今日はこういうお題でいきます。オカルト論です。

さて、今日紹介するのは、ロン・ワイアットという人ですが、
日本ではあまり名を知られた人物ではありませんね。

アメリカでも、本は出しているものの、一部で有名という感じでしょうか。
これは、この人物がもう25年前に亡くなっているということもあるでしょう。
ロンは愛称で、フルネームはロナルド・エルドン・ワイアットです。
(Ronald Eldon Wyatt1933-1999)

本業は麻酔技師のようですが、アマチュア考古学者として数冊の本を
書いています。金髪でかなりの長身、きわめて格好いい人でした。
日本の「インディアナ・ジョーンズ」のWikiには書いてなかったんですが、
アメリカではそのモデルの一人として考えている人も多いです。

ロン・ワイアットの著作


主な業績としては、イエス・キリストの墓と契約のアークの発掘。
ノアの箱舟の発掘、モーゼの紅海渡海の海底痕跡発見 (笑)などです。
キリストの墓の話もたいへんオカルト的には興味深いものですが、
(彼とそのグループはキリストの血痕を採取し、その染色体分析から、
キリストが処女懐胎されたことを証明したと主張しています)

今回は、ノアの箱舟のほうを少し見てみたいと思います。
まず、ノアの箱舟(方舟)については、みなさんご存知でしょう。
旧約聖書の『創世記』で、人々の堕落に怒った神が、善良に生きるノアと
その家族以外を滅ぼすために大洪水を引き起こし、ノアには預言を与えて

巨大な箱舟を造らせ、多種の動物を乗せて洪水期間中を漂流し、
最後はアララット山付近に流れ着いた、とする伝説です。オカルト的には、
ノアの箱舟のようなものは聖遺物のジャンルに含まれます。
有名なところでは、英国のアーサー王伝説に出てくる聖杯、

ノアの箱舟のテーマパーク 訪れているのは創造論の人々が多い


ヒトラーも欲したというロンギヌスの槍(キリスト処刑時に脇腹を刺した槍)
聖骸布、聖釘などのことですね。キリスト磔の十字架にいたっては、
すべてを合計すると何十本分にもなるほど各地にあります。
・・・このあたりを説明していると、本一冊書けるほど長くなって
しまいますので、簡潔にいきます。

ノアの箱舟の漂着先の候補としては大きく2ヶ所あって、一つは
アララット山の山頂近く、標高4000mを超える氷河中に埋もれた
ものです。衛星から撮影した次の画像が有名です。測定の結果、
船の各部の大きさが聖書の記述とピタリ合っているんだそうです。

ノアの箱舟伝説自体は、古代にメソポタミア地方周辺で実際にあった
洪水の記憶が元になっている可能性は高いですが、アララット山の
この高さまで水がいくことは、科学的にはどうやってもありえません。
サイエンス・エンタテイナーを名乗る日本の飛鳥昭雄氏は、
このときの水は月から来たと主張されていますが・・・

アララット山中の氷結した箱舟?


もう一つの候補は、アララット山から約30km離れたところにある、
通称「箱舟地形」と呼ばれるもので、こちらは観光客でも行けるところです。
まあ、聖書には漂着地点が「アララットの山々」のように記されているので、
ここだから間違いだということもないんですが。

箱舟地形 上の写真よりはだいぶ低地


箱舟地形の調査報告


ロンが調査したのはこの箱舟地形で、巨大な石の碇(いかり)や
リベットを発掘し、箱舟の内部構造も明らかにしたとされます。
ただしこれらの調査結果は、残念ながら本国アメリカの考古学界では
まったく認められていないようです。石の碇は個人の墓標、
レーダー調査はダウジング (笑)であったという疑惑が持たれています。

英文Wikiによれば、彼はセブンスデーアドベンチスト教会という、
キリスト教プロテスタントの会派に長年所属(破門されたようです)
していて、これは有名なキリスト教原理主義団体です。
聖書にある記述はすべてが真実である、という教えを広めていて、
ロンもそれに従って精力的に活動していたわけです。

前に、「生き残るオカルト」という項で書きましたが、アメリカには、
「創造科学 インテリジェント・デザイン」という考え方があり、
聖書の記述はすべてが真実である、というところから出発して、
ひじょうな熱意を持って、あらゆることを
この立場から説明しようとする人物がいます。

飛鳥昭雄氏
飛鳥昭雄-画像

ロナルド・ワイアットもその一人ですし、
前記した日本の飛鳥昭雄氏もモルモン教の信徒です。
統計によれば、アメリカでは進化論を信じる人は40%で、
信じないという人も同数程度いるんですね。

学校で進化論を教えてはいけない、とする裁判がいくつも
起こされていて、進化論を教えるなら、インテリジェント・デザインも
平行して教えるべきだ、という主張も各州で見られます。
カトリック教会では進化論はけして否定されてはいないんですが、
プロテスタントの強いアメリカでは、そういう現状があるわけです。

「キリストの墓」を発掘するワイアット


最近話題のノーベル賞受賞者を200人以上輩出しているアメリカですが、
このような側面も持っているんですね。ISISによる、
シリアのパルミラ遺跡の破壊がありました。これは、
「偶像崇拝を禁じる」というイスラムの教えによるものですが、
(ムハンマドが異教の神像を叩き壊した逸話は有名ですね)

はっきり言って蛮行です。ただ、キリスト教原理主義者の行動というのは、
関心が少ないせいもあるでしょうが、日本ではあまり報道されていません。
この項で記しているロン・ワイアットも、その発掘の多くは
合法的な許可を得ているものではありません。

自分は考古学を専攻していたので、勝手な発掘には当然反対の立場ですが、
じつはロン・ワイアットのことは嫌いではありません。
この人には人間的な魅力があるんですね。興味を持たれた方は、
英文文献をあたってみてください。 
ロン・ワイアット公式HP

ワイアット晩年の勇姿 右側の石がノアの箱舟の碇とされるものですが、
上部の穴にロープや鎖を通して長時間吊るすのは、石の重さからして不可能に見えます