東京大学i.school 夏のシンポジウム「ビジネスデザイナーの時代-デザイン思考をどう実践するか」
The Era of Business Designers: How do you tap design thinking in your business practice?

で、トロント大学 Rotman School of Management の Roger Martin 氏の講演を聴きました。

当日の様子は togetter水野氏のブログ にまとめられています。

Roger Martin 氏は世界で初めてビジネススクールでデザインを教えることを導入した人だそうです。これだけでもすごいと思いました。知らずに参加した自分が恥ずかしいです。

私は、冒頭の投げかけ「なぜもっと革新的な組織になれないのか?」に引き付けられました。組織内のたった1つの行動がイノベーションを殺しているというのです。そして、それに気づけば、組織は変われる、と。


ビジネスの世界では、1度成功して大きくなればなるほど信頼性が求められるようになります。定量的で再現可能なもの、それがビジネスを大きくしていくと私は思います。
一方で、ビジネスを始めたばかりのときはどうでしょう。ある程度リスクをとって、直感的にこれだ!と方向を決めることはありませんか。

信頼性 Reliability を重視する分析思考 Analytical thinking
有効性 Validity を重視する直感思考 Intuitive thinking という二つの考え方があるのです。

Martin 氏はこれを1枚のグラフで図示していました。

$いつもフレッシュな場をつくりたい-Design thinking

ここで、とても有効な1つの法則があります。
それは「信頼性を高めると有効性が減る」です。
まさにこの法則に組織がなぜ革新的になれないかの秘密が隠されています。

ある組織内でイノベーションが起きたとしましょう。革新的なアイデアが生まれました。新しいアイデアを早速提案しに行きます。経営陣から出る言葉はどんなでしょうか?
「ところでそれはどれくらいうまくいくのかね?」
新しいアイデアはうまくいくことを証明できません。証明できるとすれば、それは古いアイデアで既に実証されているものを利用してです。
だから、最も危険な言葉「実証せよ」(Prove it!)がイノベーションを破壊しているのだそうです。

※私はここのところ、ものすごく実感があります。実例もいくつか知っています。当時を体験した人たちにインタビューしたからです。

組織内でイノベーションを妨げないためには、本当に新しいものは何も証明できないことを思い出してください。新しいものにはちょっとしたジャンプがあります。その部分は過去を調べて分析するという信頼性増強アプローチでは証明できません。
新しいアイデアには、将来こうなるといいな、未来を見て過去に戻すという有効性増強のプロセスが入っています。そのプロセスは説明できるでしょうが、証明はできません。

もっとも、何もかも新しい研究だけを取り入れろ、というのではありません。
新しい研究だけでは組織は続きませんが、信頼性だけを重視すると組織はしぼんでくるのだそうです。

※ここも実感があります。「クリエイティブだけでは儲からない」

もう一度グラフに戻りましょう。
信頼性と有効性の両方が大事だと理解し、お互いをつなぎ、説明できる人が Business Designer であり、この両方の山が重なっている緑のところです。この緑の三角形のところで使われている思考が デザイン思考 Design thinking です。

新しいアイデアをどう判断するかは重要なことです。
アイデアを試す前に「実証せよ」というのはやめて、試してみればいいのです。
プロトタイプをつくってお客様に出してみたら、必要なフィードバックが得られるでしょう。
プロトタイプをつくることにはもう1つ大きな意義があります。それは、一度試したことで、このアイデアは過去のものになったということです。つまり、信頼性を重視する人達を納得させられるのです。アイデアを試してこういう結果でした、だからこうです、と分析できるのです。

※ここも非常に実感。実感の塊です。素早く試す、小さなループを回す、がもっともっと必要

まとめると、組織内でイノベーションを阻害するたった1つの行動は「実証せよ」と迫ることです。替わりにプロトタイプをつくって試してみましょう。

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