裸のラリーズ - WILD PARTY 1975 (Live, 1975) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

裸のラリーズ - WILD PARTY 1975 (Live, 1975)


裸のラリーズ - WILD PARTY 1975 (Live, 1975) 

Recorded Live at 京都大学西部講堂, October 5, 1975 (credited, but correctly Live at 京都府立芸術会館, October 1975, date unknown)
Released including Private Press 2CD-R "The Archives Of Dizastar Sources Vol.7", Ignuitas Darch-13+14, 2007 (unofficial)
Also Released by unknown label cassette tape, 2014 (unofficial)
All Songs written by Takashi Mizutani
Arranged by Les Rallizes Dénudés
(Setlist)
1. (Side A1). Introduction - 0:19
2. (Side A2). 白い目覚め (White Waking) - 6:18
3. (Side A3). 記憶は遠い (A Memory Is Far) - 11:23
4. (Side B1). 黒い悲しみのロマンセ (Otherwise Fallin' In Love With You) - 9:04
5. (Side B2). The Last One - 9:45
Total Time: 35:56 

水谷孝 - vocals, lead guitar
中村武志 - rhythm guitar
楢崎裕史 - bass guitar
高橋シメ - drums  

 本作は2007年の非公認CD化リリースよりずっと前、1970年代後半からカセットテープで『WILD PARTY』というタイトルがつけられリスナー間に流通していた音源として知られており、一応録音データには1975年10月5日の京都大学西部講堂でのライヴ録音とされていました。しかしその後の調査で、ラリーズのリーダー・水谷孝(1948-2019)と親しく水谷の許可の上でラリーズのステージ写真を多く撮影していたカメラマン、望月彰氏の証言により、望月氏がステージ写真を残していた1975年10月(日付不詳)の京都府立芸術会館で行われたイヴェント出演からのライヴ音源という説の方が有力とされるようになりました。本作はラリーズの出演を紹介するMCに轟音のギター・インプロヴィゼーションが重なる「Introduction」から始まり、演奏曲目は4曲・収録時間36分という規模からもおそらく複数のバンドの出演したイヴェントでの短時間の持ち時間のライヴ(セット・チェンジを含めて1時間弱)からの収録と思われ、またカセットテープ原盤のマスターテープがコピーをくり返された痕跡があるためミキサー卓からのライン(サウンドボード)録音ともオーディエンス(観客客席)録音とも特定できないブートレッグ級のローファイなサウンドですが、ヘヴィー・サイケデリック曲「The Last One」のみならず、アシッド・フォーク的な楽曲「白い目覚め」「記憶は遠い」「黒い悲しみのロマンセ」でも曲(歌)をじっくりと聴かせるとともに間奏では度を越したほどの轟音フィードバック・ギターの炸裂が聴けるのが特徴です。裸のラリーズは1975年8月23日の野外ロック・フェスティヴァル「第二回夕焼け祭り」(石川県小松市のバンド、めんたんぴん主催)から、1972年以来の水谷孝(vo, lead guitar)、中村武志(rhythm guitar)、長田幹生(b)、正田俊一郎(ds)に替わって、水谷、中村、楢崎裕史(b、元だててんりゅう、頭脳警察)、高橋シメ(ds、渋谷アダン・ミュージック・サロン・スタジオのオーナー)にメンバー・チェンジをしていました。高橋シメは3か月ほどの参加で1975年10月~11月にはドラマーの座をサミーこと三巻俊郎(ラリーズが常連出演者だった、1973年閉店の吉祥寺のライヴハウス「OZ」の元スタッフ)に譲りますが、すでに1973年秋~1974年にはフォーク・ロック系ガレージ・ロックから長尺のサイケデリック・ジャム・スタイルに移行していたラリーズは、強力無比なベーシスト、非露志(HIROSHI)こと楢崎裕史の加入で一気にヘヴィーかつノイジーなサウンドに進みます。先にご紹介した1975年10月1日の渋谷アダン・スタジオ・セッションでもそれはうかがえましたが、本作は聴くに耐えるぎりぎりの録音・音質のためにいっそうラリーズの異形性が際だって聴くことができるライヴ音源です。アダン・スタジオ・セッションはまだ公式盤としてリリース可能な録音・音質のクオリティーを備えていましたが、本作はメジャー盤はおろかインディー盤でさえ、ラリーズのような特殊な存在でない限り、とうてい市場流通は望めない劣悪音質盤でしょう。非公認インディーのIgnuitas盤でさえ本作の単品発売には躊躇したか、音質・選曲・演奏内容ともに準公式盤と言えるほど充実した1977年8月の『第四回夕焼け祭り』との2枚組カップリングとしてかろうじてリリースしているほどです。

 しかし本作は、アナログLPを想定すれば「Introduction」「白い目覚め」「記憶は遠い」をA面、「黒い悲しみのロマンセ」「The Last One」をB面(カセットテープ盤ブートレッグでもそうなっています)と、実質AB面各2曲ずつでAB面とも18分ずつと、非常に均衡の取れた選曲・収録時間の配分が見られるブートレッグ・アルバムです。楽曲導入部・エンディング部のフェイド・イン、フェイド・アウトの編集の痕跡は見られますが(全曲にフェイド・アウトが顕著、特にラリーズのライヴ最後の定番曲「The Last One」は、フェイド・イン&フェイド・アウト編集が目立つため実際には倍もの時間におよんだ演奏からの編集テイクでしょう)、それだけにこの時のイヴェント出演ライヴから、アナログLPを想定した収録時間にエッセンスを凝縮したライヴ盤とも見られます。いつになくアグレッシヴに斬りこむ中村武志のリズム・ギターも聴きものであれば、ローファイな音質を気にしなければミックス・バランスも良好で、何より(タイトル『WILD PARTY』に反して)落ちついて堅実なスリーピースのリズム・セクションに、的確かつ容赦なく炸裂する水谷孝のリード・ギターが鮮明です。また静と動の対比が明確なだけに水谷のヴォーカルも丁寧で、1975年10月1日の渋谷アダン・セッションでは「記憶は遠い」に「夜明けはとっくに/お前は何を急ぐのか」と歌われていた箇所は、本作のテイクでは「夜明けはとっくに終わってしまった/お前は何を急ぐのか」と、より明確に、岡林信康/高石友也の「友よ」(「友よ/夜明け前の闇の中で/友よ/斗いの炎をもやせ/夜明けは近い/夜明けは近い/友よ/この闇の向こうには/友よ/輝く明日がある」)へのアンサー・ソングとして歌われます。水谷孝のヴォーカルは早川義夫(ジャックス)やイギー・ポップ(ストゥージス)、アラン・ヴェガ(スーサイド)、デイヴィッド・トーマス(ペル・ウヴ)、デイヴィッド・バーン(トーキング・ヘッズ)どころではない、下手にもほどがあると悪名高いものですが、ロックのヴォーカルの上手い下手は技術的な歌唱力の巧拙ではなく、独自の表現力の達成こそが本来基準となるべきものでしょう。ラリーズは基本的には循環コードのロックンロールに徹したバンドで、しかも1曲が長いのでアナログLP1枚相当の本作はややヴォリュームの点で物足りないものですが、歌詞のはっきり聴きとれる水谷孝の丁寧な歌唱、爆発的なリード・ギターによって作品性の高いブートレッグ・アルバムです。本作に関してもオリジナル音源は水谷孝本人から流出した可能性が多いにあり、その場合全曲に見られるフェイド・イン~フェイド・アウト編集も水谷孝自身によるものと考えられるだけ、ラリーズ音源はどれだけバンド側の意向をくんだものなのか、リスナーは聴けば聴くほど悩まされることになるのです。