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 子どもの質問に、養老先生が答えいている。
 理論社さんは、ふり仮名付きの児童書をたくさん出版してくれている。

 

 

【頭の良し悪しって遺伝するものなんですか?】
 生き物のすべての性質は、「正規分布」 をするんです。
 このグラフ、見ればわかるけど、平均のところで最も値が大きく、左右対称に値が減っていくバラツキかたをしているでしょう。ちなみにこのカーブを 「ベルカーブ」 って呼んでいますがね。で、ともかくこれを 「正規分布」 と言うんです。ガウスっていう昔の学者が発見しました。
 ・・・(中略)・・・ いろんな遺伝子がからんで成立する性質はね、 ・・・(中略)・・・ かならず、図のように正規分布で、ベルカーブになってきます。つまり、平均に近づくほど、多くなるんです。だから勉強のできる両親、背の高い両親のもとに生まれると、必ずその子は平均に寄らざるをえなくなる。考えてみれば当たり前でしょ? 背の高いどうしが交配して、子の背が高くなれば、どんどん平均とは逆にいっちゃう。これは、生物の基本法則に反することなんです。(p.53-54)
 つまり、トンビがタカを産み、タカがトンビを産むからこそ、生物の基本法則が成り立っているということになる。タカがタカを産んだら正規分布が成り立たない。分っかるかなぁ~~~~~。
 特定の遺伝子が関係しているような性質だったら、話は別です。バッハの家系みたいに、特定の、音楽的な才能がある人が続々と誕生する、そういうのはあり得ます。(p.55-56)

 

 

【 “最近の子どもは我慢できない” ってホント?】
 我慢できなくなったのは、さっきも話したように、本当です。それはお話したとおり、我慢しなくてすむような生活状況に慣れちゃってるから。
 そのほうが楽だから。
  ・・・(中略)・・・ 。
 ぼく、好きな言葉があります。森政弘さんというロボット工学が専門の東工大の先生が、「機械を丈夫にすると人間が壊れる」 って名言を吐いた。丈夫な機械を使わせると人間は乱暴に扱う。壊れないからね。それを彼は 「人間が壊れる」 と言った。
 機械を便利にしたら、人間は怠け者になる。我慢できなくなる。それだけのことでしょう。キミだって、なんとなくそれに気がついているんじゃないかな。でも、子どもを直すわけにはいかない。社会のありかたのほうを変えなきゃならない。おとなは真剣に考えるべきだと思います。(p.155-156)
 昔は、社会全体がそれほど便利ではなかったから、「我慢しなさい」 という教育は効果があった。現代においても、同じ様に効果的な教育をしたいなら、学校ごと田舎に引っ越すしかない。
 「不便こそが最高の教育を施す最も豊かな土壌である」 と思っている親は、田舎で教育しているそんな学校を探して入学させればいいのである。

 

 

【ゲームを止められない】
 ボタンひとつでドアも開く、風呂が沸く、ご飯が炊ける。生活の周り、ほとんどボタンでできるでしょ。それにアメリカの大統領なら、核兵器を発射するのもボタン。そうすると、みんなボタン。そういう世界にこれから入っていかなきゃならないキミたちが、ボタンを押したら、何がおきるというゲームに一所懸命になるのは、あたりまえかもしれない。
 親に言いますけど、子どもにしてみりゃ、将来、自分が入っていく世界への予備訓練してるんでしょ。だから、ゲームが生まれたのは、一種の必然なんです。つまり、われわれの社会そのものが、ゲームみたいになっているわけですからね。
 社会自体がゲームになっちゃってるんだから、子どもがゲームに夢中になるのもあたりまえ。だから、どうしようもないと言うしかない。
 田んぼで働いたら、努力、辛抱が身につくのとちょうど逆ですよ。
 で、子どもたちがずーっとやり続けたりしちゃうのは、ゲームは、その中だけで、報酬が得られるからです。しかもその仕組みが、うんと短絡的です。
 だから一種の中毒になるんですよ。本来、世界ってものは、自然との関係も含めて、とても複雑で、思うようになりゃしないもんです。ある問題に対処するのに、ほかにいろんなことをしなきゃならないわけです。ところが、ゲームというのは、そういう複雑な状況を切っている。にもかかわらず、報酬が得られる。だから自慰的になる。猿にオナニー教えると死ぬまでやってるって話があるでしょ。それに近いですよ。 (p.162-163)
 そのとおりなんだけれど、身も蓋もない回答で、笑ってしまった。
 現在のように(電)脳化した社会で生きていると、人は身体を使わなくなる。脳化の進展先はバーチャル(仮想)化である。仮想世界においては、脳意識だけでことたりるので身体意識は完全に脱落する。
 しかし、人間の体は構造的に脳と連動している。体で得た報酬は脳を育てるけれど、脳で得た報酬は体を養わない。身体動作に伴う身体意識を欠いたまま脳意識だけで生きることに染まってしまうということは、宇宙とも切り離されることを意味している。現在の地球上の都市文明は、完全に進化の道を踏み外しつつある。進めば進むほど隘路に嵌ってしまうのである。
 せいぜい、からだ全体を使って遊ぶ、とか、働く、とか、からだを含めた 「自然」 と、ある程度付き合うようにもすることでしょうね、
 キミが、まともに育ちたいのならね。(p,163)

 

<了>
 

 

  養老孟司・著の読書記録

     『マンガをもっと読みなさい』

     『日本のリアル』

     『江戸の知恵』 養老孟司・徳川恒孝

     『虫眼とアニ眼』 養老孟司・宮崎駿

     『バカなおとなにならない脳』

     『記憶がウソをつく!』 養老孟司・古館伊知郎

     『ほんとうの環境問題』 養老孟司・池田清彦

     『考えるヒト』

     『笑いの力』 河合隼雄・養老孟司・筒井康隆

     『希望のしくみ』 アルボムッレ・スマナサーラ・養老孟司

     『寄り道して考える』  森毅・養老孟司

     『生と死の解剖学』

     『運のつき』

     『オバサンとサムライ』