裸のラリーズ - 第四回夕焼け祭り (Live, 1977) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

裸のラリーズ - 第四回夕焼け祭り (Live, 1977)

裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés - 第四回夕焼け祭り (Private Press, 2007) :  

Released including Private Press 2CD-R "The Archives Of Dizastar Sources Vol.7", Ignuitas Darch-13+14, 2007
All Songs written by Takashi Mizutani
Arranged by Les Rallizes Dénudés
(Setlist)
1. 夜、暗殺者の夜 Night of The Assassins - 9:48
2. 黒い悲しみのロマンセ Romance of The Black Grief/Fallin' in Love With - 9:04
3. 夜の収穫者たち Reapers of The Night - 10:16
4. 白い目覚め White Waking - 6:18
5. 氷の炎 Flames of Ice - 14:47
6. The Last One - 25:01
[ 裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés ]
Mizutani (水谷孝) - lead guitar, vocals
Nakamura Takeshi (中村武司) - electric guitar
Hiroshi (楢崎裕史) - bass
Mimaki Toshirou (三巻俊郎) - drums

 1967年11月、リーダーの水谷孝(リード・ギター、ヴォーカル、1948-2019)を中心に京都の大学生たちによって結成され、翌1968年にライヴ・デビュー、以降1996年まで30年間に渡って活動した日本のサイケデリック・ロック・バンド、裸のラリーズについてはこれまでにも何度かご紹介しました。2000年代になって水谷孝の消息もほとんど途絶えたラリーズが残した公式音源は、LP時代の1973年にコンピレーション・アルバムの片面4曲、CD時代の1991年になって水谷氏自身の編集による初期から1977年までの未発表音源集が3作(うち1作は2枚組ライヴ)、1990年代にアート雑誌の付録シングル1枚と未発表スタジオ&ライヴ映像から編まれたヒストリー・ヴィデオ1作しかありません。インディー・レーベルによるヒストリー・ヴィデオを除くとそれらはすべて自主制作盤で、ヒストリー・ヴィデオも含めてすべて限定プレスで僅かな枚数しか出回らなかったため、中古市場でとんでもないプレミア価格で取引され、またレコードやCD、ヴィデオからのブートレッグ・コピー盤が出回ることになりました。さらに21世紀になると、水谷氏から電話があったという関係者からの消息証言が稀に伝わってくる一方、裸のラリーズの未発表ライヴや未完成スタジオ録音が膨大に発掘され(およそ200枚あまり)、欧米諸国でも熱狂的な人気と評価が進み、ラリーズの名はザ・シーズやザ・13thフロア・エレヴェイターズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやザ・ドアーズら、'60年代以来の数々のサイケデリック・モンスター・バンドと並ぶかそれ以上のものとして語られるようになりました。水谷氏の逝去が明らかになったのはリブログ記事通り昨年2021年の10月、裸のラリーズの公式サイト開設に伴って初めて生没年が発表され、以降公式サイト運営レーベルによって水谷氏自身が公式リリースしたアルバムが順次再発売されるアナウンスがされました。まず今年2022年8月に1973年のコンピレーション・アルバム『OZ DAYS』のリマスター拡張版(CD4枚組)がリリースされ、この10月には1991年リリースの三部作『'67-'69 STUDIO et LIVE』『MIZUTANI』『'77 LIVE』のリマスター盤が発売される予定です。ラリーズに関してもっともまとまった文献は季刊ムック「ロック画報(25)・特集 裸のラリーズ」(ブルース・インターアクション社、2006年10月刊)で、約100ページに渡って未発表写真、関係者インタビュー、ディスコグラフィー、ライヴ年表、資料集が特集掲載されています。また、昨年10月の訃報を受けてこのブログでも追悼記事を載せていますので、さらに詳しくはリブログした追悼記事をご参照ください。

 故・水谷氏は1991年リリースの自主制作盤3作をまとめるにあたって、手持ちの未発表スタジオ録音、ライヴ録音のテープ約300本、時間にして約500時間分の録音から選出したそうで、21世紀になって出回った海賊盤の発掘ライヴ、未発表スタジオ録音約200枚のほとんどは、水谷氏がラリーズの関係者やファンに貸し出したテープのコピーを素にしたものでした。今回ご紹介した1977年のロック・フェスティヴァル「第四回夕焼け祭り」(リンク先の「2nd Sunset Glow Festival」は間違いで、石川県小松市のバンド・めんたんぴんの主催した野外フェスティヴァル「夕焼け祭り」は1974年夏を第一回に、ラリーズは1975年の第二回から毎年参加しています)のライヴはサウンドボード(ミキサー卓)録音であることからも、主催者のめんたんぴん側のスタッフが録音して水谷氏に渡されたものと思われます。「ロック画報」のライヴ年表によるとこの第四回夕焼け祭りには山下洋輔トリオ、泉谷しげる、めんたんぴん、浅川マキ、大駱駝館、久保田麻琴と夕焼け楽団らが出演しており、当時の雑誌記事によるとコンサートは13日午後から始まり14日早朝に終わったそうで(そのあと14日は会場の撤収に充てられたようです)、裸のラリーズの出演は14日明け方でフェスティヴァルのトリを飾ったようです。そうした次第で出演は13日深夜とも14日早朝とも言えるので、これは前年1976年の「第三回夕焼け祭り」でも台風のため遅れて早朝に出演したラリーズが好評を博したために、めんたんぴん側もラリーズ側もあえて昨年同様に早朝の出演を選んだと考えられます。ラリーズはこの半年前、公式アルバムでもっとも人気の高い『'77 Live』(1977年3月12日・立川社会教育会館の単独コンサート)を収録しており、水谷孝以外のメンバーは流動的だったラリーズは珍しく1976年・1977年と二年間に渡ってメンバーに変動のない、安定したライヴ活動を行っていました。この1977年にはイギリスのヴァージン・レコーズからのアルバム・リリースの話が持ち上がるも、惜しくも流れています。『'77 Live』はもしこの年にヴァージン・レコーズからのアルバム制作が実現したら、という歴史の「もし……」が聴けるアルバムでもありました。

 この「第四回夕焼け祭り」のライヴ、約76分全6曲はいわばコンパクト版『'77 Live』とも言えて、30年間で約30曲のレパートリー、うちライヴの定番曲が10曲程度だったラリーズの代表曲が揃ったベスト盤的な選曲のライヴです。重心の低い『'77 Live』よりやや軽め、録音ピッチも高めに感じられる面もありますが、臨場感に溢れる素晴らしい音質で裸のラリーズの魅力を伝えてくれる名演です。と書くと、試聴リンクから音源をお聴きになった方には「これのどこが音質いいの!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ギターのフィードバック・ノイズの嵐と潰れて聴こえるリズム・セクション、深いディレイがかかって輪郭のぼやけたヴォーカルと、裸のラリーズのライヴ音源はおおむねこんなもので、オーディオ的にはラリーズの音像ほどストレンジなものはないでしょう。しかしこれがラリーズの意図した音像なのは、井戸の底から響いてくるようなこの音響がミキサー卓からのサウンドボード音源であることからも明らかです。ラリーズは1980年の山口冨士夫在籍時を例外にして、リード・ギターは水谷孝が一手に担い、リズム・ギタリストは完全にコード・ワークに徹したアンサンブルでしたが、常に数本のギターがフィードバックを起こしてドローン状に鳴っているサウンドは、アンプに立てかけた数本のオープン・チューニングのギターをエフェクト・ペダルで操作することで生み出されたものでした。加えてバンド全体の音像を団子状にミックスし、呆れるほどの過剰なエコーをかけたヴォーカルがラリーズのサウンドの酩酊感をかもし出しています。パンクやインダストリアル・ノイズ、ローファイ、グランジ、シューゲイザーやドゥーム・メタルを横断して、サイケデリック・ロックにとどまらない評価を裸のラリーズが獲得したのは、突然変異的なそのサウンド感覚でした。

 またラリーズの異端性は極端に簡素で単純な楽曲にもあり、時代的にはプログレッシヴ・ロックがもてはやされた時期にラリーズといえば、もっともキャッチーな人気曲かつ代表曲のひとつ「夜、暗殺者の夜」にしても楽曲と言えるテーマはAB=16小節の変形ブルースしかありません。この16小節の反復だけで10分近い演奏を聴かせる発想そのものが、およそロックではラリーズ以外に類例のない(ファンクを典型として、黒人音楽系のジャンルでは豊かなリズム感に支えられて成立しますが)、「壮大なミニマリズム」とも言うべき実験性になっています。1970年以来裸のラリーズのライヴの最終曲として必ず演奏される、短くても10分以上、長ければ40分あまりの大作となる(このライヴでも25分におよぶ)「The Last One」などは8小節の単一リフしかありません。究極のアンダーグラウンド・ロックとして今後もラリーズは聴かれていくでしょうが、このスタイルはあまりに極端かつ個人的で、音楽的な広がりを拒むあまりに、孤立した性格の音楽にも聴こえます。ただしラリーズの音楽の陶酔感は一度浸ると抜け出せないようなもので、呪術的なのにザ・ドアーズやジャックスのようにナルシシズムの強い閉鎖感覚にはならず、サウンドの偶然性によって聴き手に対して開かれているので、未聴の方にはぜひ体験してお試ししてほしいところです。今回ご紹介したライヴの前年、「第三回夕焼け祭り」のライヴ映像(同一メンバー、同一会場)は1曲現存していますので、以前にもご紹介した映像ですが今回も引いておきましょう。
裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés - 夜、暗殺者の夜 Night of The Assassins (MV, Live at 3rd Sunset Glow Festival, August 3, 1976)