男は砂浜に座って、穏やかに波打つ海を見つめていた。
なにか辛いことでもあったのか、男の顔には、時々苦悶の表情が浮かぶ。
時折、強い風が吹いて、男の周りの砂が宙に浮く。男は、顔を背けることなく目だけを瞑り、微細な砂が目に入るのを防いだ。
男は、砂と同化したように、膝を抱えたまま微動だにしない。なにも飲もうとしないし、なにも食べようともしない。
夕陽が水平線にかかる頃、「もしもし」と、男の後ろで声がした。
明らかに男に呼びかけているのに、男は振り向きもしない。
「君、一体こんなとこで、何をやっているんだね」
男の態度に苛立ったのか、声の主は高圧的な口調で言いながら、男の前に回った。
男は、顔を動かさず目玉だけを上に上げて、声の主を見た。
男に声をかけたのは、制服姿の警官だった。あまりにも男が微動だにしないで長時間座っているので、不審に思った近所の人が、警察に通報したのだ。
「おまわりさん」
男が、涙声で言った。
「よかった、座った突端ぎっくり腰になって、動こうにも動けないんです」
顔上げずに、苦しそうな声で言う。
男の態度を見て嘘ではなさそうだと確信した警官は、救急車を呼んだ。
男がストレッチャーに乗せられる。男の座っていた後を見ると、砂が濡れている。警官は、救急隊員に気付かれぬよう、そうっと足で周りの砂を掛けて、濡れた砂を隠した。
歩きスマホの男性にぶつかられて、電車の到着間際に線路に突き落とされて亡くなった女性。早くに両親を亡くし、その姉を親代わりとして生きてきた琴音は、その名から逃げ去った犯人に復讐を誓う。
姉の死から一年後、ふとしたことから、犯人の男と琴音は出会うことになる。
複数の歩きスマホの加害者と被害者。
歩きスマホに理解を示す人と憎悪する人。
それらの人々が交差するとき、運命の歯車は回り出す。
2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
オールスターキャストで贈る、ドタバタ活劇。
大手の優良企業に勤めていた杉田敏夫。
将来安泰を信じていた敏夫の期待は、バブルが弾けた時から裏切られた。家のローンが払えず早期退職の募集に応募するも、転職活動がうまくいかず、その頃から敏夫は荒れて、家族に当たるようになった。
そんな時、敏夫は不思議な体験をする。
幻のようなマッサージ店で、文字のポイントカードをもらう。
そこに書かれた文字の意味を理解する度に、敏夫は変わってゆく。
すべての文字を理解して、敏夫は新しい人生を送れるのか?
敏夫の運命の歯車は、幻のマッサージ店から回り出す。
夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。
ふとしたことから知り合った、中堅の会社に勤める健一と、売れない劇団員の麗の、恋の行方は?
会社が倒産し、自棄になっていた男の前に現れた一匹の黒い仔猫。
無二の友との出会い、予期せぬ人との再会。
その仔猫を拾ったことから、男の人生は変わっていった。
小さな命が織りなす、男の成長と再生の物語。
奥さんが、元CIAのトップシークレットに属する、ブロンド美人の殺し屋。
旦那は、冴えない正真正銘、日本の民間人。
そんな凸凹コンビが、CIAが開発中に盗まれた、人類をも滅ぼしかねない物の奪還に動く。
ロシア最凶の女戦士と、凶悪な犯罪組織の守り神。
世界の三凶と呼ばれて、裏の世界で恐れられている三人が激突する。
果たして、勝者は誰か?
奪われた物は誰の手に?