昨晩より幾らか空に近づいた花から

風の生まれる場所を聞かれたので

この真っ直ぐな道筋の果てを指差したら

陽気なリズムで踊り始めた

近くで閉まる扉の音と共に

若者が勢い良く日常の風に乗る

路肩を自転車が通り過ぎる

車道を自動車が駆け抜ける

その隙間で生まれた風が

歩道を行く人の頬をかすめた時

巡る季節の感傷に浸る

 

走り出してみると

まるで自分の身体から風が生まれる様だ

早送りで流れる景色に比例する鼓動は

風車を見ているみたいで美しい

すれ違う人の浮かない表情からも

ベビーカーに乗る赤ん坊の泣き声からも

風を感じる瞬間だと知る

 

規則正しい信号機の前で

深呼吸をして息を整えると

真新しい感情の息吹が風を纏う

腕時計の針が煽られた様に動けば

駅のホームに来る電車が

待ち人全員に風を送る

この温度こそが人間の体温なんだ

 

こうして風になった私たちの魂や言霊は

各々の役割を果たすべき場所に配置され

臆病風に吹かれながら彷徨う

黄昏が訪れる頃には

また風が生まれる場所に向かう

 

気がつくと

回廊の中にいた

 

 

 

 

 

 

入口に掲げた暖簾が

過ぎ行く風の旋律で

僕に話しかけてくる

老舗食堂の程良く色褪せた姿は

若作りする街並みに

品のある憂いのまま佇んでいた

その優しさは故郷への想いか

ゆらゆら ゆらゆらと 揺れる

 

隣にあった薬局は

去年 閉店してしまった

その隣の呉服店は

看板だけを残し微笑む

高層ビルの窓から見る遠い空と

反射するぼやけた僕の顔は

その想いを汲み取れただろうか

 

黄昏の帰り道

近代文化の食事の匂いと

流行歌が犇めき合う交差点で

家族で食堂の暖簾を潜る姿を想像する

何の変哲もない明日の休日

子供たちを連れ出してみよう

喜んでくれるだろうか

期待と不安が暖簾の様に

ゆらゆら ゆらゆらと 揺れる

 

 

 

 

 

 

クリスマスツリーだったモミの木の

夏の感情を聞いた事がない

輪郭を読み取ろうとすると出来ないのは

さっきまで降り続いた雨の形を追う視線が

地面に辿り着くのと同じ現象だ

いっその事 地面に聞いてみればいいんだと

覗き込む水たまりに映る自分の顔は

クエスチョンマークに擬態したみたいで笑えた

 

人の心にある

この「すぎる」問題は複雑だ

暑すぎる夏は冬が恋しくなる

寒すぎる冬は夏が愛しくなる

愛しすぎると憎しみが生まれる

悲しすぎるとあらぬ想いに苛まれる

私はモミの木の傍に椅子を置き

通りすぎる風に頭を捻りながら

花火が上がるのを待っていた

 

雨上がりの夜空に花火が舞い踊る

情熱に湧く轟音に煌びやかな花飾りは

ここにいる全ての人の心模様だ

笑ってもいい 泣いてもいい

空一面に輝く光を浴びながら

過ぎる時間に陶酔する

 

そして瞳孔が明順応から暗順応に変わると

次の花火は冬を超えて打ち上がる

暗すぎる夜空に淡く煌めく星たちを

期待と捉えるか 寂寥と捉えるか

私はモミの木に尋ねてみる

 

 

 

 

 

 

宙に舞うレジ袋が言葉に対する風当りなら

風の温度が関心で、強さは評価の数になる

星屑が夢の数なら、星空の見えない都会は儚い

私たちが知らぬ間に手にしている矛と盾は

他の生物からしたら、ただの脅威でしかない

 

環境を考える子供たちの授業で出た結論は

「地球が泣いているから、力を合わせて廻してあげよう」

降り出す雨は涙で、昇る太陽は怒りの熱を

月は淡く悲しい光を放つ

季節外れの華が咲くのは、驚いて目が開くのと同じ

魚は情に熱い海が苦手で、北に逃げていく

 

交差点で定刻に優しさを滲ませて

通りすぎる人たちと輪を作れば

地球は精を出して廻ってくれるのだろうか

楽しい時間は早く過ぎるけど

一日二十四時間に変化は起きないと気付いた時

飽きが生じて慣れ合いになるのがオチなのだ

矛を振りかざす人を、盾を持って追いかける人がいる

監視カメラが第一発見者でも、その縮図は同じだと言う事を

地球は私たちに教授してくれているんだ

 

だから

台風みたいな、竜巻みたいな、地震みたいな喜怒哀楽でも

四季折々の春夏秋冬を、五感がきちんと認識すれば

幸せや本当の優しさなんだって理解した時

飛び乗った最終列車の中で一瞬、気絶したくなった

 

 

 

 

 

 

祖母の住む街で

弟と作った折り鶴が

西日に向かって

飛び立つのを見た少年時代

私は年相応の鋭く低い眼差しで

空に溶け込んでゆくまで見送っていた

 

作り方を忘れそうになった分だけ

飛べずに留まっている折り鶴が

私の日常を見送る日々

弟はささやかな恋を煩い

夜空の下を彷徨い続ける

古ぼけた記憶の中に

飛び回っている折り鶴を

見届けているのだろうか

 

狭い部屋で独り

老人になった私が

「折り目が段々と雑になってきた」と呟く

祖母は欠けた湯呑みを持ちながら

「次からまた丁寧に折ればいいじゃない」と云い

二人で折り鶴を作る夢を見た

 

その夢の翼に乗った私は今

弟と数年振りに折り鶴を作る

懐かしい兄弟喧嘩も

この日だけは心地良く響き

共に買った新品の折り紙の数だけ

作った折り鶴を繋ぎ合わせて

眠る祖母の傍に置く

複雑に混ざり合った不思議な感情が

明日の朝 飛び立つのを見るだろう

 

 

 

 

 

トイレットペーパーの芯4本で

何を作ってもいい授業

頭の中に広げたカタログの

模型の数は十人十色

 

直感で作った男の子の車が

かっこいいと話題になる

近くの子たちが挙って

車ブームへと発展する

隣の女の子が作った

変身できる魔法の杖は

車より大きくて目立つと

杖が放った魔法は

一気に制作意欲を掻き立てる

 

物静かな子が手にしたハサミが

トイレットペーパーを二等分した

8つの個体は色付けられ

目の前が野菜畑になった

それを見ていた数人の女の子は

愛らしい小さな犬を作った

 

一言も喋らなかった男の子が作った

「?」(クエスチョンマーク)と

海外のお土産好きな女の子が作った

マトリョーシカが

大きな笑いと関心を生み

工作の授業が終わるチャイムが鳴る

 

放課後

棚に並んだ作品を

先生が作った飛行機が教室を旋回する

この子たちの個性的な考えを乗せて

世界中を飛び続ければ

未来は 人は 地球は どうなる? 

 

 

 

 

 

 

知らない言語の羅列

記憶の中を探し回りながら

辿り着いた意味を見つめ

見慣れない港に停泊する

船の揺れに似た筆圧に

彼と過ごした日々の思い出を重ねる

 

  母国を離れて

  もう十数年になると

  この街の静けさや口調まで

  心地良くなるものだ

  それでもふとした時

  自分の中に母国が

  どのくらい残っているか

  確かめる瞬間があるんだ

  笑っていたり 泣いていたり

  決して悲しくはないんだけど

 

私は少し湿った紙質の中に

ここにはない空気と

彼が流したであろう涙を感じた

 

同封してある写真には

港の景色と

家族の生き生きとした姿が映る

彼の住む街にも

何の変哲もない暮らしが

笑顔が 泣き声が 夢が 失望が

存在するのがわかる

今晩 不機嫌だった私の娘が

そこに歩いていても

不思議じゃないくらい

 

窓を開けると

昼間の喧騒に疲れた小さな闇がある

彼との青春の記憶に

浸りすぎないよう怖気づきながら

真っ白な便箋に近況を

母国語で綴り始める

 

 

 

 

 

 

交差点の隅

幹線道路の光の川を眺める

どこから来て

どこへ向かうのか

知る由もない箱舟が

地平線に

ビルの隙間に

吸い込まれていく

その確固たる光の集合体を

三色の信号機が操る

赤色で止める流れは

青色で進む急流を

時に恨めしそうに

時に羨ましそうに

互いを干渉するから

黄色の戸惑いは優しい

 

歩道に投げ込まれた小さな光は

赤色で滞留する

幾つもの個体に衝突し

対岸へ弾き出された

その光を「失望」と名付ける

 

弾き出された光を蹴飛ばして

青色で漂流する

幾つもの個体に吸収され

彼方へと消えていった

その光を「希望」と名付ける

 

もし二秒間の黄色に

失望を投げ込めば

希望を投げ込めば

あやふやな個体の流れに

惑わされたかった光だけ

「夢」と名付けるだろう

 

 

 

 

 

 

生まれ故郷の話をする天使と悪魔は

天国と地獄がどんな所なのかと聴く

「天国は雲の上にあって、純白に囲まれているんだ

 綺麗な花がたくさん咲いていて、

 人々は美しい経験の中から育んだ言葉で話している

 笑顔の絶えない街なんだ」

「地獄は土の下にあって、暗闇に囲まれているんだ

 マグマが湧いていて、まるで地球の怒りを感じている様な

 罵声が飛び交っている、活気のある街なんだ」

天使と悪魔はお酒を酌み交わす

 

「お二人さん、遅れてごめんなさい」

青い鳥の供養を終えた私は

神妙な面持ちで席に合流する

「この度は、大変でしたね」と

二人は口を揃えて云う

「あの青い鳥の行く先は、天国か地獄、どちらでしょうか」

私は尋ねると

「地獄です」と天使は云う

反対に「天国だ」と悪魔は云う

 

「実はあの青い鳥が飛び立った時

 肩の荷が降りた気がしたのです

 それはまるで音楽家を諦めた日の楽器を見るかの様な

 後悔のない心を手にしたのです」

私は思いを伝える

「それならその青い鳥は、ひとまず天国で暮らしてから

 地獄へと向かうでしょう」

地獄出身の天使は云う

「お前の肩を降りて、また誰かの肩に乗る

 そうしているうちに、隣の芝生が青く見えて

 その生活に飽きてしまうからだ」

天国出身の悪魔は云う

 

私は青い鳥が去って

夢が破れたその日が地獄だと思っていたが

実は天国なのかもしれないと笑い、二人と乾杯をした

 

そして、それぞれの生まれ故郷について話し出した

「あの街は…」

 

 

 

 

 

 

羽が一本 落ちている

水たまりを探す

あのカラスの羽か

太陽の熱を背負って

うだる様な声で鳴いている

 

その声は

悲鳴なのか

水を見つけた歓声なのか

解明した者は

未だ存在しない

興味本位で近付くと

無慈悲な警戒感を示す

この位の距離が

互いの為なのかもしれない

 

背の高い建物で

見えなくなった向こうの山では

クマが頻繁に目撃されている

餌を探しに来ているのか

住処を追い出されたのか

朽ちゆく自然の中で

怖がるヒトの声の隙間を

彼らなりの主張が

縫って行けたら美しい

 

それなら

ミサイルにも感情が欲しい

あの街に堕ちたくないと

悲鳴を上げれたら

勝負の綾で生じる

ヒトの歓声と悲鳴を

阻止する事が出来るはず

 

広い青空の下で

カラスの羽が

また一本 落ちている

木の上に止まっているカラスは

子供たちの自転車の籠の中

お菓子に狙いを定めて

飛び立った

 

その瞬間

幾つもの声が聴こえる