北国の冬は長い。
空が暖かな陽射しを取り戻し、深く積もった雪が解け始めるまで、なにもかもが静寂に包まれる。
ただ、雪を踏みしめる音だけが、静かな空間に響く。
ギュッギュッという、なんともいえぬ音。
東京でも毎年1回や2回は雪が積もるが、わずか数センチの積雪では、あの小気味のよい音は出ない。加えて、雪質も悪い。
都会暮らしに憧れて故郷を飛び出してきた俺だが、冬になると、あの雪を踏む音が懐かしくて堪らない。
人間なんて、実に勝手なものだ。
いや、勝手なのは俺だけか。
ないものに憧れるあまりに、今ある大切なものを見失ってしまう。
そして、大切なものを捨てて、自ら抱いた幻想の世界に旅立ってゆく。
それが幻想だと気付いたとき、元に戻りたいと思うが、その時には、もう後戻りができない状態に陥っている。後戻りできないのではない。戻る勇気がないだけなのだ。
だから、現実に目をつぶり、また幻想を抱くことになる。
その過ちを、何度、俺は繰り返してきたことか。
とことん落ちるとこまで落ちて、俺はそのことに気付いた。
今からでも遅くない。もう一度故郷に戻ってやり直そう。
そう思うと、随分気が楽になり、本当にやり直せそうな気がした。
歩きスマホの男性にぶつかられて、電車の到着間際に線路に突き落とされて亡くなった女性。早くに両親を亡くし、その姉を親代わりとして生きてきた琴音は、その名から逃げ去った犯人に復讐を誓う。
姉の死から一年後、ふとしたことから、犯人の男と琴音は出会うことになる。
複数の歩きスマホの加害者と被害者。
歩きスマホに理解を示す人と憎悪する人。
それらの人々が交差するとき、運命の歯車は回り出す。
2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
オールスターキャストで贈る、ドタバタ活劇。
大手の優良企業に勤めていた杉田敏夫。
将来安泰を信じていた敏夫の期待は、バブルが弾けた時から裏切られた。家のローンが払えず早期退職の募集に応募するも、転職活動がうまくいかず、その頃から敏夫は荒れて、家族に当たるようになった。
そんな時、敏夫は不思議な体験をする。
幻のようなマッサージ店で、文字のポイントカードをもらう。
そこに書かれた文字の意味を理解する度に、敏夫は変わってゆく。
すべての文字を理解して、敏夫は新しい人生を送れるのか?
敏夫の運命の歯車は、幻のマッサージ店から回り出す。
夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。
ふとしたことから知り合った、中堅の会社に勤める健一と、売れない劇団員の麗の、恋の行方は?
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