生まれ故郷の話をする天使と悪魔は

天国と地獄がどんな所なのかと聴く

「天国は雲の上にあって、純白に囲まれているんだ

 綺麗な花がたくさん咲いていて、

 人々は美しい経験の中から育んだ言葉で話している

 笑顔の絶えない街なんだ」

「地獄は土の下にあって、暗闇に囲まれているんだ

 マグマが湧いていて、まるで地球の怒りを感じている様な

 罵声が飛び交っている、活気のある街なんだ」

天使と悪魔はお酒を酌み交わす

 

「お二人さん、遅れてごめんなさい」

青い鳥の供養を終えた私は

神妙な面持ちで席に合流する

「この度は、大変でしたね」と

二人は口を揃えて云う

「あの青い鳥の行く先は、天国か地獄、どちらでしょうか」

私は尋ねると

「地獄です」と天使は云う

反対に「天国だ」と悪魔は云う

 

「実はあの青い鳥が飛び立った時

 肩の荷が降りた気がしたのです

 それはまるで音楽家を諦めた日の楽器を見るかの様な

 後悔のない心を手にしたのです」

私は思いを伝える

「それならその青い鳥は、ひとまず天国で暮らしてから

 地獄へと向かうでしょう」

地獄出身の天使は云う

「お前の肩を降りて、また誰かの肩に乗る

 そうしているうちに、隣の芝生が青く見えて

 その生活に飽きてしまうからだ」

天国出身の悪魔は云う

 

私は青い鳥が去って

夢が破れたその日が地獄だと思っていたが

実は天国なのかもしれないと笑い、二人と乾杯をした

 

そして、それぞれの生まれ故郷について話し出した

「あの街は…」

 

 

 

 

 

 

羽が一本 落ちている

水たまりを探す

あのカラスの羽か

太陽の熱を背負って

うだる様な声で鳴いている

 

その声は

悲鳴なのか

水を見つけた歓声なのか

解明した者は

未だ存在しない

興味本位で近付くと

無慈悲な警戒感を示す

この位の距離が

互いの為なのかもしれない

 

背の高い建物で

見えなくなった向こうの山では

クマが頻繁に目撃されている

餌を探しに来ているのか

住処を追い出されたのか

朽ちゆく自然の中で

怖がるヒトの声の隙間を

彼らなりの主張が

縫って行けたら美しい

 

それなら

ミサイルにも感情が欲しい

あの街に堕ちたくないと

悲鳴を上げれたら

勝負の綾で生じる

ヒトの歓声と悲鳴を

阻止する事が出来るはず

 

広い青空の下で

カラスの羽が

また一本 落ちている

木の上に止まっているカラスは

子供たちの自転車の籠の中

お菓子に狙いを定めて

飛び立った

 

その瞬間

幾つもの声が聴こえる

 

 

 

 

 

 

園児の崩れた積み木の音が

小学生の吹いたリコーダーの音が

中学生の落とした教科書の音が

高校生の弾いたギターの音が

私の声の様に聴こえた

その言霊は

病室の窓を抜け出し

近頃 やけに綺麗に見える星になった

 

か細くなった私の身体に

声帯の筋肉が物憂げに疼いている

声だけは過去に漂流し

記憶は現在に佇み

想いは未来へと発信し続ける

見舞いに来る度に

妻が挿す花瓶の花が

落とす花びらも声を枯らしている

 

僅かな寝返りに軋んだ骨の音

確かに私の身体が発した声だ

明日 妻が娘の家族と共に会いに来る

孫は話せるようになったかな

点滴が過去から未来へと流れ出す

名前をつけて飾ってあげられない鼓動に

最後に散る花びらが優しい声をあげる

 

 

 

 

 

 

道路拡張で左車線工事中の国道

中央分離帯に育む赤い果実を見る

ひと月程前には白い花の群れが

フロントガラスを流れていた

渋滞がくれた自然鑑賞の心の余裕

 

果実の正体は紛れもなくさくらんぼ

懐かしさに思わず振り返る少年時代

一度だけ味わったさくらんぼ狩り

広い果樹園を無邪気に駆け回り

もぎたての瑞々しさに頬が落ちた

 

でも何故 こんな所にさくらんぼの木が

ふとした疑問が脳裏をかすめる

辺りを見回しても立派な都会の風景だ

少し進んだ先に案内板があった

ここは昔 果樹園だったらしい

 

都会の成り立ちには幾多の記憶がある

保存する事で伝えられる想いがある

歴史は繰り返すと人は云うが

植樹をしない限り果樹園には戻らないから

もっと自然に感謝しなければならないな

 

理由はわからないが

誰ひとり さくらんぼを狩る人はいない

窓を開けて 果実に手を伸ばした瞬間

警備員さんの進めの合図

私は日常に向かい発進する

 

風がさくらんぼの香りに染まる

そこに見え隠れする排気ガスの臭い

交錯している過去と現実の景色

あの果実を食べた人だけが

未来を彷徨うのかもしれない

 

 

 

 

 

 

幼い頃の想起の中

駆け回った向日葵畑で

兄の背中を追いかけた理由は

憧れの気持ちだけだった

 

妹は母の近況を気遣い

遠くに住む私に連絡をくれる

その声を聴く度に故郷の記憶が

心の中で花を咲かそうとしている

私は手のひらに種を隠していたみたいだ

父に似た涙を零した時に芽吹いて

年々上昇する気温と共に

幾つもの蕾が広がっていた

 

兄は家族を連れて

今年は故郷で集おうと言っている

私の妻も大賛成だが

生憎 娘が大学受験の年で

迂闊には誘えない

(年頃の娘は気難しいのも理由の一つ)

 

私は毎年 庭に向日葵を植えている

夏になると花を咲かせ

縁取られた空に顔を上げる

その姿に何度も励まされ

若い頃 憧れだけで彷徨った

高層ビルの畑を歩いている

 

古い手紙を読み漁っていると

顔よりも大きな向日葵畑で笑う

家族写真を見つけた

「絶対映える向日葵じゃん」

驚く娘の顔は心に花を咲かせた

 

翌日 脇目も振らず

故郷の空に向かう航空券を三枚購入し

手のひらで静かに握りしめた

 

 

 

 

 

 

旅行に行く訳でもないのに

君の鞄はいつも嵩張っている

整理整頓が苦手なのかな?

心配性なのかな?

色々と勘繰ってしまうけど

人の心の中の様に

全ては見えないから

次の目的地付近で

この考え事を不時着させる

 

初めて行くお店のディナー

スマートフォンで写真を撮る君

少し汗をかいた僕を見て

ハンカチを手渡す君

その後も

ティッシュ、のど飴、コスメ用品

エコバック、折り畳み傘

僕の身軽さが鞄に入ってしまっている程

三つの個体は口を開き続けた

 

闇夜を描く夜景の灯

街の主役たちが辿る帰路

ずっと嵩張っていたポケットから

君への感謝の形を預ける

日常との差異を埋める二人の笑顔に

嵩張る鞄は口を閉ざしたまま過ごす静寂

 

 

 

 

 

 

先程まで遊んでいた子供たちの

余韻を残しながら揺れるブランコ

懐かしい公園の黄昏ゆく景色を

感傷に浸りながら眺めていると

馴染んだ平和の中に

一抹の不安を覚える

 

それは

すぐに争う物でもなければ

そっと溶け合う物でもない

 

植樹された小さな木の横に

刈り取られた大きな木の幹がある

年輪を数えながら時期に来る落陽に

帰路に就くカラスの群れの声が聴こえる

 

涼しい風が肌に纏わり着き

明かりの灯る家へと向かう

一日の終わりに

小さな親しみを持てるのなら

明日の朝昇る太陽は輝いている

 

それは

独り占めする物でもなければ

奪い合う物でもない

 

 

 

 

 

新しい舗装の小さなひび割れ

その隙間から突き出る雑草を見つける

数十メートル先には

一所懸命に雑草を刈り取る人達がいる

花壇には明日にも咲きそうな花の蕾

 

私は生涯で地球一周分は歩いたはずだが

どの旅先でも雑草に出会う

いとも簡単にあの硬いコンクリートを貫き

空に向かって風を感じ

光を浴びながら生きているのに

摘んだ事は一度もない

学生時代に校庭で抜いた時には

邪険に扱った記憶さえある

 

午後から山奥で山菜取りをする

春にはタラの芽、フキノトウ、

ゼンマイ、ワラビ、ウド

初夏にはタケノコ、秋にはキノコも取る

ここら辺の雑草は

他の植物と同様に従順に生きる

良く観察すると

とても穏やかな表情にも見える

 

帰り道、歩道には雑草の姿は全て消えていた

強い生命力は都会では短命に終わってしまうようだ

その物語がどんな性質の内容なのか

私のような人間に問う術など見当たらない

 

花を摘む人は

その花を花瓶に飾り楽しむのだろう

草を摘む人は

その命を大事に食して楽しむのだろう

雑草に恩恵がないと言い切った瞬間

多様な生物や土壌が憤りを覚える

 

雑草を摘む人が沢山現れたなら

泣き出す生物が五万といるんだと理解し始めれば

深くなった暗闇が夜露を弾き出した

風が強く吹いている、地球のざわめきのようだ

私は良心の呵責に苛まれたまま深い眠りに落ちた

 

夢の中で草原で寝そべっていた少年時代に遡る

友達の蹴ったサッカーボールが我が物顔で転がる

大人ぶってしたスライディングを

雑草が私の皮膚を怪我しないように守ってくれた

 

夏休みの香りで目が覚めた朝

引き戻された日常の流れに乗り歩道を歩くと

雑草の新芽が隙間から顔を出していた

 

私は地球二周分の距離を歩き終えた日に

背丈まで伸びたその雑草を摘む人になりたい

 

 

 

 

 

 

新しいコップを眺める

神々しい光を乱反射させる姿は

まるでシャンデリアだ

使い古しのコップに水を注ぐ

飲み干したら一日が終わる

 

埃が被らないように磨く

家の呼び鈴が鳴って

宅配便が届いた

中身は言ってみたい街の

地域限定ジュース

新しいコップに相応しい代物だ

 

いざ注ごうとすると

何故か躊躇ってしまう自分がいる

汚すのが嫌だからなのか

眺めるのが好きだからなのか

何の為に購入したのか

空の彼方から問い質される

 

コップの立場からすると

使い込まれるのが本望なのか

永久に飾られるのが本望なのか

芸術的なデザインの品物の中から

自分に選ばれた事をどう思っているのか

僕らは夜中

間接照明の部屋で思慮をめぐらす事となる

 

夜更かしの影響で遅く目覚めた朝

新しいコップに

飲みかけのジュースが注がれていた

ランニングを終えた娘が

何の気なしにそのコップを選んだのだ

少しの安堵に漏れ出した溜め息に

燦然と輝く光を眺める

 

 

 

 

 

 

追伸の言葉を並べると

相手の不思議な一面に出会う

本題では言えない些細な気遣いが

数行で書かれている

 

時折 考える

追伸が本題なのではないかと

「ごちそうさま」の後に

食事の感想を告げるように

旅行から帰宅して

旅先の写真を見比べるように

 

だとしたら

追伸から始めれば良いのではないか

それはまさに

現代の通信機能が実現している

挨拶も 感謝も 告白も 約束も

追伸なら若干の寂しさも感じられるが

 

思い思いの言葉を綴った手紙の

追伸は品のある優しさ

僕は秘かに

その返事を待っているのだろう