有名な音響メーカーでスピーカーなどの開発をしているUさんの話
Uさんは山が好きで、休みの日は一人で登山に行くことが多いそうですが、
行くのは日本アルプスなどの高山ではなく、あまり有名ではない山だ
そうです。ただし条件があって、それは山頂に寺や神社が
祀られている山。そういうとこは日本各地にありますからね。
そこでお詣りをして写真を撮ってくる。そういう趣味だったんです。
その日Uさんは山の麓にあるロッジに泊まっていたんだそうです。
ロッジに車で着いたのが昼頃、それから山登りを始めたんですが、
傾斜はなだらかなものの、ゴツゴツとした岩が連なっており、
途中にはクサリ場などもあったそうです。で、八合目付近まで来たとき、
一人の白装束を着た人が岩場をぴょんぴょん跳ぶようにして降りてくる。
山は下りが優先と言われてますから、Uさんは横の岩になんとか

移ったんですが、その人の姿をよく見て仰天しました。80歳をだいぶ
過ぎたように見えるしわだらけの婆さんだったんです。婆さんは
まるで十代の若者のような軽い足取りで危なげなく山を下ってきて、
道をゆずったUさんに軽く頭を下げたそうですが、すれ違うときに
Uさんの耳元で「神さんが鹿を欲しがっとるから、明日捧げんさい」と
つぶやいたんだそうです。これはまったく意味不明で、聞き返そうと
思ったときには、婆さんの姿はずっと下まで降りていたということでした。
わけがわからないながらも、Uさんは山頂まで登り、簡素な社殿に
お詣りしたそうです。そして5時ころに宿に帰り着きました。そしたら
ロッジのその日の夕食は鹿のステーキがメインで、Uさんは驚いて
ロッジのオーナーに「これ、夕食のメニューって前から決まってるんですか?」

と聞いたそうです。ロッジのオーナーは「メニューはその日市場で材料を
仕入れるときに決めるんだけど、鹿肉はめったに市場に出ないからね。
前から決まってるわけではないですよ」と言っていたそうです。
Uさんは、「ははあ、山であの婆さんが言ってたのは、もしかしてこれのことか」
そう思って、鹿のステーキは食べずに残し、翌朝にもう一度登山をして
山頂の神社にその鹿肉を捧げたんだそうです。ちなみに、婆さんは

そのロッジに泊まるということはなかったそうです。

りんごの栽培農家をしているMさんの話
Mさんは青森県在住の果樹園経営者で、自分はよく青森の恐山に行くんですが、
そのときに縁あって知り合いになった方です。先日、このMさんと飲む機会があり、
そこでMさんに「リンゴ栽培をやってて不思議なこととかありますか」と聞いて
みたんです。Mさんは「うーん、あんまりないなあ。あ、でも、あれがあるか」
と言い「1回だけだけど、小人を見たことがあるんだ。こんなんでいいかい」
「あ、ぜひお聞かせください」 「その日はね、台風の季節ではないんだけど、
風が強くて。だいぶリンゴが落ちそうだったんで、心配で夜中に園を見回りに
行ったんだよ」 「はい」 「そしたら、やはりいくつか木から落ちてる
リンゴがあって、でももうだいぶ大きくなってたからそれらはジュースに
回せそうだったんだ。でね、懐中電灯でリンゴの木を一本一本照らして
見て回ってたら、低い枝の先のほうになってるリンゴがなんか変だったんだよ」

「はい」 「で、近づいてみたら、リンゴの実全体に小人がびたっと体を
くっつけて、しかも小さな手に小さなストローみたいなのを持って、
リンゴの実に差して中身を吸ってたんだよ」 「えー、信じがたいですね。
虫とかを見間違えたんじゃないですか」 「いや、リンゴは傷つかないよう、
一つずつ紙で覆ってあるんだが、それが剥がされてた。しかも、
その小人、われわれがイメージする姿にそっくりだったんだよ」
「というと?」 「体は赤と緑の縞の服を着てて、しかも頭には同じ絵柄の
三角帽をかぶってたんだよ」 「えー、それでどうなりました?」
「俺が近づいていくと、小人は懐中電灯の光の中でふり向いて、しまったという
顔をして、羽もないのに飛んで逃げってってしまったんだよ」
「うーん、不思議ですね。それからは?」 「1回も見たことはないよ」

スポーツジムでインストラクターをしているOさんとい女性から聞いた話
Oさんはスポーツジムで、筋トレやダイエットの指導をしていて、お客さんに
合わせたトレーニング・メニューを考えたりしているそうです。で、そのジムは
夜間も会員制でやってたんですが、新しく会員になったばかりの男性が
やってきたんです。その男性は老人で年齢は70代後半、だからOさんは
軽いメニューを考えたんだそうですが、その男性、前の人がいなくなったばかりの
ベンチプレス台に向かったんです。そこには100kg近いダンベルがセット
されてて、この老人には無理だろう、ウエイトを調節するだろうと思ってたら、
なんとそのまま台に寝転んじゃったそうです。「あー〇〇さん、その重さじゃ
無理ですよ」Oさんはそう言ったんですが、そのまま老人はバーベルを上げようと

して、でも重すぎて上がらなかったんです。「今、ウエイトを変えますから」

Oさんがそう言ったとき、老人は突然「キヨコ!」と叫んで、そしたら見事に
バーベルが持ち上がったんだそうです。Oさんは「すごいですね。でも危ないから
やめてください」そう言って補助をしてバーベルを戻しました。
それにしても不思議だったので、「今、キヨコとおっしゃいましたよね。
それ、どういう意味なんですか?」と聞いたそうです。すると老人は笑って、
「いやいや、お恥ずかしい。キヨコというのは女房の名前なんだ。もう20年も
前に死んだけどな。これがまた怖い女で・・・」と言ったんだそうです。
その後、老人が帰ってから、無人のジムの中で、Oさんにも無理な重さの
バーベルをセットして、ためしに「キヨコ!」と叫びながら
上げてみたんだそうですが、やっぱり上がらなかったということでした。
その呪文、もしかしたらその老人だけに効くのかもしれません。

ダム管理士をしているKさんの話
Kさんは国土交通省の役人で、ダム管理の仕事をしています。この仕事、
ふだんは暇なんですが、大雨が続いたりすると、放水の関係で事務所に
泊まり込みになることがあるんだそうです。この間お会いしたときに
「この仕事をしてて怖いことってありますか?」と聞いてみたんです。
そしたら、「・・・あることはあるけど、信じてはもらえないだろうねえ。
あまりにありえないようなことだから」 「いやいや信じますよ。ぜひ
お聞かせください」ちなみにKさんは謹厳実直を絵に書いたような方です。
「あのね、私らの仕事、ときどきだがダムの壁を水中から点検することが
あるんです。昔は潜水士を雇って見てもらってましたが、最近はいいものが
できました」 「なんです?」 「水中ドローンです。カメラ付きの自動運転。
画像がモニターに送られてくるから楽なもんです」 「なるほど」

「で、ある大雨のとき、もう一人の仲間と事務所に泊まり込んでたんです。
ここではないですけどね。でね、あまりに増水してるんで、これは少しずつ
放水しないと危ないと思ったんです」 「はい」 「で、その作業をしてると、
突然モニターがついたんです。いつもは水中に待機させてるドローンが
水中を映し出してる。しかもライトもついててね。そんな操作してないのに」
「不思議ですね」 「でね、普通はコンクリ壁のほうを向いてるんですが、
ダム湖の中央のほうを映し出してて。といっても夜だし天候も悪いから、
ライトの光は遠くまでは届かない。せいぜい数mですよ」 「はい」
「そしたらね、モニターに変なものが映ったんです」 「何でしたか?」
「いまだに自分でも信じられないんだけど、地蔵様です。それも5,6体。
輪になってグルグル回ってました」 「ええ?」

「しかもです。はっきりは見えなかったですが、その地蔵様の真ん中に錦鯉
みたいな色のものがいたんです。何だったと思います?」 「いや、わかりません」
「女の子に見えました。しかも和服、浴衣なのかな・・・を着た女の子ですよ」
「えー、信じられませんよ」 「そう言わないでっていいましたよね。
そりゃ私だって信じられません」 「でも、水の中のことですよね」
「そう。だけど、もう一人の仲間も見てるんです」 「で、どうしたんです」
「どうとかできるわけがないでしょう」 「それはそうですね」
「まあ、おかしなものを見たのはこれ1回きりだけですけど。ああ、そうそう、
そこのダム湖は昭和30年代にできて、村が一つ沈んでるんです」