裸のラリーズ - ヘヴィアー・ザン・ア・デス・イン・ザ・ファミリー (AGS, 1995) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

裸のラリーズ - ヘヴィアー・ザン・ア・デス・イン・ザ・ファミリー (Ain't Group Sounds, 1995)
裸のラリーズ Les Rallizes Denudes - ヘヴィアー・ザン・ア・デス・イン・ザ・ファミリー Heavier Than A Death In The Family (Ain't Group Sounds, 1995)  

Expect Track 5 recorded live in 1973, unknown place, unknown date.
Compilation released by Ain't Group Sounds (2LP, 1CD) # AGS-1, 1995
Reissued by Phoenix Records UK, ASHCD3037, 2010
Originally Released (expect track 5) as the album "'77 Live-le 12 mars 1977 a Tachikawa - Most Violence Version" Private Press, Rivista Inc. SIXE-0400, August 15, 1991 (expect C2: Track 5)
All Songs written by Takashi Mizutani
Arranged by Les Rallizes Denudes
(Side 1)
A1(Track 1). 夜より深く Strung Out Deeper Than The Night - 15:32
(Side 2)
B1(Track 2). 夜の収穫者たち The Night Collectors - 8:30
B2(Track 3). 夜、暗殺者の夜 Night of The Assassins - 12:04
(Side 3)
C1(Track 4). ENTER THE MIRROR Enter The Mirror - 11:30
C2(Track 5). 造花の原野 People Can Choose - 10:34
(Side 4)
D1(Track 6). 氷の炎 Ice Fire - 16:12
[ 裸のラリーズ Les Rallizes Denudes ]
Mizutani (水谷孝) - Lead Guitar, Vocals
Nakamura Takeshi (中村武司) - Electric Guitar (expect C2)
Hiroshi (楢崎裕史) - Bass (expect C2)
Mimaki Toshirou (三巻俊郎) - Drums (expect C2)
(Track C2)

(Compilation Ain't Group Sounds "Heavier Than A Death In The Family" LP Inner Cover & Liner Cover)
 本作は200枚を越える、水谷孝(1948-2019)率いる裸のラリーズのアルバム中もっとも入手しやすい輸入盤のロングセラーになっており、ジュリアン・コープの日本のロック研究書『ジャップロック・サンプラー(Japrock Sampler)』2007では「ジャップロック・トップ50」のうち1位のフラワー・トラベリン・バンド『SATORI』(Atlantic, 1971)、2位のスピード・グルー&シンキ『イヴ-前夜-』(Atlantic, 1971)に次ぐ日本のロック名盤3位に上げられており、現在では世界的に日本のロックならではの古典的傑作として欧米リスナーからも絶大な人気を誇るアルバムです。コープの「ジャップロック」名盤リストは4位がファー・イースト・ファミリー・バンド『多元宇宙への旅』'76、5位がJ・A・シーザー『国境巡礼歌』'73、6位がLOVE LIVE LIFE + ONE『Love Will Make A Better You』'71、7位が佐藤允彦とサウンドブレーカーズ『恍惚の昭和元禄』'71、8位が芸能山城組『恐山』'76、9位が小杉武久『キャッチ・ウェイブ』'75、10位がJ・A・シーザー『邪宗門』'72で、11位がファーラウト『日本人』'73、12位が裸のラリーズ『Blind Baby Has Its Mothers Eyes』2003、13位が東京キッドブラザース『書を捨てよ街へ出よう』'71、14位がファー・イースト・ファミリー・バンド『NIPPONJIN』'75、15位がスピード・グルー&シンキ『スピード・グルー&シンキ』'72とコープの独断的趣味による偏向したものですが、ジュリアン・コープによる『ジャップロック・サンプラー』の影響は大きく、21世紀の欧米諸国のクラシック・ロック・リスナーの嗜好に一致したために、同書のコープの評価が指標になって輸入盤がリリースされロングセラーを続けるという事態になりました。ちなみに日本のロック・ギタリストの巨匠には水谷孝より1歳年長の水谷公生(1947-)氏が知られますが、GS時代の1966年に渡辺プロ最初のGSバンド、アウト・キャストでデビュー(水谷淳名義)、1968年~1969年にはアダムスで活動、スタジオ・ミュージシャンとしても数々のアーティストのアルバムに参加し、特にニューロック時代の多くのセッション・アルバムの参加ではジュリアン・コープの前掲書で「日本のフランク・ザッパ」と言わしめた水谷公生氏は水谷孝とは偶然の同姓で、血縁・姻戚関係はありません。

 本作は1991年にバンド自身による初のフルアルバムの公式リリースとなった『'67-'69 STUDIO et LIVE』、『MIZUTANI '70』『77 Live-le 12 mars 1977 a Tachikawa - Most Violence Version』の3作からもっとも評価の高い『77 Live-le 12 mars 1977 a Tachikawa - Most Violence Version』の収録曲を1枚のCD(LPでは2枚組)に収めるために曲目を組み替えて再収録したもので、タイトルはアメリカの伝説的作家ジェームズ・エイジー唯一の長編小説『家族の中の死 (Death in The Family)』から採ったものでしょう。本作の人気が高いのは、公式アルバム3作がいずれも地味なジャケットに対してジャケット・アートワークに華があることもありそうです。本作の母体となった公式アルバムの2枚組CD『'77 Live-le 12 mars 1977 a Tachikawa - Most Violence Version』での曲目は、

(Disc One)
1-1. Enter The Mirror - 11:30
1-2. 夜、暗殺者の夜 - 12:04
1-3. 氷の炎 - 16:12
1-4. 記憶は遠い - 11:35
(Disc Two)
2-1. 夜より深く - 15:32
2-2. 夜の収穫者たち - 8:30
2-3. The Last One - 25:24

 という収録曲のうち、1-4「記憶は遠い」と2-3「The Last One」を削り、Side C2(Track 5)に1973年のライヴ音源から「造花の原野(People Can Choose)」を足したものです。「造花の原野」は公式リリースの3作には収録されておらず、本作に採られたのは同曲のもっとも早い時期のライヴ音源で、のちにこの曲はぐっとテンポを落としたダウナーなヴァージョンにアレンジされますが、初演に近いこの1973年の音源ではホークウィンド1971年のアルバム『宇宙の探求(In Search of Space)』収録曲「Masters of The Universe」を原型としたとはっきりわかるアレンジで演奏されており、この名演を収録して「記憶は遠い」と長大なライヴ定番のラスト曲「The Last One」をオミットして曲順を組み替えたことで、本作収録中5曲は『'77 Live』から採りながら異なる印象のアルバム、スタジオ盤に近い性格の作品性の高いアルバムになっているのが、「The Last One」の未収録は惜しまれながら、入手のしやすさも含めて本作を2CDの『'77 Live』よりも1枚のCDに凝縮して完成度の高い作品として人気を誇っている理由でしょう。「夜、暗殺者の夜」がリトル・ペギー・マーチの「I Will Follow Him」、さらにそれをパロディにしたアモン・デュールIIの1972年のアルバム『バビロンの祭り(Carnival in Babylon)』収録曲「Hawknose Harlequin」(これはデュールIIとメンバーがかけもちしていたホークウィンドに捧げた曲でもあります)から発想された曲なのも明瞭であり、アモン・デュールII(西ドイツ)~ホークウィンド(イギリス)~裸のラリーズ(日本)とアイディアのバトンが渡されたのを示す選曲にもなっています。また本作の「夜より深く」は実際には「夜より深く Part 2」で、短調の「夜より深く Part 2」に対して「夜より深く (Part 1)」は「夜、暗殺者の夜」 と似たベース・リフによる長調の、歌詞の一部とリズム・パターンのみ共通する別曲と言えるものです。

 そんな具合に、本作はバンド黙認のコンピレーション兼再リリースのアルバムながら、1967年の結成から1998年の活動停止まで、30年間に3作の公式アルバム(それもようやく1991年になって旧録音を、同時に自主制作盤の限定発売で!)しか残さなかった日本のアンダーグラウンド・ロックを代表するバンド、しかも欧米諸国では(日本のリスナーにさえも)伝説的なサイケデリック・ギター・ロックの最大のバンドとされている裸のラリーズの、意図せずして代表作となったアルバムです。バンド側では一切関知せず、著作権登録がされていなかったために勝手に編集されたアルバムが代表作となるという事態はラリーズ以外のバンドには考えられません。ザ・ドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ジャックス、13thフロア・エレベーターズやスーサイド、クロームに匹敵するモンスター級のサイケデリック・バンド、さらにカンの『Monster Movie』'69、アモン・デュール『Psychedelic Underground』'69、タンジェリン・ドリーム『Electronic Meditation』'70、アモン・デュールII『Yeti』'70、グル・グル『UFO』'70、アシュ・ラ・テンペル『Ash Ra Tempel』'71らジャーマン・ロック(クラウトロック)の傑作群と並ぶ、サイケデリック・ロック史上に燦然と輝くアルバムです。裸のラリーズ=水谷孝氏のレッドゾーンを振り切ったギター、他のバンドではまず考えられない、地の底からささやきかけてくるようなヴォーカルをぜひご体験ください。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)