EMC社,Centera製品を発表
2002年4月、EMC社はCenteraを発表した。
Centeraのキーワード
・CAS (Content Addressed Storage)
・RAIN
・Value of Information (情報の価値)
・Fixed Contents
・Digital Finger Print
・長期データ保管
・多くのISVとのパートナーシップ
・自律管理 (Self Management)
・ATAディスク利用でビット単価が安い
Centeraに対する反応
・CASはNASやSAN以外の第3のストレージ製品分野である。
・CASは、時間が経っても変化や更新が無い、もしくは変化や更新があってはならないFixed Content の長期保管に最適なストレージである。例えばX線写真や医療記録など。
・データのライフサイクル管理に向いたストレージである。情報の価値が下がったら安価なCASにデータを移すという階層ストレージの概念を実現する。
しかし発表当時でも規制準拠についての言及は殆ど聞かれなかった。
---
Centeraが発表されました。
ストレージ・システムの内部アーキテクチャやコンセプト,ターゲット市場などなど,Centeraは様々な点でとても斬新な製品だと私は思いました。
今でもPCサーバを寄せ集めたものが高信頼性を要するストレージ製品として売れている点を不思議に思います。
しかし現実は,Googleのファイル・システムの例にもあるように,特定用途ではPCサーバの寄せ集めが効果を発揮しています。
1台1台のサーバが自律的に動作して,全体で一つの巨大なストレージ・プールを構成するなんて話,技術者は一度は作ってみたいと興味を覚えるのではないでしょうか。
それを既に製品として成り立て売り上げを出している点がすごいと思います。
データを入れるだけなら従来のストレージの延長線でアーキテクチャを考えても妥当な答えは出るのですから。
Centeraのキーワード
・CAS (Content Addressed Storage)
・RAIN
・Value of Information (情報の価値)
・Fixed Contents
・Digital Finger Print
・長期データ保管
・多くのISVとのパートナーシップ
・自律管理 (Self Management)
・ATAディスク利用でビット単価が安い
Centeraに対する反応
・CASはNASやSAN以外の第3のストレージ製品分野である。
・CASは、時間が経っても変化や更新が無い、もしくは変化や更新があってはならないFixed Content の長期保管に最適なストレージである。例えばX線写真や医療記録など。
・データのライフサイクル管理に向いたストレージである。情報の価値が下がったら安価なCASにデータを移すという階層ストレージの概念を実現する。
しかし発表当時でも規制準拠についての言及は殆ど聞かれなかった。
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Centeraが発表されました。
ストレージ・システムの内部アーキテクチャやコンセプト,ターゲット市場などなど,Centeraは様々な点でとても斬新な製品だと私は思いました。
今でもPCサーバを寄せ集めたものが高信頼性を要するストレージ製品として売れている点を不思議に思います。
しかし現実は,Googleのファイル・システムの例にもあるように,特定用途ではPCサーバの寄せ集めが効果を発揮しています。
1台1台のサーバが自律的に動作して,全体で一つの巨大なストレージ・プールを構成するなんて話,技術者は一度は作ってみたいと興味を覚えるのではないでしょうか。
それを既に製品として成り立て売り上げを出している点がすごいと思います。
データを入れるだけなら従来のストレージの延長線でアーキテクチャを考えても妥当な答えは出るのですから。
EMC社,FilePool社を買収
2001年4月、EMC社はFilePool社を$50Mで買収した。
EMC社は発表資料の中でFilePoolの買収目的を、「Software CapabilitiesとIntellectual Capitalの拡大」、という以外に詳細を明らかにしなかった。
ESGの分析
ストレージ専門のアナリストであるESG (Enterprise Storage Group) による分析は以下の通りであった。
・コンテンツ・デリバリ分野が将来ストレージにとって重要になりつつあるのではないか
・Unstructured Dataのデジタル化がEMC社にとって新しいビジネス・チャンスになるのではないか
ESGの分析レポートには,規制準拠を背景としたファイル単位のデータ長期保管ニーズに関する言及は見当たらなかった。
---
私はCentera製品が発表されるまで,EMC社がFile Poolを買収した事実も知りませんでした。
今読んでもEMCのPress Releaseは実にあっさりしたもので,何をやろうとしているのか読み取れません。
EMC社は発表資料の中でFilePoolの買収目的を、「Software CapabilitiesとIntellectual Capitalの拡大」、という以外に詳細を明らかにしなかった。
ESGの分析
ストレージ専門のアナリストであるESG (Enterprise Storage Group) による分析は以下の通りであった。
・コンテンツ・デリバリ分野が将来ストレージにとって重要になりつつあるのではないか
・Unstructured Dataのデジタル化がEMC社にとって新しいビジネス・チャンスになるのではないか
ESGの分析レポートには,規制準拠を背景としたファイル単位のデータ長期保管ニーズに関する言及は見当たらなかった。
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私はCentera製品が発表されるまで,EMC社がFile Poolを買収した事実も知りませんでした。
今読んでもEMCのPress Releaseは実にあっさりしたもので,何をやろうとしているのか読み取れません。
2001年,RAIN技術の売り込みにフォーカス
2001年1月頃から、FilePool社は製品のポジショニングやマーケティング戦略を変更した。
これまでe-Clipを使ったインターネット上でのファイル交換の仕組みを中心に宣伝してきたのに対し、2001年1月頃からはPool機能を実現する技術に比重を置くようになった。
具体的にはストレージ市場をターゲットに以下の技術や製品,サービスを宣伝するようになった。
・RAIN (Redundant Array of Inexpensive Nodes) アーキテクチャ
・CAN (Content Addressed Network)
・Managed Storage Services
RAINアーキテクチャ
FilePool社はPool機能を実現する基礎技術をRAINと呼んだ。RAINとは複数のPCサーバを冗長化を持たせて束ね,仮想的な巨大ストレージ・プールに見せかける技術である。
CAN
FilePool社はRAINで実現するコンテンツ用ネットワークをCANと呼んだ。当時ストレージ業界でホットであったNASやSANと自社のCANを比較し,CANの優位点を宣伝した。
CANのアドバンテージ
- ビット単価が安い
- 容量のスケーラビリティが高い
- Self-Healing技術による管理コストの低減
- データにアクセスする際にデータの場所を指定するのではなく,データのコンテンツ自身をアドレスに使う。これによりデータの物理的な場所を気にせずにデータにアクセスできる
CANの用途
- オンライン・アーカイブ
- コンテンツ・ディストリビューション
- メールの付属ファイルやファイルの共有
- ドキュメントやスキャン画像の保管
FilePool社は,自社ソフトウェアを利用するためのSDKやAPIの提供も行った。
Managed Storage Services
これまで提供していたezAttachサービスはManaged Storage Servicesと呼ぶようになった。
当時ストレージ業界ではSSP (Storage Service Provider) と呼ぶストレージのアウトソーシング・サービスが注目を浴びていた。
---
いよいよRAINやContent Addressedという言葉が出てきます。EMCはCentera発表時にこれらのを使いました。
ただこの時点ではまだアーカイブ専用ストレージにフォーカスできていません。何にでも使えるよ,だからと言って特にこれに使えるというわけでもない,といった感じです。
これまでe-Clipを使ったインターネット上でのファイル交換の仕組みを中心に宣伝してきたのに対し、2001年1月頃からはPool機能を実現する技術に比重を置くようになった。
具体的にはストレージ市場をターゲットに以下の技術や製品,サービスを宣伝するようになった。
・RAIN (Redundant Array of Inexpensive Nodes) アーキテクチャ
・CAN (Content Addressed Network)
・Managed Storage Services
RAINアーキテクチャ
FilePool社はPool機能を実現する基礎技術をRAINと呼んだ。RAINとは複数のPCサーバを冗長化を持たせて束ね,仮想的な巨大ストレージ・プールに見せかける技術である。
CAN
FilePool社はRAINで実現するコンテンツ用ネットワークをCANと呼んだ。当時ストレージ業界でホットであったNASやSANと自社のCANを比較し,CANの優位点を宣伝した。
CANのアドバンテージ
- ビット単価が安い
- 容量のスケーラビリティが高い
- Self-Healing技術による管理コストの低減
- データにアクセスする際にデータの場所を指定するのではなく,データのコンテンツ自身をアドレスに使う。これによりデータの物理的な場所を気にせずにデータにアクセスできる
CANの用途
- オンライン・アーカイブ
- コンテンツ・ディストリビューション
- メールの付属ファイルやファイルの共有
- ドキュメントやスキャン画像の保管
FilePool社は,自社ソフトウェアを利用するためのSDKやAPIの提供も行った。
Managed Storage Services
これまで提供していたezAttachサービスはManaged Storage Servicesと呼ぶようになった。
当時ストレージ業界ではSSP (Storage Service Provider) と呼ぶストレージのアウトソーシング・サービスが注目を浴びていた。
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いよいよRAINやContent Addressedという言葉が出てきます。EMCはCentera発表時にこれらのを使いました。
ただこの時点ではまだアーカイブ専用ストレージにフォーカスできていません。何にでも使えるよ,だからと言って特にこれに使えるというわけでもない,といった感じです。
2000年,ezAttachサービス開始
2000年6月にはezAttachと呼ぶインターネット・ストレージ・サービスを発表した。
本サービスはFilePool社の製品や技術を宣伝するためのプロモーション・サービスであった。
FilePool社自身が無料のインターネット・ストレージを提供し、そこにデータを保管するためのエージェント・ソフトウェアを自社のWebサイトから無料でダウンロードできるようにした。
---
このサービスについては日本語のWebページでも紹介していました。ユーザ間でのファイル交換に使うという目的だったようです。
本サービスはFilePool社の製品や技術を宣伝するためのプロモーション・サービスであった。
FilePool社自身が無料のインターネット・ストレージを提供し、そこにデータを保管するためのエージェント・ソフトウェアを自社のWebサイトから無料でダウンロードできるようにした。
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このサービスについては日本語のWebページでも紹介していました。ユーザ間でのファイル交換に使うという目的だったようです。
1999年,eClip & Pool発表
1999年1月にe-Clip&Poolという製品を発表した。本製品はInternet上でデータの保管と共有を行うための仕組みを提供した。
e-Clipとは
e-Clipとはデータにアクセスするためのリンク情報である。
Emailに巨大サイズのファイルを添付して相手に送付することは,当時メール・ボックスの容量制限や回線の帯域が細かったため難しかった。
そこで送信者はInternet上のPoolにファイルを一時的に保管し、相手にはe-ClipをEmailに添付することでファイルへのアクセス方法を伝える。
これにより巨大ファイルをインターネット上で手軽に交換できるようになる。
Poolとは
Poolとは,インターネットを介してデータを入れるストレージである。e-Clipを使ってデータを一意に識別できる。
File Pool社は,PCがe-Clipを使ってPool内のデータにアクセスするためのエージェント・ソフトウェアと,Pool機能を提供するサーバ・ソフトウェアを製品として販売した。
---
記憶は定かではありませんが,e-Clipの考え方はどこかで聞いたような覚えがあります。
e-Clipの考え方はその後のCenteraにも色濃く引き継がれています。データ毎にハッシュ値を計算し,ハッシュ値をデータにアクセスするためのIDとする考え方です。
実際はデータのハッシュ値をそのまま使うのではなく,メタ・データとセットにした物に対してさらにハッシュ値を計算し,それをIDに使います。
e-Clipとは
e-Clipとはデータにアクセスするためのリンク情報である。
Emailに巨大サイズのファイルを添付して相手に送付することは,当時メール・ボックスの容量制限や回線の帯域が細かったため難しかった。
そこで送信者はInternet上のPoolにファイルを一時的に保管し、相手にはe-ClipをEmailに添付することでファイルへのアクセス方法を伝える。
これにより巨大ファイルをインターネット上で手軽に交換できるようになる。
Poolとは
Poolとは,インターネットを介してデータを入れるストレージである。e-Clipを使ってデータを一意に識別できる。
File Pool社は,PCがe-Clipを使ってPool内のデータにアクセスするためのエージェント・ソフトウェアと,Pool機能を提供するサーバ・ソフトウェアを製品として販売した。
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記憶は定かではありませんが,e-Clipの考え方はどこかで聞いたような覚えがあります。
e-Clipの考え方はその後のCenteraにも色濃く引き継がれています。データ毎にハッシュ値を計算し,ハッシュ値をデータにアクセスするためのIDとする考え方です。
実際はデータのハッシュ値をそのまま使うのではなく,メタ・データとセットにした物に対してさらにハッシュ値を計算し,それをIDに使います。
File Pool社ができるまで
1991年,Wave Research社設立
1991年、FilePool社の前身であるWave Research社がベルギーに設立された。Wave Research社はMacintosh Networks向けのソフトウェア・ディストリビューション製品を開発していた。
1996年,インターネット・ファイル・ディストリビューションにフォーカス
1996年にInstitutes for Science and Technology of the Flemish GovernmentからPrivate Fundを受け、開発の方向性をインターネット・ファイル・ディストリビューション製品へと変更した。
1996年~1998年,技術開発に専念
Wave Research社は1996年から1998年末まで技術開発に専念した。
1998年,社名をFilePoolに変更
1998年に社名をFilePoolと改めた。続く1999年にVenture Capitalから$10Mの投資を受け、社名をFilePool, Inc.とした。
---
File Pool社に関する情報を集めるのは苦労しました。
Web Archiveだけでなく,既に消えたニュース・サイトの過去記事をGoogleのキャッシュから少しづつ拾い集める作業でした。
1991年、FilePool社の前身であるWave Research社がベルギーに設立された。Wave Research社はMacintosh Networks向けのソフトウェア・ディストリビューション製品を開発していた。
1996年,インターネット・ファイル・ディストリビューションにフォーカス
1996年にInstitutes for Science and Technology of the Flemish GovernmentからPrivate Fundを受け、開発の方向性をインターネット・ファイル・ディストリビューション製品へと変更した。
1996年~1998年,技術開発に専念
Wave Research社は1996年から1998年末まで技術開発に専念した。
1998年,社名をFilePoolに変更
1998年に社名をFilePoolと改めた。続く1999年にVenture Capitalから$10Mの投資を受け、社名をFilePool, Inc.とした。
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File Pool社に関する情報を集めるのは苦労しました。
Web Archiveだけでなく,既に消えたニュース・サイトの過去記事をGoogleのキャッシュから少しづつ拾い集める作業でした。
事例2:EMC社Centera製品
技術適用先の遍歴
大企業であるEMC社がベンチャー企業に先駆けてCASという新しい製品分野を開拓するできた。
その理由は,技術の適用先を見つけたマーケティング力と未知の市場に参入する決断力があったからではないだろうか。
Table 4 : 技術適用先の遍歴
1991
・Wave Research社設立。Mac向けソフト・ディストリビューション製品の開発
1996
・Wave Research社,インターネット・ファイル・ディストリビューションにフォーカスを移す
1996~1998
・Wave Research社,技術開発に専念
1998
・Wave Research社,社名をFilePoolに変更
1999
・FilePool社,Internet上でデータの保管と共有を行うソフトウェア製品e-ClipとPoolを販売開始
2000
・FilePool社,インターネット・ストレージ・サービスezAttachを開始
2001
・1月,FilePool社,ストレージ市場にフォーカスを移す。RAIN技術,CAN,Managed Storage Servicesを宣伝
・4月,EMC社がFilePool社を買収
2002
・EMC社がCenteraを発表。Fixed Contents向けストレージCASコンセプトを作る
2003
・EMC社が規制準拠向け機能を追加したCentera Compliance Editionを発表
・EMC社に追従し,ベンチャー企業数社がアーカイブ向けストレージを発表
---
次の事例はEMC社のCentera製品です。
EMC社はデータ・アーカイブに特化したストレージであるCAS (Content Addressed Storage) という新製品分野を生み出しました。
データとデータを説明するメタ・データをオブジェクトとしてセットで格納するCASは,ストレージの付加価値を高める良いアイデアだったと思います。
大企業の中で働いていても,このような斬新な製品を世に出してみたいものです。
大企業であるEMC社がベンチャー企業に先駆けてCASという新しい製品分野を開拓するできた。
その理由は,技術の適用先を見つけたマーケティング力と未知の市場に参入する決断力があったからではないだろうか。
Table 4 : 技術適用先の遍歴
1991
・Wave Research社設立。Mac向けソフト・ディストリビューション製品の開発
1996
・Wave Research社,インターネット・ファイル・ディストリビューションにフォーカスを移す
1996~1998
・Wave Research社,技術開発に専念
1998
・Wave Research社,社名をFilePoolに変更
1999
・FilePool社,Internet上でデータの保管と共有を行うソフトウェア製品e-ClipとPoolを販売開始
2000
・FilePool社,インターネット・ストレージ・サービスezAttachを開始
2001
・1月,FilePool社,ストレージ市場にフォーカスを移す。RAIN技術,CAN,Managed Storage Servicesを宣伝
・4月,EMC社がFilePool社を買収
2002
・EMC社がCenteraを発表。Fixed Contents向けストレージCASコンセプトを作る
2003
・EMC社が規制準拠向け機能を追加したCentera Compliance Editionを発表
・EMC社に追従し,ベンチャー企業数社がアーカイブ向けストレージを発表
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次の事例はEMC社のCentera製品です。
EMC社はデータ・アーカイブに特化したストレージであるCAS (Content Addressed Storage) という新製品分野を生み出しました。
データとデータを説明するメタ・データをオブジェクトとしてセットで格納するCASは,ストレージの付加価値を高める良いアイデアだったと思います。
大企業の中で働いていても,このような斬新な製品を世に出してみたいものです。
◆◆◆ 六 ◆◆◆
ゼダがトンネルを抜けたのは、あれから20時間も経過してからだった。予定よりずいぶん遅れていた。途中、目の前が真っ暗になるほどの激痛が頭の中を駆け巡り、歩き続けることが到底出来なかったからだ。ゼダは道の真中で頭を掻き毟りながら蹲った。
激痛の中、ゼダは昔の事を思い出していた。子供の頃、彼は野球チームに所属していた。ピッチャーだった。チームの中心的な役割であり、チーム・メイトから頼りにされていた。監督や親からの期待も大きかった。しかしプレッシャーではなかった。彼は期待されることでより大きな成果を収めていった。
中学に入ると野球はばったり止めた。友人との喧嘩が元で、ゼダはクラス中から嫌われ者になった。その日以降、誰も口を利いてくれなくなった。今まで仲良かった友達も離れていき、生まれて初めて死にたいと考えた。
精神的な疲労で勉強は思うように進まず、高校進学を諦めた。親はとにかく高校に入れたかったようだが、自分の足で歩きたいという意志が固まっていた。社会に出て、人生を一から始めたかったのだ。
初めて就いた仕事はペンキ塗りのバイトだった。ペンキの塗り方を教えてくれた男は名前をティムと言った。六十歳くらいの老人だった。ゼダは真面目に働いたので、ティムはゼダを気に入り、住む場所や食事などで色々世話をやいた。
ゼダは十八歳になったとき、ティムは胃の病で倒れた。ゼダがティムを病院に連れて行ったときは既に手遅れで、ティムはしばらくして死んだ。
ティムは死ぬ間際にゼダに遺書を渡した。この遺書は自分が死んでから読んでくれと言う。最後に残した『ありがとう』という言葉は今でもゼダの心の中で響いている。
ゼダは泣いていた。親元から離れて既に数年が経ち、家族の温かさはすっかり忘れていた。涙ぐむ目で遺書を開けると住所が書かれていた。そこに行けということだろう。ゼダは休日を取り、その住所を訪ねることにした。
『オーパス・シティ』は第12セグメントにある高級住宅街であった。裕福な人々が住む街で、ゼダには全く無縁の場所であった。高速モノレールでオーパス・シティに下りると、思ったより庶民的な人々が多かった。高級住宅街も庶民化が進んだのだろうか。ゼダは少し心に余裕を持つことが出来た。
ティムが指示した住所は、オーパス・シティの中心街にあった。メイン・ストリートを歩いていくと、婦人向けのバッグを売っている店に辿り着いた。店の名は『ゼッダ』と看板に書かれていた。自分の名前に似ており、ゼダは奇異に感じた。
店に入ると中に数人の客がいた。いずれも四十歳くらいのご婦人で、さずがに男であるゼダの入店は彼女らの注目を浴びた。すかさず店員がゼダに話し掛けた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
ゼダは俯き加減に答えた。
「ティムという人にここを紹介されたのです。ティムというご老人をご存知でしょうか?」
店員は首を振った。客も目をバッグからゼダの方向に向け、事の成り行きを見守っていた。
ゼダは店員の言葉に困ってしまったが、ティムを信じて再度質問した。
「この住所はここで間違いないと思うのですが・・・。」
店員は紙を受け取り、住所を確認した。
「住所はここで合ってるけど、でも・・・。」
知らないという感じで店員も困ってしまった。二人とも沈黙していると、客の中から金髪の婦人が二人に近づいて話した。
「ちょっと見せなさい。んー、あら。これ、サイド・ストリートのことよ。昔はあそこがメイン・ストリートだったから。」
婦人は紙をゼダに返してメイン・ストリートの先を指差した。
「メイン・ストリートの隣がサイド・ストリートよ。番地は同じだから、1ブロック先が多分この住所ね。」
ゼダはお礼を言って店を飛び出した。歩く人々を掻き分け、目的とする住所を目指した。
果たしてそこには小さな古書店が建っていた。
ゼダが店の前に立つと、中から呼びかける声が聞こえてきた。
「こっちゃー、来い、若いモン。中に入んせぃ。ほぅらっ。」
中は薄暗くて何も見えなかった。一歩一歩脚が前に進むのを確かめながら、ゼダは店の中に入っていった。ゼダの姿も直ぐに暗闇に溶け込んだ。
店の中には本棚が2列並んでおり、古びた書物が所狭しと並べられていた。床にも多数の書物が積み重ねられていた。書物は紐で結われており、とても商品としての価値があるとは思えなかった。
店の中の明りは天井からぶら下がった豆電球と、入り口入って直ぐ左にある会計を行なう机の上で灯った蝋燭だけであった。蝋燭の明りの向こうに、白髪、白ひげの老人の顔が浮かび上がっていた。老人がいる辺りは、老人が吹かした煙草の煙が蔓延していた。
「へぃへぃ、若者。お前はぁ、ゼダかぃ?ゼダだね?へへぇ。」
ゼダはゆっくり頷いた。
「ははぁ~、大人しい若モンじゃぃな。」
老人はゼダの体をじろじろと身調べた。
「ふぅんむ。まぁ、いいじゃろぅて。ほっほぅ。大人しぃほぉが、仕事熱心じゃしな。」
ゼダはティムの遺書を老人に手渡して訊いた。
「これはティムの遺書です。ティムをご存知ですか?」
ティムは遺書には殆ど見向きもせず、煙草の煙を大きく吸い込んでから吐き出した。
「知らんわけねぇよ。弟だもの。」
「そ、そうなんですか?!親族はいないと、ティムは話していたのですが。」
ゼダは驚いた。今までティムから親や兄弟の話など聞いたことが無かったからだ。
「ぅんむ。血縁関係はぁない。義兄弟じゃぁな。法的にも関係はないんじゃぁが。まぁ、同じ盃を交わした仲、という程度のもんやぁな。」
老人は遺書をゼダに返すと、毛布で覆い被さった椅子から「よいしょ」と立ち上がった。ゆっくりとした動作でゼダの方に近づくと、満面の笑顔をゼダに見せた。そしてゼダの横を通り過ぎ、書棚の上から埃に包まれた小箱を取り出した。蓋を取り外すと、箱には指の跡ははっきり付いた。中から一通の封筒が出てきた。
封筒の封は既に開けられていた。ずいぶん古い手紙のようだが、殆ど触られなかったようでぼろぼろという分けでもなかった。
老人は封筒を開け、中から一枚のプラスチック製のカードを取り出した。クレジット・カードくらいの大きさであった。カードはつるつると綺麗で、鏡のように磨かれていた。
カードは老人の手からゼダの手へと渡された。カードには何か文字が書かれていたが、文字の読み書きが出来ないゼダには模様にしか見えなかった。
ゼダは戸惑った。この老人は自分の名前を知っていた。ティムも知っているという。事前に何か打ち合わせていたのか。受け取ったカードも何のことだか分からない。ホテルのルーム・キー・カードに似ていたが。
「これは何ですか?それにあなたは誰ですか?私が来るのを知っていたようですが。」
老人はゼダから離れると、また先ほどの椅子に戻って行った。ゆっくり腰を下ろすと、こんなことを言った。
「ちっちっち。何も聞くな。わぁしはなんも言えん。運命に従え。もぅ、ここにぁ、用ない。さぁ、去れ。」
老人はそう言い切ると、椅子にもたれ掛かり寝入ってしまった。
ゼダは何も分からぬまま、この古書店を出た。まだ昼間で壁ホールから覗く太陽の光がまぶしかった。ゼダはしばらくオーパス・シティを彷徨い歩いた。
激痛の中、ゼダは昔の事を思い出していた。子供の頃、彼は野球チームに所属していた。ピッチャーだった。チームの中心的な役割であり、チーム・メイトから頼りにされていた。監督や親からの期待も大きかった。しかしプレッシャーではなかった。彼は期待されることでより大きな成果を収めていった。
中学に入ると野球はばったり止めた。友人との喧嘩が元で、ゼダはクラス中から嫌われ者になった。その日以降、誰も口を利いてくれなくなった。今まで仲良かった友達も離れていき、生まれて初めて死にたいと考えた。
精神的な疲労で勉強は思うように進まず、高校進学を諦めた。親はとにかく高校に入れたかったようだが、自分の足で歩きたいという意志が固まっていた。社会に出て、人生を一から始めたかったのだ。
初めて就いた仕事はペンキ塗りのバイトだった。ペンキの塗り方を教えてくれた男は名前をティムと言った。六十歳くらいの老人だった。ゼダは真面目に働いたので、ティムはゼダを気に入り、住む場所や食事などで色々世話をやいた。
ゼダは十八歳になったとき、ティムは胃の病で倒れた。ゼダがティムを病院に連れて行ったときは既に手遅れで、ティムはしばらくして死んだ。
ティムは死ぬ間際にゼダに遺書を渡した。この遺書は自分が死んでから読んでくれと言う。最後に残した『ありがとう』という言葉は今でもゼダの心の中で響いている。
ゼダは泣いていた。親元から離れて既に数年が経ち、家族の温かさはすっかり忘れていた。涙ぐむ目で遺書を開けると住所が書かれていた。そこに行けということだろう。ゼダは休日を取り、その住所を訪ねることにした。
『オーパス・シティ』は第12セグメントにある高級住宅街であった。裕福な人々が住む街で、ゼダには全く無縁の場所であった。高速モノレールでオーパス・シティに下りると、思ったより庶民的な人々が多かった。高級住宅街も庶民化が進んだのだろうか。ゼダは少し心に余裕を持つことが出来た。
ティムが指示した住所は、オーパス・シティの中心街にあった。メイン・ストリートを歩いていくと、婦人向けのバッグを売っている店に辿り着いた。店の名は『ゼッダ』と看板に書かれていた。自分の名前に似ており、ゼダは奇異に感じた。
店に入ると中に数人の客がいた。いずれも四十歳くらいのご婦人で、さずがに男であるゼダの入店は彼女らの注目を浴びた。すかさず店員がゼダに話し掛けた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
ゼダは俯き加減に答えた。
「ティムという人にここを紹介されたのです。ティムというご老人をご存知でしょうか?」
店員は首を振った。客も目をバッグからゼダの方向に向け、事の成り行きを見守っていた。
ゼダは店員の言葉に困ってしまったが、ティムを信じて再度質問した。
「この住所はここで間違いないと思うのですが・・・。」
店員は紙を受け取り、住所を確認した。
「住所はここで合ってるけど、でも・・・。」
知らないという感じで店員も困ってしまった。二人とも沈黙していると、客の中から金髪の婦人が二人に近づいて話した。
「ちょっと見せなさい。んー、あら。これ、サイド・ストリートのことよ。昔はあそこがメイン・ストリートだったから。」
婦人は紙をゼダに返してメイン・ストリートの先を指差した。
「メイン・ストリートの隣がサイド・ストリートよ。番地は同じだから、1ブロック先が多分この住所ね。」
ゼダはお礼を言って店を飛び出した。歩く人々を掻き分け、目的とする住所を目指した。
果たしてそこには小さな古書店が建っていた。
ゼダが店の前に立つと、中から呼びかける声が聞こえてきた。
「こっちゃー、来い、若いモン。中に入んせぃ。ほぅらっ。」
中は薄暗くて何も見えなかった。一歩一歩脚が前に進むのを確かめながら、ゼダは店の中に入っていった。ゼダの姿も直ぐに暗闇に溶け込んだ。
店の中には本棚が2列並んでおり、古びた書物が所狭しと並べられていた。床にも多数の書物が積み重ねられていた。書物は紐で結われており、とても商品としての価値があるとは思えなかった。
店の中の明りは天井からぶら下がった豆電球と、入り口入って直ぐ左にある会計を行なう机の上で灯った蝋燭だけであった。蝋燭の明りの向こうに、白髪、白ひげの老人の顔が浮かび上がっていた。老人がいる辺りは、老人が吹かした煙草の煙が蔓延していた。
「へぃへぃ、若者。お前はぁ、ゼダかぃ?ゼダだね?へへぇ。」
ゼダはゆっくり頷いた。
「ははぁ~、大人しい若モンじゃぃな。」
老人はゼダの体をじろじろと身調べた。
「ふぅんむ。まぁ、いいじゃろぅて。ほっほぅ。大人しぃほぉが、仕事熱心じゃしな。」
ゼダはティムの遺書を老人に手渡して訊いた。
「これはティムの遺書です。ティムをご存知ですか?」
ティムは遺書には殆ど見向きもせず、煙草の煙を大きく吸い込んでから吐き出した。
「知らんわけねぇよ。弟だもの。」
「そ、そうなんですか?!親族はいないと、ティムは話していたのですが。」
ゼダは驚いた。今までティムから親や兄弟の話など聞いたことが無かったからだ。
「ぅんむ。血縁関係はぁない。義兄弟じゃぁな。法的にも関係はないんじゃぁが。まぁ、同じ盃を交わした仲、という程度のもんやぁな。」
老人は遺書をゼダに返すと、毛布で覆い被さった椅子から「よいしょ」と立ち上がった。ゆっくりとした動作でゼダの方に近づくと、満面の笑顔をゼダに見せた。そしてゼダの横を通り過ぎ、書棚の上から埃に包まれた小箱を取り出した。蓋を取り外すと、箱には指の跡ははっきり付いた。中から一通の封筒が出てきた。
封筒の封は既に開けられていた。ずいぶん古い手紙のようだが、殆ど触られなかったようでぼろぼろという分けでもなかった。
老人は封筒を開け、中から一枚のプラスチック製のカードを取り出した。クレジット・カードくらいの大きさであった。カードはつるつると綺麗で、鏡のように磨かれていた。
カードは老人の手からゼダの手へと渡された。カードには何か文字が書かれていたが、文字の読み書きが出来ないゼダには模様にしか見えなかった。
ゼダは戸惑った。この老人は自分の名前を知っていた。ティムも知っているという。事前に何か打ち合わせていたのか。受け取ったカードも何のことだか分からない。ホテルのルーム・キー・カードに似ていたが。
「これは何ですか?それにあなたは誰ですか?私が来るのを知っていたようですが。」
老人はゼダから離れると、また先ほどの椅子に戻って行った。ゆっくり腰を下ろすと、こんなことを言った。
「ちっちっち。何も聞くな。わぁしはなんも言えん。運命に従え。もぅ、ここにぁ、用ない。さぁ、去れ。」
老人はそう言い切ると、椅子にもたれ掛かり寝入ってしまった。
ゼダは何も分からぬまま、この古書店を出た。まだ昼間で壁ホールから覗く太陽の光がまぶしかった。ゼダはしばらくオーパス・シティを彷徨い歩いた。
得られた知見
(1)ベンチャー企業のダイナミズム
CrosStor社からEMC社,Tacit Networks社への人が移り変わっていく過程が良く分かる。
CrosStor社のマネージメント・チームはEMCによる買収という成功で満足せず,買収後一年程で別のベンチャー企業立ち上げに参画していった。
この人の動きとスピードがベンチャー企業のダイナミズムを上手く表していると思う。
(2)会社の枠を越えたチームで動くこと
CrosStor社のマネージメント・チームのうち3名はTacit Networks社のマネージメント・チームに参画している。
チームで動くことの利点は人の連携が既に取れており,早いスタートできる点である。
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Index Engineまで見ると,特にWilliams氏とHarris氏のタッグがうまく機能しているようですね。
Helthall氏の名前はいつの間にかTacitのManagement Teamから消えています。引退されたのでしょうか。
CrosStor社からEMC社,Tacit Networks社への人が移り変わっていく過程が良く分かる。
CrosStor社のマネージメント・チームはEMCによる買収という成功で満足せず,買収後一年程で別のベンチャー企業立ち上げに参画していった。
この人の動きとスピードがベンチャー企業のダイナミズムを上手く表していると思う。
(2)会社の枠を越えたチームで動くこと
CrosStor社のマネージメント・チームのうち3名はTacit Networks社のマネージメント・チームに参画している。
チームで動くことの利点は人の連携が既に取れており,早いスタートできる点である。
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Index Engineまで見ると,特にWilliams氏とHarris氏のタッグがうまく機能しているようですね。
Helthall氏の名前はいつの間にかTacitのManagement Teamから消えています。引退されたのでしょうか。
ファイル・キャッシュ・アプライアンス製品の今後
Cisco社によるActona買収前までは、ファイル・キャッシュ・アプライアンス製品はあまり市場の注目を浴びていなかったように思う。しかしCisco社が本製品分野に興味を示したことにより、これから市場が立ち上がりそうである。
参入ベンダ数もTacit Networks,DiskSites,Riverbed Technology、Signiantなど増えている。今後これらのベンチャー企業がストレージ・ベンダによって買収されたり、戦略パートナーシップを結んだりする可能性が高まってきた。
もしTacit Networksが買収されたり,IPOしたりことになれば、Williams氏、Harris氏、及びHelthall氏はスタートアップとして2度目の成功を収めることになる。
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CrosStorチームの話はこれでおしまいです。
その後,Tim Williams氏とGordon Harris氏はIndex Enginesという新しい会社をニュージャージーに設立しました。この会社は企業データの検索を行う製品を開発しています。
Tacit Networkの事業が軌道に乗り出すと,彼らはまた次の会社を興して新しいことに挑戦しています。
彼らの市場性を判断する目とスピード,行動力,決断力は見習いたいと思います。
参入ベンダ数もTacit Networks,DiskSites,Riverbed Technology、Signiantなど増えている。今後これらのベンチャー企業がストレージ・ベンダによって買収されたり、戦略パートナーシップを結んだりする可能性が高まってきた。
もしTacit Networksが買収されたり,IPOしたりことになれば、Williams氏、Harris氏、及びHelthall氏はスタートアップとして2度目の成功を収めることになる。
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CrosStorチームの話はこれでおしまいです。
その後,Tim Williams氏とGordon Harris氏はIndex Enginesという新しい会社をニュージャージーに設立しました。この会社は企業データの検索を行う製品を開発しています。
Tacit Networkの事業が軌道に乗り出すと,彼らはまた次の会社を興して新しいことに挑戦しています。
彼らの市場性を判断する目とスピード,行動力,決断力は見習いたいと思います。