《前編》 より
 

 

【台湾人のルーツ】
 台湾には「有唐山公、無唐山媽」という諺があるが、直訳すれば「中国人の祖父はいても、中国人の祖母はいない」、つまり台湾人の多くは漢人男性と平埔族女性の子孫という意味だ。(p.74)
 平埔族は母系社会だった。(p.75)
 漢人といっても、長江(揚子江)以南の華南地域の中国人である。
 また台湾の原住民を大きく分けると、山岳地帯に住んでいた高山族(高砂族)と平野部に住んでいた平埔族の二つ。
 遺伝子による研究によると、
 現在台湾人の85%はアジア大陸系と東南アジア島嶼部系(純マレー系)の混血だという。(p.75)
 東南アジア諸国の共通点は、女性が強いこと。
 温暖な地域であったことと、海洋民族であったことが重なれば、母系社会になるだろう。
    《参照》   『台湾海峡から見たニッポン』 酒井亨 (小学館文庫) 《後編》
              【食料乏しき北方と豊かな南方】
              【大陸国家と海洋国家】

 

 

【台湾は、中国系文化かマレー系文化か?】
 台湾が2000年以降、投資や貿易の面での対中依存度が極端に高いのは、「中国人だから」ではなくて、マレー系的な「安直な思考」が根底にあると言える。
 中国と商売をする場合でも、台湾人はろくに市場調査や研究や企業努力をしない。(p.90)
 台湾人と話していると、支離滅裂で、論理や体系だったものがないことが多い。(p.153)
 マレー系的な「安直な思考」がどのようなものなのかは、下記のリンクにある。
    《参照》   『ハノイ式生活』 飯塚尚子 (世界文化社)
              【“計画”というものが存在しない国】
 実際、台湾に派遣された日系企業関係者や大手新聞特派員のうち、フィリピンやマレーシア駐在を経験した人が口をそろえて言うのは、「台湾人のメンツのあり方は、フィリピンなどに似ていて、部下の扱い方も似たものになる」ということだ。
 そういう意味では、・・・中略・・・「言葉が通じる」という安直な考え方から北京語ができる人材よりも、「人の扱い方が似ている」点から、フィリピンやマレーシアを経験した人を派遣する必要があるかもしれない。(p.96)

 

 

【台湾人と中国人の違い】
 中国人はとかく「権力の所在」を気にする。日本で交友があった中国人は、地方都市を訪ねると必ず「この街で最も権力があるのは誰か」と聞いて回ったものだ。
 しかし、台湾人はこんなことは気にしない。・・・中略・・・。
 これをさらに単純化して言えば、中国人は悪意ではあるが論理を持って動いているのに対して、台湾人は徹底的に善意でナイーブだと言える。(p.97)
 善意でナイーブという点では、日本人も同じ。
 だから、中国大陸に企業進出した台湾人は、徹底的に「鴨られた」のである。
 このような台湾人の性格を、中国人は「台湾人は、半分日本人になったから」と言っているらしい。
    《参照》   『あと3年で、世界は江戸になる!』 日下公人 ビジネス社
              【自分で働く日本人、他人を働かせる中国人】
 赤の他人には薄情な傾向が強い中国など中華圏と台湾が違う点として、「好兄弟仔(ホーヒャーティア)」と台湾語で呼ばれる無縁仏を祀る習慣がある。・・・中略・・・。
 また台湾人は中国人と違って、死者に鞭打つことはしない。(p.99)
    《参照》   『マンガ 中国入門』 黄文雄 (飛鳥新社)
              【死者に鞭打ち、敵を喰う中国】

 

 

【「過去はどうでもいい」】
 台湾人の「過去はどうでもいい」という考え方は、・・・中略・・・、台湾に住んで仕事をしていると、困ることも多い。
 たとえば、物事が終わると、文章を捨ててしまう職場が多い。あとで必要なときがあっても、参照できない。だから歴史をかけない。台湾人の典型的な組織である政党の民主進歩党(民進党)は結党(1986年)からすでに25年も経過しているのに、「党史」を書けない。(p.109)
 中国人にとって、「歴史」は、己のレゾンデトールを示す極めて重要なものなのだから、覇権国家中国の政治家なら覇者となる過程の資料を捨ててしまうことなどまず考えられない。
 この点においても、やはり台湾人と中国人は本質的に違う。
    《参照》   『小室直樹の中国原論』 小室直樹 (徳間書店) 《後編》
              【インド文明に唯一勝った中国の「歴史」】

 

 

【中国の言論統制】
 中国政府文化部(省)は2011年からネットに流通している西側ヒットソングに対する規制を強めているが、同年8月19日に新たに禁止リストに挙げられた曲には、・・・中略・・・。日本のアーティスト平井堅(「いとしき日々よ」 「Sing Forever」)、倉木麻衣(「もう一度」)の曲も含まれていた。(p.126)
 なんで、これらの曲が言論統制対象になるの?
 ウルトラ・チンプンカンプン。

 

 

【台湾語と北京語】
 そもそも、台湾語と北京語はまったく違う言語だ。音韻体系がまったく違ううえ、文法・語法的にも北京語と違う。語彙も生活基本語彙ほど北京語どころか、そもそも漢語ですらない「百越」系の言葉がたくさん残っている。実際、ちゃんと勉強しないと、お互いにまったく理解できないし、推測もまったくできない。
 北京語と広東語の差よりも大きく、独立する前の、文化的に中国の影響が強かった時代のベトナム語と北京語の違いに匹敵する。(p.146)
 近年の台湾の若者は、北京語で育っているから、「台湾語は下手です」と言ったとしても、鵜呑みにしない方がいいと書かれている。
 家庭で台湾語を使っていない人であっても、街レベルでは台湾語を多用しているし、夜8時のゴールデンタイムの高視聴率の番組はいずれも台湾語の連続ドラマだということを見ても、台湾語は生命力を持っているし、若者だって耳慣れているのである。(p.148)
 地名に関して、
 台南の「高雄」を「カオシュン」と読むのは北京語で、本来は平埔族の集落「タアカウ」が由来であり、台湾語で「打狗(ターカウ)」と言われていたのを、日本統治時代に「雅でない」からということで「高雄」になったことが書かれている。日本人のみなさんは、ちゃんと日本語読みで「たかお」と発音しましょう。その方が台湾の皆さんに親しまれます。
 同様に「台北」も、台湾語では「タイパク」なのだから、北京語の「タイペイ」とは言わずに「たいほく」と読むべきである、と書かれている。つまり、日本語読みの方が、台湾語に近い。
    《参照》   『台湾人のまっかなホント』 宮本孝・蔡易達 (マクミラン・ランゲージハウス)
              【台湾語】

 

 

【華僑と台湾】
 台湾の「中華民国パスポート」は、実は「中華民国国民」と同一ではない。台湾に戸籍をおいていない在外「華僑」も同じパスポートを持っているからだが、「中華民国国民」かどうかを確認するには、パスポートに「身分証明書」番号が記載されているかを見ればいい。(p.172)
 「台湾に戸籍のない華僑が、なんで台湾のパスポートを持てるのだろう?」と思うだろうけれど、その理由はこの本には書かれていない。
 だから下記リンクで推測してください。
    《参照》   『宇宙戦争 ソリトンの鍵』 光悠白峰 (明窓出版) 《前編》
              【台湾と日本】

 

 

【仕事のとりかかり】
 日本人相手のように「一回言えば済むだろう」という発想は、台湾人相手には通じない。(p.176)
 重要な要件の時は、くどいほど連絡がくるという。
 つまり、台湾人からの仕事の依頼は1回目は無視し、・・・中略・・・、3回4回催促があって初めて着手すればよいということだ。もっとも国際化しているIT企業だと日本と同じ感覚が必要だろうが。(p.177-178)
 だったら台湾人が日本で働く場所を探すなら、各県の観光課みたいなところが相応しいだろう。観光客を誘致のための人材を採用をしている県はかなりあるはずである。ほとんど仕事などなく椅子に座っているだけのお気楽な日本の痴呆行政公務員は、今でもクダラン決済に1週間近くもかけて、タラタラと紙を回しているのだから、4回目の催促で仕事を始めても文句など決して言われないだろう。

 

 

【台湾人が日本を好きな理由】
 日本統治時代に教育を受けた台湾の高齢者やすでに亡くなった方の話で共通しているのは、「戦前の日本統治は良かった」のは、いずれも教育・法治などのシステムやインフラといった「文明化」に限定されていて、だれも「神社参拝や天皇崇拝などが良かった」などと言っていない (p.204)
 交流協会の調査では、日本を好きな理由についても詳しく聞いている。
 それを見ていくと、40代以上の中年は現代日本の技術や文明、30代以下の若い世代は日本の漫画・アニメなどのサブカルチャー・大衆文化を理由に挙げている。
 台湾人が好きな日本とは、あくまでも平和的で自由で豊かな日本への憧れと評価なのである。(p.200)
    《参照》   『私の中のよき日本』 盧千恵 (草思社)
              【台湾人が尊敬する国:日本】
              【台湾人にとって、日本が尊敬する国の第1位である理由】

 ここにある世代別の日本を好きな理由は、日本が産業基盤整備から初めて技術国家となりさらに文化発信国家へと推移してきた過程をそのまま示している。
 日本人だからこそできた優れた技術は沢山あるだろうし、日本人にしか維持できない優れた技術もたくさんあるだろうけれど、諸外国の発展のために前者は技術移転し、後者のみを残すだけでも日本は文化国家としてやっていけるだろうと思っている。産業史として見ても、国家の盛衰史として見ても、それが自然な発展形態であり、不自然なことをしようとしても所詮無理なのである。
 仮に、覇権国家・中国によって、今後いかなる政治的作為が日本に対して成されようと、大衆の選択は必ずやそれに勝るはずである。今日までの台湾は正にその実例であり、台湾の存在は、日本が文化国家として発展を続け得ることの担保になっているとも言えるだろう。
 日本の技術と文化を高評価で受け入れている台湾は、言語的にも民族的にも地理的にも、日本と中国語文化圏、及び、日本と東南アジア文化圏を結ぶ中継国として、非常に重要な国である。


 

<了>
 
 

  酒井亨・著の読書記録

     『台湾人には、ご用心!』

     『台湾海峡から見たニッポン』