《前編》 より

 

 

【アメリカの軍事力】
 無人偵察機は、これまでの軍事常識を超える、優れた偵察能力と攻撃力を持つ航空機なのである。アメリカ空軍は、2010年に本格的に、プレディターとリーパーをアフガニスタンに投入したが、あまりに性能が良いために、パイトットが操縦する偵察機や戦闘機の仕事がなくなってしまった。アメリカ空軍の首脳は、開発中のF35を最後に、有人偵察機や有人戦闘機の開発をやめてしまおうと考えている。(p.222)
 アメリカ軍の戦力と戦略がいくつか具体的に記述されている。中国が軍事力を増強していても、まだまだアメリカの力に及ぶところではない、という記述である。
 アメリカは中国に追い出されてアジアの陸地を離れるのではない。基地や兵隊の数、兵隊をどの基地に配備するかが中心になっていた従来のアジア極東戦略に代えて、オフショア戦略を進めるメドが立ったので、アジアの陸地から離れるのである。
 アメリカ軍はこれから、中国や北朝鮮から攻撃を受けないオフショアから、精密爆弾を使って攻撃する強力な体制を構築していく。(p.139-140)

 

 

【中国のアフリカ進出】
 アフリカ経済は長いあいだヨーロッパのためにあった。あらゆる鉄道や道路は南から北へとつくられていた。アフリカのものはみな、ヨーロッパに吸い上げられる仕組みになっていたのである。
 だが中国の進出で、アフリカの歴史上初めて、経済が横に動くようになった。タンザニア・ザンビア鉄道を利用して、インド洋経由の世界的な貿易が始まったのである。(p.249)
 ここだけ読むなら、中国はアフリカに素晴らしい貢献をしているように見えるけれど、本質は資源利権と経済的な利益を求めてのことであるのは言うまでもない。
 「中国は、三狭ダムで追い出された数百万の農民をアフリカに送り込んでいる。タンザニア・ザンビア鉄道の周りでは、土地を奪われたアフリカの人々が反対運動を始めている」
 国連の最新報告はこう述べている。(p.250)


 中国は、アフリカ援助という形で始めた経済進出が、かつての植民地国家の帝国主義型侵略と同じような状況になっていることに気づいている。 ・・・(中略)・・・ このところ、中国国内で軍人の勢力が強くなり、政治的な発言力も強くなっているが、かつて日本の軍人たちが、文民政府を倒し、取って代ろうとしたときの情勢に似ている。(p.251)
 利益を求めて始められた援助は、やがて軍事力による強奪に変わるのであり、これは世界史上で繰り返された植民地支配の歴史的な流れであるかような記述であるけれど、本当にそうだろうか。
 少なくとも、日本において軍部による政権の強奪があったのは事実だけれど、軍人が恣に振る舞ったのは、泥沼化した日中戦争の局面だけだろう。台湾や朝鮮半島の統治に関しては、初期の武断統治からすみやかに文民政策に変えられたからこそ数十年に渡る統治が可能になったのである。

 

 

【人民解放軍と中国共産党】
「習近平は軍との関わりもなく、軍についての知識も経験もない。習近平が次の国家主席に選ばれたのは、人民解放軍が傀儡を求めていることを示している」
 ワシントンの中国専門家がこう指摘している。中国軍に強い影響力を持っていた江沢民のあと、胡錦濤、習近平と、軍や軍事について素人の国家主席が二代続くことになる。(p.253)
 副島隆彦さんの著作によれば、上海閥と北京閥の輪番による政治力学的均衡によって習近平が予定通り主席になっているわけで、現在、江沢民も存命しているのだから、人民解放軍がそんなに容易に暴走するとは考えにくいだろう。
   《参照》   『暴走する国家 恐慌化する世界』 副島隆彦・佐藤優 日本文芸社 《中》
              【中国、基軸体制案】

 著者は、アメリカのネオコン派が期待し画策する米中衝突プランに則して語っているだけだろう、と思うけれど、中国が盤石の一枚岩とは言えないことも知っていなくてはいけない。
 問題は、社会の中心になっている中国の中流の人々が、腐敗した共産党に見切りをつけ、軍人に期待を持ち始めていることだ。(p.254-255)
 「中国軍の指導者達の生い立ちや教育は、中国共産党の指導者とは大きく違っている。中国の中堅クラスの軍人がワシントンへやってきて、家族の写真を見せてくれたが、子どもたちは裸足で畑の中を走り回っていた。あまり豊かな生活をしているようには見えなかった」 (p.255)
「中国の軍人たちは一部を除いてアメリカにやってくることはほとんどない。育ちや教育のせいか、非常に強いナショナリストだ」 (p.255-256)
 中国政府は、民衆に暴動を起こさせないためにインターネットとコントロールしているのは周知のことだけれど、暴動が起きかかっていた中国の状況を報道していた12チャンネルの経済番組であるWBSは、容易に入手できるソフトをインストールすれば、中国国内でもフェイスブックにアクセスできることを、やり方まで示して報道していた。日本人ビジネスマンのためというよりは、日本国内にいる中国人に、暴動を盛り上げる手法を教えていたのだろう。
 これほど露骨に日本のメディアは、中国を混乱に陥れようとするアメリカ・ネオコン派の支配下にある。
   《参照》   『アメリカが隠し続ける金融危機の真実』 ベンジャミン・フルフォード (青春出版社)
              【世界の大きな動き】

 

 

【アメリカの対中国政策】
 オバマ大統領は登場以来、中国との関係を極めて重視してきた。「チェンジ」を標榜するオバマ大統領は、アメリカの新しい世界づくりに中国はなくてはならないと考えていた。 (p.297)
 だが中国側はそういったオバマ大統領をむしろ軽く取り扱った。 ・・・(中略)・・・ 。
 オバマ大統領の対中国政策は、アメリカ国民だけでなく、世界のだれが見ても完全な失敗に終わった。中国は傲慢になり、あからさまにアメリカに挑戦的な態度を見せるようになった。(p.298)
 アメリカは、中国と協力し、中国を甘やかすオバマ大統領の中国外交をやめ、中国と対決せざるを得なくなっている。我々は、アメリカと中国の衝突が避けられないこと理解し、その中で日本がいかに生き残るかを考え、努力していかなければならない。(p.300)
 中間選挙でオバマ大統領の民主党は大敗北したけれど、なにも対中国外交に不満だったからそうなったのではないだろう。原因がどうであれ、中間選挙の結果、共和党のブッシュ(=ネオコン)派が大幅に返り咲いているのだという。
 9・11テロを自作自演してまで戦争理由をつくり出すネオコン派が盛り返しているという事実に、中国政府は注意しなければならないだろうけれど、日本を咬ませ犬として使った尖閣諸島問題を見ても、アメリカの挑発には応じなかった中国政府である。賢明な中国政府は、これからもネオコン派の画策する戦争に巻き込まれるような愚かなことは決してしないだろう。
   《参照》   『中国バブル経済はアメリカに勝つ』 副島隆彦 (ビジネス社) 《前編》
                 【尖閣諸島沖事件】

 現在リビアで起こっている紛争でも、中国政府は発生から数日後には、戦艦を派遣して自国民全員の救出を完了していた。その速さにビックリしたものである。国際紛争には決して荷担しない、決して巻き込まれない、という中国政府の明確な意思表示として見ることができる。
 悪者は悪者のやり方を知悉している。真面目で素直な良い子の日本は、欧米の悪者に簡単に取り込まれてしまうけれど、中国には奸智や謀略に関する膨大な歴史がある。
   《参照》   『驕れる中国 悪夢の履歴書』 黄文雄 (福昌堂) 《中編》
             【中国人の文化的DNA:騙しの文化】 
             【 『厚黒学』 】
 だから悪者の悪智恵に対して中国政府は賢明に行動できる。日本政府ほど柔なお馬鹿さんじゃない。

 

 

<了>