FRBが利上げを決定した。上げ幅は小さいが、消費税増税のように少なからぬダメージが経済にあるだろう。案の定、クルーグマンは早速噛付いている。いつくか異論(クルーグマンは私が誤りとしている経済学の理論の一部を信じている)はあるものの趣旨は正しいだろう。FRBは、馬鹿げた根拠の無い批判に屈して、本来対処すべき必要すら疑問である景気の加熱をおそれて、景気が冷え込んでいる(もしくは少し暖かくなりだした程度)にもかかわらず冷水を浴びせるといったことをやらかしたのだ。根拠の無い批判者の後ろに控えている、ちょっとのインフレも嫌だとか、もっと多くの利息が欲しいという考えの連中にとっては、してやったりという感じだろう。
さて、ここからが本題である。金利を上げることによりインフレが抑制されると考えられているが、どのような機序でそれがおこるのか考えてみよう。
その説明として一番ポピュラーなのは企業活動が抑制されるからというものである。企業が融資を受けて、つまり借金をして、設備投資、すなわち消費をおこなうという行為を減らすから、信用創造による貨幣の増加とそれに続く物価の上昇は抑えられる。但しこれには落とし穴があって、企業の設備投資をするかどうかの判断に関して、金利の影響はそれほどないという実証がある。
次によく出てくるのが、金利が上がれば人々が消費より貯蓄を選ぶようになるということから、需要の抑制から物価が下がるという話である。しかし人々の生活を考えてみれば、これもそれ程大きい影響があるとは思えない。低所得層は、貯蓄の余裕はほぼない。買いたいものを好きなだけ変えるような富裕層もそれで消費を我慢するなどということがあるだろうか。
三番目に書いておきたいのは、以前から私が主張している金利によるもう一つの経路のことである。利益を分配する際に、金利が上がった分、賃金等への分配が減少する。その結果有効需要が減少して、その小さくなった財布に対応して、価格に抑制がかかるだろう。そしてその影響の程度は、商品の価格に対して借入額はずっと大きい物なので、数字上わずかな上昇でもかなりのものとなる。
三番目の話をもう少し掘り下げてみる。
収入が下がっても物価も同じように下がれば生活に影響がないという話を見かけることがあるので、価格の抑制が効きすぎて物価が下がることを考えてみよう。悪い影響がなくなる?いや、全くそんなことはない。価格が下がれば、賃金はもっと下がることが分かるだろう。利息は変わらないので、利息と賃金の比は、さらに拡大することになる。最悪だ。
今度は金利上昇分を価格に転嫁することを考えてみる。賃金を下げないとすると、これは結構な値上げになる。財布が変わらないところでの物価の上昇ということで、これは消費税増税(購入費用の強制的な増加)と同じ構造である。いかに景気に悪いか理解できるだろう。しかもこれはインフレの抑制にも失敗しているのである。
賃金も上がって、それも価格転嫁できれば景気は横這いにもなるだろう。しかし、これが成立するためには、先ず高くても買ってくれる状況がなければならない。現在のように、国民の生活がギリギリの状況であれば、(インフレを気にしさえしなければ)無制限に借り入れて消費できる政府か、内部留保の切り崩ししかありえない。
いかに利上げが経済に悪影響かご理解いただけただろうか。
インフレを抑制するために金利を上げるという方法は馬鹿げている。インフレを抑制する方法は他にもいくらでもあるが、何故か金利を上げる以外の方法がないように喧伝されている。景気を悪化させるだけでなく、前述したように価格を上げるように作用することもありえる。インフレを抑制できるのは、金利の上昇が本来持っている物価を上げる作用よりも、不況を悪化させる作用の方が余程強いため、結果としてインフレが抑えられるということなのである。
バブルを防ぐためというのも、同様にして誤りだ。バブルは金利の低さが原因ではなく、融資の方針の問題である。