彌監督。
伝え聞いていたところでは、彼自身が“若松プロ”出身だったといふ経歴。その作風からしてどことなく得心できるような気がする。
劇中で、若松は警察を目の敵にしていることを公言して憚らない。恐らく生前(2012年没)、現実世界ではもっと過激な発言をしていたに違いない。
その薫陶を受けたせいか知らないが、白石監督も『日本で一番悪い奴ら』(‘16)や『孤狼の血』(‘18)など警察機構の腐敗や暗部を描くなど、警察への不信感をにじませるインパクト大の作品をリリースしている。
で、それはさておき助監督の吉積めぐみだが、往年の映画ウォッチャーであれば耳にしたこともある人物だろう。
日本映画製作現場における助監督は、苛烈な労働条件で知られていた。
今は昔ほどではないだろうが、当時は“監督”と名が付くも、その実体は体力勝負の“何でも屋=雑用係筆頭”みたいなもんだ。しかも、ここは18禁の“ピンク映画”製作で稼ぐ事務所。
そこへ二十歳を越えたばかりの乙女が参入。続くのか?と不審に思われるのもむべなるかな。やっぱり激務だった。性差を超えてのパワハラ・モラハラなんてものは通常モード。労働時間も決まりが無い。自尊心を毀損する容赦ない罵詈雑言。全部日常茶飯事。自分ならとっくに辞めています。
なのに、若松の形容し難い引力に惹きつけられる若者たち。狭い事務所、酒場、撮影現場に渦巻くやる気むんむんのエナジーたるや凄まじい。まさに青春群像劇。
めぐみも自作の映画を匕首の如くに若松監督の喉元に突きつけることを目指していた。
上手くいったのだろうか。そこは劇中にて確認されたし。
門脇麦がめぐみ役にベストマッチ。意外と汎用性の高い演技派でいつも感心させられるが、彼女こそ当時の若者を再現するに相応しい雰囲気を有している。
ちょっとアンニュイだったり不健全な役どころを割り当てれば他の追随を許さない。このキャラは門脇以外には考えられないほどだ。
井浦新も若松監督を見事に演じきった。サングラスで目を覆うと、演者が彼だとは気付かれないかも。口元に特徴を持たせている。
足立正生役の山本浩司の存在も味わい深く、映画の雰囲気にぴたりとはまる。好い感じのバイプレイヤーだ。
*足立正生監督:映画『絞死刑』出演*
*足立正生監督:保安課長役*
その他、未だに存命中で現役のキャラを演じた俳優達の労をねぎらいたい。
さて、本作にも70年前後のあの空気感が横溢する。服装、煙草の煙、フォークギター、シンナー、中東問題といった記号が乱舞。
中東と言へば、71年の『赤軍 - PFLP・世界戦争宣言』は、全学連から派生した過激派組織が海外へ渡航してパレスチナ・ゲリラと合流。世界革命軍として軍事教練に携わる。といった生活をともにしつつ活写したフィルムとして今も名高い。
米国映画にはベトナム戦争後遺症があるが、我が邦には安保闘争後遺症が薄く沈殿しているのかもしれない。などと、ふと思ったりして。
思い返せば、若松孝二の名を始めて目にしたのは中学時代。
高崎経済大学の学祭でのイベントで、上映リストに『胎児が密猟する時』(‘66)といふ妙なタイトルを見出した時だった。もしかしたら『壁の中の秘事』(’65)もあったかもしれない。
まあ、前者は独逸で上映された代表作だし、後者も「ベルリン国際映画祭」に出品されたので、若松作品としては欠かせぬフィルムとしてリストアップされて当然だったはず。
当時すでに70年代半ばであったが、そのキャンパスでは学生運動家によるバリケード封鎖などがまだ見られた。革マル派、中核派どっちだったのか。解放派ではないだろう。
そんな思考が脈絡もなくだだ漏れてきた。吉積めぐみはどこいった。ま、ここは覚書きといふことでご容赦を。日本映画史に関心ある人は観ておくと好いだろう。
*背後に『性賊 セックスジャック』『叛女・夢幻地獄』ポスター*
*大蔵、新東宝、ワールド映画、映倫、映画評論、アンダーグラウンドセンター、ATGなど電話番号一覧表も*
*「映画芸術」編集長:荒井晴彦(演:藤原季節)*
*今やレジェンド:大島渚監督登場(演:高岡蒼佑)*
ところで、ワンシーンだけ市内のロケ地を独力で特定できた。『LION/ライオン~25年目のただいま~』(‘16)でもその威力が発揮されていたが、今はgoogleのお陰で色々と利便性が高まったと実感す。
若松が『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』の街宣バスを見送り、画面奥に向かって歩み去る場面だ。中央の赤い看板がヒント。「高崎信用金庫」である。
ごみごみした裏路地のある市街地に立地する支店を探り、それがこの距離と角度で見える地点を割り出した。
ついでにこれも。冒頭の梗概に添付したタイトル付きの画像と見比べてほしい。
そう、左端にシンナー中毒が写る画だ。フレームの切り方でまるで別物になる。
本日も最後までお読み下さりありがとうございました。
*過激なロゴ(汗*
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