「小周天」のための漢方薬 | 瑞霊に倣いて

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  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 “本紙5月号の評論「桂枝湯考」の中で、著者江部洋一郎氏は、吉益東洞の桂枝は、『上衝を主治する』つまり気を押し下げるという説と、王好古の『湯液本草』の桂枝は『能上行発散』つまり気を押し上げるという説とが、反対のようで全く矛盾しないと述べている。

 上衝とは、通過障害があって気が昇れないで陽気がうっ滞する病態であり、桂枝はその上昇力がこれを排除して陽気を上昇させ、昇りつめてから下降させる、つまり温通経脈の働きによって気を循環させている、というのである。これは卓見であり、私も以前から疑問に思っていた点がこれで納得できたような気がする。因みに、北京中医学院編『中薬学』の桂枝の性能概要の説明文中にも『向上向外、透達営衝、解肌発汗而散風寒』という言葉がある。

 仙道や気功の修行法に小周天というのがある。臍下の丹田の陽気を押し下げ、尾骨を通って督脈を上らせ、頭部から前側の任脈に下げ、一周させる方法である。江部氏の論文に画かれていた気の循環図からこの小周天を連想したのであるが、私は以前から小周天を助けるような薬剤はないものか、と考えていたので、江部氏の論文に一層興味を引かれたわけである。

 私どもが先頃翻訳した北京中医学院劉渡舟教授の「傷寒論通俗講話」(『中国傷寒論解説』として出版)の少陰病の章にも、気の運行についての面白い症例が記されている。以下はその要約である。

 「32歳の男子。手足が厥冷して痛みとシビレがあり、厥冷がひどいと手足から発汗する。体格は大きく肥りぎみだが、手は氷のように冷たい。脈は弦で、舌質は紅、舌苔は白。脈が弦であることから、本証は陽虚による寒厥でも陽盛による熱厥でもなく、陽鬱に属するものであり、陽が裏にうっ滞して四肢に到達しないので厥冷し、陰液を外に滲出するので汗が出るもの、と弁証した。

 この患者に四逆散を服用させると、患者は気が臍の下まで下行するのを自覚し、それが微かに跳ね動くのが感じられ、全身が急に軽くさわやかになり、手足も温まり汗も止った。これで治ったものと思っていたら、二剤服用後にまた手足厥冷と発汗が始まった。そこで四逆散に桂枝と牡蛎を加味して投与してみた。芍薬に桂枝を配伍して営衝の調和を計り、芍薬に牡蛎を加えて斂汗固陰の働きを強めようと計ったのである。二剤服用すると厥は治り汗は減ったが、続いて服用するうちにまたもや再発した。

 この時点で王冰の『火の源を益し以て陰翳を消し、水の主を壮し以て陽光を制す』という名言を読み、上述の方剤が一時的に有効なのに効果が持続しなかったのは、陽鬱を疏達させることだけにとらわれて、滋陰して陽に対抗することを知らなかったためであると悟る。そこで肝腎を同時に治し、理気と滋陰を動じに行なう方法として、四逆散と六味丸の合方を投与した。六剤服用すると厥は治り、手足は温まり、汗も止った。その後も再発しない。」

 四逆散を服用後に気が臍下で跳動し、全身が急にさわやかになるあたりに興味を引かれたわけである。疏肝理気の基本方剤である四逆散が気を周らす薬かどうかは判らないが、和田東郭が常用し、浙江中医学院の何任教授が愛用している本方は、その使用法をもっと研究する必要があると思う。”

 

(「漢方研究」1983年8月号 勝田正泰『気を周らす薬』)

 

 

 “『蕉窓雑話』の四逆散の症例を読んでいると誰でも、この処方に興味を感じることであろう。和田東郭は興味深い症例を出して、たくみに我々を四逆散に引きつけているからである。それにつられて、腹直筋の緊張と胸脇満証だけを目標にして実証の患者であれば、手当たり次第に投与してみたことがあった。

 さて、その結果をまとめてみると、憂鬱な精神状態と入眠障害、一度に排出しない排便が四逆散有効例に多いことに気がついた。また面白いことに、今度はこれらの症状を目標に四逆散を用いていると、腹直筋の緊張が全くない軟弱な腹にも効果のあることがわかった。

 四逆散といえば、両腹直筋の緊張した腹証を思い出す。そこで不思議に思って、先輩が何か書き残していないかと医書を調べてみると、たった一人、龍野一雄先生が、軟弱な腹のあることを書いておられた。それから後、四逆散が面白くて、いろいろの疾患に用いてきたが、このように処方より入り、さらに医論や医説へと勉強を進めてゆく方法もある。”

 

(「漢方の臨床」1988年4月号 細野八郎『感悟する処より妙処に至る』より)

 

 

*「四逆散」は、多くは心因性の病気、たとえば神経の高ぶりや不安、神経性胃炎や神経性下痢、便秘などに処方される漢方薬です。証によるとも思いますが、女性の月経前の頭痛などにも効果があると聞いております。処方にあたっては、一般に腹直筋の緊張や手足の発汗・冷えが目安となります。

 

*「小周天」については、仙道や気功を修練しておられる方は御存じだと思います。最初からはっきりと気の流れを感じられる方は少ないでしょうが、背筋を伸ばして座り、顎を引いて下を上顎につけ、全身を緩めて腹で深く息をすれば、気は自然に任脈督脈を周り始めて次第に丹田に気が集まるようになります。ただ、現代人は常に様々なストレスにさらされているためか、なかなか全身の力を緩めることができず、特に鳩尾はこわばったままで、故に丹田に気が集まらず、多くの方はそれで苦労しているようです。以前にも書きましたが、野口整体では、鳩尾が弛んで虚の状態になれば、ほぼ自動的に丹田が実になると説明されておりますので、ならば腹直筋の緊張をとる四逆散の服用によって、比較的たやすく鳩尾を虚に、丹田を実にすることができるはずです。

 

*野口整体では、さらに『鳩尾と丹田の間にある腹部第二調律点が「冲(虚と実の中間の状態)」であれば、鳩尾と丹田の虚実が逆になっていても必ず正常に戻る力がある』と説かれています。ならば、どうすれば「冲」の状態にできるのか、ということになりますが、漢方の大家、大塚敬節先生の著書に、『臍の上部に約2㎝ぐらい、鉛筆の芯のような硬いものが皮下にふれるが、圧痛がないという腹証は「桂枝加竜骨牡蛎湯」証にみられる』とありました。『臍上だけの正中芯は脾虚なので「人参湯」「四君子湯」の証』と書いてある本もありましたが、これらの漢方薬も、小周天功の助けになるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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