大きな洗濯槽の中で

昨日 汚れた衣類が廻っている

その横を通り過ぎる掃除機

遠くに食器を洗う私

「汚れるために生きているみたいだね」と

空飛ぶ埃が笑う

くしゃみの後に開けた窓から

爽やかな日射しと風

吸い込んで浄化される焦燥、心地良く

部屋中のごみをかき集めている私の瞳は

くすんでいると思いきや

煌めきに満ちているではないか

干した洗濯物の数だけ優しくなれたらいいのに

 

途端に訪れる

暇と退屈の区別について考える

電線の上にいるカラス

路地裏を彷徨う猫

散歩をする犬

私は彼らを見つめて弄ぶ暇、埋める退屈

次に来る休日や長い未来の事を想像する時

永続的に繰り返す暇と退屈を恐れて生まれたのが

エンタテインメントなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

燃え盛る炎を見た

摩天楼の様に高く聳え立つ

大地が空に物言いするみたいで

周囲の人々がこぞって激情家になる

 

次の日 炎は消えていた

廃屋が灰になって

僅かな柱だけが黒く染まり残る

誰かの夢も 希望も 思い出も消えた

 

都会を歩いていると

心苦しくなる時があるのは歳のせいなのか

破壊と再生の永遠の循環の中で

湧き立つ蜃気楼を見ている

 

 

 

 

 

乗り物の音が足先まで循環して

両隣は風と空

次に着く街が故郷なら

昔の地図を広げるでしょう

小川の透明度と心に因果関係を疑うほど

自然は感情をしっかりと持っているもの

地名は現代の流れを汲んでいても

等高線は変わる事は少ない

 

 変わるのは人か

  ー私自身だという事は薄々気付いている

 

お腹が空いたら

なるべく地のものを食べたいと

食堂で働く人々はやっぱり温かいな

暖簾も好きだ

 

原風景に憧れがある

(桃源郷の時もあったが)

感情がどこから生まれてくるのか

という事柄に似ている

大樹と会話が出来るなら

何を尋ねてみたいだろう

平和が続く事が

互いにとって一番理想の形だ

行く先々で過疎化が進むのも

人間の営みの過程だから

争いのない世界なんて存在しないんだ

 

 閉じたシャッター 朽ち果てた廃屋

 歪んだガードレール 穴だらけの道

 落ちてた空き缶 動かない電化製品

 誰かが履いた靴

 

風の通り道に佇んで

後日、見返す写真を撮る

私はどんな顔をしているだろう

誰にも聴かない

 

終点はいつも都会だ

感情は喧騒に変わり

昨日の嫌な出来事を

思い出しては感傷に浸る

涙は拭わない方が身体に良いらしい

 

 

 

 

 

 

ド派手に転んだら

過去にワープした

 

砂場で遊んだ幼少期

誤って口に入った砂の不味さ

遠足で嚙んだ風船ガムの味

大きく膨らんだのは無邪気さ

砂浜ではしゃいだ青春の記憶

火傷しそうな足の裏の熱さ

 

砂場も 風船ガムも 砂浜も

日常から遠くなった今

私が転んで噛んだのは

何故か砂だった

 

毎日 毎日 砂を噛み続けた

そして砂が主食になった

痩せた身体は戦いを拒まなかった

光る砂をひたすら探した

たまには砂の中に隠れたかった

ヤドカリのように

 

ところで

砂の味って何だ?

本当はその「砂」じゃない事は

百も承知なのに 

 

 

 

 

 

闇が少しある

光が等間隔に射す

 

真夜中の囁き

 

あらゆる物がギリギリ間に合う

最終電車の中

離れざるを得ない手と手

甘く切なく響く声

 

手持ち無沙汰な心に

一日の屈折を持つため息

消化不良の感情だけが

家路を辿っている

 

切り裂いた静寂に

第六感が目覚めそうになる

靴が地面を唸らせ

寂しさを搔き立ててくる

 

辿り着いた部屋の中

電話越しに君への囁き

 

距離がまだ少しある

光が唐変木と化す

 

 

 

 

 

何処かで負けを知った孤独な光が

窓際に水玉模様を創る

静寂に揺れる鈴蘭は

地に花の顔を向けて咲き誇る

 

耳を澄ますと

「平和とは何か」と囁いている

記憶の笹舟が

時系列の河を漂い始める

 

小さな花びらを愛でる様な勝負を

歴史は好んで演じる事はしない

昨夜 私達がした諍いは

確かな哀しみを生んだが

月影を隠す程の闇ではない

遠い国で起こる戦争を想う

 

風に吹かれると

昂る淡い香りが心を攫い消える

強さの残る夕映えが

頬を茜色に染め上げてゆく

大きな葉に潜んで咲く鈴蘭は

謙虚さの傍をうろつく感情を知る

 

窓を開けると

間違って入った小さな虫が飛んだ

外に響き渡る

子供達の声

車の群れ

空には真っ白な飛行機が

明日の方角に向かって

雲間に吸い込まれた

 

鉢に水を与える

鈴蘭は今宵も地を見て咲く

純粋を守る為なのか

謙虚さを維持する為なのか

再び訪れる幸せを願って

光は月明かりに呑まれた

 

 

 

 

 

 

この世の光を全て奪った様な

輝きを持つ美しい壷に

厭わない言葉をかけない人はいないから

いつの日も異彩を放ち佇み続ける

私は毎日それを眺め

百万円の値打ちをつける

全国の骨董市で販売しては

目を見張るお客の顔を綺麗に映し

それはまるでスーパースターや

アイドルを見るかの様に

憧れを独占してはいるが

触れる者はいない

その光景に一種の孤独の影が見える

店仕舞いには磨き上げ

木箱にそっと入れる時

安堵のため息が

いつも壷の中に吸い込まれる

良く云えば古参者

悪く云えば売れ残り

 

その夜

私の手から離れ

他の家に飾られる事を考える

商売人としてはこの上ないが

確かな寂寥感はある

静かに木箱から取り出し

殺風景な居間に置く

この壷に花を挿す事もなければ

水を入れる事もない

ふと中を覗いてみると

手つかずの白さがそこにはあり

思わず値札を百五十万に書き変えた

 

明くる日も

明くる日も

色んな街で私は

美しい壷を眺めては

ひとつ歳を重ねる

 

 

 

 

 

夜空に満天の星が輝いている

星座の種類を語る僕は

知識をひけらかすようで

君との間に冷たい風が吹く

 

手をつないで

未来に何が起こるのか想像する

 

耳を澄ますと

泣いているような音が聴こえる

 

瞳をとじると

異国で暮らしているみたいだった

 

ずっと居たい訳でもなく

帰る言葉も見つからない

途方に暮れる訳でもなく

朝日を待つつもりもない

 

明日は少し冷え込む朝だから

風が冷たく感じたんだ

若葉が徐々に夜露を纏い始めている

 

沈黙に違和感を覚えない関係が

信頼性の証だって

立ち読みした本に書いてあった気がする

 

静寂に溶けてゆくのは

いつだって過去の事ばかり

二人の頭上で流れ星が

幾度となく空過していた

 

「そろそろ、帰ろうか」

「うん。」

 

僕の車はいつもよりふかしながら

君の住む街へと向かう

 

 

 

 

 

 

旅人の足音が歴史を超えて聴こえてくる

記憶が馬車に乗って

蹄鉄の音を鳴らし駆け抜ける

甘味処で荒い息を整えながら

今も残る小さな宿場町の温泉に辿り着く

 

  ぱしゃん と

音を立てずに品良くお湯につかると

肌を覆う成分の膜

疲れが

 ため息にも似た

 うめき声にも似た

 深呼吸にも似た

形相で溶けていく

湯けむりの先は

若返りの泉が湧いているようだ

か細い狐が不思議そうにこちらを覗く

 

  ゆらり ゆらり と

揺れる波に身体を委ねると

地球が大きなゆりかごに変わったみたいだ

のぼせる前にお湯から出ると

一杯の水を飲む

 誰かが耳元で癒やしの声を囁いた

  

  ひとつ ふたつ と

身に覚えのある疲れを数えながら

その存在意義に感謝をする

 

帰り道 お土産の饅頭を買って

  がぶり と

ひと口 かじってみる

津々浦々 全て異なる味に頷きながら

次の目的地を考えている

 

私は温泉饅頭マニアなのかもしれない

今宵も蒸され

明日からまた疲れる

 

 

 

 

 

 

 

カフェオレのミルクが分離する程

悩み事が細胞に行き渡っている

ミルクの色は

呆れるくらいの白

新品のノートの色

音楽家の楽曲が

譜面を埋めていく作業を羨ましく思えば

私もかつて

猛勉強した時のノートを振り返る

 

昨夜飲んだホットミルクの甘さで

街中を歩き回ってみると

久しぶりに見つけた

真昼の月の白さに感動する

その色は

未来に対しては美しく

過去に対しては儚く

現在に対しても

微動だにしない白で佇む

 

初めて入った喫茶店

テーブルに並んだパンケーキ

ミルクはその中に混ぜられ消えた

口に運んだ瞬間

ミルクの多様性を僻んだ

私の悩み事の黒さに対峙する甘さが

いつか君と飲んだ

カルアミルクの味に似ている

ほろ酔いの視界で

些細な言い合いを白に染めれたら

カフェオレのミルクのように

また一緒にいられる