生まれ変わる事に対しての

怖さなどはない

椅子になったとき

机になったとき

鉛筆になったとき

家になったとき

多くの笑い声がそこにはある

 

森の中では幾つもの仕事を見たよ

徒に命を奪い去る者などいなかった

沢山の友達もいたよ

幹の中で暮らす小動物

静かに眠る鳥たち

周りに群がる鹿や熊

残酷な争いもあった

 

誇れる家族もいたんだ

枝のひとつひとつが風を感じて

その先の葉が音を奏でる

嵐の夜はとても賑やかだった

言葉を操る人々は

感銘を受けているようだ

 

私たちはそれぞれの生き方を歩んだ

ひとつの魂が何分割にもなり

土地勘のない場所へ移った

夕日に照らされ立ち止まり

我を振り返る事などせず

実物に貼りついた名のもとで

大きく深呼吸をする

 

人々がぬくもりを感じる事は

自然に対しての敬意か

異次元のエネルギーの具現化か

生まれ変わりのない世界の感情表現で

私の魂を故郷に還しておくれ

感謝の念を経由する木々の優しさに

未だ名前はつかない

 

 

 

 

 

 

大きな段差で躓いた様な車体の揺れは

身体を空に近づけた後、深く沈んだ

内臓が元の位置に戻ろうとする時

小さなため息をつく

安堵か、疲労かの区別はつかないが

確かに心の微動を感じる

これが故郷への帰り道なら涙腺を刺激して

幼少期の記憶や両親の顔が光に縁取られるだろう

車窓から見える山の稜線は

頂点へ行く為の浮き沈みしかないから魅力的だ

大概、曲線はマイナス地点から這い上がる

 

揺れが生じない道なんて存在しない

飽和状態のコップの水は零れるのが定め

木々は風に揺れる

吊り橋じゃない橋も揺れる

 

自動販売機だって揺れる

小さな揺れから大きな揺れが生まれるから

平静を装う事は難しい

 

君が放つ言葉も理想と現実の狭間で揺れる

その揺れに関わる人々の言葉も波紋の中

穏やかな海の漣の前で

告げた愛の言葉で弾んだ感情が

空と地球に流布して起きた振動を

「幸せ」と名づけた人がいる

 

 

 

 

 

終着駅の匂い

人々がすれ違う瞬間に生まれる風が蜷局を巻いて

時系列を十把一絡げにする更地、廃屋、雑居、高層ビル

夢と失望が故郷の倍以上の数に達すれば

歓声が増えた分だけ減る睡眠時間

出会う前提で彷徨う孤独の立体像が創り出す

優劣の関係性が導く碁盤の目の道路

立つだけで賞賛される木々と自動販売機

荷物は軽い方が良い

浮雲になれる地下街の空間を

人々の営みの為に費やす電力消費量は地球のみぞ知る

飽和状態の中でも欲望は

姿、形を変えて感情の間を縫ってゆく

一日が二十四時間という事だけが確立されている

 

放置した靴擦れの瘡蓋が強い皮膚に変わる頃

空を探す人に出会う

飛行機に憧れる

新幹線に憧れる

星の名前を調べているうちに

好きな人にも出会う

瀕死状態だった言葉が風船になって空に舞う

青春時代の友人とこの街で遊びたくなったとき

繁華街の香りが私の部屋に充満する

 

 

 

 

 

あなたが去った部屋に

短針のない時計が廻っている

二十四時間あるはずの一日が

刻まれないままで

 

壁一面が夕日の色に染まるとき

綺麗な思い出が駆けめぐる

秒針のように音を立てながら

長針は淡々と一つずつ進む

六十数えれば孤独な夜だ

 

朝日が昇ればカレンダーがめくれる

悲しんでいる顔もまた歳を重ねる

コーヒーカップは机に挨拶した

 

時計の短針だけ買い替えようと思う

いっそのこと色も形も奇抜なデザインで

カタログを見て想像力を掻き立てている顔が

過去に捕らわれているみたいで嫌いになった

 

新しい時計を眺めていると

その神々しさに魅かれてしまう

傷一つないという輝きと響きで

真新しい日々を歩んでゆけそうだ

 

でも心は拒んでいて

秒針と長針は無言で戦っている

 

私たちがこの感情で廻り続けていても

笑顔が遠くなるだけなんだ

 

修理する覚悟を決めて時計を外したとき

積もった埃で出たくしゃみの数は

あなたを忘れるまでの日数

色褪せた壁紙は

あなたと過ごした思い出の色

時計の裏で保たれた白い部分は

互いに許し合った未来の余白

 

 

 

 

朝に光に似合う話題を探して、夕暮れを歩い

ていると、風はどんな時にも逆らわずに吹い

ている事がわかる。さみしいって言ったら負

けのゲームがあったら、すきって言ったら負

けのゲームを誰かが開発する。私が負けても

文明は続く。敗北者が勝ち得られなかった永

遠の借り物競争。明日から勝つ事にこだわっ

て生きたら、風に抗う日々が続く。仮に勝っ

たとして、私は負けた人の顔や名前を忘れて

いくんだろうか。節目が来る度に会わなくな

った人達みたいに。だとしたら、風は抗った

人だけを覚えている事になるのか。私の心は

ブラックリストか、指名手配犯か、はたまた

風にストーカーされているのか。暗闇に向か

って話しかけた時、いつのまにか過去と対峙

していた。自分の名前に飽きたなんて、両親

(良心?)がかわいそうかもしれないね。こ

こで、一筋の光が射したら、それは希望の光

か。風向きがわかれば、どこにいたって楽し

い日々、優雅な人生。惨めって、自分さえ感

じなければ、美しい涙に変わる。

 

風さんよ、私の名前を覚えていますか。

私は君の名前を未だに知らないから、忘れた

事は一度もないというのに。

 

 

 

 

 

 

アイスクリームが溶けるほどの優しさは誰も

が持っているから、嫉妬にケチャップを塗り

たくってみたら、喋る言葉が全て赤く染まっ

て、誤解の可視化に成功した。初対面の人が

放つ矢が私の心臓に刺さって、連れ去られた

ら困るからと必死に保った意識は惨めじゃな

い。選択肢は沢山あるのに禁止事項が溢れて

いるから、ゴミを慎重に捨てなさいっていう

理由で、ゴミ袋が有料化されたんだ。地下鉄

の窓の一枠に映る面子だけで無人島に行きま

しょうって企画で、仲良く暮らせたら運命な

んて余裕で信じあえるね。何年も会っていな

い友達に電話するより、隣の席に座る人に話

しかける方が容易く感じるのは、寂しさの水

が身体のあちこちに溜まって痛み出している

からで、病院で診察して病名を頂いたら、安

心しちゃうんだろうな。歴史に名を刻むくら

いの代物だったら、それはもう魔法の言葉。

でもその言葉で傷つく人もいるんだから、優

しいだけじゃだめなんだ。

 

だから、自分の言葉に責任を持つために

嫉妬だけにケチャップを塗る。

 

 

 

 

 

真っすぐに続く道

絹路(シルクロード)ではない

陽炎で歪んで見えるのは

私自身の情熱だろうか

祀られたいくつもの魂が

怪訝そうな顔をしながらこちらを見ている

別に逃げた訳ではない、と

地球の自転に従っただけだ、と

寂寥たる荒野の前で己を庇う

空っぽの花瓶が割れたとき

終末の幻影を見たよ

鏡の前の私は、というと

頭蓋骨、鎖骨、背骨、手足の骨

若者とさぞ変わらないではないか

心の形までは

レントゲンを撮ってもわからない

筋肉のつかない箇所だから

今更鍛えようもない

破れた夢の痛みに魘される

私の身体を流れる点滴が

無邪気に走った後の水のように染み入る

あぁ、なんて懐かしい邂逅だ

青空がこんなに綺麗に見えたのは

風の回廊を走った若い頃以来だ

時を戻せないのは百も承知だから

せめて真っすぐなこの道を曲げてやろう

若者としての情熱はまだあるのか

 

私は動く天井を眺めながら

手術の怖さと戦っている矢先

麻酔銃に撃たれ深い眠りについた

 

 

 

 

 

残り10㎞のマラソンで5,6番手追走

先を見れば絶望、諦めれば失望

これくらいの孤独が一番辛いと

並走するランナーが言えば

ライバルなのに世界に君しかいないと

錯覚させる程の冷酷な優しさ

このまま二人で切磋琢磨すれば

4番手のランナーに近づけるはずと

提案すれば駆け引き

君が同級生なら楽しいひとときだったかもしれない

 

振り返ればスタートした時は名前しか知らない

プログラムの中の一行でしかなかったと追想

この状況は日常で起きたら

運命とか洒落た言葉がよく似合う

勝負の世界では綺麗事にすぎないが

 

ペースが上がってきて

右心房が忙しく酸素を送り続けている

長い直線で前のランナーの陽炎を見た

4番手のランナーに向かって走り出すその姿は

まさに友達そのものではないか

入賞して喜べばコーチからの熱いお叱りの言葉と

次の試合までの鍛錬が待ち構える

それが本当の孤独だと知る、残り8㎞地点

 

 

 

 

 

優しい色を探して歩く

空の色 花の色 服の色 交差点の色

いろんな色があふれているのに

手をつなぎながら笑っている

信号機だって急に三色全て点く事はない

色褪せた看板の薄く剝がれた色は

街を維持する事の難しさを体現する

同じ色の車だけ走る道路があったら

それはある種のモノクロの世界

画家なら単色を幾つもの種類に分類する

日差しが眩しくてかけるサングラスは

目にとっては一番の優しい色だ

 

自分の色を探して歩くと

嫌いな色が見つかるようになる

原色同士は主張がぶつかり合う

淡い色が生まれた理由は

争いを無くそうとしたのかもしれない

流行色に染まるのは美しいのか

光に反射する色は美しいのか

桜並木の桃色 菜の花畑の黄色

そば畑の白色 海の群青色

秋の紅葉 冬の銀世界

個性は要素で自然に馴染めば

自分の色を創り出す事が出来る

風景は原色の組み合わせだ

 

楽しい心でふと立ち止まったら

広がる茜色の空

何気ない日常の色は無機質だけど

常夜灯の優しさに似ている

静かに縁取られた自分の色に

明日の模様を描き出せば

夜の暗闇なんて怖くない

 

 

 

 

 

外枠だけ綺麗に色づいた塗り絵

題名は「傷つけたくない」

尊敬する作者の絵を自分の色に染めたくない

という思いから生まれた作品

塗り絵の概念を覆す発想は展示会で特別賞に輝いた

私ははその審査に複雑な思いを抱いた

そもそも色を塗るに値しない絵だったのか

あるいは学校のテストを白紙で提出するように

何かの合図だったのではないかと

私は彼に無性に会いたくなったが

口下手だから絵で心を伝える事を選んだように

作者の素を知るとイメージが壊れるという懸念に捕らわれる

そこで彼に過去の作品の塗り絵を贈ってみたものの

ひとつき、ふたつき、みつき経っても返事は来ず

そして私は新しい作品を描く事にした

それはまるでモノクロの世界で

自分でも色をつけ難いと思ってしまうほどだったが

塗り絵の題材には願ってもない作品で

次回の展示会が楽しみで仕方なかった

 

当日、拝見した塗り絵は

様々な個性で色づいた作品が展示された

結果、彼の作品が最優秀賞に輝いた

題名は「色を塗らせてくれてありがとう」

繊細なタッチと思い切りの良い配色はプロ顔負けで感動した

私は塗り絵の下絵を描くうちに

自分の色を探していたのかもしれない