道路拡張で左車線工事中の国道
中央分離帯に育む赤い果実を見る
ひと月程前には白い花の群れが
フロントガラスを流れていた
渋滞がくれた自然鑑賞の心の余裕
果実の正体は紛れもなくさくらんぼ
懐かしさに思わず振り返る少年時代
一度だけ味わったさくらんぼ狩り
広い果樹園を無邪気に駆け回り
もぎたての瑞々しさに頬が落ちた
でも何故 こんな所にさくらんぼの木が
ふとした疑問が脳裏をかすめる
辺りを見回しても立派な都会の風景だ
少し進んだ先に案内板があった
ここは昔 果樹園だったらしい
都会の成り立ちには幾多の記憶がある
保存する事で伝えられる想いがある
歴史は繰り返すと人は云うが
植樹をしない限り果樹園には戻らないから
もっと自然に感謝しなければならないな
理由はわからないが
誰ひとり さくらんぼを狩る人はいない
窓を開けて 果実に手を伸ばした瞬間
警備員さんの進めの合図
私は日常に向かい発進する
風がさくらんぼの香りに染まる
そこに見え隠れする排気ガスの臭い
交錯している過去と現実の景色
あの果実を食べた人だけが
未来を彷徨うのかもしれない



















