東京の、忘れ去られたような郊外にある、たんぽぽ荘。昭和の名残りを色濃く残す、老朽化が著しい文化住宅だ。
今では、文化住宅という呼び名さえ知らない若者が多いかもしれない。だから、これからアパートと言うことにする。
たんぽぽ荘の建物は平屋で、廊下を挟んで五部屋ずつ、計十部屋ある。玄関を入って左側が101号室から105号室、右側が106号室から110号室までとなっている。
今では珍しい、四畳半一間きりだ。後付けと思われるが、一応ユニットバスが付いている。文化住宅とはいえ、今の時代、さすがに共同トイレと銭湯では、誰も借り手がないのかもしれない。
小さな流しがありガスも通っているので、食事を作ることはできる。ただ、洗濯機は置けないし、共同の洗濯機も置いていないので、洗濯はコインランドリーですることになる。都合のいいことに、隣のビルの一階がコインランドリーになっていた。
ここ近年は新しい入居者もほとんどおらず、たんぽぽ荘の部屋は半分ほどしか埋まっておらず、もうすぐ取り壊されるとの噂もある。
家賃が安いので、ここが取り壊されると、俺にとっては痛手になる。噂が嘘であることを祈りたい。
俺、平野洋二。二十八歳。
一人っ子だが、なぜか洋二と名付けられた。まあ、そんなことは、あまり気にしないタチなので、なんでかと親に尋ねたことはない。
俺は、勤めていた会社を半年前に辞め、今は派遣社員としての生活を送っている。会社を辞めると同時に、実家から飛び出して、ここに移ってきたのだ。
俺が働いていたのは、親父が経営する、婦人服を卸している会社だ。会社といっても、従業員十人足らずの零細企業に過ぎない。
本当は、違う会社に就職したかったのだが、俺に跡を継がしたかった親父は、大学を卒業すると同時に、無理やり俺を会社に入れた。
ネット通販に圧され気味の昨今、若い俺に期待をかけたのだろう。そう思って、俺もなんとか親父の役に立とうと、渋々ながら承諾した。
家庭でもワンマンな親父だったが、会社でもワンマンだった。
仕事を覚えるまでは親父の言うことを聞き、俺は頑張った。そして、それなりに仕事をこなせるようになってからは、親父にいろいろな提案をした。しかし、親父はことごとく、俺の提案を突っぱねた。
「これからは、若いもんの感性が必要だ。おまえは、それを活かして商売に励め。俺は、それに期待してるんだ」
俺を入社させる口説き文句として、親父が頻繁に使っていた言葉だ。
事あるごとにそれを引き合いに出しては、俺の意見を聞いてもらおうとしたのだが、「経験不足のおまえに、なにがわかる。俺に意見をするのは十年早い」と繰り返すだけで、いっかな聞く耳を持たなかった。
親父は、俺を買っていたのではなく、自分にもしものことがあったとき、他人の手に経営を委ねるのが嫌なだけだったのだと、あるとき俺は理解した。
それからは、ことある毎に親父と衝突し、ついに大ゲンカをしてしまった。
「辞めてしまえ」という売り言葉に、「辞めてやらあ」という買い言葉。しまいには、「勘当だ」という親父の一言で、今の俺の境遇とあい成っている。
俺が頭を下げればよかったのだろうが、親父に似たのか、俺も頑固なのだ。
まあ、くよくよしても仕方がない。暫く今の生活を続けながら、やりたいことを見つけようと思っている。
俺の部屋は、玄関を入って左から二番目の102号室だ。
101号室には、管理人を任されている古川さんが住んでいる。
本人から聞いた話によると、このたんぽぽ荘では一番の古株で、もう四十年近くも住みついているということだ。今は年金暮らしで、管理人を引き受ける代わりに、家賃をタダにしてもらっているという。
昔はやんちゃをしてたっぽいイメージがあるが、今はすごく人のいいお爺さんで、大家さんも放っておけなかったのかもしれない。
と、勝手に推測している。
俺の隣は空き部屋で、ひとつ置いた104号室には、木島さんという、四十の後半と思しき、プロレスラーのようなごつい体格にスキンヘッドという、あまりお近づきになりたくない人が住んでいる。
なにをしている人なのかは知らない。もしかしたら、ヤクザなのかも。それにしては、その年齢で、こんなアパートに住んでいるくらいだから、もしヤクザなのであれば、よほどの下っ端に違いない。
「おはようございます」や「こんばんは」と、顔を合わせると挨拶くらいはするが、木島さんからは「オウ」とか「ヨウ」と、およそ愛想のない、ドスの利いた返事が返ってくるだけだ。
無口なだけなのか、人と関わるのを避けているのか、人間嫌いなのかはわからない。
今のところ危害は加えられていないので、俺も気にしないようにしている。
CIAが開発したカプセル型爆弾(コードネーム:マジックQ)が、内部の裏切り者の手により盗まれ、東京に渡る。裏切り者は、マジックQを赤い金貨という犯罪組織に売り渡そうとしていた。CIAの大物ヒューストンは、マジックQの奪回を、今は民間人の悟と結婚して大阪に住んでいる、元CIAの凄腕のエージェントであった、モデル並みの美貌を持つカレンに依頼する。
加えて、ロシア最強の破壊工作員であるターニャも、マジックQを奪いに東京へ現れる。そして、赤い金貨からも、劉という最凶の殺し屋を東京へ送り込んでいた。
その情報を掴んだ内調は、桜井という、これも腕が立つエージェントを任務に当てた。
カレンとターニャと劉、裏の世界では世界の三凶と呼ばれて恐れられている三人が東京に集い、日本を守るためにエリートの道を捨て、傭兵稼業まで軽軽した桜井を交えて、熾烈な戦いが始まる。
裏切者は誰か、マジックQを手にするのは誰か。東京を舞台に繰り広げられる戦闘、死闘。
最後には、意外な人物の活躍が。
歩きスマホの男性にぶつかられて、電車の到着間際に線路に突き落とされて亡くなった女性。早くに両親を亡くし、その姉を親代わりとして生きてきた琴音は、その場から逃げ去った犯人に復讐を誓う。
姉の死から一年後、ふとしたことから、犯人の男と琴音は出会うことになる。
複数の歩きスマホの加害者と被害者。
歩きスマホに理解を示す人と憎悪する人。
それらの人々が交差するとき、運命の歯車は回り出す。
2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
オールスターキャストで贈る、ドタバタ活劇。
大手の優良企業に勤めていた杉田敏夫。
将来安泰を信じていた敏夫の期待は、バブルが弾けた時から裏切られた。家のローンが払えず早期退職の募集に応募するも、転職活動がうまくいかず、その頃から敏夫は荒れて、家族に当たるようになった。
そんな時、敏夫は不思議な体験をする。
幻のようなマッサージ店で、文字のポイントカードをもらう。
そこに書かれた文字の意味を理解する度に、敏夫は変わってゆく。
すべての文字を理解して、敏夫は新しい人生を送れるのか?
敏夫の運命の歯車は、幻のマッサージ店から回り出す。
夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。
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